属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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主人公の夢回。


-3

 

 

夢を見た。

 

 

 

焼けた建物の傍らで、オレが立ちすくんでいる。

 

どこかにいかなければいけないのはわかっていた。

 

でも、どこに?

 

着ている服はペラペラで、ちゃんとしたものが必要だ。食べるものも、寝る場所も、必要だった。しかし、どうすればそれらが手に入るのかわからない。

 

『今回』になって、初めて建物の外に出た。辺りを見渡すと、建物のすぐ横には川が流れている。

 

「 川なんて、あったんだ……」

 

世の中知らないことばかりだった。

 

 

 

人のいるところを目指して川沿いを下っていくことにしたが、歩いても歩いても、あるのは森だけ。家なんて一つも見つからない。

 

こうして、一日目はただ延々と歩き続けただけだった。日が沈み始めたので、川原で座り込むと炭が一欠片あった。 手頃な石を拾って、炭で一本線を引いた。

 

しばらくすると辺りは真っ暗になった。終わりの見えない闇が怖い。こんな状態ではもう移動できない。

 

運良く初夏だったから、寒くはなかった。でも、握りしめた石と抱えた膝は冷たかった。

 

二日目。空腹で目を覚ました。服には小さなポケットがついていたから、線を描いた石と炭を入れた。そして、別の石を持って、また歩き出した。

 

喉が渇いたときは、川の水を飲んだ。そして、ひたすら歩き続ける。途中、その辺に生えていた草を食べてみた。苦い。口から吐き出した。

 

「おなかすいたな……」

 

オレの呟きは誰にも届かない。食べ物らしい食べ物は見当たらない。

 

そう思っていたら、目の前にウサギが現れた。持っていた石を思い切り投げて、見事に命中した。ウサギは動かなくなった。

 

やった。

 

殺したウサギに寄っていったところで、気がつく。これをどうすれば食べられる状態にできるのか、わからない。

 

刃物があれば、皮の下の肉を取り出すのだろうか。血がいっぱい出てきたら、どうすればいいのだろうか。しかし、あるのはゴツゴツとした硬い石だけ。これで殴ってみたところで、どうにもならない。

 

「う゛っ……」

 

結局、食べることはできなかった。

 

 

 

ウサギの死体は地面に埋めた。

 

 

 

さらに歩き続けて思い付いた。

 

火を起こそう。

 

食べ物のことを考えていて、ようやくたどり着いた発想だった。

 

木ならたくさんある。木の皮や細かったり乾いている枝を集めて、いつかに習った通りに火起こしをした。そうしているうちにまた夜が来た。ポケットに入れた石に、また一本線を引いた。

 

火のおかげで、その近くだけ明るくて温かった。

 

三日目。火は消えていた。二日間歩き続けたから、汗でベタベタして体が気持ち悪い。服を着たまま川で水浴びをすることにした。目の前にはなんと魚が現れた。手掴みで捕まえることができた。

 

また火起こしをし、濡れた体を温めながら、先の尖っている枝で魚を刺して焼いてみる。どこまで焼けばいいのかわからないので、良く焼いた。……二日ぶりの食事は苦かった。

 

そしてまた、日が暮れるまで歩き続け、暗くなる前に持っている石に線を引いた。

 

四日目。お腹が痛い。でも自分の身は、自分以外誰も助けられない。だから、ひたすら丸くなって痛みに耐えた。ちょっと辛くて涙が出た。楽になった頃にはもう、日が傾いていた。石に線を引いて、その日は終わった。

 

五日目。ようやく人の建物が見えた。町だ。走っていったら、つまずいて転んだ。町に着くと、じろじろ人に見られ、ヒソヒソと言っていることが聞こえる。だから人気の少ない方へ行った。

 

そこから先は、日の当たらない路地裏で時間が過ぎることだけ考えていた。

 

毎日毎日線を引いて、何日経ったのかを確認した。腐りかけの食べ物でも頑張って探した。服も捨てられているものを拾った。靴擦れで足から血が出た。

 

たどり着いた町は、お世辞にも治安が良いとは言えなかった。オレのような子どもはたくさんいたし、大人だっていた。ワルイ子どもより、ワルイ大人の方が厄介だった。

 

路地裏で、知らない男が突然オレの腕を刃物で刺した。貫通する嫌な音がした。

 

オレは何も持っていていないのに、と混乱していたら、冷たい地面に押し倒されていた。

 

目がおぞましくて、人のものとは思えなかった。

 

「ぅ、うわぁぁぁああああああ!」

 

その男を思いっきり殴り、ぶっとばしてしまう。動かなくなった。たぶん、死んだ。

 

だから、走って逃げた。

 

 

 

靴擦れの痛みは、いつの間にか感じなくなっていた。

 

 

 

食べ物を横取りされないように、気を付けた。その日その日を越えるのに必死で、気がつくと夏は終わって秋になっていた。数えた線だけが増えていく。

 

寝ていてふと目を覚ましたら、知らない女に抱えられていた。これを売ったら良い金になる、と隣の人間に話している。

 

訳がわからなくて、暴れて、殴って、逃げた。この人たちも、たぶん死んだ。

 

これ以降、寝るときは箱の中に身を隠すことにした。

 

 

 

さて、毎日毎日一本ずつ、線を描くことで時間が過ぎることを心待ちにしていたオレだが、石に描くスペースはとっくの昔になくなったので、拾った木片に刻むようになっていた。しかし、ある日それをなくしてしまった。途方にくれていると、

 

「ぶべっ」

 

風で何かが運ばれて顔に当たった。手に取ってみるとそれは紙だった。しかも日付が書いてある。これは、新聞というやつだ。

そうだ。これが売ってあるところに行けば、日付がわかる。今までみたいにしなくて済む。

 

人の多いところに新聞は売っていた。もちろんそれを買う余裕などなかったし、誰かに姿をジロジロ見られるのは嫌だったので、遠くから日付を確認した。

 

オレには文字の読み書きを、ついでに簡単な計算もすることができたので、幸運にも新聞を読むことができた。一方で、不幸にもそれを活用する(すべ)は知らなかったが。

 

 

 

「寒い……。お腹すいた……」

 

さらに時間は過ぎて、冬が来た。

 

今日もオレは明日になるのを待っている。過去に戻ってきたというチャンスを与えられても、ただ生きているだけしかできない。

 

日課になった日付確認を終えて、手頃な箱の中に隠れて眠る。周りに箱がたくさんあってちょうど良かった。

 

 

 

ゴトゴトという音で目を覚ます。

 

世界が揺れているのだ。何事かと思って、箱から上半身を出すと、そこには箱や荷物がたくさん積まれている。暗い部屋だった。

 

「ここ、どこ……?」

 

外には人の気配がする。キョロキョロと辺りを見渡していると、蓋がガタッと音をたてて落ちる。

 

あっ、しまった、と思ったときには、揺れる部屋に人が入ってきていた。大人の男の人だ。しかも、目が合ってしまった。

 

「子ども!?」

 

箱から慌てて出る。出入口は二つあり、男とは別のところに走った。

 

そして扉を開けると、

 

「風景が動いてる!?」

 

見えた景色は、すごい速さで左から右へ動いていた。

 

「違う、部屋が動いてる……?まさか、『てつどう』?」

 

ある程度の距離を保ったまま、男が話しかけてきた。

 

「どこから入ってきたんだい?」

 

改めて、その人を見てみた。少し困った表情をしている。どこか、親しみを覚える顔で、不思議と怖くなかった。

 

「わかんない。起きたらここに───」

 

部屋が今まで以上に大きく揺れた。体勢を崩した男性に向かって、荷物や箱が崩れる。

 

とっさにオレは雪崩のように崩れた荷物のうち、男性を下敷きにしようとしていた物を止めた。

 

「驚いた……。君はとても力持ちなんだね」

 

男性は目を丸くしていた。

 

 

 

箱の中に寝ていたことを話すと苦笑される。

 

やはりここは鉄道の車両内で、オレの全く知らない町に向かう途中だった。しかも、乗るにはお金が必要らしい。

 

困った。お金は仕事をすると貰えることは知っているが、仕事をしたことがない。だからお金は持ってない。

 

するとオレを見つけたおっさんは、荷物を崩れないよう積み直すことを運賃代わりにしてもらえないか、と車掌という鉄道で働いている人に交渉を始めた。

 

「こんな小さな子が身体強化の魔術?お客さん、冗談もほどほどにしてくださいよ」

「いや、私も信じられない思いだったがね。一旦見てもらって、それで決めてくれないだろうか」

 

ほらやってみなさいと言われ、荷物を崩れないようにどんどん積んでいく。

 

結果、交渉は成立。今回に関してはお金を払わず、乗ってもいいことになった。車掌はそんな馬鹿なと、同じ物を持とうとして腰を痛めていた。

 

 

 

おっさんはとても大変な仕事があるので、次の駅で降りなきゃいけないらしい。お腹がすくのを紛らわすため、それまでオレたちはおしゃべりすることにした。

 

「それくらい魔術が使えるなら、働き口はいっぱいあるだろう」

 

オレは魔力子がないから魔術は使えない。だが、怪力を見て身体強化の魔術が使えると勘違いされているようだった。その勘違いがどうやら良い方向に働いているようだったので、オレは訂正をしなかった。

 

「オレ、お金稼げんの?」

「稼げるとも」

「もしかして、町で知らない人が『君いくら?』って聞いてきたのは、オレに仕事させようとしてた?」

「……そういう人にはついていっちゃいけないよ」

 

おっさんは声のトーンを急に落とした。どうしたんだろう。

 

「どんなことすればお金稼げる?」

「う~~~~ん……。ある種の危険から身を守れて、お金が手に入るのは……」

 

ここ半年の悩みを解決するためにした質問に、おっさんはものすごく悩み始めた。うんうんと唸った末に、ポツリと呟く。

 

「……軍魔術師学校だ。あそこなら、最低限の衣食住を保証してくれるし、勉強だってできる。社会的な身分も手に入れられる。その代わり、軍で働かなければいけないけど、働き口も手に入る。しかし……」

 

軍。

 

オレが知っているものだ。『前回』の思い出が色鮮やかによみがえってくる。

 

そこにいけば、いつか、もう会えないはずだった人たちにも会えるかもしれない。

 

「そこ行きたい」

「……ああ、そうか。この列車もちょうど、その学校に向かう路線だ。私は次で降りてしまうけれど、君はこのまま乗って、十二番目の駅で降りなさい。十二番目のマレブランケだ。車掌にも伝えておくから。さて、入学条件は13歳以上だが……、神殿の教区簿冊に記録されたことはあるかい?」

「知らない」

「よし。だったら、ある程度年齢は偽ってもバレても、さほど問題にならない。そうだな。君の身長がこれくらいになる年月……二年ほど経ったら、学校の入学検査を受けてみるといい」

 

おっさんが手で必要な身長を示す。今のオレはまだそれよりも小さかった。

 

そこまで伸びるのに二年。今の世界になってから半年が経ったが、さらにその四倍もの時間かかるのか。長いな。

 

「それまでは、怪しい人に騙されないよう気をつけるんだよ。……私もまた、悪い人間だがね。まかり間違っても『いくら』だなんて聞いてくるような人間には、ついていっちゃいけないよ。当分は今日みたいにその怪力を生かしなさい」

「うん、頑張る」

 

すると、おっさんは懐から何かを取り出した。

 

「これ、何だと思う?」

 

見せられた手のひらには、小さな物が乗っている。

 

「……種?」

「そう、種子だ」

 

彼は大きくうなずき、

 

「でもね、ただの種子じゃない。千年前の気候変動で、もう絶滅したと思われていた種類のものなんだよ」

「くれんの?」

「それはダメ」

 

即答された。ケチだ。

 

「おっさんはなんで、そんなの持ってんの?」

「ごく限られた地域の人たちのおかげで、保存されていた物を見つけたのさ。私はね、色んなところを飛び回って、こういった、実は生き残っていた植物を探すのが趣味なんだ」

「……いなくなったやつなんか見つけて、どうすんだ」

「例えば、もしも今よりたくさん収穫できる小麦があったら、皆嬉しいだろう?そういった作物を作る手がかりになるかもしれないんだ」

「ふーん」

 

種をまじまじと眺める。どこからどうみても小さい種に、そんなことできるのか?

 

「大勢の人がお腹いっぱい食べられるように、おじさんも君と同じように頑張るよ」

「そうか、がんばれ」

 

なぜか苦笑いされた。むっ。

 

「だから、いつかその日が来るまで、待っててくれないか?それが頑張った君へのご褒美だ」

「そんなのいらねーし、それに……待つの、嫌いだ」

 

待っててもダメだった。走って追いかけても、間に合わなかった。やり直すチャンスが与えられても、何もできず、現状が過ぎるのを待つことしかできないのは、つらかった。

 

「困ったなあ」

 

そう言って眉を下げた顔を見ると、なぜだろう、ポロポロと涙が流れる。

 

「……私の家族は皆暑がりなんだけど、私自身は寒がりでね。よく帽子を買うんだ。また新しい帽子を買って、しかも早々に雨で濡らしたと知られたら、もったいないと文句を言われてしまう」

「家族?何言ってんの?」

 

突然何を言い出すんだ、このおっさんは。

 

「仕方ない。バレないように、ここに隠しておこう。それに君は顔や髪を隠しておいた方がきっといいから」

 

大きめの帽子を頭に乗せられた。顔の半分まですっぽりと覆い被さる。

 

「帽子のことは、内緒にしておいてほしい。約束してくれるかい?」

「……約束するしないの前に、見えねーよ」

 

目を擦って、帽子の位置を直す。やっぱり今日の天気は雨じゃない。そもそも車内だから屋根がある。

 

「変な顔してる」

「君は結構辛辣なことを言うなぁ」

「……でも、これ、隠しといてやる」

「ありがとう」

 

オレの手は、大きな両手で包まれた。

 

「おっさんの手、温かい」

「残念なことにこれくらいしか取り柄がないんだけどね。……じゃあ、次にこっそり取りに来るまで、よろしく頼むよ。また会おう」

「うん、またね」

 

 

 

そのあと、どうなったんだっけ。

 

出来事はたくさんあった気がする。

 

しかし、未だにこの人とは会っていないし、これからも会うことはないだろう。

 




Twitterはじめました。きっとうまく使いこなせることを信じたいです。
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