属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 999】

 

目を見開いたクリュティエが、オレを見下ろしてくる。

 

いやおちつけ、今は一応化粧もしてるし、カツラも被っているし、服装もこんなんだし!以前あったときは帽子をかぶっていたし!向こうは気がついてない!平常心!落ち着け!!!

 

万が一、向こうが気がついていたとしても、『今回』は仮面で顔を隠したクリュティエとしかあったことがない。つまり、クリュティエは『オレが気がついた』という発想には至りにくい!そこが隙だ。

 

「……ぇさま……」

 

あまりにもか細い声で、何かをささやいた。オレの耳でも拾いきれない。……変だ。心底驚いた顔をして、呆然としている。バレたにしては様子がおかしい。

 

「そんな、はずは……」

 

ぶつぶつ言っていて、これはこれで怖い。そぉーっと立ち上がると、クリュティエは突然奇妙な質問をしてきた。

 

「あなた、ご出身は?」

「は?え、えっと、わかんないです」

 

この国は孤児も多いし、自分の出身がわからないなんて珍しくもないだろう。実際知らねーし。しかし、どこがそんなに気になるのか、オレの返答にさらに身を乗り出してきた。

 

「……っ!おいくつ?」

 

今はN.C.999だけど、誕生日わからんから年が変わると同時に年齢を加算するとし、肉体の機能的にはプラス五歳と考えて、

 

「じゅ、十七くらいです」

「……そう、そうよね」

 

何かに納得するようにうつむいた。そして、

 

「……いきなり、変なことを聞いてごめんなさいねぇ」

 

……?

 

…………え???

 

謝った!?オレに!??!?

 

「おや、マイアさん。いらっしゃい。今日はどんなご用で?」

「こんにちは、デイビーさん。今日は……いえ、また今度うかがいますわ」

 

やはり、オレが先日湖で電撃を食らわせた人物だと、気がついていない?もしくは、この人物はクリュティエではなく、ただのそっくりさんなのかもしれない。

 

「尻もちついてしまったみたいだけれど、大丈夫?」

「ぜんっぜんっ平気ですので!」

 

手をぶんぶんと振り、平気アピールをする。しかし、この推定クリュティエは妙に優しく、かつ、押しが強かった。

 

「お詫びにお茶でもご馳走するわ」

「…………えっ」

 

あああ!?このクソババア何言い出してんの!?そんなしおらしいやつじゃなかっただろお前!!!

意味のわからなさのせいで、服の下で鳥肌が止まらない。

 

「それにこちらの勘違いで、変な質問をして困らせてしまったし」

「いや、あの、別にそんなことは」

「近くに良い喫茶店があるの。ね?」

 

なんとしてでも、この場を切り抜けなくては。

 

 

 

§ § §

 

 

 

「何でも遠慮せずどうぞ」

 

ダメだった。

 

一緒に近くの喫茶店(未だかつて入ったことがない雰囲気だった)に入り、向かい合って座っている。机の下でオレの足は帰りたい帰りたいと言っている。これは幻聴ではない。

 

しかし、いったいなんのつもりだ。本当に、ただのそっくりさんという可能性もあるのか。そう考えると元気が出てきた。

 

「自己紹介がまだだったわねぇ。私はマイア」

 

うぎゃあああぁぁぁぁぁああああ!?クリュティエが表向き名乗っていた名前だぁぁぁ!!!!!?

 

「あなたは?」

 

心の冷や汗が止まらない中、宿屋で書いた偽名を必死に思い出す。猫が作ってくれた偽名リストからどれ使ったっけ……。

 

「アルセです」

「そうなのねぇ。アルセさん、っていうのねぇ」

 

クリュティエはメニューを指差した。

 

「ほら、このケーキなんかどう?」

 

お茶奢るって言ってたじゃん!なにお菓子薦めてんだよ!?違うじゃん!!!なんだ?毒でも仕込むのか。

 

「その、オ、……私、あんまり甘いもの好きじゃないので、その……」

「……そう」

 

笑みで目を細めている。怖い。

 

「いいいやや、折角なのでいいいただきますっ」

「うふふふ、嫌いなものなら、無理しないで。どういうお味がお好き?」

 

うっっっっっっっそだろ、お前。

好き嫌いなどしようものなら、即暴力だったじゃん。

 

「辛いのとか……」

「このあたりはスパイスが使われているから、少しピリピリとした味がするわねぇ」

 

メニューの一覧の中で、与えられる情報量に対して得られる情報量が何もない謎の名称を見せられる。オレはこくこくとうなずくことしかできなかった。

 

 

 

お菓子がきた。

 

運んできたウェイトレスと親しげに話しているクリュティエは、今オレに注意を向けていない。

ちょっとホッとしたので、皿をくるくる回して、見た目を観察する。赤くて辛いのが入っているようには見えない。

 

「どうぞ?」

 

ウェイトレスとクリュティエはクスクス笑ってみていた。ちっ、見世物じゃねーんだぞ。

 

しぶしぶ食べてみる。

 

「……ほんとだ。甘いけど、辛いやつと舌がちょっと同じ感じになる」

 

もう少し辛くてもいいんだけどな。味が繊細だ。もっと雑でいい。

 

「美味しい?」

「うん」

「そう、よかったわぁ」

 

……ハッ。

 

不覚にも普通に食べてしまっている。チラッとクリュティエを確認すると、目が合った。ニコニコしていて別人みたいだ。

 

いつもオレを見る目は、不機嫌そうだったのに。

 

「……アルセさんを見ていると知人を思い出して、懐かしくなっちゃったわぁ。あの人も、食べるのに一生懸命になるタイプだったからねぇ」

「は、はあ」

 

食べるのに一生懸命ってなんだよ。何かの隠語か。

 

……今のクリュティエに限らずだが、人に食べる様子を眺められることが多い気がするのはなんでだろう。見ていても面白いことは何もないというのに。

 

「こんなこと言われて困ると思うけれど、あなた、知人と似ているのよねぇ。……見ればみるほど、本当にそっくりな気がしてくる」

 

髪はカツラだから、似ているのは気のせいだぞ。

 

「もう十年以上、その人とは会ってないし、どこにいるかもわからないのだけれど、もし……いいえ、忘れてちょうだい。私の単なる、勘違いだったから」

 

……オレとその知人が似ているから、なんなのだ?似ていたところで別人だ。

 

「どうかしら?お茶も美味しいでしょう」

「そうですね、雑草入ってない味です」

「ここでそんな粗悪品の茶葉を使った紅茶を出されたら、ビックリよぉ?」

 

そうか……、ここ、やっぱり高いんだ……。あとでカツアゲとか、されるのかな……。

 

「この町の人ではないみたいだけれど、観光?」

「はい、海を見に来たんです」

 

別に海は見ていないし見る予定もないが、グレイが考えた理由を言う。

 

「やっぱりそうなのねぇ。晴れた日に朝焼けが見えるとキレイだから、見れると良いわねぇ」

 

その話、誰かから聞いたような……。気のせいかな。それとも忘れてしまったか。

あまり詮索されたくないので、話題を変える。

 

「オ、私に似ているっていう知り合いの人、どんな人だったんですか?」

「そうねぇ」

 

クリュティエは頬に手を当てた。

 

「……調子に乗ると失敗、あっ、いえ、キレイな人だったわぁ」

「今言い繕いませんでした?」

「年上で優しくて、あの頃の私にとっては大人で、でも少し子供っぽいところもあって、大切な人だった。……二人で国境を越えるとき、あの人には助けられたわ。この国まで来てからしばらくして、離ればなれになってしまったけれど」

 

国境を越えた、って……。地味にクリュティエが他国から来たことを初めて知った。こいつが今、本当のことを言っているかどうかなんてわからないのは置いておいて。

 

「どうしてその人は、その……」

「さあ、どうしてでしょうねぇ。ある日突然、いなくなってしまったから。……何を考えているのかなんて、本人にしかわからないわよね」

 

ふんわりとあがる紅茶の湯気で、クリュティエの顔が揺らいで見えた。

 

 

 

「ご、ご馳走さまでした……」

「あらあら、そんなにかしこまらなくてもいいわよぉ。こちらも、お詫びのつもりだったのだし」

 

クリュティエは懐から紙を取り出し、渡してきた。

 

「はい、名刺。私は輸入品を扱う商会をやっているの。ここであったのも何かの縁だし、困ったことがあったら、いつでも連絡してね」

 

コーパル商会という名が載っている。あー、なんか聞いたことがある気がする。くそ、前のオレはなんでもっとこういうことに興味を持たなかったんだ。住所はここから遠くはない。

 

「これからの予定は?」

 

オレは鞄を漁る動きをやって見せる。

 

「今日はこのまま宿へ……あっ、落とし物しちゃってたんでした。探しにいかないと」

 

頬を人差し指でかきながら、クリュティエの出方をうかがう。すると彼女はポンと手を叩いた。

 

「そうなの?手伝うわ。早く見つけたほうがいいでしょう?」

「そんなっ。今日初めてあった人なのに、お手を煩わせる訳には」

「いいのよいいのよ。さっきまで晴れだったのに、今はもう雨も降りそうな感じだから」

 

 

 

§ § §

 

 

 

「ここ?」

 

さっきの通りや喫茶店とはかけ離れた暗い路地裏に、オレとクリュティエはいた。

 

「少し迷子になって、変な道を通ってしまったんです。色々探したんですが、途中でお店に入ったりして寄り道しちゃったので、ここだけはまだだったんです」

「もう。気をつけなさい?世の中物騒だから」

「ええ。そうですね。気をつけます」

 

隠し持っていた刃物を手に忍ばせる。

 

「本当に、最近は物騒ですから……」

 

 

 

完全に隙だらけの背中だ。

 

 

 

アイリスと幸せに暮らしていたのに、コイツが来て何もかも全部壊された。

 

アイリスに手を引かれて、コイツの下から逃げ出して、助けを求めて、それで───。

 

上がる煙。

 

銃を手にしているのは───。

 

目の前が真っ赤に染まった。

 

ああ、そうか。オレ、コイツが憎いんだ。

 

コイツ(こいつ)さえ、いなければ。

 

 

 

「……下手な嘘ね」

 

 

 

完全に死角からの刺突を防がれた。深く深く刺そうとしていた刃物は、水のベールで動かない。

 

「くっ……!」

 

ナイフを手放してバックステップした。すかさず水の鞭が追撃してくるのを避ける。

 

「あなた、誰の手先?」

 

水の制御射程から外れ、睨み合う。クリュティエの周囲には、ゆらゆらと水の塊が蠢いた。

返事をせず、どの方向から攻めるかを考え、再突撃する。

 

「……残念だわぁ」

 

飛んできた水の鞭を、ナイフで瞬時に切り裂くことで水を制御不能にする。連続体として体と触れあっていなければ、魔術として動かすことはできないからだ。

 

クリュティエも周囲に戦闘を察知されるのは嫌なようで、比較的ぬるい攻撃だ。まあ、あれだけ町の人たちと親しげに話していたのだから、当然だろう。

 

その時、いくつにも枝のように分かれて動く水の、見える位置と実際の位置がずれた。

 

以前グレイに話したとき、もしかしたら透明度の高い水を利用してどうのこうので屈折率と光がうんたらの結果ずれて見えるのかもしれない、と言っていた。うーん?

 

壁を蹴って高く跳躍し、直感を頼りにナイフを投げる。狙いは見えない水の壁と体の間だ。

 

水の壁が崩れ落ちることで気泡を含み、確かにそこにあった水が見えた。制御用と設置用。どちらも見えない水にしないのは作るのが面倒で、制御にまで手が回らないからか。

 

目を張るクリュティエを捉え、蹴りを放った直後、瞬時に足を引く。

 

「ちょこまかと……っ!」

 

水に取っ捕まらない方法を即興で考えた結果、相手が反応するより速く動けばいいのでは、と思ったがうまくいった。

 

クリュティエの正面に来たところで、前方から集中した水の塊が迫る。

 

それに向かってオレは走り───驚く顔が見える───、クリュティエごと飛び越えて背後に着地する。思ったよりも跳んで自分自身でも驚いた。

 

「ぐっ!」

 

焦ってこちらを振り向いた彼女を力ずくで組敷いて首に刃を突きつけると同時に、水の刃がオレの回りに展開された。

 

暗い路地裏で、クリュティエの顔にオレの体による影ができる。

 

「このまま私を殺すつもり?できるかしらぁ?」

「……お望みどおり、やってやるよ。オレのほうが速い」

 

不可解にも笑みを浮かべている。その顔にかかった影が揺らめいた。

 

とっさに上を見上げる。

 

「あらあら、バレちゃった」

 

そこにあったのは大質量・広範囲の水。

 

そのまま天地が回転する。

 

「ぐぅ!?」

「いつでも自分のほうがよく動けるなんて、油断しちゃだめよぉ?」

 

……下にいたはずのクリュティエに、このオレが投げられた!?

 

水が降ってくる!避けられない……っ!

 

苦し紛れに顔に向かってカツラを投げ、切りかかったが、腕をかすっただけだった。

 

「がはぁっ……!?」

 

水で地面に押し付けられる。

 

「近接格闘できるなんて知らねーぞ!?このっ……ごぼっ!」

「普段はそんな野蛮なことしないわぁ?」

 

顔にまで水がきた。しかし、暴れようにも暴れられない。

 

「あらあら、雨が降ってきたわねぇ。うふふふ、痕跡も消せるしちょうど良いわねぇ」

 

乾いた地面と濡れた地面の区別がつかなくなっていく。水で滲んだ視界に、カツラを拾ったクリュティエが見える。

 

「ここで騒ぐと、周りにバレてしまうわぁ?お話はあとで、じっくりと聞けるところで、ね……」

 

ガンと顎を下から蹴られ、脳が揺さぶれた。

 




繰り返してもまだ成長できない(おんな)
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