属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

「はあ……」

 

季節は秋も終わり、そろそろ本格的な冬がやって来る直前。

オレはというと、

 

「何ダラダラしてるんですか」

 

長い時間かけてやって来た目的の一つを達成したので、少し気の抜けた状態になって、地方都市の片隅の廃墟に潜伏していた。今になってウィステ先輩のだらけっぷりが理解できた気がする。

 

「手がかり全くなしだとな~」

 

ボロボロのソファーに寝そべって足をバタつかせていると、ため息をつかれる。

 

なんか文句でもあるのか。

 

グレイは『作:オリバー』である絵本を見ながら言った。

 

「これを書いたオリバーさんは伝承や魔力子の研究から隕石の欠片に行き着いたみたいなので、僕らも地域に伝わる言い伝えみたいなのを調べる必要があると思うんですよ」

「隕石の噂のある町にいってみたら、隕石の欠片あっただろ。……お土産屋に」

「あれはどうみてもその辺に落ちてる、ただの石ころでしたよね。ぼったくり価格なのに、意外と買っていく人が多くてビックリです」

「欠片は全部で六個の可能性があるから、それなら残り五個じゃん。行ける行ける」

「集めたとしても壊す方法も今のところないじゃないですか。それはそれでどうするんですか」

 

ぐうの音もでない。

 

オリバーの絵本にあった星の欠片の挿し絵は六個、そして、隕石の欠片が入っている箱の中の窪みも六個。ここから欠片は全部で六個あるんだろうという予想が立てられた。これについてはオリバー本人に直接聞けたらいいのだが、ノコノコと聞きに行くわけにもいかない身の上だ。

 

何より、奪ってきた隕石の欠片。いまだに破壊できていないのである。オレの力を以てしても、石で潰そうが、しっかりと固定してハンマーで叩こうが、傷ひとつつけられなかった。活火山の火口にでも投げ入れてしまった方がいいんじゃないだろうか。

放置するわけにもいかず、確実な処分方法が見つかるまでは持ち歩いている。

 

「あ、お猫さん。おかえりなさい」

 

入り口には猫がいた。尻尾を立てて悠々と歩いてくる。

 

「お主たちの代わりに色々と調べてきたぞ。この近くのとある湖の底には太古の町が沈んでいるらしい。そこにはお宝が眠っているそうだ。なかなか面白そうではないか」

「で?」

「昔話とか伝承がありそうじゃないですかー。とりあえず行ってみましょうよ」

 

オレたちはこの、『とりあえず行ってみる』という行き当たりばったりな作戦で隕石の欠片を探しているのだが、これがなかなか見つからない。このペースだと、アバドーンかアプシントスが手に入れたところで襲い掛かって横から掻っ攫っていった方が早いと思う。

 

「不用意に動いたら見つかるだろ。たぶん指名手配犯だし」

 

そして何よりオレはお尋ね者、のはずである。軍が所有していた隕石の欠片の一つを強奪してきたし、他にも今頃バレているであろう罪状盛りだくさんだ。

 

「軍から公表されてませんよね。この顔見たら通報してね、みたいなの」

「内部では回ってる可能性はあるけどな」

 

しかし、奇妙なことにオレの手配書が公には回っていないようなのだ。一応周りの目はより一層警戒して動いているが、どういうことなんだろう。

 

「罪状が強盗!殺人!脱走兵!情報流出!で結構重そうなのに……」

「捜索を秘密裏に行いたいのではあるまいか?例えばアバドーンやアプシントスに目を付けられる前に、アコラスから隕石の欠片を回収したい思惑があるのかもしれぬ」

「こうしている間にもひそかに捜索されていて、ある日突然ここに踏み込まれ、僕らの冒険は終わるんですね……。くわばらくわばら」

 

猫はソファーの上に飛び乗ると、寝そべるオレの頭を踏みつけた。この野郎。

 

「その湖がある町は観光地のようだ。外から来た人間も怪しまれる可能性は低いだろう」

「……わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」

 

猫の下からオレはくぐもった声を出す。

それを聞いた猫は満足そうにニャーと鳴いたのであった。

 

 

 

§ § §

 

 

 

「湖の底の町ぃ?もうそんなのはとっくの昔に魔術師が潜って調査済みさ。謎もなんもないよ」

 

湖のある町に来たオレを待ち受けていたのはあっけない言葉だった。

観光案内所と評されたところがあったため、入ってみると暇そうにしている女性が二人いるのみ。湖の底に眠るという太古の町については、そんなものはないと否定されてしまった。鞄の中にいる猫が喋ろうとするのを叩いて止める。

 

「湖自体は水もきれいだから楽しめると思うよ。湖の方には行ってみたかい?」

「まだです」

「じゃあ見てくるとといい。まあ、たまにいるんだよね、よくわからない出所の噂からここに訪れる人」

「そ、そうですか」

「確か水深は50メートルとかだったかな。ちゃんとした魔術師じゃなきゃ潜るのはおすすめできないし、潜ったとしても大したものは何もないよ。せいぜい石造りの物が少しあるとか。お宝も特になく、って感じだったね」

 

聞けることもなさそうなので、適当なところでお礼を切り上げてその場を後にする。案内所を出るときに、女性のうちどちらかが呟いた。

 

「今じゃ、あそこに潜る奴なんて誰もいない……、いや一人いたか」

 

 

 

訪れて早々不思議なことは何もないと言われてしまったが、どこか引っ掛かることがあった。

 

「なんか気になるんだよな」

「お師匠?」

「こう、偽物を見た時に本物はここじゃなくて近くの別の場所にある、みたいなむずむずした感覚がする」

「……ここは案外あたりかもしれませんね。近くに行けば、どこにあるのかはっきりわかるんでしたっけ。これ、この辺の地図です。練り歩いて見ましょう」

「ああ」

 

こうしてオレたちは観光客を装って町中を歩いた。しかし、これと言ってピンと来るものはなかったので、いよいよ本命である湖へ足を向けた。

湖は町はずれに位置し、森に囲まれていた。非常に大きな面積を有しており、外周を一周するだけでも結構な時間がかかるだろう。

 

グレイが湖のほとりに向けて走り出す。

 

「うわあ!湖広っ!広いですよ!」

 

人の姿は俺たち以外なく、猫はやれやれといった様子で鞄から頭を出した。

 

「アコラス、ここはどうだ?」

「たぶんだけどこの中、湖の底にある」

「ほれ、余の言った通りであろう」

「まあ、そうだったな。……潜れるか?」

「先ほどのご婦人も言っていたが、魔術もなしに潜るのはやめておいた方が懸命であろう。水質は良いことから、全く見通せないわけではなさそうだか」

 

船に乗って、漁業の道具を使えば何とかなるかもしれない。船着き場は地図に載っていない。町でこの話を聞かなかったのは失敗だったな。

 

とりあえず桟橋がないか探すか。

一人でキャーキャー言いながら遊んでいるグレイに声をかけ、湖のまわりを歩いてみることにした。

 

「グレイ、お前、ここ潜れるか?」

「無理です。僕は身体強化とか風魔術で空気確保とかそんなのできないので。できることがあるとすれば、潜るのは完全に人任せにしたあとで湖底を光で照らす程度ですよ」

「……猫」

「や、やめろ!余を水に叩き込もうとするな!」

「しばらくした後に動かなくなったお猫さんが浮いてくる光景なんて見たくないのでやめましょう」

 

人とすれ違うこともなく、えんえんと歩く。町の様子もあまり栄えている様子ではなかった。猫はここを観光地と言っていたが、少し寂れていないか?

 

代り映えしない景色に一体いつまで歩けば良いのかと思い始めた時、湖のほとりに小屋が見えた。その小屋の近くからは湖に向かって桟橋が伸びている。

 

「なんだあれ?」

「船……ではないですよね」

 

桟橋の先には小舟ともう一つ、奇妙な物体があった。湖面に浮いているが、どう見ても一般的に知られている船ではない。細長い弾丸に似た形状で表面は鉄。側面には窓がある。上に入口のような物がついているので、中に入ることができるようだ。

 

すると小屋の中から一人の中年男性が出てきた。彼は桟橋の上を歩いて、奇妙な物体、おそらくは乗り物に向かう。そして男性はためらうことなく謎の乗り物内に入った。

しばらく経った後、謎の乗り物は沈んでいく。

 

「まさか、こんなところに潜水艇……!?」

「は?」

 

そうこうしているうちにグレイが潜水艇と呼んだ物は完全に水面の下へと隠れた。

 

「あわわわわ、あれがあれば身体強化や風魔術が使えなくても底の様子が見れますよ!?いやしかし魔術師がいるからいいじゃんと思われがちの昨今の風潮の中実際に作る人がいるなんて」

「すごい早口だな、お前」

 

……が、グレイの興奮が冷めないうちに、桟橋から少し離れた位置で潜水艇は再浮上してきた。

乗っていた男性が上の出入り口から出てくる。しかし随分と慌てている様子で、足を滑らせて湖に落ちてしまった。

 

「おい!」

 

男性は水面でバシャバシャともがいている。オレは急いで桟橋に駆け寄り、置いてあった浮き輪を投げた。

ロープでつながれた浮き輪を無事掴んだ男性をそのまま引き上げようとすると、

 

「私よりもノーチラス号を!」

「はあ!?」

「すまないがそこにもう一つ浮き輪があるだろう!?投げてくれないか!?!??」

 

言われるがままに男に向かって浮き輪をもう一つ投げる。

彼は推定ノーチラス号に自分が捕まる用ではない浮き輪のロープを括りつけると、こちらに泳いで戻ってこようとする。あまり速度が出ていないのでロープを手繰り寄せた。

桟橋に上がろうとしているずぶ濡れの男性に手を貸して今度こそ引き上げる。

 

「少年たち、どうもありがとう。私はピエール。ここで湖底を調べるべく日夜実験している。いやまいったまいった。また機械の故障だ。しかもさっき足をつってしまってね、君たちがいなければ、このままノーチラス号と共に湖に沈むところだった」

 

ピエールと名乗った男性はワハハと笑っていた。

大丈夫かこいつ。

 

グレイが興奮した様子で男性に話しかける。

 

「あの、こんなところで何を?これ潜水艇ですよね!?」

「よくぞ聞いてくれた。小さいほうの少年の言う通り、これはノーチラス号!私が作った潜水艇さ!これを使ってこの湖の底に眠る町を探検しようとしていたんだ」

「!!!!?!?」

 

この男性が作っている潜水艇という乗り物は、水の中へ潜っていくことができるらしい。それがあれば湖の底にあると思われる隕石の欠片を見つけることもできる……のか?

しかし潜水した後に内部に水が入ってそのまま溺死しそうで怖い。

 

というかここ寒いし、水も結構冷たかったと思うんだが。話すよりも先に早く体を拭くなりした方が良いんじゃないだろうか。

 

「あいにく大それた魔術は使えなくてね。この通り、少しの電気あばばばばば」

「濡れてるのに何やってんだ!?」

 

ピエールは突然雷の魔術を手から発動させたかと思えば感電していた。だがそれほど威力は出ていなかったようで、すぐに普通に話し出す。

 

「失礼、せいぜい電気治療程度だから大丈夫だ。この通り多少の雷の魔術しか使えない。だが!私は自分の身で湖の底に行きたいのだ!」

 

力強い言葉にグレイが拍手していた。

 

「ロマンですね!」

「わかっているじゃないか!小さい方の少年」

 

嬉しそうに言ったあと、すぐに声のトーンが下がる。

 

「しかし、最後の最後でうまくいかなくてね。あともう少しなんだが……」

「是非僕にも手伝わせてください!」

「いや、だが」

「ちょこっとだけなので!!!ただのお子様にしか見えないと思いますが、意外と僕優秀なので!!!お師匠!いいですよね?」

「勝手にしろ」

「あの人からも了承取れたんで!お願いします!!!」

 

勢いに押されたピエールはグレイの申し出に頷いた。

 

「わ、わかった。ええと、君たちは……」

「僕はグレイです。ちょっと観光でここに来たん、いたっ!なんで頭叩いたんですかお師匠!」

「……ピエールさんでしたっけ。着替えないと風邪引くんじゃないですか」

「おお、そうだった。ありがとう、大きい方の少年」

 

大きいほうの少年って……。

いそいそと小屋に入っていく彼を見届けた後、鞄の中の猫が言う。

 

「いささか寄り道ではないか?」

「オレとしては潜水艇?が完成しようがしまいがどっちでもいい。うまく使えるならそれで済むし、ダメでも最悪オレが潜って様子を確認した後、船から網で引き上げる」

「そそそんな、ピエールさんあともう少しって言ってましたし」

「だから一週間だ。緊急事態にならない限り一週間だけ待つ。わかったな」

「やったぁ!見ててくださいね、僕の頭脳が唸りますよっ!」

 

飛び跳ねたグレイは潜水艦を眺めに桟橋へ走っていった。

 

「甘ちゃんではないか」

「……うるせー。よくわからない乗り物の問題なんて一週間だけで、どうにかなるもんかよ」

 

……とりあえず、一週間滞在しても怪しまれない、かつ目立たないようにしなくてはいけない。どうしよう。

 

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