属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

42 / 84
7-4

【N.C 998】

 

大勢の人が集まる広場の中心に、木でできたヤギの模型に火がつけられた。人々の歓声が上がる。

 

「うわぁ!いよいよですね!」

「でっか」

 

大勢の人が集まっている混雑具合から、屋根に登って儀式の光景を観ている者も少なくなく、オレ達もまた、少し離れた屋根の上から様子をうかがっていた。

 

「この後花火もあるんですよ。すぐ近くに行くことはできませんけど、他の人みたいに僕らもここで踊りましょう!……って、どうしました?僕の顔、何かついてますか?お師匠、昨日の夜から少し変な気がしますけど」

「ついてないし、変じゃないし、オレは踊らない」

 

傾斜のついたところで踊ったら、こいつが転がり落ちる未来しか見えない。そもそもオレは今、お祭り騒ぎがしたくてここにいるんじゃない。

溜息をつくと、グレイは途端にニヤニヤしだした。

 

「あ~、もしかして踊るのが嫌なんですか?お師匠結構不器用ですもんね。銃の分解と組み立て、いつも苦労してますし」

「悪かったな」

「悪いとかじゃなく、よくそれで軍の学校卒業できたなと。個人的にはその絶望的な銃の腕前で、射撃の訓練をどうしてたのか気になります」

 

口のなかに銃身突っ込んでやろうか、こいつ。

 

しかし、こうしてポツポツと会話をしている間にも、昨日見た物が頭の隅でちらついていた。

 

「……遺伝、か」

 

口に出すつもりではなかった言葉が、うっかり出てしまった。

 

「え?今なんて?」

「あ、いや。うるせー!訓練では全然当たらなかった、って言ったんだよ」

「本当によくそれで卒業できましたね」

「やかましいわ」

 

オレのごまかしに違和感を覚えたのか、

 

「でも、最初に聞こえたのとは違ったような……」

「あーあー!訓練な、訓練の話!最初は担当教官にちゃんとやれってお叱りがきて、居残りになったんだけど……、全然ダメなもんで、他の教官たちも集まってきて、議論を始めて、国内屈指の狙撃手の一人として有名な教官が『何で当たらないんだ?』って首をかしげてた」

 

遠くの家の屋根を眺める。向こう側にも人がいるのがよく見えるなー、ははは。

 

「で。最終的に、『ここは魔術師教育のための学校だから』みたいな理由で、ギリギリくぐり抜けた」

 

急遽オレが繰り出した話を聞き終えたグレイは、あきれ顔になった。

 

「それは軍人の教育機関としてどうなんですか……?」

「魔術使えて戦えればいい、ってことだろ。『君は身体強化系の魔術を使って、近づいて殴った方が早いね』って言われたし。まあ、オレは素の身体能力だけどな」

「ひどい詐欺だ……。あ、確か最近、安価でかつ高性能な魔力子検査機が開発されたらしいですよ。たぶんそれが四年前に導入されてたら、お猫さん使っての入学なんて荒業、絶対難しかったですね」

 

そこからグレイは、蒸気がどうの解析機関がどうのとウキウキしながら喋りだした。相づちを打っていたり、猫が鞄から出てきたり、寒いと言ってまた戻ったりしながら、時間は過ぎていく。

ひょんなタイミングで隣が落ち着いた声になった。

 

「お師匠の学校での暮らしぶり、初めて聞きました」

「そうだったか?」

「そうですよ。というか、お師匠のこと、馬鹿力なのと、辛い食べ物が好きなのと、未来人なのしか情報ないんですが。それと鏡見るのも嫌いですよね!」

「オレのことなんて、知らなくても一生困らねーよ。今までお前も聞いてこなかったじゃんか」

「え~?じゃあ聞いたら答えてくれるんですか?」

「さあな」

「そういうところズルいなー」

 

そして、静かに言った。

 

「お師匠は聞きませんよね」

「…………お前は」

 

オレの言いかけた言葉を遮るように、『ヒュー、ドンッ』と大きな音がした。

 

「あ、花火」

 

グレイは顔を空へ向ける。その横顔は、炎か花火か、光に照らされていた。

 

「そんなに有名な話ではないんですけど、あの花火って、この一年で亡くなった人の魂を送り出す意味があるんです。一発目は朝、二発目は昼、三発目は夜に亡くなった人……、このサイクルを月の分、つまり十二回繰り返すので、打ち上げられる玉の数は必ず三十六発なんですよ」

「ふーん、良く知ってんな」

 

いつどこで手にいれたのかわからない知識に感心していると、

 

「この年越しの儀式で行うことやその成り立ちは、かなり詳しく知って理解していたんですけど、実際に見るのは初めてのはずなんです」

 

少し笑って、再びこちらを見た。

 

「さて、この時僕は何か新しいことを学んだんでしょうか。何を学べたんでしょうか」

「何を、って。そりゃあ、例えば、あのヤギの模型のデカさは、目で見なきゃいまいちピンと来ないんじゃないか?お前だってさっき、あんなにはしゃいでたじゃん。そういう、感覚?みたいなものは新しく学んだことになるだろ」

「そうだったらいいなぁ」

 

先ほどよりかはスッキリとした顔になったグレイは、はいはい!と手を挙げる。

 

「僕の質問に答えてくれたので、次はお師匠から何か質問してください!」

「面倒くさいから嫌だ」

「今年ももうすぐ終わりですよ?気になる点を今のうちに消して、新しい年を迎えましょうよ」

 

今日はやけに絡んでくる気がする。どうかしたんだろうか。

 

「……そうだな。お前がオレのこと、変な呼び方するのは気になる」

「そこ!?」

「他はどうでもいい」

 

その直後、グレイから飛び出した言葉に少し固まってしまった。

 

「ひどい!!!ほら、今さっき僕に何か聞きかけてませんでした!?それ気になることなんじゃないですか?」

「あー、それか……。グレイ、お前いくつだっけ?」

 

オレがそう聞くと、グレイは数十秒たっぷり固まった。

 

「…………え」

「な、なんだよ」

「と、特に知らなくてもいいと思ってそうな個人情報を聞いてきた……?人に対して、一定以上は踏み込みたくも、踏み込まれたくもなさそうな感じがプンプンする、あのお師匠が?」

「お前はオレをなんだと思ってるんだ」

「面倒くさい感じの不器用」

 

痛い痛い痛い!とわめくのを無視して、アイアンクローをする。

 

「確か10歳くらいです、10歳」

「へー」

 

夜は炎が良く映える。揺らいで少しずつ色が変わるのまで、くっきりと見えた。……最近視力上がったか?

 

「では、またこっちから質問です!え~と、え~と……。お師匠は今までにどこかで、このお祭り参加したことありましたか?」

 

もう結構話疲れてきたのに、まだ話すのか……。そろそろやることやりたいので、答えるのを渋っていると、片手をつかんでぐいぐい引っ張られた。

 

「見てるだけなのが参加かは知らないが、これが初め……」

「お師匠?」

 

『ほら、アコラス!せっかく連れてきてもらったんだから。一緒に踊ろう?』

 

今みたいに、炎の光で顔を照らされた誰かに、こうして腕を引っ張られた記憶が思い起こされる。

 

「そうだった……。一回だけ、連れてきてもらったことがある」

 

『前回』のN.C. 999の終わり、首都で連れてきてもらったんだ。

 

「あの後、たくさんのことが起こりすぎて、ずっと忘れてた」

 

他にろくな思い出がないから、例え何年も前のことでも、大切な記憶は何回も思い返して、ずっと忘れないようにしていたはずなのに。

 

うん、大丈夫。他のことはちゃんと覚えている。

 

「昔のことって、時が経てば経つほど、なかなか思い出せませんから。時間って残酷ですよねぇ。……さっきから思ってたんですけど、花火見ないんですか?今日は晴れなのに」

 

この国の気候の特徴として、冬は曇りが多い。一日中どんよりとした天気であることは珍しくなかった。しかし、今日は珍しく晴れた日だった。昼間も町の人々が嬉しそうに天気の話をしていたのは記憶に新しい。

 

「晴れた空見るの嫌なんだよ」

「なんでまた」

「……際限なく続いてて、なんというか」

 

あの子と違ってオレは、という言葉を飲み込む。

 

「終わりが見えないのは、ちょっと怖い」

 

 

 

花火の音が三発聞こえる。今ので五回目、あと七回で終わりだ。

 

「グレイ、お前はこの辺で適当に見とけ。オレは別のところに行く」

「ちょっと!?」

 

ここは屋根の上でいくら見渡しやすいといっても、近くにいかなければわからないこともあるかもしれない。

困惑するグレイを置いて、オレは移動することにした。

 

「僕一人じゃ、降りられません!」

 

グレイを抱えて屋根から降りた。

 

 

 

§ § §

 

 

 

「行っちゃった……」

 

押し付けられた猫を抱えて、グレイは呆然と立ち尽くした。

 

「なんか、地雷踏んじゃったかも」

 

珍しく自らのことを話した彼女に、嬉しくなってたくさん会話をふってしまった。

 

(何だかんだで付き合ってくれたけど、最後の方の話題は良くなかった……)

 

前足の脇を抱えられたことで、びろんと縦に伸びている猫にグレイは話しかけた。

 

「お猫さん、どうしましょう……」

「そっとしておくしかあるまいよ」

 

はあああ、と息を吐きながらしゃがみ込む。猫が温かい。

 

このままここで座っておくべきか、それとも彼女を追いかけるべきか、はたまた全く別のところに行くべきか。

 

今日の町は、大神殿に対して南側の地区が賑わっていた。神殿の正門は南を向いており、広場もまた、南にあったからだ。

裏である北側は普段よりも閑散としている。

 

『お師匠』と呼んでいる彼女は、広場の方へ向かっていった。今一番人が多い場所だ。

 

 

ふと、影が射した。

 

「どうしたの?迷子?」

 

顔をあげると、女性、というよりは少女が覗きこんでいる。物静かな感じでキレイな人だなという第一印象をグレイは持った。

 

「あ、いえ違います」

「そう……」

 

グレイは慌てて立ち上がる。

目の前に立つ少女は女性としては身長が高めで、グレイはいつもよりもさらに見上げる形となった。彼女はゆっくりと口を開く。

 

「私、迷子なの」

「え?」

 

落ち着いた様子とは異なる、耳を疑う発言に思わず聞き返す。

すると再び、

 

「迷子なの」

「そ、そうですか」

 

(もしかして僕は今、変な人に絡まれている?)

 

グレイの若干引いた態度を見た少女は、淡々と言った。

 

「迷子仲間かと思ったけど、違うみたいね」

「迷子仲間ってなんですか」

 

そして立ったまま、うつらうつらと舟をこぎ始める。

 

(なんなんだー、この人!?)

 

気温は氷点下。募る危機感からグレイは話しかけた。

 

「この時期の夜に外で寝るのは洒落にならないです。起きてくださーい」

 

しばらくボーっとしていたが、目を擦った。

 

「ごめんなさい、ちょっと寝溜めしてて」

「は?寝溜め?」

「そう。寝溜め。肝心なときには起きていたいから、それ以外はなるべく寝てるの」

「いや、その理屈はおかしい」

「それでいつも半分寝ながら歩いてると、知らないところにいる」

「結果、迷子になってしまうなら、お姉さんにとって意識をしっかり保って歩くことは、肝心なことでは?」

 

普段からこんな状態ではこの人の生活はどうなっているのだとか、逆にちゃんと深い眠りはできていないんじゃないかとか、様々な疑問が頭を駆け巡る。

その時冷たい風が吹いてきて、少女の黒髪を揺らした。寒さが一層強まった感じがする。

 

(明日中にはこの町を出るし、合流場所も決めてあるから、大丈夫だよね……?)

 

先日の夜、不法侵入をした相方がバレて疑いがかかる前にさっさとずらかって東に行く、と言っていたので、明日町から東側で待っていれば会えるはずだ。

明日の段取りを確認したグレイは少女に提案した。

 

「迷子と名乗るからには、どこかに目的地があるんですよね?僕、地図持ってるので案内しましょうか」

「本当?」

「このままお姉さんのことを放っておいて、翌日凍死体が発見されるのは勘弁したいですから」

 

 

 

目的地を聞き、歩き始めてすぐ。

恐ろしいことに、一緒に歩いていてもこの少女は別の方向にフラフラと行ってしまうことがあった。そのため、迷子防止目的で手をつないだ。彼女はこの寒い時期に素手だった。

 

「お姉さんは大きな荷物背負ってるんですね。楽器のケースですか?」

「うん」

「どこかで演奏した帰りなんですか?」

「うん」

「……今日の夕飯雑草だったんですか?」

「うん」

「お姉さん、適当に返してますね」

「うん」

 

ぼんやりとした彼女が眠り出すのを防ぐために話しかけてみたものの、帰ってくるのは「うん」という返答ばかり。それでも一応頭が舟をこぐのは収まったので、一定の効果があったと言えよう。

 

自分はつくづく変な年上女性と縁があるのかと思ったところで、先ほど別れたアコラスの顔が浮かんだ。

 

「はあ……」

 

基本的に説明不足で自己完結してしまいがちな気性だ。ヘタにつつくと殻に籠る。絶対に籠る。グレイは確信していた。

今まで慎重に聞いてきてわかったことは、五年前までの話なら聞けば話してくれる。それ以降はほぼ無理。『前回』に至っては、彼女の目的に関する話題のときに、出来事のみが単発的に語られるだけだ。

 

つまるところ面倒くさい人なのだが、これについてはグレイも人のことを言えなかった。

 

「どうしたの……?」

「え?」

「君、うずくまってたし、何か悩んでるのかと思った」

 

(……こんな変なお姉さんは、今後会うこともないよね)

 

「いつも一緒にいる人がいるんですけど、その人、重要なことは話してくれなくて」

「そう」

 

初めて出会ったときは、人を目潰ししてから殺し、返り血でところどころ赤くなっている、というなかなかショッキングな姿をしていた。

目があったときは死んだと思った。

しかし、少し話した後に何を思ったか、その人は自分の首根っこを掴み、袋に詰めて連れ帰ったのだ。そして、その人の家らしき場所で放り出されて、しばらくどうすればいいのかわからなかったが、今思えば彼女もまた、どうすればいいかわからなかったようだった。食事を与えられたものの、その辺の草をむしって食べた方がはるかにマシな出来だったことで、文句という形で一応のコミュニケーションが取れるようになったのは、また別の話である。

 

「目を合わせて話しているつもりでも、今じゃない、全然違うところ見ている感じもして……。こう、常に誰かの影を見ているというか」

 

一呼吸おいて、

 

「もー!あの人は!バカ―!!!どうすればいいですかお姉さん!!!」

 

感情のままに叫ぶと、少女はふむと頷いた。

 

「私だったら……、実力行使で口を割らせて、その重要なことを聞く。こっちも向かせる」

「このお姉さんも、見た目によらず物騒だった」

「それが手っ取り早い」

 

少女は眠たそうにしていた目をいつの間にか、しっかり開いていた。

 

「でも、君、小さいのに色々考えててすごいね。私は君くらいの頃はのんきに生きてた」

「あははは……、それほどでも。ちなみにお姉さんは悩みがあるとき、どうしているんですか?」

「あれこれ悩んでいても始まらないから、私は他のことは一切捨てて、自分のやるべきことに集中してるつもり」

「その結果かどうかは知りませんが、方向感覚を捨てるのはどうかと思うんですけど」

 




ブブブーブ・ブ―メラン回
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。