また、作中の使用言語についてなのですが、特に細かくは考えていません。そのため、一人称が何種類あるかは定義してません。主人公の『俺』という一人称について、周りは「こいつやけに荒々しい言葉遣いだな」くらいの認識です。
何が言いたいかというと、一人称が異常に存在する日本語が悪い。
【N.C. 997】
演習中に現れたネフィリムは、どうやらオレが倒した一体のみのようだった。駆けつけてきた教官たちにオレは即刻回収され、色々と聞き取りをされた。さすがに倒したのが自分であることは誤魔化せなかったものの、不意打ちかつ無我夢中であることを強調した。教官たちもネフィリムをみたのは初めてで、そもそもこれが元は人間であることすらわかっていないようだった。ひとまずこの化物のことは黙っているようにと固く口止めをされ、オレも殺人などの罪に問われることなくその日は終わった。
翌日は体調不良を理由に訓練を休んだ。教官らもあんなことがあったあとだ、と許してくれた。どうか目撃者諸君はこの休みの間に俺のことを忘れてほしい。しかしそうもうまくいかず、翌々日。
「げっ」
「よぉ。お前、同期だったんだ。全く気がつかなかったぞ」
いつもより慎重に選んだはずの昼食ポイントに、もはやストーカーといっても過言ではないこの男、レドが現れたのである。
「今日、初めてお前が講義室にいるところみたよ」
「オレはあんまり目立たないからな」
「そのわりには何人にかチラチラ見られたみたいだけど?」
「うるせー」
悲しくも、目撃者の中でオレのことを忘れてくれた人はいないようだった。彼らにしてみれば、全く知らないやつが突然横から現れたと思ったら、化物の首を落としてぐちゃぐちゃにした女で、しかもそいつは同期であった、という出来事だ。ぐちゃぐちゃにしたのは不味かったかもしれない。いっぱい血が出ちゃったし。完全にドン引きしている目でチラチラと俺の様子をうかがってきた。ここまで二年以上にわたり目立たぬよう生きてきたのがおじゃんである。ただ、教官の口止めが聞いているのか、それ以外の学生らは何も知らないようだった。
「なあ、お前あれだけとっさに動けるんだったら、結構強いんだろ?得意魔術は?」
「オレは魔力子がヘボいから、魔術なんてからっきしだ。それにあのときは不意打ちだったから、たまたまうまくいっただけだ」
「たまたまで正体不明の敵の首を落とすやつがどこにいるか」
そっち?確かに常識的に考えるとそうなのか……?でも見た目十五歳ほどの少女がそういう行動にでちゃまずいのか……?
ついポカーンとした顔をして、レドの顔をみてしまった。すると、「いや、そんな顔でみられても……」と困惑された。
じゃあどうすればいいんだよ。
さらに数日後。特定の人間にチラチラ見られるものの、訓練生生活は今のところいつも通りに過ごせている。しかしオレの穏やかな昼食時間が消え去り幾星霜、
「あの、アコさん、ですよね……?」
何かと思えば、演習の時ネフィリムに殴られかけていた女の子であった。レドは彼女の後ろで手を振っている。連れてきたのはお前か。嫌いだ。
彼女、リーンは少しもじもじとしたあと、
「私、教官から聞きました。あの化物にもしそのままなぐられてたら、死んじゃってたかもって……。だから、助けてくれてありがとうございます!」
……正直そう言われて嬉しくない訳ではない。リーンは可愛いし。現在は女であるが、男だった記憶もある。ちょっと背中がむず痒い。
「別に、そんな」
そのとき、ハッとした。そういえば、ネフィリムだ。サクッと処理してしまったが、あれはどこからきたんだろうか。殴る威力がわかったということは教官たちも、肉体を回収してある程度調べたということである。おそらく、人間が素体であることも。
一体誰がなってしまったのだろうか。『前回』の知り合いだろうか。
……そうではないことを祈りたい。
急に黙りこんだオレをみて、気を悪くさせたと勘違いしたのか、リーンは、
「……あの、お礼を言うのが遅くなったのは本当にごめんなさい」
と謝ってくる。
「いや、そうじゃなくて。あの化物はどっから来たのかとか思っただけだから。その、気にしないでほしい」
「なんか俺と話すときと対応が違わない?」
そりゃ女の子だし。
でも、リーンって未来では先陣切って盾型
ちなみにレドの
オレの言葉を聞いて、ホッとした顔になったリーンは言う。
「あと一年もないですけど、これからよろしくお願いしますね!」
「え、あ……」
よろしくお願いできないと思う。
彼女はレドと同じチームを組んでいる、すなわち成績上位者だ。しかもかわいい。目立たないわけないのだ。そうすると彼女からは距離をとるのが正解である。正解なのだが……。
「アコさんアコさんおはようございます!」
「お、おはよう」
「アコさんは今日どちらで昼食を?一緒に食べませんか?」
「え」
「あ!アコさん!これからお帰りですか?」
「いや、あの」
「ここにいたんですね、アコさん!」
「 」
「アコさん!」
「アコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさんアコさん」
「うあああああああああぁぁぁぁあっ!なんなんだあいつは!」
「俺もリーンのポテンシャルを見くびってたわ」
リーンと話してから、なぜかオレは彼女からの深刻なストーカー被害を受けていた。朝のおはようから夕方のさようならまでリーンは現れる。さすがに家まではついてこないけど。
家についてだが、軍魔術師学校は少しながらお金が貰えるため、最初の二年は学校側が提供する寮に住みながらコツコツお金を貯めていた。良家出身の奴なんかはもっぱら自分の屋敷から通い、貧民は寮に、というわけだ。オレは貯めたお金で、今年から町の方に家を借りているので、今のところはリーンに自宅を特定されてはいないはずだ。
今日はなんとか彼女を撒き、人気のないポイントでもさらに穴場のところで、安らぎの昼食タイムである。なぜかレドはいる。そうだった、コイツは無駄に勘が良かった。
「まあ、女同士仲良くすればいいんじゃないの?」
「……女同士って皆ああなのか?」
だとしたら世の中の女性は皆ストーカーなのか……?
「……あれはちょっと異常かも」
「そうなのか、よかった。本当によかったっ」
どうせオレなんて長くは生きないけれども、その間にもああいったことを万が一でも強要されるのは勘弁してほしい。
「そういえばお前、教官から聞いた?あの化物の話」
「は?」
どうやらネフィリムのことについて、情報が開示され始めたようだ。オレ自身も空いた時間を使って調べているが……。どういうことだ、と聞こうとしたその時。
「アコさーん、どこですかー?」
「ひぃっ」
遠くからリーンの声がした。すぐさま近くにあったゴミ箱の中に入る。この場所のゴミ箱は人がほとんどいないためか、ゴミは入っていないので隠れることができるのだ。
「おい!オレのことはここにいないって言っておいてくれっ」
「はあ?ちょ、隠れるの速っ」
しばらくすると、コツコツと足音がして、
「あれ、レドくん。私、アコさん探してるんですけど知りませんか?」
……リーンだ。
「俺は今日見てないよ」
「……本当ですか?」
レドの白々しい回答にリーンの声色が少し低くなる。怖い。しかし、それに臆せずレドは、
「本当だって。しかしリーン、あいつのことずいぶん気に入ってるんだなあ」
「え!?気に入ってるというか……。かわいいなって」
えへへへ、という笑い声のあと、リーンは続けた。
「なんとなくですけど、小さな男の子みたいなかわいさがあるんですよね。ついつい気になっちゃって」
めちゃくちゃ早口だった。
「そ、そうか」
「じゃあ、私行きますね。アコさんにあったら、私が探してたって言っておいてください!」
そう言ってリーンは去っていった。
しばらくののち。
「……行ったぞ」
「すまん」
オレはのそのそとゴミ箱から出てくる。
「…………正直リーンに会わせたことはすまないと思ってる」
「よくわかってんじゃねぇか」
まあ、あの様子だと遅かれ早かれ接触はあっただろうが。それはともかく。……残り一年に満たない訓練生生活を無事終えることはできるだろうか。
主人公の年齢に関して突っ込みどころがあるかもしれませんが、一応考えているので生暖かく見守っていただければと思います。
ところで、女性との人間関係構築の勝手がわからず困惑するTS娘は好きです。