属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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これからも休日中心にコツコツ更新していきたいと思っています。



6-3

【N.C 998】

 

「もう、どこ行ってたんですかー?せっかく潜水艇に乗れるっていうのに」

「うるせー。ちょっと走ってきただけだっつーの」

 

時刻は正午、不満そうにつついてくるグレイをあしらいつつ、桟橋に向かうとピエールが待ち構えていた。

 

「計算上、内部の空気だけでも二時間は大丈夫だ。加えて空気清浄装置も備えているし、もしバラストタンクが故障したとしても浮上できる緊急装置もある。さらに小さい物なら拾ってこれるアームがついているんだよ!」

 

潜水艇について勢いよく解説される。グレイもうんうんと頷いている。

物を拾う機能がついていることだけはわかった。

 

「結局、問題ってなんだったんだよ」

 

隣のクソガキにコソコソ聞くと、

 

「舵による船体の安定性が少しと、ほとんどは電池周りの話ですね。容量がなかなか希望通りにならなかったみたいで……。電力にこだわらず、人力を動力源にするスクリューだったら、もっと早くできていたと思います」

「人力」

「四人くらいで回せば何とかなったんじゃないでしょうか」

 

……泳いでいる人が外から押しているのを一瞬想像したけど、そうじゃなかったらしい。

 

恐る恐る乗り込むと、外見と違って内部は楕円形の空間になっており、配線や管があちらこちらに張り巡らされていた。他にもそこそこ大きな黒い鞄サイズの箱のような物もある。箱からは二本、線がどこかに向かって伸びていた。

 

「窮屈かもしれないが二人は左右それぞれに座って、ノーチラス号の重心がなるべく偏らないようにしてくれ。それと、そこの黒い電池には触らないようにね。一応この絶縁仕様の手袋を渡しておくが、感電する恐れがあるから。僕の雷の魔術とは比較にならない出力なんだ」

 

船首にいるピエールの言葉に、ぎょっとして黒い箱から少しでも距離を取る。

なるべく近づかないでおこうと思いながら、大きめの手袋をはめた。雷の魔術なんか弱い威力でも、電気が流れれば体が動かなくなる時があるのだ。魔術を発動させた本人だって制御を失敗すれば感電するので、そうそう使う者がいないのが救いだ。

 

「万が一破損したりして、中から液体が漏れ出してきた場合も、その液には触れないようにして下さいね」

「お、おう」

 

一体何が入ってるんだよ……。

 

狭い船内には小さな窓があった。これで外の景色が見えるので、圧迫感が和らいでいる。

窓の横に腰を落ち着けると、ピエールは言った。

 

「私以外でこれに乗るのは君たちが初めてなんだよ。まさに記念すべき日だ」

「でも今日は試験で、本番は別ですよね。昨日潜水試験って言ってましたし」

「確かに試験と位置付けているが……」

「じゃあいいじゃないですか、あくまでも試験ってことで」

 

念押しをしていると反対側から視線を感じる。グレイが奇妙なものを見る目でオレを見ていた。

 

「お師匠どうしたんですか?」

「どうもしてねーよ。……オレは別に隕石の欠片が見つかればそれでいいし」

 

後半はピエールに聞こえないように小声で言う。

 

「うーん、まあいいや。ピエールさん、今回は50mまで潜るんですよね。もっと深く潜れるようになるのが楽しみです」

「本当にそうなるといいね。……最初は自動車も機関車も、馬がいるんだから、魔術があるんだからと皆否定的だった。しかし現在では欠かせない存在になっている。私はね、潜水艇だって、同じようになれるポテンシャルを秘めていると思うんだ」

「なら、いつか魔術が必要なくなるくらい人間の技術が発達する未来も近いのかもしれないな」

 

なんとなく呟くと、ピエールはしばし目を瞬かせた後、

 

「確かにそうかもしれないなぁ」

 

と笑って答えた。

 

 

 

潜水艇が沈むと、小さな窓の外側は水で包まれた。

昼間のため真上にあるであろう太陽の光が差し込む。魚が泳ぐ姿は、川で上から見るのとはまた違っていた。横から見るどころか下から見えるのである。

 

そして下に沈んでいくにつれて青く、暗くなっていく。オレのざわざわとした感覚もますます強くなってきていた。

 

「すごい……っ!」

 

窓に貼り付いていたグレイがバッと振り返る。

 

「そうだろう?さあ、もうすぐ湖底さ。今日は特に水がきれいだからか、私が潜った中では今までで一番よく見通せるな」

 

湖底には岩や大きな木の枝があった。少し四角いが角は取れている石が転がっているのは気になるが、家などの人工物らしき物は見当たらない。

 

「湖の底ってこんな風になってるんですねぇ」

 

感嘆する声の後、落ち着きのある声が船内に響いた。

 

「やはりこうして、他に誰かがいる状態で見ても、古代の町なんてなかったんだね」

「でも木造とかなら腐食しちゃってて、それで」

「いいんだ、いいんだよ、グレイくん。自分一人で潜っていた時からもうすでに分かっていたんだ。本当は何も」

「おい」

 

大きな声を出して、オレは話を無理やり中断させた。

 

「確認のため聞くが、グレイ、お前また光出してるか?」

「出してないですけど。なんでそんなことを、って、あ、あそこ!光っていますよ!?ピエールさんピエールさん、あっちに光ってるものがあります!」

「それは本当かね!?」

 

グレイが指さしたその先、潜水艇から少し遠くの位置で何かが弱弱しく光を放っていた。

近づいてみるとそれははっきりと見える。人の頭より少し小さいくらいの大きさの岩があった。それの表面にある亀裂から、光が漏れているのだ。

 

「なんだこれは……?」

 

呆然としているピエールにオレは聞く。

 

「乗る前に言っていたアームで回収できますか」

「あ、ああ。あの大きさなら、問題なく回収できるだろう」

 

彼はそう言って何かを操作し始めた。窓の配置的にアームが岩を回収する様子を見ることはできないが、外から動作音が聞こえる。

 

「もしかしたら、これがあの時の……。回収が終わったら地上に戻ろうか」

「え!?僕としてはもうちょっと……」

「一応二時間大丈夫だとは言っても、余裕をもって浮上したほうがいいだろう?」

 

そしてノーチラス号は湖底から遠ざかっていった。

 

 

 

§ § §

 

 

 

地上に戻ってきて、オレ達は桟橋へ降り立つ。

桟橋の陸側には一人の小柄な男性が立っていた。その姿を視界に入れたピエールは動きを止める。

 

「やあ、ピエール。……久しぶりだね」

「エドワード……、どうしてここに」

「そこのお嬢さんに呼ばれたんだ。君の作ったノーチラス号を見てくれないかと。最初は合わす顔もないと思って来ないつもりだったんだけれど、とても熱心に言われるものだから」

「うっ」

 

……このおっさん、オレが呼んだのは秘密にしとけって言ったのに速攻バラしやがった。

 

「お師匠、この方はもしかしてピエールさんのご友人の方ではありませんか?どこで知り合ったんですか?というか昼間にどこかに行ってたのって、むぐっ」

「どうでもいいだろそんなの」

 

ピエールは困ったようにオレを見た後、再びエドワードに向き直った。

 

「ノーチラス号、完成させたんだな。本当におめでとう」

「ああ。しかし、お前とサイラス、それにあの子たちもいなければ、私はここにいなかった……」

 

そう言い終わると互いにうつむいた。

 

「……」

「……」

 

いや、なんか話せよ。

無言の空気に耐えられなくなったグレイが小さく耳打ちする。

 

「お師匠お師匠、完全に気まずい雰囲気ですよ。どう考えても長い人生の中で確執とか葛藤とか積み重なって、長年会ってなかったと思われる方々ですよ。僕らでは圧倒的に人生の経験値不足で、迂闊に手を出しちゃいけなかったやつですよ。あ、こら、目を逸らすな」

 

昨日の話の最後のほうで、曖昧に笑っていたピエールの様子が気にかかっただけだ。これが終わってしまったら、全てを諦めて消えてしまうような、そういう感じがした。

 

……だからとにかく、エドワードを呼ばなくてはいけないと思ったのだ。

 

「だああああああ!めんどくせぇ!!!!!」

「うわあ、キレたよこの人」

 

もはやだだをこねる勢いで言ってしまった。

 

「言いたいことくらいちゃんと言え!あっという間に時間は過ぎてしまう、って言ってたじゃんか!あの時ああすればよかったとか、後で後悔したって遅いんだよっ!そんなのだから置いて行かれるんだよっ!できることわかってんならできることやれよ!」

 

気がつくと二人はポカーンと口を開けた状態で固まっている。

 

「……あ」

 

昨日からずっと無性にむしゃくしゃしていて、つい色々口走ってしまった。会ったばかりの親しくもない、それも歳の離れた人間にオレは何を言ったんだ。羞恥やら戸惑いやらで、どうにか訂正しようにもうまく言葉が出ない。

 

「あ、いや、そ、その」

 

固まっていた二人は顔を見合わせた。

そして、いつかのタイミングで同時に申し訳なさそうに笑い出す。

 

「若い子がこんなに親身になって、必死になんとかしようとしてくれているのに悪いなぁ」

「不甲斐ない大人たちですまないね、お嬢さん」

 

二人は向き合う。

 

「直接、湖の底を見てきたよ」

「ああ……、そうか」

「町は……、なかった。けれどこんなものがあったんだ」

 

ピエールは潜水艇のアームによって回収した岩を引き上げ、エドワードに見せる。

 

「もしかしたら、これが昔光っていたものなのかもしれない」

 

岩の隙間からは相変わらず光が漏れている。見たことのある青紫色の光だった。

エドワードは岩をじっと見つめていた。

 

「ピエール、お前は本当にすごいよ。何十年も前の夢を一つ、本当に叶えたんだから。……僕は、誰よりもひたむきに努力し続けられるお前のことが羨ましくて、自分にできることは何もないと諦めてしまっていた。だから、お前が一人だったのを知っていたのに、それを見ない振りし続けていたんだ。すまなかった」

「そんなことを、考えていたのか……」

 

頭を下げた目の前の男を、ピエールは呆けたように見ていた。

 

「……謝るのはこっちのほうなんだ、エドワード。私は、私にできないことができる、お前やサイラスのことが羨ましかったんだ。だんだん水の世界に興味を失っていくお前たちを見て、一人でなんとかしてみせたい、と意地を張って無意識のうちに距離を取ってしまった。……なんだ、考えていることはお互い同じだったのか。こんなことで長年すれ違い続けていたのか、私達は」

「サイラスもそうだったのもしれないね。僕が今日ここに来たのは、ずっときっかけが欲しかったからなんだろうな。情けない、もっと早くお前に会いに行けばよかった」

「そうだな。もっと、もっと早く話していればよかった」

 

ポツポツと会話をしている二人の男性から、少し離れたところにオレ達は移動した。

……別にオレの今回の目的は隕石の欠片であって、良く知らないおっさん二人の仲直りではない

 

「終わりよければ全てよし、なんですかねぇ」

「ふん」

「慌てふためいた人間ってこんなに顔色が青くなったり赤くなったりするんだな、とも思いました、っていたたた!」

「ふんっ」

 

グレイの頭をわしづかみしていると、ピエールが話しかけてきた。

 

「大きいほうの少年はお嬢ちゃんだったんだな。間違えてしまって悪かったよ」

 

オレも体格がわかりにくい服を着ていたり、帽子をかぶったりしていた上、その話題には触れないようにしていたのだが。

適当に返事をして、本来の目的について触れた。

 

「お願いがあるんですが。その岩、オレにくれませんか」

 

続けてグレイが頭を下げる。

 

「あの、僕からもお願いします。それが昨日言っていた探し物なんです」

「そうか……」

 

譲ってくれないのなら強硬手段をとらなければならない。

しかし、ピエールはエドワードの方を見て互いに頷きあうと、持っていた岩をこちらへ差し出してきた。

 

「どうか持って行ってくれ。これは私達にはもう必要ない物なんだ」

「本当ですか!?」

「……ありがとうございます」

 

岩を受け取ると、その重さを両手に感じた。

 

 

 

§ § §

 

 

 

小屋を後にした俺たちは森の中を歩いていた。このまますぐ、町を出る馬車に乗ればいいだろう。

 

「いや~、泊まっているところに話が流れた時は少し焦りましたけど、ごまかせてよかったです。それにしても、ピエールさんと、お友達の、エドワードさんでしたっけ、二人とも仲直りできてよかったですね。ただ、ノーチラス号の乗船を先に僕らがしてしまったのは、ちょっと申し訳なかったです」

「今日はただの試験だったんだし、乗った数に入らねぇよ。本番はいくらでも好きな奴と一緒に乗って海でもどこでも行けばいい」

「全くお師匠は妙なところでこだわる人ですね」

「うるせー、お前が言うな。……さて、割るか」

 

ちょうどいいところに切り株があったので、その上にピエールに譲ってもらった物を置く。20~30㎝の岩をいつまでも持っているわけにはいかないので、中から球状の輝く石を取り出してしまおう。

 

「素手で割ろうとしないでください」

 

グレイから手渡されたハンマーで何回か叩くと岩が割れて、中から丸い石が出てきた。ついでにハンマーで丸い石のほうも壊そうと試みたが傷一つ付かないのは相変わらずだ。

 

「これが二つ目の隕石の欠片で間違いないですか?」

「……ああ」

「現状、お師匠の勘以外に判断基準がないので、そのあたりどうにかしたいですねー。あ、ピエールさんに手袋返し忘れてる」

 

確かにオレたちはノーチラス号に乗ったときに渡された手袋をつけっぱなしにしていた。借りたままにするのは悪いし……、仕方がない、戻ってこっそり置いておこう。

 

「お師匠、早いとこ箱にしまっちゃいません?」

「そうだな」

 

ずっと懐に入れていた箱に二つ目の石を入れる。そして割った後の岩を埋めてから、オレ達は小屋に再び向かおうとした。

 

……この一週間、雨は降っていないはずだ。

だが奇妙なことに足元がぬかるんでいる。まるで泥水がしみてきたような――。

 

思考よりも先に、体が動いていた。

 

「残念、避けられちゃったわぁ」

 

さっきまで立っていた場所には、泥水でできたカーテンが広がっていた。ここでようやくオレは地面に転がっていることに気がついて、体勢を立て直す。

グレイを突き飛ばして、オレもまた、その場から飛びのいていたのだ。

 

泥水のカーテンが一人の女の足元へと戻っていった。

 

「逃げろ!!!」

 

鬱蒼とした森には似合わない黄色いローブ。

耳障りなクスクスとした笑い声。

 

「あら?不思議ね?一人、姿が見えなくなっちゃった。フフフ……、でも用があるのはあなたなの。残ってくれてうれしいわ」

 

拳銃を抜いて発砲するも狙いは外れる。くそっ!

忘れたくとも忘れられない、目の前の女の名を呼ぶ。

 

「クリュティエ……っ!」

 

女は不思議そうな顔をして首をかしげる。

 

「私、あなたと会ったこと、あったかしら?……まあいいわ。今持っている、その石……。(ドーラ)を私にくれない?」

 




・悩んだ結果、全然詳しくないけど最近ホットなエネルギー分野からの刺客、電池に全てを託しました。よくわからなくなったのでぶん投げたともいう。

・岩の密度はまあ、単位立方センチメートル当たり3g前後だったら、頭ぐらいの大きさでも持てるだろうと思っています。
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