属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 999】

 

「僕たちは勘違いをしていたようですね」

 

ずっとどこかで感じていた違和感が、はっきりと形を成した。何者かがエポック社に侵入して室内を荒し、ものを持ち去っていったのだ。

 

「スケッチブックなんて盗んだ人物は何がしたかった?」

「……もう一度、盗まれたものが他にないか、確認した方がよいかもしれません。よりにもよって、起きた時期が時期です」

 

レドとブレウが話している間、オレはまだ引っ掛かりを感じていた。

 

他に見落としていることがある気がする。

 

……そうだ、花火だ。

 

数が決まっているはず花火が、今まで三発ずつの打ち上げだったのに、さっきは四発だった。

 

なんでだ?

 

一発だけ、花火の爆発音ではないものがあった?

 

いや、あの音は全て同じ種類に聞こえた。もし仮に、何が物を壊す爆発が混じっていたなら、壊れる音が聞こえる可能性だってある。

 

つまり、打ち上げた花火の玉数がおかしいんだ。

 

ただの打ち上げミスかもしれない。

 

……でも、それに何か意味があるなら?

 

花火が打ち上げられていたのは北の外れだ。ここからそう遠くない。走ればすぐの距離にある。

 

ここで、ブレウがオレを地面へ降ろした。

 

「とりあえず、レド。これを支部まで運ぶのを頼んでいいですか?もう、この際です。人の目を気にせず急ぎで」

 

実はまだ、小さいナイフを隠している。一か八か、これで手枷の隙間にでも差し込んで、拘束を破壊できないか。二人には見えないように、こそこそとナイフを取り出す。

 

「うん。……あ、そうか、俺が持つのか」

「すみません。ですが、調べる方は僕が適任かと」

 

ブレウがどこかに向かって歩き始める。

 

手枷のパーツの接合部のどこかに、ナイフをねじ込もうとしたところで、レドがオレを担ごうとしてきたが。

 

「あ」

「……レド、何やってるんですか」

「いや、なんかつい、とっさに手を離しちゃった。なんだろう?視界の隅にキラッとしたものが見えた気がして」

 

担ぐ動作の途中、突然レドは手を離し、オレは地面に勢いよく落下した。しかも、腕は胴体の下敷きになった。落とされた衝撃で手元が狂う。

 

「その、ごめんな?」

 

レドが申し訳なさそうに言ってくるが、そんなことは今問題でない。

 

結論から言おう。

 

ナイフが腕に思いっきり刺さった。痛い。

 

血が出てきたため、ナイフが刺さっているのはすぐばれてしまった。

 

「え、何これ、血?……ナイフ!?なんで刺さってんの!?」

「見事に腕を貫通してますね」

 

クソッ。……めちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「放っておいたら、何やるかわかんないな、お前!?」

「実に間抜けな展開ですが……、まだまだ武器を隠し持っているのか」

 

間抜け……。

 

「うっ……」

「おい?痛いのか?大丈夫か?」

「うぁぁぁぁあああっ!ちくしょー!!!」

「いってぇ!??!は!?壊れた!!?あいつホントに人間か!???あっ、ちょっ、逃げた!!!」

 

全身に力を込めると自分の思った以上の力が出た。全ての拘束を力任せに引きちぎってレドを蹴飛ばし、そのままオレは走り去ったのだった。

 

 

 

§ § §

 

 

 

ネロは落とした頭に向かって、刃を最初の位置に戻した大鎌を振り下ろすと同時に、先端に質量を持った岩石を発生させる。斧のような一撃はネフィリムの頭を容易に叩き割る。先端から岩石がボトリと分離すると、再び大鎌を振り上げ、もう一度質量を伴った打撃が頭を砕いていった。

頭部を失ったネフィリムは少しの間痙攣した後、完全に動きを止めた。

 

「おおぉ……、お姉さんお強い……」

 

グレイは砕かれた頭部から思わず目を背ける。たまたまネロの鎌が視界に入る。目の前の惨状から現実逃避を起こしたのか、場違いにも、

 

(ハルバードでも良いのでは?)

 

と考えたのち、首を振った。

 

「どうしたの?」

「なんでもないです。ただ、なんで武器が鎌なのかなーなんて」

「私の実家が農家だから」

「あんた本当にさっきから何言ってんの?」

「それから精神安定剤的な物」

「誰のっ!?」

「私と装備課。これはすでに二回改良が行われた、大鎌型の試作MARGOT」

 

どこか誇らしげにしたネロは、そのまま破られた扉を見た。

 

「また登ってくる」

 

数秒後、飛び込んできた人間を長い柄で殴りつけ、一撃で昏倒させる。

 

「あの、結構ヤバい音が……」

「私、国家権力だから」

「つまり?」

「不慮の事故も起こりうるけど、仕方がない。必要な犠牲。思い切りが大事。……もし一般人なら、ちゃんと言葉で証明すべき。言わなきゃ伝わらない」

「一応、普通の人っぽく見えたこと、気にしてたんですね」

 

また一人、前にいる者に話しかけるかのように部屋に入ってきた。

 

「おい、早く時計台を制あぶっ!?」

「やっぱり不慮の事故ではない。とにかく思い切りの良い行動が大切。ちゃんと言葉によって証明された」

「そうですね。今『制圧』って物騒な言葉、使ってましたもんね」

「中もろくに確認せずに飛び込んできた素人だから下っ端……。そろそろ、ちゃんとしたのが上がってきそう。上行ってて。私たちがさっきまでいたところ」

 

ネロからの二度目の避難指示にグレイは従うことにする。戦力にならない自覚のあるため、いても足手まといだった。

 

上へ向かい始めるとすぐ、何かを殴り付けたり、誰かが悲鳴をあげたりするのがグレイの耳に微かに届く。

 

(見た目とは裏腹にかなりおっかないな!?お師匠も敵認定した相手には容赦ないけど)

 

死体をバラバラにして下水道に流したり、心臓をえぐって首を落とした死体を量産したり(この件について発破をかけたのはグレイだが)。なかなかにバイオレンスなことをやって、真っ赤に染まるアコラスの姿を思い浮かべる。

 

「そういえば、実際にお師匠が僕の目の前で戦ってるのって数えるほどしかない……?」

 

初めて会ったときと、それから湖の時くらい。あとは別行動や留守番だ。古い知識はすぐ出てくるのだが、新しい記憶を思い出しにくい。そういう風になっている頭の中をほじくり返すと、返り血を浴びた後の彼女の姿はあっても、返り血を浴びている最中の姿はほとんどなかった。

 

そんな彼女は、グレイに何か言いかけては止める、という奇妙な行動を昨日から繰り返している。

 

(……あのお姉さんみたいに、思いきりよく行動するのが大事、なのかな?)

 

花火を見ていた最上階まで戻ると、先ほどと同じように誰もない。外と中を完全に区切ってしまう壁は存在せず、屋根のついた屋上のような場所だ。グレイは上を見上げると、三度目の訪問でようやく大きな鐘の存在に気がついた。時刻を町中に知らせるためにあるはずだが、今回この町に来てから鳴った記憶は一度もなかった。隅の方には梯子が置かれている。壊れて修理中なのかもしれない。

 

下の喧騒がまだ微かに聞こえるくらい、ここは静かだった。

 

(お師匠も十分強いと思ってたけど、あのネロってお姉さんも強いなぁ。前首都で会ったお師匠のお友達二人もそうなのかな。……僕の思ってる以上に、国家魔術師ってすごく強いんじゃ?助けてくれたお姉さんには悪いけど、事態が収まったらこのまま逃げよう)

 

姿を回りから見えないようにし、端に寄ったグレイはカリカリという音を耳にした。

 

「……?」

 

カラスだろうか。

 

不思議に思っていると、その音はだんだん大きくなった。そして、

 

「……っ!」

 

叫び声を出そうとした口を塞ぐ。

すぐ近くに、見覚えのある巨体が最上階に入り込んできたからだ。

 

さっき現れたものと似た、四足のネフィリムが外壁から登ってきたのだ。

 

(向こうから僕は見えてない。大丈夫、大丈夫だ……)

 

息をひそめて化け物(ネフィリム)の様子を伺う。その顔には大きな目がついていた。あちこちを見渡し、その目はぎょろりとグレイの方を向く。

 

グレイはこのとき思い出した。

 

アコラスが首都を出た直後に言っていた、ネフィリムは魔力子の有無で人や(ドーラ)を探知するという仮説を。

 

「あ……」

 

気がつけば、限界以上に開いた口がこっちを向いていた。

 

思わず目を瞑ると同時に大きな音がする。

 

しかし、いつまで経っても痛みは来なかった。

 

恐る恐る目を開けると、あの恐ろしい化け物はいない。ネフィリムは、反対の端まで移動していた。肩部に何か当たって、吹き飛ばされたように見えた。

 

「狙撃……?」

 

ちょうど下で掃除を終えたネロが最上階に踏み込んでくる。

 

「外から登ってくるなんて、大胆」

 

鎌の他に持っていたのは、先端に分銅の繋がった鎖。分銅側をネフィリムに向けて投げると、その体に鎖が巻き付き、動きを封じる。

 

そこでネロは小さな少年の姿がないことに、初めて表情を強ばらせた。

 

「まさか」

 

それが隙だった。

ネフィリムは拘束していた鎖を引きちぎり、ネロを上から殴りつける。

 

「ぐっ……!」

 

その衝撃で元々老朽化していた最上階の床は壊れ、両者は落下していった。

 

「お姉さんっ!」

 

端にいたことで床の崩落から免れることのできたグレイは、下を覗きこむ。

 

下は時計盤の階層だった。四方の壁それぞれに時計がついているが、そのうち一面の時計の歯車に瓦礫が挟まり、針が動かなくなっているのが見える。

 

起き上がったネロは即座に、横殴りをしてくる腕から逃れた。大きな動きの後にできた隙に乗じ、首目掛けて鎌を振る。

 

素人目に見ても、確実に息の根を止める一撃だった。

 

「やった!?」

 

しかし、ネフィリムの頭が落ちることはなかった。

 

「……ちっ」

 

当たった刃は首の表面で弾かれていた。

 

グレイは気がついた。ネロが右肩を庇うようにしているのを。彼女は落下のダメージで負傷しており、その分威力がでなかったのだ。

 

いつの間にか傷の消えた肩を震わせ、ネフィリムはもう一度腕を振る。それに合わせて腕を刈り取ろうとするが、今度は腕で刃をからめとられた。

 

「さっきよりも力が強くなって……っ」

 

大鎌の刃をがっちり掴まれて動かないネロに向けて、もう片方の腕が迫る。

 

「あ!」

「だいじょう、ぶっ」

 

固定された刃に変わって、長い柄が先端を支点に回転する。それと共に使用者(ネロ)も動き、肩に向かって蹴りを放つ。

 

大鎌が自由となった直後、先端部から岩石でネフィリムの腕を固め、動けないようにした。しかし岩石は砕かれ、一時しのぎにしかならない。

 

「ど、どうしよう」

 

(お姉さんが攻撃を食らっちゃったのは、僕のせいだ……。僕が、隠れてたから……)

 

グレイには戦う力はない。治癒系の魔術を使って、ネロを支援することもできない。

 

それでも何かできることはないかとあたりを見渡すと、同じく隅に落ちずに残っていた梯子が目に入った。

 

「……あっ」

 

横倒しに置いてある梯子を、何とか立て掛けて、上にぶら下がる鐘のところに登る。

 

「いくらあんな化け物でも、こんな重い物が当たれば一溜りもないはず!」

 

接合部を壊せば、青銅製の鐘は重力に従って下に落ちるはずだった。だが、接合部のネジは固く、手ではびくともしない。

 

「ああもうっ!こんなときお師匠みたいな馬鹿力があれば!」

 

より高くなった視界からは暗い町が見える。遠いものは小さく見えるのでよく見えないが。グレイはふと、ここで記者は双眼鏡で大神殿の様子を拡大し、覗いていたことを思い出した。

 

「……そうだ」

 

例えば虫眼鏡。

これで太陽の光を集めれば、黒い紙を燃やすことができる。光によって伝わる熱を集めることで、発火現象が起こるのだ。

 

この光によるエネルギーをもっともっと高めることができれば。

 

(金属部分を切断できるかも……!)

 

よく見ると、壊れている部位を示しているのか、黒いインクで丸く囲われたところがあった。

 

「今まで、高出力なんてできたことも、やったこともないけど」

 

いつも以上に、掌に意識を集中させる。

魔術により発生した光は、レンズがあるかのように曲がり、青銅上で焦点を作る。

 

「全然、威力が足りない……っ!」

 

もっと。もっと細く集中させろ。

 

視界の隅がチカチカし始める。自分の限界以上の力を行使しようとすれば、体に負荷がかかる。それに、今まで経験がないことを無理矢理行おうとしているのだ。急な働きに神経が悲鳴をあげ始めた。

 

だがまだ足りない。

 

バラバラな波を揃える感覚を練り上げる。そして、密度を高めていく。

 

「もう少し……」

 

頭が痛い。身体中を巡る血液が沸騰するかのようだった。

そのとき、グレイの手にポタリと赤い滴が落ちてきた。

 

血だ。

 

無理やり魔術を使おうとした反動がまた一つ現れていた。鼻血が出ていたのだ。

前にもこんな風に血がついたことがあった。新しい記憶は思い出しにくい。

 

『……怖いのか』

 

近くにいた大人の血を浴びてしまって縮こまる自分に、ぶっきらぼうにかけられた言葉。

なぜ、彼女はそんなことを言ったのか。

なぜ、自分には手を下すところを見せないのか。

 

それは不器用ながらも、ずっと――。

 

「言ってくれなきゃ、伝わらないんだよ馬鹿ぁ!」

 

目標がちょうど真下に来たタイミングで叫ぶ。

 

「お姉さん!落とします!!」

 

ネロはグレイの位置を把握しながら戦っていた。当然何か鐘に対して行っていることにも感づいていた。

とっさにその場から飛び退くが、ネフィリムはそれには追い付かない。声という音は届いていても、その意味は届いていない。

 

グレイによって落とされた重い鐘は、見事ネフィリムの体の上に落下したのであった。

 

胴体が挟まれて身動きがとれず、もがいている化け物に対してネロは、槍に似た形状へ変化させた大鎌もって近づく。筋力強化を最大にし、岩石で質量を増加させた一撃は、今度こそ頭に突き刺した。

 

「さよなら」

 

そのまま左腕による強力なフルスイングで、時計盤に叩きつける。その衝撃で歯車に挟まっていた瓦礫は取れ、針は再び動き始めたが、ネフィリムが動くことはなかった。

 

グレイは集中が切れ、体から力が抜ける。ふらりと倒れこむが、当然支える地面はない。

 

「あー、しまった……」

 

鐘がぶら下がっていたところから落下していく。だが、下にいたネロによって、その体は受け止められた。

 

「ありがとうございますぅ……」

「こっちこそありがとう。助かった」

 

降ろされ、そのまましゃがみこんだグレイは息を吐く。

 

「しばらく、こんなのはごめんです……」

 

今になって襲ってきた、焦げた手のひらの痛みをジンジンと感じながら。

 




ここの人類は、腕にナイフ貫通したのが「え?タンスの角に小指ぶつけたの?大丈夫?」くらいな認識の蛮族人類です。厳密には異世界人なので人類(正しくは地球人類)ではないです。あと、タンスの角に小指ぶつけるのはシャレにならんです。

イメージ的には、どこかの太陽系外惑星で地球と同じく発生した生命が、地球と同じように進化した結果、地球と同じような生態系になった、的なノリです。収斂進化みたいなものです。どんな確率だよ。
なので、私は毎週日曜朝八時半からプリキュアを見ている四歳女児なので難しいことはよくわからないのですが、仮に地球人類とズバコンしても子孫できないんじゃないかな、とか考えてます。


よくわからないなりに好物の異世界転移・転生ものを読んでいると、地球人と異世界人で交配した結果、子供が遺伝的欠陥を持たずに生まれてきますが、実は地球人と異世界人は共通の祖先を持っていた……?とか、異世界系は『神』などの超常的な存在がいることが多いので、その存在による干渉?とか妄想が渋ります。いや、そこまで考えてないよ、と言われればそれまでなのですが。
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