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【N.C. 996】
ある時、空から大きな隕石が落ちてきた。
それにより、世界の環境は大きく変動、全人口の四分の一の死者が出る大惨事となった。
が、これを境に不思議な力を使える者が現れ始める。
不思議な力とは何か。
これは現在『魔術』と称される技術のことである。
ではなぜ魔術が使えるのようになったのか。それは魔力子という微小な粒子が存在するからだ。一説によると隕石と共にやってきたらしい。へー。
この魔力子は人や特定の素材に含有しており、日常生活から戦闘にまで、幅広く使われている。魔術師は魔力子を扱うのにたけた者なのだ。諸君も精進するように。……などなど。
オレは軍魔術師学校にて、教官による講義を聞いていた。今日の内容は魔術の始まりについてだった。まあ、歴史の勉強の回だったな。今回は触れられなかったが、黎明期はともかく、現在では人は誰しも魔力子を保有している。ただ使える量は個人差があり、とりわけオレは雑魚中の雑魚だ。魔術の素養があれば孤児でも入ることのできるこの学校には、少々不正を行って在籍している。
争いの絶えないこの世界で、各国は魔術を使える優秀な人材を育成しようと力をいれている。他国だけでなく、怪しい邪教集団やらガチガチの犯罪者集団など危険がいっぱいな世の中では、通常の武器より強力な力を行使できる魔術師の育成は急務なのだ。ここは在学期間三年でただの軍人ではなくて、魔術を使える軍人を育てる。そのための学校なのであった。
さて、不正を行って入学したものの、魔術師資質ド底辺であるオレはなるべく目立たぬように訓練生生活を送っていた。なぜそこまでしてここにいるのかというと、メリットがあるからだ。この学校を無事卒業すると国家魔術師または地方配属の魔術師として就職できるかもしれないというメリットが。
オレは自分の目的のために、軍の内部に潜り込むべく、この軍魔術師学校の扉を叩いた。
まだ何も持っていなかったオレにとって、多少時間はかかるが内部に入り込め、さらには食事がついてくるなんてお得だったのもある。そして、ここでは目立たないように全力で気配を消した。魔力子が少なかったり、弱い立場だったり、戦闘能力的に弱いやつに目をつけていびる者もいたので、そういった人間に存在を認知されないように頑張ったのである。成績も下の上から中の下をキープした。結果、同期のほとんどは「あれ?あんなやついたっけ」レベルでオレのことを知る者はいなかった。いなかった、はずなのだが。
在校二年目のある日のこと。いつも通り目立たないように人気のない建物裏で昼食をとっていると、誰かがやってきた。集団の中でのぼっちは意外と目立つ。なるべく人前に姿を表したくない。向こうはオレに気がつかず、横を通りすぎていく。完璧に壁に溶け込んでしまったな……。しかし、通りすぎて数歩歩いたところで、
「うぉ!?」
二度見され、気がつかれてしまった。……見覚えのある顔だ。オレはコイツを知っている。だが、こいつはオレを知らないだろう。今会うべき人間ではないため、少し焦る。
「な、何やってんだお前」
しかも、そのまま通り過ぎてくれればいいものを、なんと話しかけてきた。無視するとかえって相手に敵対心を持たれてしまうと思い、適当にかつ丁寧に返す。
「今日は静かな場所でご飯を食べたいと思いまして」
食事は食堂で決まった時間帯に取ると決められているが、オレのようにこっそり別の場所で食べる者も少なくない。おかしくはないはずだ。
さっさとどこかにいってくれないかな。
そう考えていると、思いが伝わったのか、彼はやや振り返りながらもどこかへ行った。もう二度と来ないでほしい。
さて、この男はいったい何者なのか。
彼はレド。オレの同期で、かつ成績優秀者である。勉学だけでなく、戦闘能力や魔術といった要素も加味してだ。つまり、めちゃくちゃ目立っているやつである。関わらないに越したことはない。
翌日、同じ場所に人が来ないことを確認したが、念には念を入れ、別のポイントで食事をとる。人気のない場所は把握している。しかし、またレドと出くわしてしまった。なんなんだ。
「うわ、お前!変な女っ!」
開口一番大変失礼なやつである。こちらはそちらを避けたのに、向こうがわざわざやってきたのだ。あと、好きで女になった訳じゃない。次こそはもう二度と会いませんように。
そんなオレの思いをよそに、レドとは人気のない校舎裏でちょくちょく会うようになってしまった。途中からは場所を変えることを諦めた。当初オレのことを変な女扱いしていたレドも、最近は慣れてきたらしく話しかけるようになった。
「お前もここの訓練生だろ?何期入学なんだ?」
お前と同期だよ。
その言葉を飲み込み、
「もしかしたら訓練生ではないかもしれませんよ」
「そんなバカな」
建物裏でしかオレの姿を目にしたことがないらしいこの男は、まさかとは思いつつも若干信じているらしかった。しかし、何者か怪しんでいても、後をつけて正体を探るといった行為をレドはせず、一年もの間、オレとこいつのよくわからない遭遇および雑談は続いたのである。
そして、奇しくも三年目という最後の年。
オレは少々やっかいなことに足をつっこんでしまう。