属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C.999】

 

「人間と馬の数は合わせて150」

 

どうして、なんで、こんなことしなければいけないんだろう。

 

「人間と馬の足の数は合わせて508」

 

苦痛を感じながら読み上げる。

 

不本意にも、クリュティエの『手伝い』をしなければいけなくなったはずのオレは、

 

「このとき人間は何人か。……知るかぁぁあああ!何に使うんだこんなもん!!!適当に大体40から50だろ!」

「いいから黙ってやりなさい」

 

なぜか勉強させられていた。

 

 

 

クリュティエと二人っきりというテンションだだ下がりの空間で、筆記用具を相手の眼球めがけて投げるも防がれ、ぶん殴られる。再び半強制的に筆記用具(投げたもの)をオレに握らせたクリュティエはため息をついた。

 

「……アコラス。あなた、本当に軍魔術師学校卒業したの?定期的に筆記試験あったでしょう。どうしてたのよ」

 

ぐぬぬぬ。

 

やたらと今までどう生きてきたのかを聞かれ、最初は無言を貫いていたのだが、ものすごくにらんでくるので、ちょっと軍や学校にいたことがあるのは話してしまったのは失敗だった。

 

「じゃあ読み書きと四則演算なんて簡単すぎるわねぇ」とにこやかに言われ、あれこれ質問されるうちに目はちっとも笑わなくなり、渡してきたのは今読み上げた恐怖の紙束。

 

問題がたくさん載った紙を渡された時の絶望を振り返っていると、返答をせっつかれる。やめろ、ちゃっかり手を触るな。

 

「……わかんない単元の試験でも、何問かは宿題と全く同じやつがあったから、なんとかなった」

「そのときの宿題は」

「ち、知人、いやちょっと違うな、まあそいつに教えてもらってた」

()()()()()()()()?」

「……やってもらって、丸覚えした」

 

さらに大きなため息をつかれる。

 

仕方ねーじゃん。まず何に使うのかよくわからん。わからない単語もちょいちょい出てくる。それでだいぶ頭が混乱してしまうのだ。

 

「例えば、この!三角形の面積なんて、いちいち計算できなくてもいいだろ!たぶんこれ、オレの親指の爪11.5個分くらいの大きさだと思う!騙されたと思って数えてみやがれ!」

「嘘言うんじゃ…………………………あら本当だわ」

「ほら見ろほら見ろ!」

 

間髪入れずにファイルで頭を叩かれた。その勢いを借りて机に突っ伏す。

 

「こんなのやって、なんの意味があんだよ……」

「そうねぇ。私が楽しめる……嫌がらせ、かしらぁ?……はあ、本当に何の意味があるのかしらね」

 

こうした苦痛な時間のあとは、商会の雑用をやらされた。勝手に『身寄りを亡くしたので、遠い親戚を頼ってここに来た』と言うことにされ、人の目があるので殴りかかることもできず、クリュティエに連れまわされたり、掃除をしたり(すでにプロの仕事でキレイであった)、あっちへこっちへパンチカードや文書を言われるままに持って行ったり(これくらいしかできない)、あれやれこれやれと教えられたり。……そういえば、拾ったパンチカードは上げ底ブーツに隠しているが、あれは何なんだろう。

 

時々商会の人たちとは雑談をしたり、お菓子をもらったりしている。ほとんどは一般人みたいだが、今飴をくれた人みたいにアバドーンのやつも混じっている。……前から人にちょくちょく食べ物をもらうことがある。何かがおかしい。

 

紙にガシャンガシャンと(あな)を開けている従業員が、クリュティエに話しかけている。

 

「ご親戚なんですってね。真面目で良い子ですね」

 

良い子だったら、人を後ろから襲ったりはしないと思うけどな。

 

黙々と紙を揃えてまとめるだけの単純作業をしていると肩に手を置かれる。クリュティエが周りに聞こえない声量で語りかけてきた。

 

「死んだ目ねぇ。せっかくかわいい服装にしてあげているのに、もったいない」

「こういうの嫌いだ」

 

この女、なぜかヒラヒラフワフワした服を着せてくる。動きにくい。スカートの中に物が隠しやすい以外、何のメリットもない。ついでにカツラも据え置きだ。

 

「せめてオレのブーツ履かせろ」

「ダメ。そのスカートに合わないから」

「合うのにしろよ」

「今あるのだと短いスカートになるけど、いいかしらぁ?」

「うぐっ……」

 

 

 

こんな感じで、服装という嫌がらせにもめげず、雑用をこなしていたところ、「ちょっとついてきなさい」と、町の栄えたところにある建物から倉庫に併設された建物まで引きずられていった。先日皿を割って机をひっくり返した部屋に入ると、立っているヒューを傍らに、ちょこんとグレイが座っていた。オレの姿を見て目を丸くする。

 

「うるせー……」

「お師匠、僕まだ何も言ってませんよ」

 

この服どうにかなんねーかな。慣れていないのでうまく気配を薄くできていないし、チラチラ見られることが今までより多くなった気がする。長いこと人の視線から避けてきたせいか、余計落ち着かない。

 

「お前は何やってたんだよ」

「え?ずっと軟禁でしたけど」

 

パッと見、元気そうだ。本人の言う通り、軟禁されていただけなのだろう。

 

あの時どうすればよかったんだろうか。グレイには姿を徹頭徹尾隠させ、温存しておくべきだったのだろうか。オレには反撃の手段は無かったから、あの場にこいつがいなくても、こういう形になっていたと思うし。

 

……グレイがクリュティエに逆さにつられる原因となった言葉。あれをグレイは注目が集まるのをわかって、あえて発言していた。その結果、ヘイトが自身に向いて、クリュティエがどういう行動をとるのかも考えていただろう。……たぶん、オレに『人質に取られるだろうから自分は切り捨てろ』って伝えていたんだよな。怖……。

 

四角いテーブルを囲む。続いてクリュティエがオレの右隣に座った。

 

「要件はなんだ。ずるずる人のこと引きずりやがって」

「言ったでしょ?ちゃーんと手伝ってくれるのなら、……あなたが知りたいこと、教えてあげる」

「けっ、もうさんざん小間使いさせられてるけどな」

「あんなの手伝いのうちに入らないわぁ」

「まだなんかやらせる気か」

 

顎をつかまれ、無理やり顔を右隣に向けさせられる。毎回毎回顔見てくるのは一体何がしたいんだよ……。『前回』は目を合わせてくることなどほとんどなかったのに。もうすでに目と目が合った回数が『前回』を越えた。

 

「あらぁ?教えてほしいんじゃないの?」

「……やっぱ、お前の言うことが、ほんとかどうかもわからねーし」

「うふふふ。情報を手にいれて、信じて用いるかどうかはあなた次第よ」

 

うまく反論できないので睨みつけ、威嚇した。しかし、なぜか機嫌が良くなってしまったので、実はこいつはメチャクチャ変なやつなのかもしれない。

 

グレイはオレたちの会話の様子を見て困惑していた。

 

「な、なんか、あれ?お二人は距離近くないですか?……うわっ、椅子ごと後退した」

 

気持ちの悪い言葉に反発するため、全力で机自体から離れる。相変わらずクリュティエは悪辣な笑みを浮かべ、非常に楽しそうだ。

 

「回りくどい。さっさと話すなら話せ」

 

今ここで、本気で逆らっても勝てない。こいつの言うことを聞くしかないのは、頭ではわかっている。

 

「仕方ないわねぇ。でもまず、そっちのおチビちゃんに自己紹介しないと。私はクリュティエ。そこで立っているのがヒュー。何か困ったことがあったら、彼に言ってちょうだい」

「は、はい、クリュティエさんとヒューさん……?」

「それで私たち、色々話したんだけど、しばらく手を組むことにしたわ。名前は確か……グレイくん、だったかしら?よろしくねぇ」

「えっ。……よろしくお願いします」

 

グレイは戸惑ったようにオレを見てくる。ついこの間までバリバリ対立していたが大丈夫なのか、といった目だ。その不安はクリュティエにも届いていたようで、

 

「大丈夫よぉ?心配しなくとも、私たち仲良しだから」

「んなわけあるかぁ!!!」

 

さらにさらに気持ちの悪いことを言ってきた。椅子ごとガタガタ戻ってきて抗議をする。

 

「あらあら悲しいわぁ」

 

クスクス笑っているので、全く悲しそうには見えない。うげー……。こっちはげっそりしてしまう。よくわかんないけど、端でヒューも疲れた顔をしているぞ。

 

「さて、お遊びも楽しんだところで、どこから話そうかしら。そうねぇ……、利用法なんかではなく、魔力子自体の研究が最も流行したのはいつ頃だと思う?」

 

流行?いきなりなんだ。

 

「そんなの知らねーよ。……五年前とか?」

「はい、約百年前です!」

「グレイくんが正解。首都の大規模な水道工事が始まって、地下からある物が初めて発掘されたのが、最初のきっかけ」

「水道工事って……下水網のやつか」

「あら意外。そういうの、興味あったのねぇ」

「ふっ、博物館で教えてもらったからな。オレはちょっと詳しいんだ。あそこは洞窟みたいにボコボコしてるところもあるんだぜ」

「洞窟……?あったかしら、そんなところ」

 

ありがとう、あのときの学芸員の人。おかげでクソババアに少しぎゃふんと言わせることができたぜ。

 

「じゃあ発掘された物も知っているかしらぁ?」

「知らん」

「なんで偉そうなのよ……。さて、見つかったのは、約千年前の記録で『火の玉が六つに分裂し、地上に降り注いだ』とあることや推定される被害状況から、おそらくはこの国のどこかにあるとされていた隕石の落下地点……、その痕跡だった。工事と並行して、発掘作業が行われたわ。お宝で一攫千金が狙えると勘違いした人々が殺到して、ひどい有り様だったらしいけどねぇ」

「そのときに隕石の欠片も発掘された、っつーことか」

「そういうこと」

 

クリュティエは呑気にポット内へお湯を入れ始め、話はそれと同時進行していく。

 

「見つかった欠片には特異な部分が存在した。魔鉱石類以上に魔力子の保有可能量が多く、非常に硬くて頑丈で、かつ、人工的としか思えないほどの真球。発見者は自分の娘の名前から『ドーラ』と名付けたわ。残念なことにその後すぐ、発掘されたはずの(ドーラ)は行方不明になってしまったけれど、この発見で、自分たちの暮らす惑星の外、宇宙のどこかに知的生命体がいたのではないか、魔力子はその異星文明に関連しているのではないか……と、一瞬活気づいたそうよぉ」

「そんな話、全然聞いたことなかったです」

 

グレイの発言にオレも頷く。確かにそのような不思議な話、もっと有名になっててもいい。

 

カップにお茶が注がれる。ふんわりとこの空間とは違う匂いが、湯気とともに立ちのぼった。

 

「それはねぇ、発見者が相当色物扱いされていたせいで、全部嘘……最終的には、その人物は気が狂ったと思われてしまったから」

「急展開来たな」

 

机の下で右隣からガンッと蹴られた。いてーな、おい。

 

「『中央大陸のほうの大神殿の神子(みこ)は偽の神託を語っている』だとか、『御使いなんて、人間がわからないことを無理やりわかるように落とし込んだ結果の代物』だとか、まあ当時としては、異端な発言よねぇ。それ以外にも、人間的にかなり問題のある言動がたくさんあったらしいわ」

 

たしか、中央大陸はこの土地よりもずーっと遠くにある場所で、そっちにもこっちと同じ大神殿があるのだった。正確にはこっちの大神殿が下っぱとのことだが、こういった類の話は世間的には超一般常識らしく、知らないと言おうものなら目立つことこの上ないようなので、ついぞ誰かに聞くことができないでいた。

 

「そんな人間が発見者だと知って、皆ギョッとしちゃうわよねぇ。発見後は『魔力子こそが惑星外生命体だったんだ。やつらに自分たちは殺されるんだ』と言い始めたものだから、気が狂ったと思った周囲はさらに離れていく……」

「やべーやつじゃん」

「今すごい音しませんでしたか?なんで平然としてるんですか……?」

 

このクソババアは暴力的だからな。『前回』もこんな感じだったので、慣れてしまっているのだ。

 

「そして、失くなった(ドーラ)はそもそも本当に存在していたのか、全ては最後に残った弟子にすら見放された発見者の虚言ではないかとも疑われ始めて、すぐに魔力子の研究は下火になった……というわけ」

 

「最初の(ドーラ)のことはわかった。で、その話がどう、オレの知りたいこととつながるんだ」

 

続きを急かすと、お茶を一口飲んでからクリュティエは告げた。

 

「なぜ発見者は狂ってしまったのか。不思議じゃないかしらぁ?」

 




割合の計算はできるけど鶴亀算ができない主人公。
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