人生100年時代において、不治の病たる厨二病とは、半世紀以上つきあわなくちゃいけないからね仕方ないね。
【N.C. 992】
ある日、気がつくとオレは女になっていた。それどころか、肉体年齢もかなり下になっていた。
ここはどこなんだ。
何がどうなっているんだ。
少し落ち着くと、場所は見覚えのあるところだった。だが三年前に壊されて、もう見ることのできない光景だったはずだ。混乱の影響か、高熱を出したオレはうなされながら、近くにいた人間に聞いた。今はいつなのかと。
回答は、八年前の年月日。
どうやらオレは時間を遡ってしまったらしい。
過去に戻ってしまったと思ってから、八年前に一緒にいたはずの人間のうち、一人だけいないことに気がついた。彼女のことを聞いても、誰も知らない。そもそも存在すらしていない。そういった反応だった。オレが男ではなく女だというのも生まれつきだと言われてしまう。
頭がおかしくなってしまったのかと思った。
もしかしたら、頭の中にある未来の出来事は全てオレの妄想なのかもしれない。彼女、アイリスのことも、何もかも。
オレはアイリスのことを理解できなかった。だから、彼女と同じように何かを「守る」ことができれば、理解ができるのかもしれないと思った。
妄想か現実かはどうであれ、こちらには未来の記憶がある。それを頼りに、オレは行動を開始した。
このときは、アイリスが元から存在しないことや、未来の記憶を手にいれた際にオレが高熱で倒れてしまったことで、すでに未来が変わってしまったなんて、気がつきもしなかった。
【N.C. 997】
訓練生生活三年目。これをクリアすれば晴れて、正式に軍内部に潜入できる。最低事務とかでも構わない。そう思いながら、相変わらず目立たずに日々を過ごしていた。
しかしながら、森での演習で事件は起きた。何人かに別れてチームを組み、時間制限あり、装備の補充なし、訓練用『
魔術は魔力子によって発動する。たとえば、身体強化であったり。風を起こしたり。発火現象であったり。治癒であったり。しかし、魔力子は人間や特定の素材にのみ含有されており、距離が離れると拡散してしまう。もし何もなしに炎で攻撃したいとすれば、手から直接火が出てしまうだろう。そのとき、身体強化や治癒などの魔術も使わなければ肉体にダメージがいって危険だ。そこで、魔力子を拡散させない素材を用いたデバイスの
訓練用の
話を演習に戻そう。演習のチームは自分と近い成績の者と組む。したがって、決して底辺ではないものの、中の下から下の上を行き来する者同士で俺もチームを組まれた。そのため、誰だっけ、みたいな扱いも受けつつ、演習は淡々と進んだ。チームごとに求められている課題のレベルは違うので、成績上位者ならもっとハードなものであっただろうが、こちらは中の下から下の上。演習の内容も、罠を解除したり、地図を書きながら回収すべき地形情報を手に入れたりと順調であった。
そんな中、もう少しで目的地に到着だという段階で、前衛の者が指を指し、声をあげた。
「な、なんなんだ?あれ」
皆が足を止め、その方向をみる。そこにいたのは、通常の人間よりも二倍近く大きい人影であった。それはゆっくりと動き、こちらを振り向く。
「ひっ!」
……信じられない。
そこには現時点ではいるはずのない、化物がいたのだ。ヤツの体は筋肉や全身に満ち溢れる魔力子が、圧倒的なまでの暴力性を表している。人体のあちこちをいじり回して戦闘に特化させた代わりに、人格を失った改造人間『ネフィリム』だ。未来では厄介だったことを覚えている。現役の魔術師や軍人なら平気だが、学生相手ではミンチになるだけだ。
とにかく、ここは逃げの一手だろう。周りも本能的に危機を察知したのか、一目散に逃げ出す。しかし、不思議とネフィリムは追いかけてこない。ちらっと振り返ると、どうやら別の学生チームをターゲットに襲っているようである。
オレは立ち止まってしまった。当然チームメンバーとはぐれてしまう。
自分の知っている未来では、今この時点でネフィリムが襲撃して、誰かが死んだなんて話はなかった。つまり、ここが変わってしまうとまた自分の知らない未来になるかもしれない。それにこのネフィリムの素体はいったい誰なんだ。そう思うと、未来とはいえネフィリムと戦闘経験のある自分は、引き返して加勢した方がいいのではないか。しばしの葛藤の末、オレは足を引き返した。
全力ダッシュで引き返して最初に目に入ったのは、まさに今ネフェリムに殴られようとしている学生の姿だった。盾で防御しようとしているが、訓練用だ。奴の攻撃力を考えるとそのまま盾ごと潰される可能性が高い。
ちょうど進行方向延長線上がネフィリムの側面である。よって、勢いのまま、ドロップキックをぶちかました。ネフィリムの体が横に傾く。拳はそれて地面にあたり、体勢は前のめりに崩れた。着地をしたあと、盾のもっとも鋭いところを、ネフィリムの首めがけて振り下ろす。一度では完全に断ち切れないので何度も何度も。
一度目の攻撃では仕留めきれずに多少うごめいたが、完全に不意打ちだったこともあり、こちらは無傷でネフィリムの首を落とすことができた。種類によっては頭を完全に潰さないといつまでも死なないものもあるため、さらに頭を盾でぐちゃぐちゃにしていく。
もうこれくらいでいいだろうと、手を止めて周りを見渡すと、完全にドン引きしている学生たちの姿が目に写った。
「あ」
特に、助けに入った者は至近距離で俺が無言で殴る様を見ていたためか、
「ひぃ!!!」
目が合うと悲鳴をあげた。
……目撃者全員殺しておいた方がいいかと一瞬悩んだものの、この場にいる学生は未来で国家魔術師として見かけたことがある気がする。というかバリバリ戦ったことがある気がする。
「おま、お前!校舎裏の幽霊!」
「誰が幽霊だ」
しかもレドもいた。
……未来をどうのとかいう頭脳プレイは、俺には向いていないのかもしれない。
これ実質、少女漫画で見る「あんた!今朝曲がり角でぶつかってきた!?」って転校してきた主人公が難癖付ける古典的なシチュエーションと同じでは?