属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

「どうしたんだ!」

 

レドが目の前に落ちてきた二人に声をかけた。すぐにリーンが口を開く。

 

「それは」

「リーン、まず降りてください……」

「あ、ごめんなさい」

 

しかし、下敷きにされていた者の非難に、慌ててリーンは飛び退いた。

ブレウはよろよろと立ち上がる。

 

「レドくん!あの、会議場に出た化物が…!」

「こっちにまで来てたのか!?」

「そうじゃなくてっ」

 

オーキッド派にアプシントスの奴ら、こっちの方までネフィリムを寄越してやがったのか。それとも、実はオーキッド派がアプシントスに黙って隕石の欠片を奪取しようとしていて、察知したアプシントスが送り込んできたのか。

いずれにせよ、敵も増えてこれ以上の交戦はリスクだ。ネフィリムを排除したらずらかろう。

 

リーンがこちらに気がついた。

 

「あっ!アコちゃん!」

「リーン!」

 

駆け寄ろうとする彼女を、レドが肩をつかみ引き留める。

 

その時、美術館からまた大きな音が聞こえてきた。

パラパラと埃が降ってきた後に、壁から白い巨体が突き破って出てくる。

横向きの岩の柱に押し出されてきたのだ。

 

向かいの建物と岩の柱に挟まれた形となったそれは、無理矢理周囲を破壊して地面に降り立つ。

通常の人間よりも肥大化したその体は、体表が病的な白色で覆われており、獣の角のようなものが頭部から生えていた。

これがリーンの言った化物、すなわちネフィリムだろう。ネフィリムはあたりをキョロキョロと見渡しているような動作をした。

 

「あのネフィリム、何かを探してんのか……?」

 

しかし、あれにそこまで考える知能は残されているのだろうか。

 

ネフィリムの顔がこちらを向いた。

ギョロっとした目や大きな口があり、皮膚は病的な白へと変化している。その人相は人間とは思えず、元の人物とはかけ離れてしまっていることは想像に難くない。ただここまで人間からかけ離れた形状だったか…?

 

「ネフィリム?君は、あれのことを何か知ってるのか?」

「それよりも、くるぞ!」

 

オレの呟きを拾ったブレウが切羽詰まった声を出したが、ネフィリムにも動きがあった。

 

背中をぐぐっと丸めて、ついていたくちばしのような突起物を上に向ける。

 

突起物が花のように開いたその瞬間。

 

とっさにリーンが盾を構えたものの、ネフィリムの攻撃範囲は広すぎた。石のようなものを360度方向に飛ばしてきたのである。

 

オレは近くに捨て置かれていた箱を遮蔽物にしようとしたが、箱ごと攻撃を食らってしまった。

 

ようやく出血が止まってきたのに、さんざんだ。

 

「大丈夫!?」

「いいから前見ろ!」

 

ブレウとレドはリーンの盾により、なんとか平気そうだ。

だがオレがさっき飛ばしたレドの剣は、ネフィリムを挟んでオレたちの位置とは反対側にある。すぐには取りに行けない。

 

そこにネロが上から降ってきた。攻撃のあと閉じた背中の突起物に向かって鎌を振り下ろす。

 

……今日は上から来る奴ばっかだな。

 

大鎌の質量もあって、突起物はいびつな音をたてる。

しかし、ネロはハッとして背から飛び降り距離をとった。

距離をとられた瞬間には、ネフィリムは何事もなかったかのように突起物を展開して、上方向に再び弾丸と化した石を飛ばしていた。

 

あれ、指向性も持たせられるのかよ。おっかねぇ。

 

続けて、レドたちの方にも大砲のように飛ばしてくる。

三人はおのおの魔術や武器で叩き落とした。

 

次はオレの方にーーー。

……来ない?

 

「なんでオレを狙わない……?」

 

そうしているうちにも、ネロが渾身の一撃で足を刈り取った。

 

「おいっ、そこは再生すんぞ!頭狙え、頭!」

 

慌てて忠告するも、足を切られたネフィリムは瞬く間に新しいものを生やしてしまう。それを見たネロはこちら側に撤退してきた。

 

「また、さっきのが来……、様子がおかしい!?」

 

レドのの言う通り、背中の突起物の色が赤くなっていた。そして、めりめりと開こうとしていて、

 

「だあああああっ、もうめんどうせぇ!」

 

オレはネフィリムに向かって走り、飛び蹴り食らわせた。

 

蹴りにより、突起物はオレたちとは反対方向に向く。

飛び出してきたのは、

 

「あっつ!?」

 

高温になった石だった。

反らしたことで当たらなかったものの、周囲の建物のあちこちにあたり、火の手が上がる。

さっきからの戦闘音で近くにいた人々は逃げ出し始めていたようだが、さらに被害が広がった。

 

だが、これもさっさとこいつの頭を潰せば終わりだ。蹴った勢いで地面を転がり、落ちていたレドの剣を拾う。

 

「うぉりゃぁあ!」

 

背中に飛びかかって、首に思い切り剣を振り下ろそうとした。一回ではダメだ。通常の魔術師以上の身体強化で硬化している。

だから、切れるまで何度も……!

 

一回目が首に届こうとしたとき、リーンが叫んだ。

 

「待って!それはビオレッタさんなの!」

「何…?」

 

オレは動きを止めてしまい、その間にネフィリムは体勢を立て直した。

 

さっきのがまたこられたらヤバい。

 

すぐさま背中からは飛び降りる。しかし、偶然か突起物はオレのほうには向かなかった。

 

ビオレッタはオレが殺したはずなのに……。

 

いや、こういうケースもあったな。

 

同じように首を絞めて殺そうとしても、死ななかったことが。

 

攻撃が止んだタイミングでリーン達の方へ走る。その間もネフィリムは、オレにまるで気がついていないかのようだった。

 

「あれがビオレッタさん!?」

「喋ってたら、様子がおかしくなって、あっという間に化物になっちゃったの!!!」

 

リーンの叫びに、レドが目を見開く。

 

「喋っただって?そんな、ビオレッタさんは確かに死んでて」

「オレが殺し損ねてたってことだ」

「アコちゃん!?」

「頭潰そうとしてたのに、邪魔が入りやがって……」

 

感情に引きずられてしまって、時間がかかってしまったのも原因だ。

 

人がどのようにあの化物へとなってしまうのか、詳しい仕組みは知らない。しかし、今までのオレの経験から考えると、ビオレッタはすでにネフィリム化する処置を受けていたのだろう。オレが一度息の根を止めたことがトリガーとなって、ネフィリムになったんだ。

復活する前に早く頭を潰していれば……。

 

……リーンの口ぶりから、まだビオレッタが内通者だったことには気がつかれていないようだ。まだ修正は効く。

 

再びネフィリムは周囲に高熱の意思の弾丸を撒き散らす。

今度はリーンの防御で防ぐことのできる位置に入る。他の三人も同様だ。ヴァイスはどこかで様子をうかがっているのだろう。その証拠に時々矢が飛んでくる。

 

そうして小康状態になったものの、ここでいつまでもリーンの盾の後ろにいるのはジリ貧だった。いつかはリーンの魔力子が切れて、防げなくなる時が来る。

 

「あの化物、人間からできたものとは聞いてたけど、そんなまさか……。生き返っただなんて」

「レド、私たちは目の前で変化したのを見た。喋っていたのも見た。それで、アコ。あれは頭を潰せば死ぬの?」

「おい、ネロ!」

「ああ、どんなネフィリムでも頭を潰せば確実に死ぬ。それ以外はああやって再生する可能性が高い」

「そう」

 

ネロはネフィリムをまっすぐ見据えている。隙あらばいつでも飛びかかれる体勢になっていた。

黙っていたブレウが口を開く。

 

「なぜあれに詳しいのかはともかく、君は第三課として動いているんですか?」

「……さあな、あれはオレが殺しとくからさっさとどっか行っちまえ」

 

しっし、と手で追い払うもレドが掴みかかってこようとする。

 

「ビオレッタさんなのに殺すだなんて、うわっ!?」

 

拾ってきた剣を投げつけて黙らせた。

 

「あのなぁ。あれはもう人間、ビオレッタじゃねーんだよ。理性的に考えることもできず、ただ動いてるだけの肉の塊だ。もう、死んでるのと同じだろーが。それにああなってしまった以上、もとには戻れない。……さっきの攻撃が人の多くいる場所で行われたら、どうなるかわかってんだろ」

 

しかし気になるのは、ネフィリムが視界に入っているはずのオレを、無視しているようなそぶりを見せることだ。

 

『今回』遭遇するのは二度目、……いや三度目だ。こんなふうに無視されたことはあったか?

 

そうだ。

 

六年前、研究所で先生を殺した奴はなんでオレを襲わなかった?不完全だったから?いや、他の人間は一人残らず殺して、食べてられていた。

 

今のネフィリムもまるでオレが見えていないかのような動作をしている。全方位の攻撃以外は向かってこない。

 

……普通の他の人間とオレの間で致命的に違うことが一つある。

 

それは、魔力子があるかないか。

 

実はネフィリムたちは視力が良くなく、魔力子で相手を認知しているのだろうか。

 

そこまで交戦したことがあるわけじゃないが、『前回』のネフィリムは普通にオレに襲いかかってきた。

 

視力に個体差があるってことか……?

だが、目の前のネフィリムもあたりを見渡す動作をすることから、『見る』機能はありそうだ。人間だった頃の当たり前の動作が抜けていないだけかもしれないが。

それにしてもさっきから何を探しているんだろう。いくら魔力子を感知しているとしても、それを保有できる物質は限られている。

 

イオンがネフィリム化する前に探していたのは……。

 

思いついたままにオレは盾の影から飛び出し、懐から箱を取り出した。

 

そして開けた瞬間。

その場からあまり動くことなくキョロキョロとあたりを見渡していたネフィリムは、ぐるりとこちらに顔を向けたのである。

 

「うしっ」

 

隕石の欠片を探知したらしい。

オレが走り出すとネフィリムもついてくる。ついてくるというか、ものすごい勢いで走ってくる。リーン達の横を通り過ぎ、脇目も振らない。

 

その勢いには攻撃体勢を整えていたネロも唖然としている様子だ。ブレウだけが何か叫んでいる。

 

このまま、レドたちを引き離して……!

そう思った時だった。

 

突如、ネフィリムの動きが止まる。

左足をレド、右足をネロに切り取られたのだ。

そして、刺さらないものの、頭に対して正確に矢が連射される。

連射終了直後、頭には背後から槍が刺さった。レドとネロが下がる。

 

「すみません、ビオレッタさんっ……!」

 

ネフィリムの頭部がカッと激しい光を放ち、眩しさのあまりオレは目をつむってしまう。

 

おそらく雷の魔術によって、大電流を一気に流し込んだのだろう。

 

雷の魔術は一歩間違えれば、炎の魔術よりも使用者や周囲の人間にとって危険だ。しかし、使い方さえ気を付ければ非常に強力な魔術でもある。

 

目を開けると、予想通り頭が黒こげになったネフィリムがいた。

 

手を虚空へ伸ばし、炭化した口が開く。

 

「…………ィステ、……ウィステ…………、みて」

 

異形と化しても、ウィステ先輩の名を呼ぶ姿は哀れだった。

 

口元だけポロポロと、黒くなった表皮のような物がはがれて、オレの方からは人間らしい口がゆっくり動くのが見える。

 

最期の言葉に音はなかった。

 

しかし、確かにオレには届いた。

 

 

 

“いきをするって、たいへんだったな”

 

 

 

その言葉にどんな想いをこめたのかは、届かなかった。

 

 

 

§ § §

 

 

 

「ん…………」

 

ウィステは第三課で目を覚ました。なにやら外が騒がしい。

 

「あれ?私なんで寝て……」

 

後輩と話していて、猫がふらっと現れて……。

そこから先の記憶がない。

 

「居眠りしちゃったのかな?」

 

室内に後輩の姿はなかった。

仕事でどこかに行ったのなら、もうすぐ戻ってくるのだろうか、とウィステは考えた。

 

彼女に日頃のお礼を込めて買った、ピリッとした辛味のあるチョコレートを机から取り出す。

 

(あの子、こういうわかりやすい方が好きそうだよね)

 

先日、選定作業をしていると訝しげな目で見られたが、自分にあげる用だと知れば驚いてくれるだろう。

ビオレッタも選ぶのに手伝ってくれたのだ。今度、彼女もお礼をしないと。そう思いながら背伸びをした。

 

「アコ後輩、早く帰ってこないかなぁ」

 

 

 




電流まわりの表現は、まあ、うん、あれですよ。
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