属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

今年が始まって四か月目になった。

まだアバドーン側に動きはない。

 

朝第三課にいくと、いつもオレより早く来ているウィステ先輩の姿はなかった。珍しいこともあったものだ。

 

「やあ。初めまして、になるね」

 

突然奥から声がする。それまで全く気配がなかった。

声の方を向くと、そこにはニコニコと笑う中年男性がいた。

 

「まあまあ、そう警戒しないでくれ。私はローザ。第三課の課長さ。ほら、これが証拠だ」

 

身分を示す物には確かにこれまで一度も会ったことのない、いや、なかった上司の名があった。

 

ある時は、オレが席を外しているときに現れ、またある時は、オレが来る前に帰る、というびっくりするほどすれ違って会えずにいた課長との初対面である。

 

「……初めまして、ローザ課長」

「突然だが、君にお願いしたいことがあって会いに来たんだ」

「お願い?」

「ちょっとお使いに行ってきてくれないかい?」

 

……は?

 

「時にアコくん」

 

オレがポカンとしていると、ローザ課長は常に空席だった、課長という席札の置かれた机に腰を掛ける。

 

「我々のなかにネズミが紛れ込んでいるようでね」

「ネズミ……、スパイってことですか」

「君は何か知っているかい?……なんてね」

 

ネズミ……、内通者がいる、または現れた、ということに気がついたってことか?

ローザ課長は相変わらず笑みを浮かべていて、表情から読み取れることはなかった。

 

「少々手間だが、ネズミの駆除のために行ってきてもらいたいところがあるんだ」

「ウィステ先輩じゃなくて、オレに?」

「道中何があるかわからないから、ウィステくんには頼めないお使いでね。それで君は、どんな魔術を使うんだったかな?」

「……身体強化だけです。それ以外は全然」

「結構。自分の身を守る程度の戦闘能力があれば問題ないよ」

 

課長は足元に置いてあった鞄をこちらに渡してきた。

持つと随分とずっしりしていて、中に入っているものが気になる。

 

「お使いは片道でも時間がかかるから、必要なものを入れておいた。君には今から北東の砦に向かってくれ。北東の砦についたら、この身分証をみせてオリバーという門番に要件があることを伝えるんだ。そして、彼がやってきたら『ローダンテからの頼みで来た』と言ってこれを」

 

さらに、平べったい箱を手渡される。

それよりも聞き捨てならないことがあった。

 

「今から?」

「ああ、今からだ。遅くとも昼には首都を発ってほしいね。それなら、一度自宅に戻る時間もあるだろうし、鞄の中の服に着替えることもできるだろう。それと、鞄の中のノートに旅程があるから、乗る馬車の時間はそれで確認してくれ」

 

随分と急な話に少しついていけない。

何をそんなに急いでいるんだ?

 

そう思ったとき、肩をポンと叩かれた。

 

「このお使いは君の目的にもきっと役立つよ」

「……一体何を」

「ははは、冗談さ。ちょっと意味もなく思わせぶりなことを言ってみたかっただけなんだ。カッコいいだろう?」

 

課長はずっとニコニコと笑っていた。

冗談なのか本気なのか、全く何を考えているのか読めない。

もし本気なら、オレがやっていることがバレている……?

 

「あ、そうそう。配属初日に渡したものは読んでくれたかな?」

 

突然話を変えられた。配属初日に渡されたものといえば、

 

「あの本ですか」

 

ウィステ先輩づてに渡された本のことだろう。それはわかりやすい子供向けの文章の付いた絵本だったが、なんでこんなものを、と思ったものだ。

 

 

「まだ読んでいません」

「そうだったか。絵がかわいらしかったからつい貰ってしまったものの、私が持つには似合わなかったからね。まあ、暇なときにでもめくってみてくれ」

 

 

 

§ § §

 

 

 

というわけで、オレは馬車に乗って北東へ向かっていた。鞄の中のノートにはご丁寧に、いつ・どこ行きの馬車に乗るかまで書いてあったのだ。

服装も清潔感のある白ブラウスに、シンプルなスカートと、わざわざ荷物の中に用意されており、遠い親戚が北東の砦で見つかったかもしれないので会いに行く、という設定らしい。

 

「お嬢ちゃん、一人かい?」

「え、あ、まあ」

 

同じ馬車に乗っていた老夫婦に話しかけられる。

 

首都からは目的地までは直線距離にして200km。馬車を乗り継いで四日ほどで着く予定だ。

運河や汽車を使う手もあったと思うが、ノートには馬車のチケットが挟まれていた。用意周到である。

 

しかし、あのローザ課長。雰囲気こそ柔らかいものの、油断してはいけないと第六感が告げていた。

彼は一体どこまで気がついているというのか。

 

「私達も、お嬢ちゃんくらいの孫がいてねぇ」

「女の子なんだけど最近軍に入隊して心配だよ、本当に」

 

俺が悩んでいる間にも老夫婦はのんびりと話し続けている。馬車内には他に3人ほど乗客がいるのに、なぜオレに話しかけてくるんだろう。

なんと言い返せばいいのかわからないので、とりあえず頷いておく。

 

こうして乗っているうちに、いくつかの馬車の駅を過ぎた。何個目かの駅で老夫婦は降り、また、他の人が乗っていく。

 

乗っていた馬車は夜になる前に便の終点につき、オレはその町や村で一夜を過ごす。そして朝になると乗り継ぎの馬車に乗り、北東へ向かう。

季節が春のため、風に花びらが運ばれて窓から車内に入ってくるのが、少しわずらわしかった。

 

一日、二日、三日とこれを繰り返し、四日目。オレは北東の砦にまで、順調に辿り着いた。

 

石造りの町並みの先には大きな砦がそびえ立っている。砦には食料を搬入するなど、町に出入りするための門があった。ここにローザ課長から言われたオリバーという人物がいるらしい。

 

身分証を持って、門番に話しかける。

 

「あの、オリバーって人はいますか?」

「ん?オリバーじいさんのことか?おーい。じいさん、若い嬢ちゃんがあんたのこと呼んでんぞー?」

 

門番は横の小屋に大声で叫ぶと、中から老人が出てくる。話が早いな。

 

「うるさいぞ、全く。……おや?」

 

オレの顔を見て「はて?」という声をあげる。それもそうだ。面識の全くない人間が呼んでいるんだから。

そこで、課長から教えられたフレーズを言う。

 

「あの、ローダンテの頼みで来ました」

 

オリバーという老人は、オレの言葉にフムフムとうなずいてから、

 

「ちょっとここで立ち話もなんだ。こちらに来なされ」

 

と、出てきた小屋に案内される。

最初に話しかけた門番は、用は済んだとばかりに、門の外へ向き直ってあくびをしていた。

 

小屋に入ると、雑多な物の他に机と椅子二脚が置いてあった。

 

オリバーはオレに片方の椅子に座るよう促し、彼もまた着席した。

 

「さて。ローダンテか。何のようかな?」

「これを渡しに」

 

鞄の中から謎の箱を取り出す。道中気になって開けようとしたがダメだった。オレの力任せでも開かないってどうなっているんだ。

 

箱を受け取ったオリバーは、それを懐にしまう。

 

「これがいったいなんなのかと気になっておるな?」

「……まあ」

 

『ネズミの駆除』。課長はそう言っていた。

だが、内通者の特定・排除と、この箱やオリバーという老人は何の関係があるんだ。

 

「あいつが君を選んだということは見せてもいい、ということでもある」

 

何を?

 

オレの疑問をよそに、オリバーは立ち上がって部屋の隅に行った。

そして、なにやらごそごそとしたかと思えば。

 

「ついてきなさい」

 

先程まで床だった小屋の隅は、地下へ階段が繋がっていた。

 

「これはいったい……」

 

オリバーは明かりを持って、下に降りていってしまった。

 

どうなってんだよ、おいっ。

 

 

 

地下への階段を降り初めてしばらくすると入り口の床部分は閉まっていた。

 

「それは勝手に閉まるようになっておる。閉じ込められた訳ではないから心配するでないよ」

「でも、もう一人の門番に黙って、いなくなってもいいんですか?」

「それも構わん」

 

中は暗く、オリバーの持つ明かりだけが頼りだ。

滑らないよう、壁づたいに階段を降りていく。

壁はさわった感覚はゴツゴツとしており、どうやら岩のようだった。

 

長いこと階段降りていくと、前方から明かりのものではない、ボンヤリとした青紫の光が見える。

 

そこは岩肌が露出した広い空間があった。

中央にはところどころ弱く光っている岩があり、ここなら明かりがなくても、ある程度視界が確保されている。

 

オレが下まで着いたのを見計らい、先にいたオリバーが話した。

 

「これはな、昔々落ちてきた隕石の欠片じゃよ」

「隕石って……」

 

隕石と言われてすぐ思いつくものは一つしかない。

この世界の人間なら皆そうだろう。

 

「君が想像したように、人が魔術を使えるようになった境の出来事である、隕石『アプシントス』のことで間違いないのう」

 

もし仮にこの老人が言っていることが本当なら、これは非常に貴重なものだ。

博物館や研究所におかれているのではなく、砦の地下にあるのはなぜなんだ。

 

オリバーは岩に近づいていく。

 

中央には周囲よりも強く光る石が半分埋め込まれていて、驚くほど精密な球形だった。

 

ローザ課長に渡された箱は、オリバーの手のなかで開いていた。彼は石を手に取り、空だった箱の中に収める。強い光は箱の中から一切漏れていなかった。

 

「さあ、これをあいつへ持っていってやってくれ」

「あの、なにがなんだか……」

 

箱は再びオレの手元に戻ってきた。『あいつ』っていうのはローザ課長のことか。

 

そこでオリバーは唐突に語りだした。

 

「昔々あるところに、星に旅人と下僕たちが乗っておった」

 

「しかし、乗っていた星は散り散りになり、旅人と下僕たちは離ればなれになってしまった」

 

「ひとりぼっちになってしまった旅人は、不幸なことに落とし物をしてしまった」

 

「下僕たちは落とし物をいつまでも探し続けている。いつか、旅人と再び会えることを目指してな」

 

「そして、旅人もまた、旅の目的地へいつの日か辿り着くことを夢見ている」

 

「……………はあ?」

 

最後まで聞いてしまったが、何を言ってるんだこのじいさん。実はボケてるのか?

 

「この話はな、この地域でのみ、ひっそりと口頭伝承されている昔話だ。誰が言い始めたのかも、いつからなのかもわかっておらぬ」

 

あ、ボケてない。よかった。

 

「星とは?旅人とは?下僕とは?落とし物とは?ワシはずっと考え続けているのだよ」

「なんでここに隕石があるのかとか、なんで石が光っているのかとか、そもそもあんたは何者なのかとか、聞きたいことが山ほどあるんだが」

 

マイペースな老人に対して、つい素の口調で話してしまう。

 

「急かすな急かすな。まず、隕石が後からここに来たのではない。砦の方が後から隕石の上にできた、というのがワシの見立てだ」

「ここの砦っていつからあるんだ、ですか」

「この国ができるよりもずっと前じゃよ。もっと歴史を勉強してみなさい。次は光る石か。これは微かに魔力子を帯びておる。隕石の欠片に埋まっていたことから、この世界には元々なかったものだろう」

「魔力子があるってことは魔鉱石なのか?」

「いいや、別の物質だ。そして最後、ワシは昔魔力子のことを少し研究していただけの、ただの門番じゃ」

 

そして、オリバーは階段を登り始めた。

 

課長から預かった箱は元々は空で、今は奇妙な老人より石が入っている。どういう仕組みか。箱は今は簡単に開くようになった。開けると先程よりかは弱い光が広がる。他にも石を入れるためのくぼみがいくつかあった。

 

これを使って課長は何をしようとしてるんだ。

 

 

 

“………たい”

 

 

 

ふと声が聞こえた気がした。

 

周囲を見渡しても誰もいない。オレがそうしている間にも、オリバーはかなり上の方へ行ってしまっている。

 

このままだとおいていかれる。

 

オレは慌てて階段をかけ上るのだった。

 

 

 

地上、つまり小屋に戻ると、暗闇に目が慣れていたせいで、明るさに薄目になってしまう。

 

オリバーは扉を開けた。帰れってか。

逆らう気にもなれずに大人しく外に出ると、老人は告げる。

 

「これが君にとっても、あいつにとっても問題解決の糸口になることを祈るよ」

 

今のところ糸口どころか、糸がぐちゃぐちゃに絡まっているんだが。

そうしてオリバーはバタンと扉を閉めてしまった。

 

オレが一人小屋の前に突っ立っていると、先ほどの門番が声をかけてきた。

 

「嬢ちゃん、いったいオリバーじいさんに何の用だったんだ?」

「……遠い親戚がいるかもしれないと思って来たのですが、人違いでした」

「それは運が悪かったな……、いや、逆に運が良かったかもしれないぞ」

「どういうことですか?」

「あのじいさん、ちょっと気がおかしくなっちまってるみたいでさ。あんまり関わらないに越したことないんだ。まあ、長いこと勤めてるってことで、首になってないけどな」

 




馬車の速度は時速10kmくらいだとすると、直線距離200kmなら大体四日でいけるだろうと雑に見積もりました。
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