属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 998】

 

新たに室内に入ってきた男性はイヴァナに向かって、ビシッと敬礼をした。

 

「模型内部に怪しい箱を埋め込んでいるのを見た!」

「それで何が起きたの!?その箱は何なのか中身を確認できたのっ!?」

「それはまだだ!」

「まだなんだ!?」

「嬉しくなって、早く誰かに報告しようと、帰ってきてしまった!」

 

イヴァナはそれを聞いて、微妙な表情をする。

 

「……最後まで見届けた方がよかったんじゃない?そっちの方がスクープだったんじゃ?」

「……確かに」

「確かに、じゃないわよ。全くもう」

 

男性は、オレがこの建物に入ろうとしたときにぶつかりかけた人だった。

 

「アイリスさん、彼がジョセフよ」

 

呆れた顔で紹介された男、ジョセフは上司からの言葉に落ち込んでいる様子だったが、ある場所を見ると、

 

「へ、編集長の机がきれいになってる……!」

 

切り替えが早いな、おい。

そして、ソファーに座るオレに気がつくと、半目になる。

 

「編集長、また人を連れ込んで……」

「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい」

 

合法的に社内に(とはいっても一部屋)入れたりと、都合良く事が進んでいて内心驚いていたのだが、どうやらイヴァナは普段から人を招き入れる癖があるらしい。

彼女はコホンと咳払いをした。

 

「この子はね、うちの記事を読んでくれた子よ!なんでもあなたの隕石の記事、読んだらしいわ」

「え!?本当か?」

 

軽く挨拶をすると、ジョセフは嬉しそうだった。

 

「せっかくだし、あなたに会ってもらおうと思って。それで、あなたを待っている間に片付けを手伝ってもらっちゃった、というわけ」

「連れ込まれて待たされた上に手伝ってくれたなんて、普通にただの親切な人じゃないか」

 

実は打算ありまくりだから、親切でもなんでもないんだけどな。

入り口でぶつかりかけたのがオレであることには気がついていないらしく、全くそのことに言及はなかった。

 

「はじめまして。先ほど編集長から紹介のあった通り、ジョセフです。隕石関連の記事は最近バンバン書いてますけど、何を読んでくれたんですか?」

「大神殿とか、そういった内容のですけど……」

「おおお!では次の記事、楽しみにしててくださいね!それとさっきの自分と編集長の会話は、他言無用ということでお願いします」

 

さっきの会話はとにかく勢いがすごくて、内容が頭に入ってこなかったんだが。

イヴァナには若干荒っぽい口調だった、このジョセフという記者は、明らかに年下のオレに対しては丁寧に接してくれる。

 

「僕としても読者さんと直接話す機会なんてなかなかないし、わざわざ待ってくれていたとは嬉しい限りです。聞きたいことがあればどうぞ」

「町の人もああいう記事を書くことは許してくれるんだけど、あんまり読んではくれないのよね~」

「ああいう、というのは」

「大神殿のことよ。ほら、ここはお膝元で、ゴチャゴチャ書くのは好ましく思われないのよね。我がエポック紙も売れ行きは芳しくないわ」

「というわけで、僕らは町の人と話すことは多いんですが、その中に読者はほとんどいないんです」

 

なぜ彼らの新聞社はつぶれないんだろう。

そんな疑問が頭をよぎった。

 

いや、いかんいかん。目的を達成しなければ。

 

「あの、聞きたいことが一つあるんですが、なぜ大神殿の宝と隕石が結びつけられたんですか?」

 

この小さな新聞社が、なぜ隕石の話題を持ち出してきたのか。

いったい誰がその話の出所なのか。

 

「それはですね、ある人から聞いたんです。その人はもうこの町を離れちゃったんですけどね。はははっ」

 

この町を離れた、ってフレーズ、どこかで聞いたような……。

 

思い出そうとしていると、イヴァナが口を開いた。

 

「ジョセフ、あなた……。最初の情報源のこと、なかなか口を割ってくれなかったけど、まさかデイビーが……?」

「あ」

「なんでー!?なんでインタビューした私じゃなくて、こいつにそんなこと教えてくれたのよぉお!」

 

しまった、という顔をしたジョセフにイヴァナが掴みかかっている。

 

えーと、つまり?

今回の儀式に使う模型を製作した職人から、話を聞いたってことか?

 

「ほら、色々と物運んだり手伝いしてたら……な?」

「いつの間にそんなことを!羨ましい!!!」

 

直接神殿内部に入ることのできた人間からの情報か。多少の信憑性は増すか?

しかし、オレがこの町に来て、大神殿の近くまで来ても、この間の湖の時のような感覚にはならなかった。

……待て、ここに入ってきたジョセフは最初になんと言っていた?

 

箱。

 

もしも、オレが今隕石の欠片こと、(ドーラ)を入れている箱みたいに、回りから感知されなくなる物だったら?

 

大神殿が(ドーラ)を所持している前提で話を進めよう。そして、今までの新聞記事を元にアプシントスやアバドーンが来るなら、どこを狙う?

 

普段の大神殿は警備が厚い。だから、なるべく大神殿の外部に持ち出される時がいい。

……近々そういうイベントがあるじゃないか。

 

新年の儀式。神殿からヤギの模型が持ち出されて、燃やされる。加えて、その周りを不特定多数の人間が集まって騒ぐのだ。

襲う側からすれば好都合だ。

 

いつの間にか片方のみが突っかかっていく言い争いを終えていた二人が、考え込んでいるオレに話しかけてくる。

 

「おーい?すっかり黙っちゃったけどどうしたのー?何か気になることでもあった?偶然来たんだし、せっかくだから聞いていって」

「そうそう、どうぞ質問してください。……なんて言ったって、あの編集長の机を片付けてくれたからな」

 

ここに来たのは偶然じゃないのに、それをすっかり信じこんでいる彼らの発言に、罪悪感を感じてしまう。それに、親切心やそういう気持ちでの行動なんて、していない。

 

「別に」

 

苦し紛れについオレはうつむいて言ってしまった。

 

「別に、もともと今言った質問のことが気になってたんで、手伝ったら答えてくれやすくなるかな~、とか……。実は打算ありきの行動でしたから、その」

 

言い訳のようにグダグダと述べていると、なにやら視線を感じる。顔をあげると二人ともオレを生暖かい目で見つめていた。

 

「な、何ですか」

「「いえいえ」」

 

オレには妙に居心地の悪い雰囲気の中、ジョセフが「あっ」と声をあげた。

 

「でも、打算って悪いことですかね?」

「え?」

「僕らはこの町の皆さんの手助けをする。その代わりにちょっとした情報をもらったり、取材を許容してもらう。そうやって僕らは偽善と打算まみれの行動しています。が、結果、皆が得をしてます」

 

ポカーンとしていると、彼は続ける。

 

「打算があっても皆幸せになるならいいじゃないですか。むしろ打算万歳!」

 

 

 

§ § §

 

 

 

「あ!お師匠!どうでしたか、新聞社は?」

「まあ、色々と聞いてきた」

「僕とお猫さんも頑張りましたよ」

 

エポック社を後にしたオレに、グレイと猫が駆け寄ってくる。夕焼けに染まる町の片隅で、情報共有をした後に猫がのんびりと言った。

 

「して、これからどうするのだ?」

「儀式の前日の夜、もうめぼしい情報はないだろうけど、ここに侵入して漁る。それから、儀式当日は様子を見守って、怪しいやつがいるなら対処しようかと思ってるが……、警備が増えてるってのは気にかかるな」

 

この猫、あのジョセフって記者に全く警戒されなかったみたいだな。いや、猫に警戒するっていうのも変な話だ。

猫いわく、覗かせてもらった双眼鏡から見えた光景は、外以上に厳重に守られた大神殿内部だったらしい。しかも、ジョセフの言い分によれば、その人数がいつもよりも増えている。

 

「本当に大神殿は(ドーラ)を所持していて、アコラスが奪っていった一件で警戒してるのかもしれんな」

 

オレのせいかよ。

 

「とにかく、当日はアバドーンなりアプシントスなりが現れるなら、手に入れたところを横からかっさらうつもりだ」

「奪われずにそのまま儀式も無事終わり、神殿内に戻っていったら?」

「オレも他のやつらも、普段の大神殿の中に入って持ち出すなんて無理だろう。その場合は……そのままでいいと思う。集めさせずに破壊するのが目的なんだから、少なくとも前者の目的は達成できる」

 

壊し方が見つかっていない現段階で、集めてしまっていることに不安がないわけではなかった。安全性の高いところで確実に保管されているなら……。しかし、ローザ課長の手に渡ったものが狙われて、今オレのところにあることを踏まえると、安心はできない。大神殿は大神殿で権力を持っており、国が手を出せないところもあるらしいので、また状況が違うことを祈るしかない。

 

「僕、正直お師匠が破壊方法を見つける前に全部集めちゃって、『天使』?が復活したらどうしようとか考えてたので、それもいいかもしれませんね」

 

オレの言葉を聞いたグレイはホッとしていた。

 

やることは決めた。

あとは襲撃があったときに、先手を打てるよう準備するだけだが……。

 

「何か、懸念事項があるのだな?」

 

猫がオレの背負う鞄に入り込みながら言った。

 

「……以前ネフィリムと交戦したとき、一見普通の人間の状態から変化していた。オレは直接それを見た訳じゃないけど」

「それってつまり……」

「町民に紛れて、突然ネフィリムが現れる可能性をお主は考えているわけだな」

「ああ」

 

ビオレッタだったものを思い出す。

オレと戦ったときは会話もできたし人の形を保っていた。それが何らかのトリガーで化物(ネフィリム)になる。

 

「人が集まっている状態での、ネフィリムの出現……。いかに厳重な警備があると言えど、危険だ。だけど、対策がないこともない」

 

いつも懐に閉まってある、小さな箱を取り出す。

 

「今お主が持っている(ドーラ)でおびき寄せるのか」

「そうだ。箱を開けて人気の少ないところに誘導できれば……。ただ、ネフィリム以外の誘導できない敵をどうするかって問題がある。この前のクリュティエみたいなのがまた来て、模型内部にあるかもしれない(ドーラ)を狙ったら、オレはその場に居合わせられないかもしれない」

 

ネフィリムが現れるかどうかもわからない。一番は『誰も襲いに来ませんでした』がハッピーエンドなんだけどな。こういうときに限って何か起こるんだよな。

 

するとグレイが声をあげた。

 

「なら、また手分けしましょうよ!僕がネフィリムの誘導をして、人はお師匠が倒せば……」

「そんなことできるか」

「なんでですか!?」

「だってお前弱いじゃん」

 

それを聞いたグレイは、雷に撃たれたかのように衝撃を受けていた。

 

「首都のときは手伝わせてくれたのに、どうして」

「あのときは、直接お前を狙ってくるような状況じゃなかっただろ。もう一度言うけど、お前は弱い。よって戦力としては全く期待してない。はいこの話終わり」

「いたっ」

 

グレイの頭を叩くことで強制的に話を切り上げる。

 

(ドーラ)の感知能力からして、ネフィリムが普通の人間と同じ世界を見ているとは考えにくい。

例え魔術で姿を見えなくできても、視覚以外で見つけられたり、周囲に対する無差別攻撃の巻き添えになる可能性だってあるのだ。……こいつの使いどころはここじゃない。

 

オレがこの件については一切受け付けないことで、諦めたらしいグレイは頭をさすりながら言った。

 

「そういえば、首都で手に入れたものは例の箱に納められていたんですよね?それなのに、なぜお師匠には位置がわかったんでしょうか?」

「当時の状況を思い出すと、精巧な偽物を見てから、実物の近くに来たらわかるようになったんだよな」

「精巧な偽物……。(ドーラ)の帯びた魔力子を本物に近い形で再現したから、それに誘発されて?うーん……」

 

うんうんと唸って考え始めてしまったが、これでしばらくはバカなことも言い出さないだろう。

 

頭の後ろにもさもさしたものが帽子ごしにあたった。

 

「なんだよ」

 

猫がへばりついている。爪を立てるんじゃない。

 

「少しは素直になればいいものを」

「はあ?」

 

ぶつぶつ言っている猫を引き剥がすべく、オレは頭に手をのばすのだった。

 

 

 

§ § §

 

 

 

数日が過ぎ、儀式の前日の夜。

外壁をよじ登り、エポック社の部屋の窓を開ける。先日訪れて窓を開けたとき、そのうちの一つを壊しておいたのである。すぐに直さない方に賭けたが、うまくいった。ここは古い建物だし、たまたま壊れてしまったということで疑われていないといいな。

 

「よっ、と……」

 

部屋の中は暗い。重要なものはしっかり管理していると、イヴァナは言っていた。オレには教えてくれなかったが、何か情報があるかもしれない。そう思って室内を見渡すと、先日片づけを手伝ったはずの机の上はもう、書類の山になっていた。それどころか山が増えているわ、室内が大変汚れているわ……、この数日で何があったんだ。

お、鍵付きの戸棚を発見。なるべく大きな音を立てないようにこじ開ける。

……思ったよりも結構これ硬いな。

 

中にはかなり整理整頓されたもの、ある程度整頓されたもの。そして乱雑にまとめられたものなどがあった。ファイルにはご丁寧に名前がついている。ジョセフと記載されているものを手に取って読んでみるが、

 

「うーん、目新しい情報はないか……」

 

何冊か見ていくうちに、乱雑に突っ込まれた紙が一枚棚から落ちてしまう。ちょうど拾い上げたとき、廊下から足音が聞こえた。

 

こんな時間に来るのかよ。見張っている数日間はこんなことなかったのに。

戸棚を閉じ、入ってきた窓から脱出する。枠に掴まりながら窓を閉めて、降りようとしたところで声がした。

 

「ごめんなさいね~。散らかっちゃってて」

 

覗きたかったが、明日のことを考えれば、ここは静かに引いた方がいいだろう。

エポック社から離れたところでポケットに違和感を感じる。

 

「……あ」

 

さっき戸棚から落ちてきた紙だ。拾ったあとポケットに突っ込んでしまったのだ。

紙を広げると、ある文章が視界に入った。

 

「これは……」

 

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