属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 999】

 

時計台にて。

 

「お姉さん、肩大丈夫ですか?」

「直ちに問題はない」

「でも治癒系の魔術は使えないと……」

 

グレイはネロの負傷を気にしていた。しかし、彼女は抜け落ちた天井を見やる。

 

「それよりも、この場所を手中に収めようとした理由とその対策が先」

「考えられる理由はいくつかありますが……」

 

うーんと唸った後、

 

「対策ならいっそ……」

「対策なら?」

 

グレイはためらいがちに、ごにょごにょと聞こえるか聞こえないかくらいで、続きを言った。

 

「その案はあり」

「え、正気ですか?ここ市街地ですよ?」

「可能性があるなら、可能な限り対処すべき。大丈夫。言いくるめのうまい人間がなんとかしてくれる」

「えええ……」

 

 

 

§ § §

 

 

 

直感的に避けた、その場所にいたのは長身の男だった。武器は持っておらず、顔を隠している。わかっていることは、こちらに敵意を持っていることのみだ。

 

「お前、何者だ」

 

さっき始末した者の仲間か。それともまた別か。

 

「それを知る必要はない。……残念だが、貴様らは死ぬ」

 

一呼吸の間もなく。

 

「っぐぅ!!!」

 

近くで、オレと同様に相手の様子をうかがっていたレドが、吹き飛ばされた。

あれは、……殴られたのか?

 

「レド!」

「心配している暇はないぞ」

「あ」

 

避けられず、防御もできなかった。今度は食らったことで知覚する。殴られたのだ。

 

「そんな……!」

 

並みの反応速度ではないはずのオレも、対応できなかった。後頭部に地面が当たる。

そこに二擊目が来た。拳が顔の横を通る。考える間もなく、ただ、反射的に首を動かした。カウンターとして、胴体を狙った前蹴りは空振りする。

 

オレが転がるように体勢を立て直したところを見計らい、炎の斬擊が何発も飛んでくる。だが、

 

「実に腑抜けた魔術だ」

 

拳を振るって相殺された。

以前オレは食らったとき、不意打ちとはいえ、壁を突き破って外に吹き飛ばされたぞ!?

そもそも、背後から来た炎自体を拳で打ち消すとかおかしいだろ!

 

「非常に多くの魔力子を保有しているようだが、ほとんど活用していないな。随分となめられたものだ」

「グダグダ喋りやがって!!!随分となめてんのはそっちの方だろうがっ!」

 

何発も拳を振るう。

 

「もう片方は、奇妙だな。ここまで魔力子を持たない人間を見たのは、初めてだ。しかしこれは……」

 

オレの一撃一撃はあしらわれていく。

それにしても戦っている最中なのに、意味もなく余計な口をきく。さてはこいつ……、頭が悪いな?

 

「流派や型もなく、ただその恵まれた身体能力によって、力ずくで解決してきたか」

 

鋭い蹴りすら、最初から当たらなかったと思わせる軌跡を描いた。しかし、見てから対応されている。

 

「先程の怪我もすぐ治ったようだ」

「あいにく、オレはそれだけが取り柄なんだよクソが!」

「にわかに信じがたいが、どうやらこれらは、全て魔術なしで成し遂げられているらしい。ふむ、魔術師相手より見えにくい。厄介だな」

 

防戦していた男がふいに手を伸ばし、オレは顔面を地に叩きつけられた。

 

視界が暗くなる。

 

「ごめん!」

 

声が聞こえた後ぐるぐる回った。軽く蹴飛ばされたのだ。転がる間も打ち合う音が聞こえる。止まったところでガバッと顔をあげると、男とレドが向き合っている。

 

「知っている動きの癖だ。山岳地帯の出だろう」

「よくそんなこと、わかったなっ!」

 

点ではなく、面の熱攻撃には、あらかじめ来ることがわかっていたかのように、再び避ける。

 

「読まれてる……!」

 

レドが剣を男に掴まれていた。斬りかかったのを止められたのだ。掴んでいた男の腕が炎上する。

 

「この精度は器用というより、もはや病的というほうが正しいな」

「これで怯まないあんたもおかしいよっ!」

 

レドは受け止められた剣を片手で持ち、空いたもう片方の拳で対処しようとする。

「貴様の魔術なら、人を消し炭にするなど簡単なことだろうに」

男は、小さな声で何かを言った。

 

「いってぇっ!?」

 

不幸にもオレはレドに激突され、悲鳴を上げてしまった。

 

「動揺しても、咄嗟の防御はできる。いい反射神経だが惜しい」

 

どうする。

逃げるか、戦って倒すか。

片腕が焦げているものの、まだ動けそうな相手を見据える。

少し戦ってわかった。現状、オレには打開策がない。逃げても追いつかれる。戦っても返り討ちに遭う。それ以外の未来が見えない。

あと、上のレドが重い。早くどけ。

 

とにかく、冷静に状況を見極めなくては。

この男が使っているのは、純粋に身体強化の魔術か?

一括りに身体強化の魔術といっても、様々。攻撃や防御、スピード、反射神経……。ほとんどは肉体を一時的に変質させることで向上させている。

目の前の男は、文字通り身体能力が通常と比べて強化されている。恐らく、ありとあらゆる身体能力が。しかも動きに無駄がない。強力な肉体を、最も効率よく動かしている。

あと、なぜかオレに魔力子がなく、魔術を使っていないことを見抜いた。加えて、オレの攻撃は魔術師よりも見えにくいだの、厄介だの言っていた。

 

……こちらの方がにわかには信じがたいが、相手には魔力子が見えている、ということだろうか。こんな芸当のできる人間がいるとは、聞いたことがないし、信じられない。

 

魔力子が見えるということは、レドによる魔術の範囲攻撃は、当たる前から読まれている。

オレの攻撃の速度では、動きを読まれていなくても、反応されて避けられてしまう。

……事前に読まれることなく、反応されなくても避けられないような、魔術を直接使ったわけではない、強力な範囲攻撃。今そんなことできるか?

 

いや、利用できる物は全て利用するんだ。

手持ちの武器が全然ない。ここにあらかじめ仕掛けも施していない。街中であればまだ建物を利用できたかもしれないが、ここにあるのは……。

 

独特の、油の臭いがオレの鼻をついた。

たまたま、転がった場所の近くには、残された奇妙な砲弾があったのだ。手に取って、もう一度様子を確認する。

 

相手は余裕そうに、こちらの出方を見ていた。つまり油断している。時間はある。

 

「ふんっ」

「あいたっ」

 

鼻血を拭って、今考えたことをレドに話す。

 

「んな無茶苦茶な!失敗したら……!」

「失敗したら、少し怪我するだけだって!このくらい器用なこと、お前ならできるだろ!」

「ちょっ……!」

 

オレは砲弾を何発も投げた。そのわかりやすい投擲は容易に避けられたが、地面に当たると中からは、ドロドロした液体が流れ出てきた。それを見た男が言った。

 

「これは……油か?」

 

この砲弾が何かを知らない?いや、それを考えるのは今じゃない。オレはその場から飛び出して、殴りかかった。

 

「火でもつけるつもりか」

「どうだろうなぁっ!!!」

 

威勢のいい返事をしてみたが、単なる炎じゃ無駄だろう。レドが剣先を流れた油についている。

 

「小細工をしているようだが」

「いちいちペラペラ良く喋る!うるせーんだよ!!!」

 

拳を腕で受け止める。体の芯から鈍い音がした。痛みのせいか、他の感覚も鋭敏化して、独特の臭いが立ちのぼるのがわかる。だがかまわず、相手の腕をつかむ。

 

「むっ……」

「力じゃこっちに分があるみてーだ……!」

 

ミシミシと相手の腕から音がする。捨て身でようやく一矢報いた。

 

「おい、おっさん。アバドーンの、オーキッド派の人間か」

 

返事は蹴りだった。もろに食らってしまったので、また地面を転がって土が口に入る。ただ、時間稼ぎにはなった。

 

「今だ!!!」

「あああ!どうなっても知らないから!」

 

レドの叫びと共に、冬の空気と混ざった揮発性の高い油に火が飛び込んできた。

直後、男のいた場所が大きな炎を上げて大爆発した。

 

 

 

「よし」

「よし、じゃないでしょうが……」

 

想像以上の爆発だったのか、レドは青ざめていた。まあ、威力の話は伝えてなかったので、このあたりはオレに騙されたようなもんだな。なんか基本的に燃やすの嫌がってたし。

 

砲弾の中に入っていたのは単なる油ではなかった。

 

石油、と呼ばれるものがある。なんと地面から出てくる油なのだ。ほとんどはランプの燃料として利用されているが、余分な分は捨てられる。しかし、これがよく燃えるので取り扱いには気を付けなくてはならない。それが砲弾の中に入っていた。砲弾自体に爆発したり、火のつく機構はなかったが、さっき交戦した誰かの中に多少魔術を使える者がいて、それで補おうとしたか。この町の北側は石造りの家が多いが、南側は古い町並みで、木造の建物が多い。それを狙っていた可能性がある。ともかく、この油のことを知っていてよかった。

 

「あの男の近くの油を温めて気化させた後、その見えない気体を散らばらないようにしろ、とか無茶にもほどがあるし、ここまで燃えるなんて……」

 

気体となった油は空気よりも重い、らしいので、下に沈むことはわかっていた。あと何回か爆発したところを見たことがあった。それで、なるべく男のところにとどまるようにうまいこと気化させて、合図に合わせて着火して距離を取れ、とレドに話したのだ。

察知されて直接魔術で燃やせないなら、普通に広範囲を爆発させればいいじゃん、ということである。

正直なところ、たぶん自分たちをまきこんで爆発かなと思っていたのだが、うまくいってよかった。もし巻き込まれたとしても、同程度の負傷ならオレの方が動けるので、それはそれで何とかなるだろうと思っていたが。

 

爆発による炎が弱まる。人影を確認しようとすると、

 

「待て。……人の、焼ける臭いがしない」

「は?」

 

煙が、晴れる。

 

「今のは中々危なかった」

「化物かよ……」

 

思わずうめき声に近い、低い声が出た。

 

ところどころ火傷はあるようだが、未だに男は健在だった。大きな熱量を伴う爆発でも、ピンピンしているとか、防御力がおかしい。

 

その時、町のほうで大きな音がした。全員の注意がひきつけられる。

 

「時計台が崩れた!?」

 

壊れていく時計台。いったい何が起きて……。

 

「なぜ……」

 

目の前の男も状況を把握できていないようだった。こちらを一瞥したのちに、暗闇に消えていた。

 

ずっと張りつめていた空気が緩む。

 

あの男が何の目的で来たのか、今どこに向かったのかわからずじまいで。

それでも少し立ち上がれない。体のあちこちが痛い。いつもこんなのだな。

……悔しいが、相手の撤退で助かった。

 

いや、ここで寝ころんでいる場合ではない。考えることをやめてはいけない。いつの間にか荒くなっていた呼吸を整えて立ち上がる。

 

「今の時計台、内側に崩れるように壊れていった」

「この距離と暗さで良くわかったな!?爆破されたようにしか見えなかったけど」

「爆破かどうかはわからないが……、まるで周りに破片を飛び散らせないよう意図的に、安全に解体した……?」

 

誰が。何のために。考え込んでいると、

 

「……なんで、そんなに爆破に詳しいんだ?」

 

だから、爆破かわからねえって。

でも。

なんで。なんでか。最初に習ったとき言われたのは。

 

「……生き残るため?」

 

レドは微妙な顔をした。なんでだ。

 

もう一回、時計台があった方を向く。ここからは南の地区が良く見える。

……あ。

 

横目でレドの様子を窺う。状況的にさっきまで共闘し、今も妙な空気が流れているが。今この距離なら、不意打ちで頭を殴ることができる。

なぜかレドがくるりと別の方向を向く。後頭部が見えた。

どうしよう。やってしまおうか。

 

「あー、しまったなー。この弾よくわからないから、処理しておかないとな―」

 

思いっきり棒読み発言だった。

 

「へ……?」

「それに今の男、探さないとな―」

 

やっぱりドン引きするほど棒読み発言だった。

 

「こっちで手一杯だなー、誰かの追跡なんて無理だなー」

 

……これは行っていいのか。いいんだろう。

何も言わずにオレは走って再び南側へ、大神殿へ急ぐ。

 

 

 

§ § §

 

 

 

町は時計台の最上階の床が崩れ落ちた音に騒然とした。それだけではない。南側の古い町並みではボヤ騒ぎがあった。その裏路地を駆け抜ける二人組。一人は弓や矢を背負い、銃も持つという不思議な装備で、もう一人は盾を持っていた。

 

「おっかしいな。僕の仕事は治療が主なはずなのに、どうして狙撃しているんだろう」

「……」

「あ、リーン。何かあったら、ちゃんと守ってね。マスケットと比べると再装填には時間かかるし、今みたいにこうして移動が必要だし、何より僕は撃たれ弱いから」

「……」

 

返事はない。

 

「リーン?」

「……けっ」

「リーンさん!?」

 

盾を持った方の少女、リーンが地面につばを吐き捨てる。

 

「ぺっ」

「僕と組まされたのが、そんなに不満だった!?」

「本当なら今頃、可愛い少年とキャッキャウフフな素敵な時間を過ごせていたのに……」

「それは嘘でしょ。新年の予定を捏造するのはやめよう?」

 

禁断症状だ、と内心警報が鳴り響くヴァイスに、リーンは首を振る。

 

「ううん。可能性はゼロじゃないの。万が一そういうこともあるかもしれない。もしかしたら、天から小さい少年が降ってくるとか……」

「もうそれは事件か事故だから。キャッキャウフフする暇はないかと」

 

少女の目は限りなくよどんでいた。

 

「私は、空から降ってきた、小さな男の子の下敷きになって、死にたい……」

「駄目だこれ。そもそもリーンの防御力だと、人が一人降ってきたくらいじゃ死なないよね」

「そして、来世は善玉菌に転生して人々、主に少年の健康を腸から見守り、その徳で来来世は私自身が永遠に小さな少年になりたい……」

「アウトだこれ。そもそも頭が狂ってしまっていて、とても気持ち悪いという感想しか出てこないよ。小さい子見ても、襲い掛からないでね?」

 

リーンはフフフと笑う。

 

「もう、ヴァイス君ったら失礼なんだから。そんなことするわけないでしょ?私は待てができる女だから」

「待つどころかフライングしてない?スタートラインぶっちぎってない?」

「ふっ、私には遠い向こうにスタートラインが見えるの。私の人生というロードはまだまだこれからだもん」

「そのスタートライン見直した方がいいと思うよ。……ん?」

 

ヴァイスは気がついた。上から何かが来る。後ものすごい轟音が聞こえた。

 

「ほらきたああああああああ!空から少年が降ってきたあああああぁぁぁ」

「壊れてしまったか」

 

目の前にネロが着地した。なぜか、小脇に十歳くらいの少年を抱えている。

 

「マジで壊す人がどこの世界にいますか!?」

「ここにいる」

「でしょうね!!!」

 

ネロはグレイにぎゃんぎゃんと怒られても、どこ吹く風と言った様子だ。

グレイは少し前のやり取りを思い出した。

 

『対策ならいっそ……、時計台、登れないくらい壊してしまえばいいんじゃないですか?』

『その案はあり』

『え、今すぐやるんですか!?正気ですか!?』

『えい』

 

(まさか、適当に言ったわけではないとはいえ、本当にやるとは思わなかった。すぐに壊すとは思わなかった……!)

 

いくら最上階部がすでに破壊されていたとはいえ、周りに注意勧告しないまま、柱を壊し始めるとは思わなかった。構造的にどこを壊すのが一番マシか、慌てて言う羽目になったのである。この間爆破関連のあれこれを聞いておいてよかった、と胸をなでおろす。

 

倒壊する建物から脱出して、ようやく地面のありがたさを実感したグレイは辺りを見渡す。その視界にリーンが入った瞬間、彼女はごくごく普通の笑顔を浮かべた。

 

「こんにちは。……あれ、どこかで会ったことないかな?」

 

突然挨拶をしてきた優しげな少女に、グレイは困惑した。

 

「え?あの……ごめんなさい、どちら様――」

「初めまして!」

「リーン、君切り替え早いね」

 

白も黒に完全に塗りつぶされる勢いだった。

 




私疲れてるんですかね。
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