※注意事項
・三人称
・主人公以外の視点
・前話「2-4」と一部被るところあり
同じシーンを別の人から見たらどうなるのか試しにやってみたかったのと、三人称を書いてみたかったのでやりました。話は進んでいません。
(三か月間、長かった……)
車の荷台で揺られる中、レドは想起した。
憧れの国家魔術師第一課になったと思ったら、配属初日深夜に山奥に連行され、男女問わず地獄の研修の日々。谷に突き落とされるわ、滝つぼに叩きこまれるわで、三か月前まで在籍していた学校はあくまで基礎の基礎だったことを思い知らされた。
(一体何回ゲロを吐く羽目になったか、数えきれない)
ただ、過酷な研修の果てに、正式に自分専用のMARGOTと呼ばれる魔術デバイスをもらえることになっていたので、レドを含め、第一課の新人は皆頑張っていた。
そして彼らは今日ようやく、その研修を終えたのである。
「そろそろ首都につく。本部について装備を下ろすまでが研修だ」
「「「「「「はい」」」」」」
研修の監督をしていた第一課の先輩、ネイブの言葉に新人全員が返事をする。
研修は5人ほどのチームで行われた。レドの場合はたまたま全員が同じ学校からの仲のいい同期だったので、人間関係に悩まされることはなかった。
「うぷっ……」
体育座りしていた同期の少女、リーンが若干出してはいけない音を出した。
「リーン、だいぶへばってる。大丈夫?」
「治癒かけておくか」
リーンの隣にいたネロは背中をさすり、正面ではヴァイスがリーンの手を握って、吐き気を抑えるために医療系の魔術を使用している。
車内での様子を眺めるレドと、その親友ブレウはしみじみと話す。
「まあ、でもこれでようやくってところですね」
「そうだな」
そうしてガタガタと揺られること、数十分。車は止まった。
ネイブは前の運転手といくばくか言葉をかわすと、
「よし、本部に到着した。全員、車から荷物を降ろせ」
「耐えた、なんとか耐えたよ……っ!」
「リーンおつかれさま」
「ううう、ありがとうネロちゃんっ」
ネイブの発言に女子二人は手を握りあって立ち上がる。レドも荷物や自分の装備を持って、荷台を降りた。
車が止まった場所は軍本部の正門付近で、時刻は昼頃。先ほどまで降っていた雨は運よく上がっている。
昼休憩のため、本部職員がパラパラと屋外へ姿を現していた。
「このあとは、今までの成績や本人の資質、希望を踏まえたMARGOTが正式に支給される……はずだったんだが、研修の日程に急な変更があった都合で、まだ準備が出来ていないらしい」
本部で車の到着を待っていた職員から言われたことをネイブは新人たちに伝えた。
しかしレドたち5人の顔にははっきりと、それよりも休みたいと書いてあり、ネイブは失笑してしまう。
「ひとまず、まだ荷台に荷物が残っている。それを降ろしたらここから兵舎へ移動するぞ」
彼の言葉に5人は力をふり絞って返事をするのであった。
ネイブは荷物を運び出す様子をみていると、ふと、見覚えのある人影が目に入った。
「ん?ウィステじゃないか?」
呼び止められた人影はぎこちなく振り返る。
「やっぱりウィステだったか。久しぶりだな」
それは以前、ともに仕事をしていたウィステであった。第一課を支援する部署、第二課にいた彼女は現在は第三課という裏方に所属しているため、会うことは殆どなく、ネイブは懐かしさを覚えた。
「ね、ネイブさん。ご無沙汰しております」
緊張しているウィステの隣には、仏頂面の少女が立っている。
「おう。そっちのは第三課の新人か?」
ネイブが話し終えると同時に、少し遠くにいたはずのリーンがいつの間にか接近していた。
「アコちゃん久しぶり!会いたかったよ!」
仏頂面の少女、アコは若干顔をひきつらせていた。しかし、先ほどまで死にそうな表情だったリーンはきらきらと輝いている。そのあまりの変わりっぷりにネイブは驚いた。
「リーン、友達か?というかお前、さっきまでへばってたのにすごい元気になってるな」
「はい、大切なお友達です!」
リーンはネイブからの質問に返答した後、くるりとアコの方に振り向き、ズズズと距離を詰める。
「アコちゃん、第三課だったんだね。卒業式のあと、どこにもいないから、再度集団幻覚説が浮上してて……。でもネロちゃんから本部で会ったって聞いて、私も会えるの楽しみにしてたよ!」
(集団幻覚説ってなんだ?)
リーンの言葉に思わずネイブは首を傾げていると、
「そ、そうか。あ、オレ、先輩とこれから用事があるから」
「は!そうそうそうそう、ネイブさん、私もアコ後輩と用事がありまして、さらば!」
と、ウィステとアコは風のように去っていった。
「あああ……」
リーンが地に手をついて呻いている傍らで、いつの間にか近くにきていたレドが中途半端に手を上げた姿勢で固まっている。
「レド、お前何やってるんだ?」
「なんでもないです……」
§ § §
正門から兵舎へ移動して休憩となったとき、レドは1人だけネイブに呼び出されていた。
場所は第一課の兵舎の一室。部屋には長机がいくつか置いてあり、装備課の恰好をした者が大きな箱を前にして座っている。
「呼び出しの要件だが、今からお前にMARGOTの正式な配備を行う。5人の中でお前の分だけギリギリMARGOTの準備ができたからだ」
「……皆の分ができるまでは待てないんですか?」
5人で頑張ってきたという思いから、レドはつい言ってしまう。
(できることなら、皆と一緒に受け取りたかったんだけどな)
ネイブはレドの心情を理解しながらも告げる。
「上からのお達しで、準備が整い次第、直ちにMARGOT配備と新人の正式配属させるように言われているんだ。書類上ではMARGOTを所持した時点で配属になる。……特に最近は何が起こるかわからないからな。少しでも第一課の人員を確保しておきたいんだろう」
彼がそう言い終わると、装備課の者が立ち上がって箱を開けた。
「いやいや今年はいい新人さんが入りましたね。データ見ましたよ。レドさんあなた、大変すばらしい魔術制御技術をお持ちだ。我々も張り切って開発を行いましたよ。……こちらCR-14を、魔鉱石の配合量や魔力子保有可能量、術の伝導率および伝達率などなど、精一杯調整させていただきました。第一課にすでに納品済みですからね。どうぞお試しください。あ、それからこれは取扱説明書です」
「取扱説明書あるんですか!?」
スッと出された冊子を受け取ったレドは、ネイブと装備課の職員を交互に見た。
「ああ。訓練用とは全く性能が違う。ピーキーなところがあるからな」
「ですが我々もプロです。そこが気にならないようにしてあるはずですよ。とりあえずはここで軽く使ってみてください」
整備課に促され、レドは箱の中をみる。そこには一振りの剣があった。
そこそこの長さがあるため、一見すると両手持ちのようだが、身体強化を使えば片手で持つことができた。
(おおお、希望通り剣型だ)
感動しつつも体内をめぐる魔力子を剣に通すと、
「!?すごい!ロスがない!!!???」
今まで使ってきた訓練用はなんだったのかと思えるほど、スムーズに魔力子が通る。
そして得意の炎の魔術を刀身に発動させると、
(いままでよりも効率よく展開できた……)
そして魔術の停止も、停止命令と実際の停止のタイムラグはほとんどなかった。
その性能にレドが感激していると、ネイブは言った。
「さて、これで書類上は正式配属だ。担当地域はおいおい……」
『第12地区で火災が発生。強盗を起こした犯人が放火した模様!MARGOT所持しているとの情報があります。該当地区担当者は直ちに出動してください!それ以外は指定箇所で待機をお願いします!』
突如警告音と共に、その声が兵舎中に響き渡った。
初期の拡声器くらいはあると想定しています。