【N.C. 997】
昼食タイムにレド、時々リーンが混じる。だが、たまには一人になりたいので、人気のない場所を探して旅に出る。旅に出なかった日、レドは突然とんでもないことを言い出した。
「今度の演習、タイマンの戦闘だろ。一緒にやろうぜ」
「何言ってんだお前。……そういう組合せって教官が決めてるじゃねーか」
「ほら、その辺は俺が教官に頼んでみるから平気平気」
「お前が平気でもオレは平気じゃねぇよ」
まず、オレの目的を鑑みるに人に注目されるのはよろしくない。そして、未来での苦い思い出を思い出すから嫌だ。……とはいえ、オレとレドでは評価に天と地ほどの差がある。教官も許可しないだろう。
「案外あっさり許可出たなー」
「なんで……」
レドが教官に頼むと特に問題なく許可がおりた。「おう、いいぞ」という大変軽い返事であった。
もはや仮病でも使って休む他あるまい、と思ったが、コイツはしつこかった。たぶん、対戦が叶うまで何度でもチャレンジするだろう。もしそのたびに欠席していたら、オレは卒業できなくなってしまう。諦めて、一回だけだぞと念押ししたのであった。
広い屋外演習場で、皆が二人組を作り、簡単な試合をやっている。オレたちも空いているスペースで、MARGOT片手に向き合った。
周りがこちらを見ているのを感じる。
最近の同期間でのオレの扱いは、「知らない、見覚えのないやつ」から「よくわからないやつ」にシフトチェンジした。それにこのあいだ、講義外で見たことがない、だとか、実は集団幻覚、だとかいう噂も耳にした。もうそれでいいよ。
「ちっ、剣かよ、てめえ」
「まあ、これが一番しっくり来るし。そう言うお前は盾だな。……首は落とさないでくれよ?」
レドは剣型装備であった。こちらは相変わらずの盾型である。本当はこん棒とかの方が使いやすいので、あればそちらの方がいいのだが。今日は魔術ありきの戦闘訓練だ。仕方がない。適当に負けよう。
「全力でやらないとリーンをお前と会うたび召喚する」
本気で負けよう。
「準備いいかー?」
「ああ」
レドがのんきに聞きつつも、剣を構える。オレもまた、盾を持って相手の動きに備える。今回は使用魔術を身体・武器強化に限定した演習だ。だから、教官たちもオレとレドの対戦を許可したのだろう。
魔術師同士の戦いにおいて、魔力子の拡散性から魔術の威力を最大限発揮するには、近接戦闘は基本だ。それにより武器も中・短距離用がほとんどなのである。弓型や銃型はよほど狙撃に自信があり、打ち出した特殊素材の矢や弾丸を往復コントロールして回収できなければ、使う者はなかなかいない。未来ではいたが。
「いくぞ!」
その声とともにレドが動いた。一気に接近して剣を上から下へ振り下ろす。
開始早々飛び込み袈裟切りかよ!
「おっと、防御された」
「しなかったら肩バッサリだろうが」
「ほら、一応訓練用だし」
オレはとっさに盾で防ぐ。上から押さえつけられる形で、体勢的にはこちらが不利だ。いいぞ。
「いや待って待って想像以上に力が強い」
レドが何やら言っているが、そっちは身体強化の魔術を使っているので頑張ってほしい。
このまま拮抗していてもしかたがないので、一瞬力を抜いて体勢を崩そうかと思いきやレドも距離をとる。間合いが短いのが嫌なので、盾を中央より上部の持ち手から縁の方で持ち直した。そして、再びじりじりと詰め、互いに一足一刀の間合いとなる。今度はこちらから機を見て、横殴りする。
「盾はフリスビーじゃないと思う」
「投げてないから盾だっつーの」
「お前意外と屁理屈言うよな」
盾はかわされてしまった。おそらく魔術で剣も強化しているとは思うが、流石に訓練用では受けないか。
攻撃を繰り出した直後のオレは、盾を地面と水平に持ってしまっているため、攻撃の当たる面が広い。レドは上半身を狙ってきた。盾を手離して、斜めに蹴りあげることで、なんとか止める。そのまま持ち手を持って、レドめがけて全力で盾を振り下した。『前回』の世界の恨みも若干込めた。
幸か不幸か、レドがちゃんとよけてくれたのでそのまま地面へあたり、盾はバキッと音をたて、衝撃が俺の腕へ伝わる。やったぜ。
その隙をレドは見逃すはずもなく、俺の眉間に剣先をつける。
「お前の勝ちだ」
オレがそういうと、レドは剣をおろして、
「なーんか納得いかないなあ」
と不満そうに言う。オレは全力でやったぞ。嘘はついていない。
「めんどくさいやつ」
全腕力でやったし。
オレの様子から嘘はついていないと判断したのか、視線をそらした。
「最後、お前の盾から変な音しなかった?」
「…………」
そっと、盾の方を見る。盾の振り下ろした軌跡は曲線だった。そのまま地面に当たったあともである。その結果、変な方向に力が加わってしまい………。
ふと気がつくと周りも見ている。
「……壊れてない?」
「……もともと調子が悪かったんだよ、たぶん」
こちらに来る教官の背中から怒りの波動が見えた。……魔力子を保有できる特殊な素材でできたMARGOTは、訓練用でもそれなりに高価なのだ。
強化魔術前提が当たり前の演習ではあったが、まさかの盾型MARGOT破壊という失態を犯してしまったオレはとても怒られた。大人に怒られたのは初めての経験である。
ついでにレドも怒られていた。ざまぁみろ。
罰として、オレとレドは演習場の草むしりを命じられた。夜を徹しての作業である。
「うわっ!ここ見てみろよ。盾ぶち当たったところだ。めちゃくちゃ穴深い」
オレが淡々と単純作業をこなすなか、レドは草をむしりつつも、演習場の地面に落ちる小石を集めたり、むしった草を結んでみたりと遊んでいた。
「明日までにきれいにしなきゃいけないんだから働け」
「働いてるぞ。ほら、お前よりたくさんむしってる」
「うぐっ……」
なんと真面目にやっているオレよりもたくさんの草が、やつの手によってむしられていた。
「まあ大体やったしもういいだろー。初等学校の罰でもこういうのやったっけ。お前どうだった?」
「知らねぇよ、そんなこと」
気がつくとレドは演習場の地面の隅に寝転がっている。……真面目にやるのが馬鹿らしくなってきた。
むしった草を両手に持てるだけ持って、レドに近づく。
「おいこら、人様に向かって草投げるな」
「うるせー」
ムカついたので口の中にでも入ってしまえ。
レドもこちらに遊んで丸めた草を投げてきた。そして、ひとしきり投げ合ったあと。
「なにやってんだろうな……」
「さあな……」
レドは地面に座り込み、空を見上げた。オレもなんとなく座り込む。あ、アリ発見。
「昔落ちてきた隕石って、この星空のどこかにいたのかねー」
そもそもそんなもの、落ちてこなきゃよかったのに。
「……俺さ、今日の演習で思ったんだけど」
「なんだよ」
「実戦だったらどうなってたんだろう。もし、お前みたいな馬鹿力が相手で、強化以外の魔術も使用されてたら、とか」
「……」
「俺ってそこそこ優秀だから、たぶん卒業したらこのまま第一課だろう?そのとき、この前の化物みたいなのと戦ったら、どうなるんだろうって」
国家魔術師第一課。国家魔術師の全部署の中で、事件や戦闘などに直接対峙する課だ。今後ネフィリムが出てくれば、それの対処もしなければならない。それにこの前の個体や俺のように物理攻撃だけ、なんて優しいものではなくなる。ほかにもアバドーンやアプシントスの、人間とも大規模な戦闘になるだろう。
でも。
「お前なら、なんとかなるよ」
くっっっっっっっっっっっっっっそ、めんどうだったし。
だいたいなぜか行く先行き先現れてコイツら途中まで本当に邪魔だったし一応オレは十二歳くらいだったのに容赦なく切りかかってくるしいやそれは正しいんだけどリーンは鼻息荒いしブレウはいやみったらしいしヴァイスは治癒担当なのに弓で狙撃してくるしネロは予測不可能な行動取るしオレは魔力子ないのにレドは至近距離で炎ぶっぱしてきたし最終的に強化個体も幹部も普通に倒してたし頭おかしい。アイリス助けてくれたことなかったら許さなかったぞお前ら。
そう思って小石をいじっていると視線を感じた。
「……何が言いたい」
レドが胡散臭そうな目でこちらを見ている。
「名状し難い」
「はぁ?」
こうして夜は更けていく。
人よりもちょっぴり頑丈で力強い女、アコ。