属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C.999】

 

魔力子関連の話の後日、オレはまたクリュティエと二人きりにされた。同じ空間にいるだけでもストレスなので勘弁してほしい。

 

「さて、『手伝い』のことよ。アコラスには実際に足を使って、(ドーラ)を探してもらうわ」

「は?お前らがやれよ」

「私たちは下請けをビシバシ働かせて、成果を待つ側なの」

 

そして、現在の状況を語り出す。オレが持っていたのが三個。そのうち一個はアプシントスから奪った。やつらが元々二つ所持していたのは、すでにクリュティエも把握済みだった。つまり、まだ手付かずの可能性があるのは二個である。

 

「これだけなんだから、ほら、誰かさんのおかげで少ないでしょう」

言っちゃだめだよ?

うん。アプシントスのは一個失くしたって言っていたけど黙っとこ。とりあえず潰し合えや。

 

「オレから奪ったの以外、まだ一個も手に入れられてなかったのかよ」

「北東の砦も湖のも、誰かさんに先回りされちゃったのよねぇ」

 

あっぶねー。村でアプシントスと戦っていたのも、それ関係だったのだろうか。サクサクとクッキーを食べながら考える。……しょっちゅうお茶会みたいのしてると、トイレ近くなりそう。

 

「侵入したけどもぬけの殻。ついでに落石事故に紛れて始末しようとしていた、面倒くさい人物も予定変更でいなくて殺せなかったわぁ。最近うまくいかないことが多いのよねぇ。誰かさんが邪魔したのかしらねぇ」

「アプシントスもオーキッドと手を組んだしな。ざまーみろ」

 

机の下で脛を蹴られた。

 

「人数は向こうが上だけれど、限られた幹部以外は烏合の衆。大した問題じゃないわぁ」

「気にしてむぐっ」

 

嫌がらせに口に詰め込まれたクッキーを食べていると、クリュティエは机に国土の地図を置いた。マルバツがいくつもついていて、マルのみはあと二つだけとなっている。一つは西の山岳地帯、もう一つはこの辺りの海沿いの地域だ。海沿いといっても、近くの山や森も含まれているが。

 

「……んぐっ、これは?」

「予測される(ドーラ)のある範囲。隕石の落下地点は正確にはわからない上に、休眠状態が終わりに近づかなければ、こちらから感じ取ることができない。感じ取れる距離も限界があるでしょう?」

「予測って……、どうやって」

「空中分裂した六個の隕石の行き先、そこにある可能性が高い。記録と……これね」

 

次に取り出したのは、手のひらに乗る円盤状の物だった。

 

「方位磁針だ」

「あら?これはちゃんとわかるのねぇ。落下地点周辺は磁場に狂いが見られるときがあるから、それを利用するのよ」

 

磁場……、磁石的な何かだな。目星をつける方法があったわけだ。

 

「あちこち当てずっぽうに行ってたオレがバカみたいじゃん」

「むしろ、当てずっぽうで見つけるのがすごいわよ。運か良いのかしらねぇ」

 

全て当てずっぽうだったわけじゃないが……、この間だってデカい釣り針に自らつっこんでいったわけだし。そういえばいたのはアプシントスの奴らだけだったな。

 

「新聞とかに引っ掛かりにいかなかったのはなんでだよ」

「私は、大神殿は持っていない、と判断できる情報があったから手出しはやめたわぁ。まあ、最初の(ドーラ)は紛失したとき、実は大神殿に持っていかれたんじゃないかと噂があったから、信憑性があると考えた人間もいたでしょうねぇ」

「お前は信じてねーんだな」

「あそこが本当にそんなものに頼るとは思えないわね。中央大陸の本流とは破門しあっているし、なんせ今のトップが、蒸気機関にお熱な科学界の重鎮を兼任しているんだから。それに最初の(ドーラ)は……おそらく、アプシントスが所持していた二つのうちのどちらかでしょう」

「じゃあこの前奪ったやつが、最初のかもしれないのか」

「巡り巡ってきた可能性はあるわねぇ」

 

話していてわかるが、情報量の差が大きすぎる。何とも言えない悔しさとそれでも一点黙っていることからちょっと俯き、もう一度地図を眺めた。……ん?

 

「予測したっつっても……範囲広くねーか」

 

ここの近くのほうの丸も、山から海岸かけてと広い。オレが歩き回って調べなきゃいけないんだよな?捜索には何日もかかるだろう。

 

クリュティエは笑った。

 

「だからアコラスには頑張ってもらうのよぉ。せっかくだし、どこから調べるくらいは、決めさせてあげるわぁ」

 

どこでもいいから指差せと、地図を目の前に突き出される。え~~~……。

 

オレはなんとなく答えた。

 

「この辺……海の近くから」

 

『前回』はどうしていたのだろう。こんな風に情報を渡されることは全然なかった。それどころか地図の見方も知らなかったし、今自分がどこにいるかなんて考えたこともなかった。ひょいっと放り出された先で暴れてこいとしか言われなかった。ただ生かされて、使われているだけだったのだ。……アイリスは?結構クリュティエと話していることがあって、話の内容を聞いても教えてもらえなかった。もしかして、今オレがその代わり……。

 

「タイミングよく他と鉢合わせたら潰すから、そのつもりで準備しておきなさい」

「……あ、ああ。わかった。でも準備とか……オレが持ってたもの、お前が取り上げたじゃねーか。どうすんだ」

「使えそうなものは返すわ、一時的にねぇ」

「服は?」

「流石にそれで戦えとは言わないわよぉ」

 

どうやらスカート地獄からは、解放してくれることがわかった。今の服装じゃ、絶対動きにくい。変装する必要性があるなら仕方がないが、そうでないなら無駄だ。無駄にひらひらしてるし、レースやらリボンやら多いし。機能的じゃない。

 

袖のひらひらレースをいじっていると、クリュティエは手をポンと叩いた。

 

「そうそう、ネフィリムについては頭をいちいち潰すのは手間がかかるでしょう?最近、効率的な対抗手段があるとわかってきたのよ。魔力子の体内流路を壊せれば回復は困難。理論上、魔力子を穴が開いていないときと同じように流せばなんとかなるかもしれないけれど、そんなことできるわけないわ」

 

それを聞いて、一瞬息が止まった。

 

『前回』あったことをぐちゃぐちゃに思い出す。

 

あの時、なぜかクリュティエは銃を手にしていた。コイツがそんなもの使う必要なんてないのに。あの憎たらしいメアリーでもこれだけはいい仕事だったと、そう言っていた。後にわかった。中には特殊な銃弾が込められていて、魔力子の体内流路と魔術行使の命令を送るための神経を損傷させる効果があったことを。材料の中で重要な働きをしていると思われるものは不明であり、破壊された部分は治療不可能である、と。貫通していればもう少しましだった、と。

 

記憶の中の映像が、砂嵐の中のように不鮮明に映し出される。また誰かと取っ組み合いになっている。邪魔なその人間に向かって、オレは引き金を───、

 

「ウチの取引先には、軍や憲兵もいるのよねぇ。魔力子の体内の流れや魔術行使の命令を送るための神経を麻痺させる薬のために何をお求めか調べれば……ちょっと、さっきから大丈夫?顔色が良くないわよ」

「へーき。なんか最近、頭の中がフワフワするような、変な感じがあるだけだ」

 

口の中が乾くのを感じながら、動揺を取り繕おうと努める。嘘はついてない。

 

そんな様子のオレを、クリュティエはじっと見つめてきた。そして急に立ち上がると、首根っこを掴まれる。つい怯えてびくっとしているうちに、こちらもまた立ち上がることを強制させられ、そのまま引きずられる。

 

ずるずると連れていかれた先は、割り当てられた部屋だった。自分一人だけ誰にも警戒されることなく自由に動き回れる猫が、勝手に入り込んでゴロゴロしている。

 

オレはベッドの上にぽーんと荷物みたいに投げられた。

 

「寝なさい」

「は?」

「いいから早く」

 

困惑するオレに布団を押し付けてくる。

 

「ちょ、スカートにシワがつくんじゃ」

「そんなのどうでもいいわよ」

「こんな服寝づらい」

 

文句を言うと、ごしごし顔を拭いて化粧を取り、あれだけオレの地毛が嫌いと言っていたのにカツラを取り、さらには着替えさせようとして───ここはなんとか自分で着替えた───、すぐにベッドに寝かせられる。

 

寝ろ寝ろうるさいので目を閉じる。しばらくした後、チラッと片目だけ開けると目が合った。怖い。

 

「真っ昼間から寝れねーよ!いつまで寝てればいいんだ」

「……(ドーラ)探しの日まで」

「はあ!?正気か、何日寝てればいいんだよ!てかなんで寝なきゃ───」

「うるさいわね」

 

ひぇっ。

 

 

 

§ § §

 

 

 

ここはどこだろう。

 

キョロキョロ見渡しても誰もいなくて暗い。夜だ。

 

いや、暗くない。古い木造の建物が燃えている。

 

あ、ここは大神殿のある町だ。

 

拳銃を握っている。

 

目の前には腹を蹴られて蹲っている、黒髪の少女がいる。

 

手が汗ばむ。

 

誰かが耳元で囁く。

 

さあ、どこを狙うのが一番良いでしょうか。

 

 

 

§ § §

 

 

 

目を覚ましてすぐ、手が握られているのがわかった。誰かに似た女の人がいる。優しく微笑んで、オレに語りかけてくる。

 

「あら、起きた?」

「今……いつ……?」

「窓を見ればわかるでしょう。夕方よ」

「……わかんねーよ」

 

最悪。近くにいたのはクリュティエだった。あー起きるのやめやめ。パッと手を放し、布団を頭まで被る。

 

「寝ているとき、身じろぎ一つしないから驚いたわぁ。呼吸はしていたから死んでいないのはわかっていたけれどねぇ」

「オレは寝相が良いんだ」

「全く、心配させておいてあなたは……」

「心配?」

「冗談よぉ。歯磨きしてからまた寝なさい」

「うるせー!ちゃんとするわ!」

 

しばらくするとメイドさんが来て、クリュティエは入れ替わりにどこかに行った。頭痛以外でも具合の悪いところはないかと聞かれたり、しばらく小間使いは中止する旨を伝えられた。猫の足・体拭きも代わりにやってくれるらしい。

 

翌日以降もメイドさんに見張られ、病弱扱いされ、どこかに行こうとしようにも、「まあ!お嬢様、無理はいけません!」などと言われ、寝たって治るものじゃないのに部屋に戻される。どこも悪くないことを言っても、体温が低いとかいろいろケチをつけられ、聞き入れてくれない。

 

カツラの理由も何かうまいこと拭きこまれたようで、「お嬢様、この部屋でなら取っても大丈夫ですからね」と可哀そうなものを見る目で言われる。……お嬢様???

 

時々現れるクリュティエには、貧相な語彙力をどうにかしろと、本や新聞、辞書をどさどさ渡された。

 

本くらいは、とぺらぺら見ながら読むと、これが意外とまあまあ面白い。畜生。それと、なぜか冒険小説ばかりだった。盗賊の隠した宝を山に探しに行ったら外敵の四肢を切り落としにかかる戦闘民族に襲われ危機一髪とか、嵐に巻き込まれ無人島に流れ着いた先で海賊の宝を見つけたとか。こいつらいっつも宝探ししてんな。

 

「何がしたいんだ、あいつ……」

 

そんなことを言ってしまっても、こればかりはオレは悪くないと思う。

 

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