属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

お使いはこれで終わりだろう。あとはこの箱をローザ課長に渡すため、首都に戻らなくては。

 

ノートは行きの行程が終わった時点で処分しろ、と指示があったので燃やしておいた。

 

帰りは行きの道のりを逆走する形となった。馬車を使い、汽車や車と比べるゆっくりなスピードで移動していく。利点は汽車や船が通らないところをカバーできることや運賃が安いことだ。

 

夜泊まる町や村もだいたい同じだったが、順調だった旅程にここで少し問題が発生した。行きの二日目に泊まった村までの道に落石があり、通れなくなってしまったのだ。

 

そのため、ルートを変更して別の村に泊まることにした。多少回り道になってしまうが、ここで一晩過ごせば、二日半で首都に帰ることができる。

 

その村には昼過ぎについた。こじんまりとしていて、農業を主体としているとりとめのないところだったが、花があちこちに咲いており、ヒラヒラと花びらが舞っている。

 

宿の部屋で旅程を確認していると、どこからか人の叫び声や何か争う音が聞こえた。

 

宿の者は様子を見てくると外に出ていく。オレも大切なものだけは隠しポケットに入れて外に出ると、火の手が上がっている建物があった。

 

そして仮面をつけた者と、仮面はつけていないが同じヤバイ雰囲気の者同士が争っている光景が目に入る。

 

 

 

……アバドーンとアプシントスがなんでこんな村で戦ってんだよっ!!!!

 

 

 

仮面をつけている方はアバドーン、つけていない方がアプシントスだろう。仮面付けて怪しいことしてる奴らも、それと同じような雰囲気の奴らも他にいてたまるか。

 

ふと、ある建物が目に入った。

見た限り真新しく、出来たばかりであろう建物を中心に戦いは起こっている。

 

オレはあの建物を知っていた。

 

そう、あれは、『前回』の世界でクリュティエに指示され、アプシントス幹部のルコンが潜む村に襲撃をかけたときのことだった。

ルコンらは村人の一人を仲間に率いて、拠点を作ろうとしていたのである。そこでオレたちは白昼堂々村に乗り込んで、拠点としようとしていた建物を取り囲んだ。

それと全く同じだった。

 

基本的にオレは地理などの情報は一切与えられていなかったので、村がどこかは知らなかったが、ここだったとは。花びらがやけに印象的だったから時期も大体同じなんだろう。

 

アバドーン側はオレがいない、という違いがある。あの時はクリュティエがオレの監視にヒュウという男をつけていたが、『今回』来ている幹部級はヒュウだけか、それとも別の人物か。

 

村人は逃げまどい、両組織の者たちは争っている。アプシントスの拠点と化していた建物は逆に手薄になっていた。

 

さて、どうしよう。

 

北東の砦までの用件で、ローザ課長がわざわざ遠い親戚に会いに行くと偽造させて送り出したのには、内通者対策が関係しているんだろう。ここでオレが無闇に飛び出していいものか。しかし、身を守るくらいの戦闘能力があればいい、とも言っていたので最低限は許すともとれる。

 

なぜ『今回』の世界で、ネフィリムが学校での演習を襲撃したのかはまだわかっていないし、あれ以降、ネフィリムの話が一つも上がっていないことも気になる。

 

アプシントスと接触してみるか……?

『前回』、オレ一人で建物内に侵入し、ルコンを倒した。特に工夫もなく正面突破だった。

 

扉が正面。裏手には窓と出入口が一つずつ。

どちらも警戒している者がついている。

 

なので壁からお邪魔した。

 

「か、壁が!?」

「一体何が起きて」

 

壁を壊したことで粉塵が舞う。

そこにいたのは二人。他の者は外でアバドーンと戦っているみたいだ。

混乱している彼らをすれ違いざま殴っておく。

『前回』通りなら、この奥にルコンはいるはずだ。スカートの中に隠しておいた拳銃を持って、扉を蹴破る。

 

「おらぁっ!」

 

銃口を室内にいる人物に向け、発砲した。

 

「誰だ!!!」

 

……うん、外した。至近距離じゃないとあたらないな、これ。

狙撃は得意じゃないから、もう少し使い慣れたいと思ってやってみたがダメだった。

 

「アバドーンめっ!!!ここまで来たか!」

「違ぇよクソ野郎っ!」

 

室内には男性としては小柄な人間、アプシントス幹部のルコンがいた。

本当に何もかも予想通り、いや記憶通りだ。

 

もとより警戒していたためか、すぐに魔術により発生させた水を鞭のように打ってくる。

オレの近くにあった扉が飛ばされた。

 

通常の鞭ではありえない軌道で飛んでくる上、当たるときの先端の速度は速く、その分だけ硬くなる。水でできているため掴むこともできないので厄介だ。

しかし、室内であることから遮蔽物も多く、ルコンは死角の部分をうまくコントロールできていない。

多少はオレに当たるものの、その他狙いを外した鞭の攻撃は室内の椅子や机を弾き飛ばすだけだ。

水以外に何か魔術を発生させている様子もない。

 

牽制程度に何発か撃ちながら、手ごろにあった花瓶をルコンの顔面に向けて投擲。

すぐさま花瓶は水の鞭で叩き割られる。

 

だがそんなことはわかっていた。

 

花瓶が目の前にきた一瞬、奴の視界は狭まる。

 

「水の魔術の使い方がなってねぇぞ」

 

クソババアと比べたらまだまだ凶悪さが足りないな。

 

隙をついて接近し、腹部にまずは一発蹴りを入れる。

 

「がぁぁあっ」

 

体勢が崩れた。魔術を使わせる前にさらに顔面に一発入れる。身体強化、特に防御の魔術があるなら、それを上回る力で殴ったり蹴ればいい。

 

魔術は脳が神経によって命令を送り手足を動かすのと同じように、体のどこの部分に発動させるかの命令を送ることで発動する。慣れていなければタイムラグも出るし、出力制御もうまくいかない。

そして魔術師に直接攻撃が通り、その強烈な痛みによって集中力が削がれれば、

 

「うまく魔術も使えないよなあ?」

 

痛みに耐えて魔術を使ったり、時々暴走気味に何か飛ばしてくる者もいるが、こいつの場合は口をパクパクとさせているだけのようだ。そういえばルコンは幹部といっても、回りより少し戦闘向けの魔術が使える程度だったな。『前回』はここでタコ殴りにしたが、同じようにしても意味はないだろう。

 

倒れたルコンが回復する前に口に銃口を突っ込む。

 

「下手な動きを見せてみろ。お前が魔術を使うよりも先に引き金を引いてやる。さすがにこの距離なら、身体強化もブチ抜けるぞ?」

 

ふごふごと何か言っているがさっぱりだ。撃ったばかりだからさぞかし熱かろう。

 

「肯定なら瞬きを二回しろ。否定ならするな。わかったな?」

 

かすかに頭を上下させる。わかりにくい。

 

「わかったならなんで瞬きしねぇんだよ、殺されたいのか」

 

一層強く口の中に拳銃を押し込むと、瞬きを二回した。よくできました。

 

「一年前、軍の学校を襲ったな?あの時の化物をお前は知ってるか?」

 

瞬きは二回。

 

「次の質問だ。まだ他にあの化物はいるか?」

 

目が泳ぐ。ためらっているかのような表情だ。

 

「おい、肯定の仕方も忘れたのか?オレはお前が死んでも困らないんだよ。お前がここで死んだら他のやつに聞く。そいつもダメなら、そいつを殺して、また別のやつだ」

 

瞬きは……、二回した。

ということはアプシントスの拠点のどこかにいるのか。

 

そこで外からバタバタと音がした。ルコンの部下か、はたまた攻めてきたアバドーンか。

 

拳銃を口から抜き、ルコンを蹴飛ばす。ヤツはそのまま壁を突き破り、外へと転がっていった。

 

離脱しようと、オレも穴の開いた壁から外を見た。

外の光が差し込んでくるとともに、ある人物たちが視界に映る。

 

茫然とこちらを見ている彼らの姿がオレの記憶の中のものと一致していく。

 

 

 

ああ、そうか。オレはこのとき初めて出会ったんだった。

 

 

 

レド、リーン、ブレウ。

 

そうだった。ちょうどこの頃だった。

 

アイリスに助けられ、クリュティエに従って戦う。大人でもオレが全力で殴れば倒すことができたから、力を振るうことが楽しくなっていた。クリュティエからお目付け役としてつけられたヒュウが少しウザかったけど、オレはいらない子ではないんじゃないかって思ってた。

 

ルコンを撃破したところで、外にアプシントスではない奴らがいた。

興味がわいた。初めて見る種類の人間だった。

 

アイリスでもなく。

 

先生でもなく。

 

アバドーンでもアプシントスでもない。

 

だから初めはちょっとちょっかいをかけてやろうという気持ちだった。

会うたびにコイツらは強くなっていった。

あの恐ろしいクリュティエとだって、やりあってみせたのだ。

 

 

 

オレは今初めて、心の底から過去に戻ってきたという実感がわいてきた気がした。

 

この五年以上、年月は二回目の経験でも、見ている物、起きていた事は違っていた。だから、この記憶は全部オレの妄想で、『前回』なんて本当はないんじゃないかって、心のどこかでずっと思っていた。

 

でもこの光景はオレの記憶の中にある通りのものだ。

 

オレはチャンスを手に入れられたんだ。

 

 

 

以前言った言葉が一言一句違えず自然に出てくる。

 

「あーあ、少しは手ごたえあると思ったんだけど。意外と弱かったな」

 

ボコボコにされたルコンをみた部下たちが口々に言った。

 

「そんな、ルコン様がやられただと!」

「ばかな、どうみても小娘だぞ!?」

 

レドが思わずといった様子で呟くのが聞こえる。

 

「おいおいおい、どうなってるんだよ……」

 

そして、アプシントスの一人がオレに向かって叫んだ。

 

「お前、何者だ!」

「オレ?オレは―――」

 

もうアバドーンでもクリュティエ派でもなく、軍も第三課もオレの目的のために利用しているだけだ。オレはオレのために戦っている。

だから、今のオレは、

 

「ただの、アコラスだ」

 

 

 

アバドーンもアプシントスも警戒している。

それもそうだ。突然現れたガキが幹部をぶっ倒したのだから。

 

「お前、なんでこんなところにっ!?」

「オレにも色々事情があるの、っと!」

 

レドに返事をしながら、切りかかってきた者の剣をかわし、首を狙う。

 

『前回』、アバドーンは逃げおおせていた。なぜなら、ヒュウが仕掛けておいた爆破物や煙幕があったからだ。

 

『前回』通り、逃げさせるか?

 

いや、ここでクリュティエ派の力を削げば、オーキッド派が活気づく。そうすれば奴らも動きを見せる。

 

ルコンさえ倒してしまえば、ここにいるアプシントスも残りは雑魚。

ならば、次は!

 

いることを確認して、ひょろっとした男に向かって瓦礫をぶん投げる。

 

その男は目を見開いた。だがこれくらいはなんてことないだろう。

 

「いきなり狙ってくるなんて危ないですよ、お嬢さん」

 

ヒュウ自体の戦闘能力は高くない。だが、様々な小道具を持ち合わせており、今投げた瓦礫も爆破によって粉砕された。

 

「ですが―――」

 

「しまった、逃げられる!」

 

オレが現れた時点ですでに撤退の準備をしていたようだ。相変わらず早さに感心する間もなく、爆発と煙幕によって視界がさえぎられる。

そして、視界が晴れるころには、

 

「ちぃっ!」

 

アバドーンはいなくなっていた。

 

 

 

連絡を受けたと思われる軍の地方支部の者たちが増援にきて、アプシントスの残党を処理したあとでようやく一息つくことができた。

 

「アコちゃん、なんでここにいるの!?」

 

リーンが飛びついてくるのを避ける。

 

「遠い親戚かもしれない人に会いに行った帰りに、たまたま巻き込まれただけだ」

「それは災難だったね……。親戚の人には会えたの?」

「親戚は人違いだから、そもそもいなかった」

 

その場はなぜか微妙な雰囲気になった。

 

なんだよ、その顔。

 

「……お前らがこの前、地方で任務するって言ってたのはこれのことか」

「うーん、正確には任務の帰り、かな?私たちも偶然ここを通りかかったの。ネロちゃんとヴァイスくんもあっちの方にいるよ!」

 

北東の砦への道のりは行きに地図を確認したとき、川を下った後に海辺の街道を北上するルートもあった。『東の海辺を経由して行った、ちょっと内陸のところ』とは、その街道から内陸へ伸びる道の先にあったんじゃないだろうか。そして帰りは別ルートで首都に向かっていたら偶然鉢合わせた、と。

 

「壁突き破って人が出てきたときはびっくりしたし、そこから見覚えのある顔が現れたのは混乱したよ。しかもアプシントスの幹部撃破なんて大金星じゃん。なあブレウ」

「……本当にここにいたのは偶然ですか?」

 

レドに話をふられたブレウはこちらを疑うように見てくる。

 

「はあ?偶然だっつーの。本当は別の村を通って帰るはずだったのに、落石で道が通れなくなったから、わざわざここに回り道してんだよ」

「それにしては手際が良すぎませんか?敵の拠点に一人で侵入して幹部を倒すなんて」

「ちょ、ブレウ、そんな疑わなくてもいいじゃないか。別に敵ってわけじゃないんだし」

 

確かにブレウの言う通り、スムーズに事を運びすぎてしまった。

オレは詳しい人員の配置は覚えていなくても、相手がどんな魔術を使うかわかっていたので、当然対処方法も知っていた。

早い対応に違和感を覚える者もいるだろう。

 

オレとブレウがにらみ合いをしていると、こちらに近づいてくる男がいた。

 

「新人くんたち、お疲れのところ悪いけど我々はもうここから引き上げるよ。この件の報告も急いで首都に戻ってから……ん?そっちの子は知り合い?」

 

ほっとしたリーンが耳打ちしてくる。

 

「第二課車両担当のオランジュさんだよ」

 

なるほど、この人が車を運転してこいつらはここまで来ていたんだな。

 

「私用で偶然居合わせた第三課のアコです」

「第三課?あそこってウィステさん以外にいたっけ?」

「今年から配属されました」

「ああ、じゃあ新人くんたちと同期ってことか、了解了解。しっかし、すごいところに居合わせたね。大丈夫?」

 

心配そうな目を向けられる。

そこにレドが割って入った。

 

「あの、オランジュさん。こいつも戦闘に参加してくれたんですけど、こいつの分の報告はどうしますか?」

「あー、第三課ってことは一応国家魔術師の括りだから。そうだな。君、私用のところ悪いけど、一緒に首都に帰ってもらえる?」

「……了解しました」

 

ここで逆らって、旅程のとおり馬車で帰る方が不自然だ。従っておこう。

 

オレは一言断りを入れてから宿に荷物を取りに行った。村はいくつかの建物が燃えてしまっていたが、宿は無事だった。

 

「なんでついてくるんだよ」

「ほら、荷物持ちっていうか」

「帰れや」

 

一つしかない荷物を取りに行くだけなのにレドがついてきた。

 

「そういえば、さっき『アコラス』って名乗ってたけど、そっちが正式な名前なのか?」

「うるせー、別にどっちでもいいだろうが」

 

書類上は全部『アコ』にしてある。一応、あの時あの場にある物は全て燃やしたが、警戒の意もこめて『アコラス』にはしていない。

 

「いや、よくよく考えるとお前のこと、まだ知らないことが多いなーって」

「オレはお前達のこと、よく知ってる」

「え?」

 

動きを止めたオレに、レドが何か言っている。

 

「お、おい、なんか顔色悪くない?もしかしてどっか怪我してた?」

 

 

 

“………たい”

 

 

 

「別に、どこもおかしくねぇよ」

 

 

 

“………たい、……りたい”

 

 

 

耳がざわざわする。北東の砦の地下で聞こえた声が再び聞こえた気がした。

 

本当は、オレが正気なのか、もう狂っているのか、どこがおかしいのか、よくわからなかった。

 




主人公が魔術を使えないのに一人称のせいで、作中での魔力子や魔術の設定がふわふわしているのでここで注釈。本当なら作中で説明できるのが望ましいのですが、自分の力不足で無理そうだったので。

魔力子は全身のあちこちに存在していますが、任意で片寄らせることができます。総量は個人で異なります。人体の外に出ると拡散してしまうので、必然的に体内や体表面近くで魔術を発動します。脳筋近接バトルさせたいがために面倒な設定にしてしまったと思っている。一旦生成してしまえば体から離れても大丈夫です。

魔術は、脳から神経を伝って命令を送り、魔力子を基に発動します。
そのため、神経系の発達する4~12歳の子供は研究対象として良い素体ですが、暴走する危険もあるため、軍では安定する13歳以降を戦闘教育している方針……といった感じです。きっとこれから人道的なことも考えられていくでしょう。

また魔術は、物質生成や変化、活性化、エネルギー生成を行う技術と定義しています。個人によって、生成できる得意な物や変化や活性化できる物は違います。

基本的な四つを例をあげますと、
・火の魔術…熱エネルギー発生(場合によっては可燃物と空気も無意識に作ってます)
・水の魔術…水(液体)を生成。連続体なら動きをある程度コントロールできます。
・風の魔術…気体(正確には空気と同様の複数気体の混合物)を生成し、速度をつけて射出しています。生成する気体は無意識のうちに空気作ってますが、もう少し時代が進めば、任意の種類の気体を作れるようになるかもしれません。
・土の魔術…農家大喜び。手から良い土が出てくるぞ!

この世界観だと未来で、窒素生成して相手を窒息死させたろ!とか可燃性ガス生成して部屋ごと燃やしたろ!とかになりそうで恐ろしいですね。
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