属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

あとは下の者も含めて頭と心臓を、と思ってイオンの首から手を離した矢先。

 

「ヤバッ……!」

 

突如襲ってきた衝撃を避けきることができず、オレは吹き飛ばされた。

 

「がぁっ!?」

 

そのまま壁を突き抜けて外に体が投げ出され、路地裏の地面に叩きつけられる。

激痛に耐えながら立ち上がると、ほどなくして一人の男が飛び降りてきた。

 

「お前か、ビオレッタさんを殺したのは……っ!なんで殺した!!何の目的でここにいる!」

 

それこそ、こっちのセリフだ。

会議場に人員は割かれているから、邪魔する奴なんていないはずだった。なんでここにいるんだ。

 

「内務省の施設を襲った、あの化物の仲間か!?答えろ!!!」

 

……やはり、ネフィリムが現れたみたいだ。

それでもこちらに人を寄越せたということは余裕があるのか。そもそもなんでここを嗅ぎつけてきた。ローザ課長の仕業か?

 

とりあえずは、向こうは大丈夫だと安心していいのだろうか。

 

オレにとってまず優先すべきは、ビオレッタが内通者イオンであったという証拠を掴み、自分の手で始末することだった。しかし、ローザ課長に会議の日付を聞いたあの日から、隕石の欠片の強奪と会議の襲撃が重なった場合、どちらに向かうべきなのかという問題が発生した。『前回』であれば今年の終わりのはずの会議の日程がこれほど直近とは思わなかったのだ。『前回』同様、襲撃があるかどうかもわからなかった。

 

結果としてこちらを優先した。会議場のほうは軍や憲兵を事前に引き寄せておくことで、襲撃がなくてもこちらの邪魔に入らせないようにしつつ、本当にネフィリムが会議場に現れた場合は数でどうにかしてもらうという博打だった。オレは半分賭けに勝ったらしい。

 

 

 

切りかかってくる相手は炎の魔術も使ってきて、肉弾戦や白兵戦を主とするオレにとっては相手にするのが面倒だ。

その辺に落ちていた長そうな鉄パイプでいなしつつ、まだ死体の処理が完了していない美術館へ再び戻ろうとする。

 

しかし、進路を阻まれてしまった。

それどころか、こいつはオレをあの場所から遠ざけようと動いている。

現に避けるごとに離れていってしまう。逃げようにも逃走用の仕掛けからはまだ遠いし、鉄パイプもすぐに使い物にならなくなった。

つくづく敵に回すと厄介だ。

 

腹からの出血は傷口が開いてしまって、治るのにまだまだ時間はかかる。動けばなおさらだ。動きやすさを重視して防具をつけてこなかったのがあだとなった。

 

相手は剣を横に薙ぎ払おうとする。

 

でもな、オレはお前の隙なんて良く知ってるんだよ。

 

炎の魔術を使う一瞬、アイツにはためらいがある。

それを狙って、攻撃が届く前に蹴り飛ばした。

 

「っつぅ、いってぇ……」

 

それでもこいつは立ち上がる。

 

しかも、届いていないと思っていた攻撃はオレに当たっていた。

 

正確にはオレの仮面にだ。

別の物で隠す暇もなく、壊れた仮面が下に落ちる。

 

「どうしてお前が……」

 

オレの顔を見たレドは呆然としていた。

 

 

 

「まさか、なんで、ビオレッタさんを……?」

 

問い詰めようとこちらに寄ってくるレドの足元に発砲する。どうせ当たらないし。

 

「うるせー……」

「なんとか、いってくれよ」

 

それにこいつがここに来たってことは、他の奴らも来る可能性もある。

 

「うるせぇんだよっ!!!」

 

イオンはもう死んだ。

死体の処理をできないのは手痛いが、撤退したほうがいいだろう。

ベストは正体がバレず、アバドーンに犯行を押し付けることだったが……。

レドはさっき確実に仮面を狙っていた。意識的にか無意識かはわからない。それでも遅かれ早かれ、気がつかれていただろうな。

 

「オレはなぁ、お前らがずっとずっと大嫌いだったんだ」

 

自分のやっていたことが明るみに出てしまったのは仕方ない。

オレが内通者扱いされるかもしれないが、こうなった以上振り切ってしまおう。

 

きっとウィステ先輩に迷惑をかけてしまうのだけは心残りだ。

 

「お前らみたいに能天気そうに、幸せそうにしてる奴らは腹立つんだ。オレには何もできないのになんでってな!!!」

 

いつも思い出す、焼け落ちる研究所。

首をしめてもなお死なない、オレと同じ被験体。

なんども花瓶で殴り、ぐちゃぐちゃになった頭。

 

五か月前の、強盗犯によって凍りついた人々。

オレが見過ごしていた、見過ごしていなくても、何もできなかったでだろう生存者。

 

「下で見ただろ。あいつらも、皆オレが殺してやったんだ」

 

オレは人助けなんてできないから。自分勝手にしかできないから。

 

「あの人たちも、お前が……」

「ほら、かかってこいよ。一年前戦ったときは納得いかなかったんだろ?今度はちゃんと相手にしてやるよ」

「で、でも……」

「どうした!」

「ぐっ!」

 

殴る。殴る。殴る。

 

オレが距離を詰める中、レドはまだためらっているのか防戦一方だった。

 

「おらっ、何遠慮してんだ!!!」

「くそっ!」

 

ようやく少しだけ踏ん切りがついたのか、魔術と斬撃を織り交ぜて向かってくる。

 

「……先読みされてる!?」

「お前に似てるけど、お前よりも強いやつを知ってるからなぁ。そんなもんかよ!そんなもんじゃねぇよな!!!」

 

対戦経験の差もあるのだ。どう動くかなんてお見通しだ。

 

……とは言うものの、炎を警戒しなくてはならないため、ギリギリの攻防である。

加えて、今のオレは相手の予想を上回る怪力によって動揺を誘わせたり、こちらが優位な状態を整えておいたり、先手を打つことで確実に初見殺しを行うスタイル。何も考えずに力任せに殴りに行く脳筋スタイルではもうないのだ。そんなわけで模擬戦での交戦経験や戦闘の様子を知られている相手には分が悪くなってくる。

それに、色んなところがじりじり焦げるし、背中は痛いし、動くせいで腹の血はまだ止まらないしで、現状正面突破はしんどかった。

 

何度目かの一撃。燃える刀身を無理やり両手でつかむ。

 

「何やってんだお前……!」

「なあレド、言ってたよな?自分勝手は良くない、みたいなことをさ。それだとオレはまさに良くない、いいや、悪い人間だ」

 

とにかく出まかせでも何でも適当なことを言って、隙を見てダウンさせる!

 

押し切ろうとする剣とオレの焼ける腕が拮抗する。

 

「……この国の法律ではお前のやったことは罪だ。だから!」

「へぇ、じゃあ法になきゃ何やってもいいってことか?自分じゃ良いか悪いか決められないのか、お前」

 

そう言った瞬間、明らかにレドの動きが止まった。

なんかよくわからないけどチャンス!

 

手元を蹴り上げ、剣を遠くに飛ばす。

 

「しまっ」

「これで終わりだっ!!!」

 

比較的焼けていない方のこぶしを握り締め、レドの意識を刈ろうとしたところで、轟音と共に人が飛ばされてきた。

 

「な!?」

 

しかもそのままこちらに降ってくる。

慌てて下がると、オレがいた場所に二人の人間が落ちた。

その姿を見て思わず唸ってしまう。

 

「増えた……」

 

リーンと、その下敷きになったブレウが呻き声をあげていた。

 

 

 

§ § §

 

 

 

第12地区で有数の高級ホテルに併設された美術館に入り、裏方まで行くとブレウ達の視界に飛び込んできたのは、六人の死体だった。リーンはそれらをみて顔が青くなる。

 

「ひどい……」

 

皆、憲兵の格好をしていた。目がえぐられたり、首がへし折られたりと、すでに息の根はない。

さらに奥には二人倒れていた。不思議と先の六人とは殺され方が異なっていた。

 

「しかしブレウの言った通りに、本当にここで事件が起きてるなんてね。どこ情報?」

「リーンが妙な話を立ち聞きしてしまったと相談してきたもので。他にもいろいろと」

「へえ」

 

彼らがこの美術館に踏み込む前、ブレウたちを含む国家魔術師は、首都のある場所で小規模な爆発が起きたことから緊急で招集されていた。

その時のことを思い出したのか、先ほどの死体のせいか、いまだに顔色の悪いリーンがぼそっと呟く。

 

「あれだけ緊迫した状況っていうのも心臓に悪かったね……」

「上層部が極秘に集まっていた場所が狙われればそうもなるでしょう。それにしても、あなたが第三課課長の息子だったなんて驚きましたよ。見れば似ていたので納得しましたが」

 

ブレウに視線を向けられたヴァイスは苦笑いした。

 

「ははは、それはまあ。でもほとんど会うこともないしね。僕としても緊急で出動した先にあの人が驚いたよ」

「……爆破を行った人物やその痕跡を全く見つけることが出来なかったものの、爆発による死傷者はいなかったのは不幸中の幸いでしたね」

「きっとそのあとの、あの化物が本命だったんだろう。いや、化物は陽動で、案外こっちにある何かが本当の狙いかもしれない、なんて。それでブレウ、詳しい話はあとで、って言ってたけど。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかい?」

 

見えない敵からの次の攻撃に警戒態勢に入ると、一年前に軍の学校を襲った化物が再び姿を表した。しかも複数個体だ。対応に追われる中、ブレウがここを離れていかなければならないところがある、と敵前逃亡扱い覚悟で飛び出していこうとしたのを、第三課課長ローザに許可されたのである。

 

「ここで一体何が起こったの?……私の立ち聞きした話とどんな関係があるの?」

「それは……、いえ、まだ確信は持てていないんです。まだ少し話すのを待ってもらえますか。すみません」

 

いつになく深刻そうなブレウに、リーンは黙ってうなずいた。

 

(本当は、情報共有をしておくべきなんだ。僕が信じたくないから、話さないなんて間違っている。しかし、この予想は……)

 

「近くで戦闘してそうな気配がする。一階には誰もいない。二階に行こう」

 

いつになく起きているネロの発言もあって二階に上ると、一つ扉の壊された部屋があった。壁に穴が開いており、誰かが戦っているらしき音が先ほどよりも聞こえた。

機動力のあるレドに先行してもらっていたことから、ブレウは恐らく彼だろうと結論づける。

 

部屋の片隅には、壁にもたれ掛かっている女性がいた。

リーンとブレウが駆け寄って声をかけると、彼女はゆるゆると頭をあげる。

 

「良かった、生きてる……」

 

リーンのホッとした声が耳に届いたのか、

 

「……なんとか、無事よ」

 

ビオレッタはゆっくりと立ち上がった。

その姿を見たブレウは静かに言う。

 

「……ビオレッタさん。あなたはなぜここにいるんですか?」

「怪しい人物を見かけたから追いかけたの。でも、あっと言う間に、その人物に皆……」

「下の憲兵のことですね?」

「ええ」

 

悲しげな表情を浮かべるビオレッタに、ブレウはうつむく。

 

「今日も香水をつけているんですね」

「ブレウくん?」

 

突然場違いなことを言い出したことにリーンが驚く中、顔をあげたブレウは手で制止した。

 

「……僕は友人から聞いたんです、この匂いのことに関するいくつかのことを。それで他にも色々と考えたんです」

 

ビオレッタの目をブレウはまっすぐ見つめ、確信を持った声で告げた。

 

「もう一度聞きます。……あなたは、なぜここにいるんですか?」

 

ビオレッタは微笑んだ。

 

「……今さら、私を見ても、もう遅いのに」

「ビオレッタさん……?」

「私ね、本当はあなたのこと、だいっきらいだったわ」

 

突然の言葉にブレウは固まる。

ビオレッタ両手で顔を覆い、ふらふらと彼から距離をとった。

 

「あなたみたいに、あなたたちに幸せそうな人が憎い。なんでそんな簡単に幸せを手に入れられるの?」

 

「そうだ、はやくとりかえさないと」

 

「幸せがもっともっとほしいの」

 

「それで私はあの子をもっとアイするコトができるの」

 

明らかに異様な雰囲気となったビオレッタに、その場にいる者は皆息を飲んだ。

 

「どうしたんですか!?」

 

一度固まったものの、再度ブレウはビオレッタに近寄ろうとする。

その時ビオレッタはスッと顔を覆っていた手をおろした。

 

無表情と化した顔で、口を開く。

 

「あいしてる」

 

「あいしてるあいしてるあいしてるあいしてるああああいしててててるあ」

 

ビオレッタの体はメキメキと変形し始めた。

全身が白い肉のような物で覆われていく。頭部はまるで牛のような形状になった。そして背中からは鳥のくちばしに似た突起物が生えてくる。

 

「これってさっきのとちょっと違う……っ!?」

「リーン、ブレウ、下がって!!!」

 

ネロの叫びにも、突然の出来事にブレウは身動きがとれなかった。

そこへ、ビオレッタだったものが腕を横に払う。

 

「危ないっ!」

 

ヴァイスが弓を引き、リーンは間に割って入り盾を構えた。

普通の矢であるとはいえ、魔術により加速させたはずの攻撃は、肘後部に正確に捉えたものの弾かれる。

そして、拳を盾で受けたリーンは後ろのブレウごと、壁を壊して外へ吹き飛ばされていってしまった。

 

「会議場に現れた奴らよりも強い……っ!」

「私がやる」

 

横になぎ払った直後の腕に、鎌を持ったネロが切りかかる。

 

「シィッ!」

 

その重い一撃は片腕を見事に刈り取った。

 

「……!」

「失った四肢を再生させただって!?」

 

数秒後、切断面が膨れ上がり腕が生えてきた。

再生した腕を無茶苦茶なところに振り下ろす。

すでに二ヶ所も穴の空いていた狭い空間は、天井からミシミシと音をならし始めた。

 

「ネロ!室内でこのまま戦うのは危険だ!」

「わかった」

 

ヴァイスが足首を狙って矢を放ち、少し体勢が崩れた。

そこを狙ってネロは床に鎌型であるMARGOTを突き刺す。そこを起点に岩の柱を横向きに生成し、化物を外へ無理矢理押し出したのだった。

 




アコラスは魚派なので、魚ばっかり食べていたせいて血がサラサラになりすぎて全然出血が止まらねえ!エンドにならないか心配だったんですけど、前の話見たら肉もちゃんと食べてますね。

血がサラサラになりすぎたせいで出血の止まらない主人公なんていう、アマニ油も真っ青な展開じゃなくてよかったです。
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