属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

「あー、今日は雨が降ってるねぇ。雨嫌いぃー。働く気が全く起きないぃぃいいい」

「他の課と比べたら普段もそんなに働いていない気がするぞ」

「でも一応今の時期って、どこの課もそろそろ新人の研修明けだから。まだそんなに皆働いてないと思うんだよね。なら、相対的には私たち働いてる」

「相対的……?」

 

第三課に来てからもうすぐ3か月になる。

ここの勝手も割と慣れてきて、ウィステ先輩の人となりもわかってきた。

 

「絶対評価と相対評価は時と場合によって使い分けるのが働き方のコツ、さらには人生のコツよ」

「はあ」

「アコ後輩は変なところでこだわりと真面目さがある子だから、適度に肩の力を抜くのが吉。この全く生き急いでいない私を見なさい!」

「へー」

 

マイペースに働く彼女の指導を受けつつ、情報課から来る資料を吟味したり、第二課の面々の仕事ぶりを観察したりする日々を過ごしている。

 

戦闘員である第一課の面々を乗せた車両の運転や本部からの情報を現場へ通達するなど、第二課は現場に近い。第一課の急な出動も把握している様子だ。

一方、情報課も先んじて各地の動きを手に入れているため、ある程度どこに魔術師が出動するか予測がつくだろう。

 

ようは国家魔術師の動きをつかめる内通者が潜む場所として、第二課も情報課も怪しい、ということだ。あとは上層部の極秘会議のことすら知ることのできる条件を加えると、人物はある程度絞れてくる。

 

問題は、『前回』の世界でここまでは想像がついたであろう軍が、なぜ裏切り者を見つけることができなかったかだ。

 

……うーん、アバドーン側もアプシントス側も、軍人学校の演習時の襲撃以来、大きなアクションを起こしていない現状は手詰まり感がある。

 

時々アバドーンの集会に潜り込んだりもするが、先日意味深なことを言っていた男から話を聞こうとしたりもして、ちょっと失敗してしまったし。

 

手を出したのは軽率だったかもしれない。

 

あと、スカートを汚したことに関して、グレイからお小言を言われた。もともと貧困地区の者に変装するための服だったし、汚れてるのはデフォルトなのに。

他にも知らないうちに金を稼いだり、謎の部品を集めてガチャガチャ組み立てたりとやりたい放題のクソガキだ。

 

家事をしてもらっているとはいえ、どうにかならないものか……。

 

悩みつつもいつも通りの勤務時間中、こんこんとノックの音がして扉が開いた。

 

「ウィステいる?」

「あ、ビオレッタ!やっほー。珍しいね、第三課のところまで来るなんて」

「あなたこの前、髪留め忘れていったでしょ?持ってきたの」

「うわー、雨の中ありがとう!どこいってたのかと思った」

「いいのよ、ついでだったし」

 

雨の中ここを訪れたのは第二課のビオレッタさんだった。

 

以前見つけた、第二課に資料を引き渡した証明の書類の多くに名前がサインしてあった人である。彼女はウィステ先輩の学生時代からの友人で、先輩が第二課にいた時の同僚でもあったそうだ。

その縁もあってウィステ先輩が資料を持っていくときは、いつも彼女が受け取り係になっているらしい。

ウィステ先輩はよほどビオレッタさんのことが好きらしく、彼女の話と一緒に過ごした学生時代の話は耳にタコができるほど聞いた。

 

……そういえば、第二課時代の先輩自身の話はほとんど聞いたことがないな。なぜだろう。

 

ウィステ先輩はビオレッタさんのいる入口まで行くと、

 

「今から休憩しようと思ってたんだけど、ビオレッタも一緒にどう?」

 

などとのたまい始めた。すでにかなり前から彼女の体勢は休憩中だったから、この発言前半部分は嘘である。

 

「ごめんなさい、私これから会議だから。また今度ね?」

「ありゃ、それは残念」

 

しかし、ビオレッタさんはウィステ先輩の誘いを即座に断った。

 

彼女の雰囲気はまさに仕事のできる女って感じだ。実際非常に優秀で、第二課では若くして役職を任されているとのこと。あと、なんかふわっといい香りがする。

 

ウィステ先輩も仕事をしているときは優秀そうなのだが、いかんせんオンオフが激しく、オンの時間が限りなく短い。

そのため、二人が友人関係にあるのも納得できるような、できないような。

 

去り際、ビオレッタさんは小さい声でウィステ先輩に話しかけた。

 

「……あなた、もうそろそろ、自分のこと許してあげて、こっちに戻ってきてもいいじゃないかって私思うわ。課長には私からも……」

「大丈夫、ビオレッタ。私はここで満足してるから。ね?…じゃっ、お仕事頑張って!」

「ウィステ……。もう、あなただって今仕事中のはずでしょ?あなたも頑張ってね」

 

ウィステ先輩が手を降って見送る中、ビオレッタさんは傘を差して去っていった。

扉を閉めてこちらに向き直ったウィステ先輩は、オレの視線に気がついたのか、

 

「……聞こえてた?」

「は?何言ってんだお前」

「お、おう。先輩になんたるくちょー……」

 

「……」

「……」

 

「お昼ごはん食べよっか、私の奢りで」

「うん」

 

 

 

§ § §

 

 

 

美味しい食堂があると言ったウィステ先輩に連れられて、オレは正門の方へ歩いていた。雨はやんで、地面はぬかるんでいる。

 

「そっか、今日が第一課の研修明けだったんだ」

 

正門付近に何台か停まっている車の荷台から降りてくる人々を見て、ウィステ先輩は言った。

 

「第一課の新人さんたちは五人くらいでチームを組まされて、先輩一人監督につけて地方で訓練するの。めちゃくちゃキツいんだって」

 

まあ、第一課は他よりも危険なところに飛び込んでいくから、それだけ鍛えないとまずいんだろう。とりあえずここから早く去りたい。

 

「でもそれが終われば、正式に自分用のMORGOTが支給されるから皆頑張る、あ……」

 

ウィステ先輩が急に足を止めた。誰かを見ているようだ。彼女の視線の先を追うと、30代前半の男性がいる。知り合いだろうか。

 

「どうした?」

「う、ううん、なんでもない!早く行こー、私お腹すいちゃった、ははは」

 

「ん?ウィステじゃないか?」

 

ウィステ先輩の顔が固まる。そのまま、ギギギという音が聞こえるかのようにゆっくりと首を動かして、声の方を向いた。

彼女の見ていた男性がこっちによってくる。

 

「やっぱりウィステだったか。久しぶりだな」

「ね、ネイブさん。ご無沙汰しております」

「おう。そっちのは第三課の新人か?」

「アコちゃん久しぶり!会いたかったよ!」

 

オレは会いたくなかったよ。

 

リーンが音もなく近くにいた。怖い。風の魔術かなにかで音を消したのか。雨で地面濡れてるのに。

技術の無駄遣いすぎる……。

 

しかし、重装備を背負ってしっかりと立つ姿は、記憶の中にあるものにかなり近づいていた。

 

「リーン、友達か?というかお前、さっきまでへばってたのにすごい元気になってるな」

「はい、大切なお友達です!」

 

このネイブという男性はリーンを監督した先輩のようだ。もっと別のところを監督する必要があるんじゃないか。

 

「アコちゃん、第三課だったんだね。卒業式のあと、どこにもいないから、再度集団幻覚説が浮上してて……。でもネロちゃんから本部で会ったって聞いて、私も会えるの楽しみにしてたよ!」

 

ヤバい。居場所がバレた。

 

「そ、そうか。あ、オレ、先輩とこれから用事があるから」

「は!そうそうそうそう、ネイブさん、私もアコ後輩と用事がありまして、さらば!」

 

オレと先輩は息を合わせてその場から逃走を図る。この三か月間で一番うまくいった連携だと思う。

去り際にちらっと後ろを見ると、中途半端に腕を上げて固まっているレドの姿が見えた。何やってるんだあいつ。

 

 

 

互いに無言で早歩きをしてしばらく経った後、

 

「アコ後輩にお友達がちゃんといて、私は嬉しいよ」

「いや、あいつは友達っていうか」

 

悪い奴ではないと思うが、時々己の身に恐怖を覚えるのはなぜだろう。

 

「先輩こそ、人前であんなに緊張してるなんて珍しい。さっき、適度に肩の力を抜くとかなんとか言ってたくせに」

「いや~、うん、それは。……ははは」

 

つい嫌味を言ってしまうと、ウィステ先輩は困ったように笑った。

 

「……それで、美味しいって言ってた食堂はどこなんだ?」

「あっちの、ほら、あのお店。意外と近いんだよ」

 

彼女が指さした方向には、

 

『呪』

 

と看板のある、たいそう怪しい店があった。

 

店の前まで来るとなんとも異様な雰囲気が伝わってくる。外壁に見たこともない文字で書かれた札があちこちに貼られていたのだ。

 

「これ、本当に大丈夫なのか。こんな怪しいものが国の重要施設近くにあっていいのか」

「見た目で判断しちゃだめよ、アコ後輩」

 

先輩はずかずかと店内に入っていった。仕方がないのでオレも後に続く。

 

店内は一見すると壁が黒く見える。二度見すると文字がみっちり書かれた紙がぎっしり貼られていた。

 

「おっちゃん、2人ね!」

 

ウィステ先輩は奥にそう呼びかけると、空いている席に座った。というか全部空いていた。

先輩の向かいにオレも腰掛ける。

 

「肉と魚どっちが好き?」

「食べられればなんでもいい。……どちらかといえば魚」

「へえ。じゃあこのあたりかな。あえて説明はしない。フィーリングで決めるのだ」

 

テーブルの上に置いてある、異国の言葉で書かれたメニューをこちらに見せてくれたが、なんと書いてあるかわからない。ただ、文字の隣にかろうじて絵もあったので何の料理かは掴める。

 

メニューを睨んでいると、奥から中年男性が姿を表した。

 

「ウィステちゃん、いらっしゃい。一緒にいるのは初めて見る子だね」

「私の後輩です!やったぜ!アコ後輩、こちらこの店の店主さんだよ」

「どうも」

 

うーん、なんか緑のヤツと灰色のヤツと赤いヤツがある。

灰色のはよくわからんから却下。緑のは葉っぱか。

 

いつも葉っぱばかり食べてるから、赤いのにしてみよう。

 

「私、いつものでお願いします。アコ後輩は注文大丈夫?ゆっくり決めていいよ?」

「いや、これでいい」

「はいはい、わかりました。ちょっと待っててね」

 

注文を受けた店主は再び奥へ戻っていった。

 

「ここ、みんな入らないけど、美味しいから。楽しみにしててね」

「そうか」

 

オレは料理が来る間、メニューを眺めた。

なんか白くて横長なヤツとか、茶色くて円柱状になってるヤツとか、見たことのない料理ばかりだ。全体的に赤色と茶色が多い。

 

「メニュー、熱心に見てるね~。どれか他に気になる料理あった?」

「……うーん」

 

深さのある器に入った白い液体みたいなのは何だろう。真ん中に赤い点が1個ついている。

 

そうしているうちに料理が運ばれてくる。するとすかさずウィステ先輩は、

 

「おっちゃん、追加でこれお願いしていい?」

 

と言ってオレが見ていた料理を指さした。

 

「え」

「まあまあ、私が食べたいだけだし?それに、今日は私のおごりだから。さあ食べよう!」

 

料理を見ると絵のとおり赤い。

魚一匹が赤い液体に浸かって、皿の上に鎮座している。香りは独特だ。

 

ウィステ先輩のは、4種類くらいの食材が混ざって、推定炒められたものだ。

彼女はすでに食べ始めている。

オレも魚の身を少し口に運ぶと、

 

「!?」

 

ちょっと口の中がピリピリした。

これはあれか、噂に聞く『辛い』ってやつか。

古くて酸っぱいものを食べた時とは方向性の違う刺激がする。

 

「どう?」

 

ふと顔を上げるとウィステ先輩がニコニコとこちらを見ていた。

 

そうだな、初めて食べたから驚いたが……。

 

「まあ、悪くない。美味しい」

「そっか、良かった良かった」

 

その後、無言でパクパクと食べ続ける。魚なので結構骨があって、食べるのに時間がかかる。

先にウィステ先輩が食べ終わると、

 

「そのまま、ゆっくり食べてていいからね。……あー、これは独り言なんだけど。さっきのあの人ね、前に私が第二課にいた時に一緒に働いてた人なんだ」

 

パクパクもぐもぐ。

 

「それで、私第二課にいた時、とんでもない、取り返しのつかない失敗をしちゃって……。ネイブさんに合わせる顔がなくて、幸か不幸か、そのあとすぐ第三課に異動になったの。左遷、だったのかな」

 

パクパクパクパクもぐもぐもぐもぐ。

 

「ビオレッタは私のこと、ずっと気にしてくれてて、今でも色々気を回してくれるんだよね。ほんとかなわないや。私もビオレッタみたいに優秀だったらなぁ……」

 

ふう……。

 

「お、きれいに食べたね。独り言終わり!」

「はい、追加注文のデザートだよ」

 

オレが食べ終わったところで、店主があの白くて赤い点がついているものを持ってきた。

 

スプーンで掬おうとすると、

 

「液体じゃ、ない……!?」

 

柔らかいが固形だった。魚の目玉のところみたいだ。

しかし、いざ口に運ぶと甘い。

 

気がつくと器は空になっていた。

 

「……いる?」

「いらない」

 

先輩がオレに自分の器を差し出してきたが、強い意思を持って断った。

 

 

 

§ § §

 

 

 

店を出るとそのままオレたちは行く当てもなく、街中をぶらぶら歩く。

 

そのとき、前から気になったことを聞いた。

 

「ウィステ先輩っていつも早く帰って何してるんだ?」

「え?」

 

彼女は目をパチパチと瞬きさせる。あれだけ退勤退勤言っているのだから、何かあるのかと思ったんだが。

 

「まあ……、いろいろ?そういうアコ後輩は?」

「オレもまあ、いろいろ」

「答えになってない……ってそれは私もだ!」

 

あははは、とウィステ先輩は笑う。

さっきまで落ち込んで暗くなっていたところから、多少持ち直したみたいで安心した。

 

「なんだかまた空模様が悪くなってきたね。また雨が降らなきゃいいけど」

「雨嫌いって言ってたもんな」

「うん、なんだかジメジメするから」

 

ふいに上の方に嫌な感じがした。

 

「ウィステ先輩」

「ぐえっ。急に首根っこ引っ張らな」

 

ドンッ!

 

「……へ?」

 

大きな衝撃音のあと、一呼吸おいて人々が悲鳴とともに逃げ出す。

 

目の前には瓦礫と氷、そしてその中に混じった人の死体があった。

 

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