属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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ヒープリショックで更新遅れました。


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【N.C. 998】

 

楽しそうな人々の中に雰囲気の異なる者がいる。というのも警備が非常に多いのだ。おかげでオレが目をつけていた人間が、人目が少ないところで瞬く間に取り押さえられていた。隠し持っていた刃物で自分の首を刺そうとしていたのを止められたあと、拘束して連れていかれた。

オレも迂闊に動けないが、未然に防がれているので、一般的にこれは良いことなのだろう。

 

それにしても、あの取り押さえられた人間。ただの不審者か、それともアバドーンやアプシントスの一派か。後者なら、(ドーラ)目当てで奴らがやってくる、という予想がこうもあっさり当たるのは、落ち着いて考えてみると気持ちが悪い。

 

オレが今回この町に来たのはエポック紙を見たからだ。こいつらも同じようにあの新聞記事を元にやってきたのだろうか。しかし、実際に新聞社を見ても、あの新聞は影響力は小さいと言わざるを得ない。そんな小さな新聞までわざわざチェックしているのかは、正直疑問である。どこか別のところからの情報源があるのが妥当だ。

 

……それにしても、連行していくまでの一連の様子は手際が良かったな。

 

そんなことを考えながら広場の端にいると、誰かが近づいてくる気配がした。

 

「あら?あなた、この前の」

「あ、こんばんは」

「こんばんは。たしか、アイリスさんだったわよね。どう?楽しんでる?」

 

エポック紙の編集長、イヴァナであった。足取りはふらふらとしていて、息からはアルコールの臭いがする。

 

「はい。でも、ちょっと人酔いしたので休んでました」

「そうだったの。大丈夫?」

「もう大丈夫です。……その、左手に持っているのは?」

「これ?拾ったの。踏まれそうだったから。そして私は持ち主探しの旅の途中よ」

 

彼女は右手にすぐ近くの屋台で売られている酒の瓶、左手に奇妙な物体を持っていた。四足歩行で首の回りに長い毛が生えているという、何らかの生物のぬいぐるみに見える。

 

花火の音がまた三発聞こえた。

 

「花火は町の北の外れで打ち上げてるのよ」

 

言い終わるとオレをジーっと見つめてきた。

 

「あの、何か」

「なんだっけ。あなたを見て、何か思い出した気がしたんだけど、こう、出でこない……」

 

それは思い出した部類に入らないのではないだろうか。

 

イヴァナはうんうんと唸ってから、「ま、いっか」と呟いて急にオレの肩に左腕を回してきた。近寄られるとさらに酒臭い。

 

「アイリスさん、やっぱりウチで働かないー?働いてー。おねがーい」

「いえ、ですから」

「今ね、人手がね、足りないのよね」

「オレはただの観光客なので」

「昨日うちに盗人が入っちゃったみたいで、捜査に片付けで仕事どころじゃないのよー」

 

げっ、オレじゃん。

 

「それは……大変でしたね」

「何盗まれたとかは調査中でね。仕方ないし、こうして夜の町に繰り出してるってわけ。ふぅ……。やってらんないわぁぁぁぁぁああああ!」

 

イヴァナは両手をあげて叫んだ。周りの人間がこちらを見ている。

どういう顔をすればいいんだ。いろんな意味で。

オレだけ気まずい空気が流れる中、彼女は酒瓶をあおって、

 

「だいたいウチより先に盗みに入るところなんて、いくらでもあるでしょうが!!!ねえ!?」

「あ、はい」

「そうよねぇ!!?!?あの地方支部の隣にあるホテルとか!大通りのレストランとか!あなたも飲む!?これすごく美味しい!何本でも開けられる!」

「それはちょっと」

「よしじゃあこれ持ってて!」

 

持っていた謎の物体を押し付けられた。

どうしろと。

 

「ジョセフは『昔の知り合ったお子さんから手紙貰って、これから会うんですよー』って封筒だけ見せびらかした挙句、元憲兵なのに自分のテリトリーで起きた事件ほっぽり出して逃げたし!!!入った当初は全然書かなかったくせに、大神殿に対する愚痴は一丁前だったのが懐かしいわ!!!」

「元憲兵?どうして今は記者を?」

「……ここだけの話よ。担当した火事の事故にショックを受けて辞めたんだって」

 

そして、いくつか気になることを質問をしていると、それは突然訪れた。

 

「あ、ごめん吐く」

「え」

 

……ツーンとする臭いだった。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

落ち着いて座ることのできる場所で、イヴァナに水を渡す。一気に水を飲んだ彼女は、ふうと息を吐いた。

 

「ええ、もう平気よ。まだわからないかもしれないけれど、吐くとね、ものすごくスッキリする。吐いた直後もそうだけど、明日朝起きた時に二日酔いが来ないから、よく覚えておくのよ。二日酔いはね、つらい。本当に、つらい。朝起きても自分の酒臭さがわかる。頭とお腹が痛い。なぜか筋肉痛がする。つらい。だから、自分の限界量をちゃんと把握しておくのよ。酒は飲んでも飲まれるなという合言葉、理解しておいてね……」

「とてもよくわかりました」

「周りの人に迷惑をかけないのが、マナーってやつよ……。普段はできてるのよ……?あれ?なんで私こんなことに?」

 

背中をさすっているうちに、この酔っぱらいは目を閉じていた。結構寒いが、このまま寝ていて平気だろうか。まあ、死にはしないか。少なくとも自分は死なない。

 

はぁ。何やってんのかな、オレ。

 

こうして酔っぱらいの介抱をしていると背の低い子供が近づいてきた。オレの目の前までやってくると、

 

「お姉ちゃん」

 

……オレのことか?

自分を指差すと、その子はコクンと頷いた。

 

「それ、たぶん僕の」

 

少年の視線は、イヴァナが拾ったと言っていたぬいぐるみにあった。持ち主探し中とも話してたし、渡していいだろう。受け取った子供の顔がパァッと明るくなる。

 

「お姉ちゃんが拾ってくれたの?ありがとう」

「違う。拾ったのも持ち主探そうとしてたのもオレじゃなくて、こっちで寝てる……」

 

言い終わる前に、女性が駆け寄ってきた。

 

「あんた!」

「お母さん!」

「こんな夜遅くに一人で家抜け出して、心配したんだよ!?」

 

詰め寄られた子供は、言い訳をするように目を泳がせている。

 

「お父さんからもらったのに、失くしちゃって、でもお母さん、今日はいっぱい人がいるから、その」

「とにかく無事でよかった……!」

 

女性に抱きしめられて、子供はぽつりと言った。

 

「……ごめんなさい」

 

ボーッと見ていたオレに気がついた女性は慌てて言った。

 

「あの、息子が何かご迷惑を……」

「ぬいぐるみ、このお姉さんたちが拾ってくれたんだって!」

「いや、だから。それはオレじゃなくてこっち」

「そうだったんですか?ありがとうございます」

 

イヴァナをつついてみると、もごもごと口を動かして目を開けた。ようやく起きた彼女に現状を説明して、再び少年と、その子から『お母さん』と呼ばれた女性が礼を言う。そして彼らは手をつないで去っていった。

 

「持ち主が見つかってよかったわ。それにあのお子さんとお母さん、よく似てたわね」

 

彼女の言う通り、あの女性と少年は見比べると顔のパーツがよく似ていた。

親ってのは、生物が新たに生まれてくる元になるやつで、息子や娘がその親から生まれてきたやつのことだよな。

親と子供は外見が似るのか?

あ、でも、得意な魔術の性質は親から子へ受け継がれやすい傾向にあるから、それと同じように身体的特徴が遺伝する、ということがありうるのか。なるほどなるほど。

あれか、親猫と子猫の毛の色が同じになっているのもそういうことか。

考えてみると当たり前だが、今まで気にかけたこともなかった。

 

親か。親ねえ……。

 

「あああっ!思い出した!」

「うわっ」

 

突然イヴァナが立ち上がる。いきなりなんだよ。

 

「ジョセフがあなたのこと探してたわよ!あー、喉につっかえてたものが取れた感じ。スッキリしたわっ!」

「オレを?」

「そうそう。理由は知らないけど。というか、こうやっていつまでも絡んで迷惑をかけるのも悪いから帰るわね。片付けもしないといけないし」

 

「今後ともエポック紙をよろしく!」という言葉を残し、走り去る背中を見送る。

 

悩ましいことが二つになってしまった。

一つ目、昨日からの懸念事項であり、寝ていた彼女のポケットに戻しておいた紙を思い出す。

 

『N.C.996に複数の子供の行方不明事件発生。調査によると、孤児からも行方不明者が出ていた。※四年前のものとは別件。

 

行方不明となった子供の共通点は親が光に関連する魔術が得意であるということ。

得意である魔術は遺伝しやすい。おそらく、光に関連する魔術を使える子供を狙ったことが考えられる。行方不明となった孤児も、周囲によると同様の魔術を使うことができたと証言あり。

 

何組もの親が子供を今もまだ探し続けているものの、最近つかめた足取りから全員生存は絶望的か。

 

以下、行方不明者の名前と年齢、直前までの所在地……』

 

 

 

§ § §

 

 

 

「お姉さん、地方支部横のホテルなんて、リッチなところ泊まってますね」

「私のお金じゃないから」

「最高じゃないですか」

 

グレイと黒髪の少女は目的地に向かって歩き続けていた。

 

(このお姉さんに名前聞いてないな。……僕の名前も聞かれるのは面倒だし、いっか。この間興奮のあまり名乗っちゃったばかりだけど)

 

少女が向かっていたのは、軍の地方支部の隣に立つホテルだった。そこまで連れていくのは、アコラスほど顔が割れていないグレイにしてもやや危険だったが、人通りの少ない道を使って近くまで行き、そこで別れれば大丈夫だろうとグレイは考えた。

 

花火の音がまた聞こえたので上を向くと、時計台が見える。時刻を示すように花火も残り数回。ここまでくればあともう少しだった。

 

「あそこに登ってみたら、また違って見えるのかな」

「何が……?」

「今の風景や見え方諸々です」

「そうね。登る?」

 

グレイの返事を聞く前に、今度は少女が手を引いて歩いていこうとする。

 

「……そっちの道は行き止まりなので、こっちにしましょう」

 

 

 

時計台の入り口には憲兵が立っていた。この時間は入ることができないのかもしれない、というグレイの心配をよそに、あっさりと中に通される。こうして入った時計台内は町のにぎやかさとは裏腹に静かであった。

 

最上階も人の姿はない。外を見ると、そろそろ日付も変わろうかという真夜中にも関わらず、町の南側はあちらこちらに明かりが灯っていた。

 

「ここから見ても、空の見え方って変わりませんね」

「そうね」

「お姉さん見てないじゃないですか」

「そうね」

 

グレイは大神殿のほうを見た。一瞬キラリと光が北側から見えた気がした。その時花火の音が四発聞こえる。

 

「……?」

 

何か、引っかかりを覚える。

 

その疑問もつかの間、町のあちこちから歓声が上がる。新しい年になったのだ。

 

 

 

§ § §

 

 

 

イヴァナと別れて少し経った後。

何者かがオレをつけていた。確認のため、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしても追ってきている。オレはより人の少ない方へ、より自分が道を把握している辺りへ、そして、より逃げやすい経路のある方へ向かって歩くことにした。

 

「あれ、見失った?」

「こんなところでどうしたんですか」

「うおおおっ!?」

 

完全に人気がなくなって、角を曲がって姿が見えなくなったところで建物の外壁を一気に登り、後ろに回り込んだオレに驚いたのは、

 

「偶然ですね、ジョセフさん」

 

イヴァナからオレを探しているという話のあった、元憲兵の記者だった。

……オレが後ろに回り込む一部始終を誰かに見られていたら、かなり恥ずかしい。

 

振り向いたジョセフはぎこちない笑みを浮かべた。

 

「やあ。アイリスさん」

「先日はどうも。さっきイヴァナさんから聞きましたよ。オレを探していること」

 

オレから逃げるかのように、角を曲がった先に続いている道へジョセフはじりじりと移動していく。その道の先は暗い。

 

「それはこの間の記事の話で……」

「へえ、隕石の。ああ、そういえば。こんなことも聞きました。もともとは魔力子のことについて調べていたとか。そのうち、大神殿のことを調べるようになったとか」

「そうなんですよ。最初は魔力子や魔術に詳しいサンクレールに会いに来て、その縁で彼のいるエポック社で記者をするようになったんです」

「大神殿がなかなか調べられなくて、大変だったそうですね。……それから、元々は憲兵をしていて、最近になって当時の同僚とたまたま会ってから軍とパイプができたんじゃないかって。愚痴も少なくなって記事も以前より精力的に書くようになった、なんて話も酔っぱらった彼女、言ってました」

「ウチの編集長が絡んでしまっていたみたいで申し訳ない」

「……本当に、今晩は面倒だ。自業自得とはいえ、ゲロ吐かれるし、酔っぱらいの介抱してる場合じゃないのにしてるし。それに、まんまとおびき寄せられてて、バカみたいだ」

 

暗い道。その先を見る。

 

 

 

『手紙の宛名?しっかり見たわけじゃないわよー?あら?お酒が一向に減らない?』

 

『うーん、うーん。いっぱいのんじゃったきがする……。え?なまえ?たしかぁ』

 

 

 

まさか、ここでその名前を聞くとはな。

 

「おい、いるのはわかってんだよ」

 

その言葉を合図に、静かに姿を現す者が一人いた。

思わず舌打ちをする。なんでいるんだよ。

 

「ふん、前よりも少しはまともに戦えるようになったのか?……レド」

 

 

 

大きな音が数発したのちに、遠くから歓声が聞こえてくる。

 

オレにとっては二度目のN.C. 999が始まった。

 




アルハラ駄目絶対。
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