属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C.999】

 

なんで失望?

 

何言い出してんの???そこ普通ポジティブなことが来んじゃね?好感度下げる?は?

 

突然のレドの発言に、オレは思わず後退っていた。

 

「今この瞬間にも謎の過大評価からの別人投影好感度に警戒心ガバガバで生きているのかと思うと俺は耐えられない……っ」

「何に?」

 

好意があるのも否定してたし、瓶の蓋を固く閉める嫌がらせもしたいらしいし、実は嫌いなのか───、

 

「でも好感度を下げすぎた結果、マイナスになるのはつらい」

 

どっちだよ!!!!!

 

「しっかりしろ!殴られたことあんだろーが!?むしろおま、あなたは嫌いにならないんですか!?」

「殴られるのは構わないんだ。仮に殴られて死んでも、最期にああいうキレイなものを見て死ねるならどんなにいいか」

「死んじゃダメだろ!?」

「むしろ、殴るくらいの跳ねっ返りと狂暴性を持たないままだったら、今ごろ……あああああっ」

 

急に己の妄想で苦しみ始めた……。

 

 

 

ああ、そうか。

 

 

 

オレは唐突に理解する。

 

レドは、オレの全く知らないうちに、……頭がおかしくなっちまったんだ。趣味が悪いとか、そういう次元じゃねぇ……。ヤバイ女に情緒を破壊されちゃったんだ……。嫌だ……、こんなのレドじゃない。

 

もはやこいつが抱いている感情がわからない。好きとか嫌いとかじゃなく、恐ろしくねちっこくてドロドロしてなんか怖い。なんで失望されたいのに、嫌われたくないし、殴られてもいいんだ。そんな状況、今まで見聞きしたことねーよ。オレは知らん。

 

……………時々横を通り過ぎる人にヒソヒソと指を差されるので、恥ずかしくなってきた。

良い感じにドン引きしてるわね

よくよく考えたら、初対面(オレ)に対して、第三者のことを延々と語って勝手に発狂するの、おかしくないか?話題をふったのはオレだが、それにしたって酷い。こいつの距離感どうなってんだ。

 

腹いせも兼ね、叩けば直るかと頭を……やっぱり、再び刃物を取り出されないよう、胸の前で手を軽く握る。また訳わからん理由で指詰めるとか言い出すのは怖いからな。

待てや

「っ!?」

 

おっ、なぜか戻ったぞ。

 

「頭大丈夫ですか?殴られておかしくなってませんか?」

「大丈夫だから、うん、その……手を……」

 

一時的に正気になったが、酷い女に心と趣味をぐちゃぐちゃにされたままなんだよな。

 

「痛いのは嫌いなんです。気が動転して、また自分を傷つけるなんてしないでください」

「しない!もうしないから!」

「……嘘つき」

「じゃあ約束しよう!ねっ!?」

 

今日見てしまった数々の奇行のせいで、全っ然信用できない。

 

疑いながら睨み付けると、逆にじっと見つめ返された。顔を観察されているような感じで居心地が悪い。

 

「私の顔、何かついてますか?」

「へっ!?あーーー……。君の眼鏡、レンズが少し青みがかってるんだ、と思ってさ───」

 

げーっ!クソ女!

 

「それはダメだよレドくん……」

 

 

 

オレの背後から懐かしい声がしたのと同時に、誰かが後ろ二メートルほどの位置にいるのを感じた。……悔しい、気配の消し方がうまい。

 

オレがこの目で声の主を確認する前に、レドがぎょっとしながら正解を言った。

 

「リーン!?なんでここに……っ」

 

さて、運が良いのか悪いのか、握っていたはずの手はいつの間にか握られていたため、しっかりと振り向こうにも振り向けない。だから、ここでリーンに顔を見せないのは不自然ではない。

 

「仕事場が同じなだけのただの他人に良く似た不審者の出没情報を聞いたから、寄ってみたの」

 

変な女に頭をやられてしまったレドはともかく、リーンは今のオレの女装(へんそう)で騙せるかわからない。レドが手を離し次第、日傘を差して可能な限り顔をみられないようにするか。

 

「そうしたら…………同志だと思ってたのに、悲しいよ……」

「待ってくれ、全てが勘違いだ。反神論者(ショタコン)の同志になった覚えはない」

「でもその背格好はレドくんのこ───」

 

オレを挟んでの意味不明な会話は、異様な速さでレドがリーンの顔面をつかんだことで、一時中断した。オレから少し離れたところで二人はこそこそと話し出す。

 

「誤解を生むようなことは言わないでくれ、頼むから。あの子はな……っ」

「もうっ、冗談だよ。ちゃんと仲良くしてくれる子いたんだね!ねぇねぇ、いつから?」

「いや、初対面」

「……うん、そういうこともあるよね!さっきまで何してたの?」

「リーンが期待するようなことは何もしてないよ。失望されたいなぁ、というような話をしていたくらいで」

「ああいつもの。あの子、聖人か詐欺師だよ」

「きっと世間慣れしていない、良いとこの子だと思う」

「前から思ってたけど、レドくんって美人局に騙されそうだよね」

騙されて全財産むしりとられろ

会話内容は聞こえるが、オレは蚊帳の外だったので、いそいそと日傘を差す。会話で置いてきぼりにされ、寂しくなったわけではないからな。

 

ふと、リーンの意識がこちらに向いた気がした。……小さな男の子みたいで可愛いとか言われんのか?

 

「こんにちは!」

 

挨拶。

 

ごくごく普通の挨拶だ。

 

 

 

リーンがオレに、普通に接してくれている。

 

 

 

「こんにちは……っ」

「私はリーン。よろしくね。そこのソレとはただの知り合いなの。あなたは?」

「わ、私は」

 

どうしよう。なんて名前を言えば良いんだ。

 

オレが言いよどんでいると、再びレドがリーンの首根っこをつかんで離れていく。

 

「いいか、リーン。あの子はきっと、簡単には名乗れぬ、やんごとなきお嬢様なんだ……!」

「レドくん……」

「なんだその目は」

 

良い感じに勘違いしてくれているみたいだった。……お嬢様ってなんだよ。

 

そして、話の終わった二人はまた戻ってきた。リーンがレドを指差す。

 

「コレに変なことされなかった?これでもかなりマシになったんだけどね」

変なことしかされてないわよ!

ベンチで殴ってほしいと言われ、自身の指を切り落とそうとする姿を見せられ、勝手に妄想で苦しまれた。

早くそのハリボテ男を回収しなさいよ

……うむ。

今こそその女を利用するときよ!

「探し物を見つけようとしてただけなので、特に何も」

アコラスゥゥゥウウ!?

なかったことにしよう。オレは今日何も見なかった。レドはオレの知っている通りのレドだった。

 

「サンカクカンケーを築いているシュラバ相手を、見つけようとしていただけなんです」

「まだそれ言うんだ!?」

 

結局見つからなくて、ただ散歩しただけになってしまったが。

 

なぜか慌てふためくレドの傍らで、ほんの少し落ち込んでいると、

 

「え?何それ?どういうこと?もしかして……鬼嫁出刃包丁シリーズの話?」

 

リーンが予想外の一言を放った。

 

なんて返せばいいのか。

 

迷っているうちに、レドとリーンが親しげに話している。

 

「は?出刃包丁?」

「怪作で有名なシリーズだよ。今度十年ぶりに第五巻が出るの」

「……流行ってるのか、それ?」

「課を問わず国家魔術師女子の間で最近人気を博しているという……」

「かなりニッチな作品なのはわかった」

 

聞いていてだんだんそわそわしてしまって、オレは傘で顔を隠しながらも、ついリーンに向かってアピールしてしまった。

 

「オ、私っ、ちゃんと読めました。たくさん、読みました」

「……?」

文字くらいは読めるようにしておくべきだった……

はて、という雰囲気を感じる。急に変なこと言っちゃったかもしれない……。

そうすればこんなのに懐かずに済んだのに

しかし、

 

「私も読んだよ!」

 

オレの杞憂を吹き飛ばすかのように、明るく答えてくれた。

 

「陸の孤島で事件の容疑者になっちゃう話にはハラハラしたよ~」

「それに、まさか真犯人が椅子製作の達人だとは驚いた、あ、いや、驚きましたよね、ストーリーは全然わからないけど」

「うんうん。ストーリーは意味不明だけど、犯人が椅子を使って、あり得ない飛び降り方で犯行現場から抜け出していたことが判明してからも急展開で───」

 

なんでそんな話に盛り上がってるの?

 

§ § §

 

 

 

「……はっ!いけない、つい話し込んじゃった!ごめんなさいっ。私、行くところがあるんだった!またねー!」

 

二人でたっぷり話したあと、リーンは手を振って、現れたときと同じように急に走り去っていった。レドいらない。リーンが良い。

 

リーンと喋っている間、全く口を挟まずにいたレドに聞く。

 

「あの人はどうなんですか?外見は良いし、顔もかわいいですよね。あの人の方がいいんじゃないですか?」

「やっぱり人間は、中身が大事だと思うんだ」

そして、さっきからこのクソ野郎は何なの?

さっきと言ってることが全然違うのだが。

 

それにしても、……すごい。今回になってほぼ初めて、まともなリーンと会話したんじゃないか?

 

「えへへへ」

 

なんでだろう。オレの年齢がいつもより高く見えたから?……案外ありだな、女装。

 

「結構盛り上がってたみたいでよかったね」

「ずっとずっと、読めたこと、話したかったので嬉しかった……です」

「そっか。リーンと話せて、そんなに嬉しかったのか……」

 

懐から紙と筆記用具を取り出し、カリカリと書いて差し出してきた。

 

「さっきの奴はリーン、俺はレド」

 

ここにきて、急に自己紹介だと?

 

困惑するオレにレドは続けて言った。

 

「無理に名乗らなくていいよ。ずっと避けてたみたいだし。そっちに書いたのは連絡先。名前を言えば繋いでくれるはずだ。あ、寮の都合で別の人の名前を言ったらその人に連絡されちゃうかもなー」

 

後半めちゃくちゃ棒読みなのはどうした。

 

紙を受け取ると、見知った情報が記載されている。迷子札を彷彿とさせるな。

後でちゃんと捨てるのよ

「また首都に遊びに来たときとか、連絡してくれたら、リーンのやつも喜ぶと思う。まだしばらくは、俺たちも首都にいる予定だし」

 

遊び?……そういえば、オレ、観光で徘徊していた設定だったな。いけね、ド忘れしてた。

 

それにしても、本気でレドは宿までついてくるつもりなのだろうか。やつらに見られたくねーな。よし、適当なところを嘘の宿としよう。

 

歩き出したとき、猫が背中に飛びついてきた。こいつ、歩くのが嫌になったんだな?……たく、背中にぶら下がるなよ。爪で服に穴が開いたらどうすんだ。

 

…………背中に強烈な視線を感じる。

 

「あの、何か───」

「君どこに住んでるの?出身は?名前は?今何歳?好きな食べ物は?さっきチョコレート拾ってくれたのに、お礼できてないよね?これからお茶しない?」

やっぱ今ここで仕留めちゃダメかしら

レドは詰め寄り、捲し立ててきた。

 

……名乗らなくていいって言ったばかりなのに、名前聞いてきたぞ。なんだ、この態度の急変は。あ、猫が逃げた。

 

「今日はもう帰るので、また今度に」

「今度?それじゃあ何月何日にする?こういうのは日時を決めないと、流れちゃったりするから」

「次の休みが、いつになるかわからないんですが」

 

異様にぐいぐい来るのなんなの?

 

……ハッ!

 

「これはナンパってやつだ!?」

「え」

 

レドは変な女にしか劣情を抱けなくなった男。そして、背中に猫がへばりついた女など、明らかに変な女だ。終わってるぜ、こいつの趣味……。

 

変装をバラして、「残念だったな!バカめ!!!」とからかってやりたい気持ちもあるが、いくらオレの女装と演技が完璧でも、そのノリはノーサンキューだ。

 

まあ、この格好で会うことはもうこれっきりだろう。

 

「違う、いや、ナンパ……、でも…………ごめん、気持ちが先走りすぎた」

 

その言葉にオレはうんうんとうなずいた。ナンパは戦いの一種であり、大事なのは相手の反応を良く見ることだと聞く。

 

「君のこと、もっと知りたかったんだ」

 

相手の長所と短所を知り、適切にぶち殺す、というやつだ。ナンパの場合は『落とす』らしい。……首を?

 

ちょっとそわそわして首を触る。……なんか怖くなってきた。

 

「シュラバ相手の人、見つかりませんでしたね」

「改めて言うけど、探している友人とはそういう関係じゃないからね!?」

「サンカクカンケーじゃないんですか」

「三角関係じゃないんです。見た目に寄らず、君結構粗野な話好きだな?……そもそも計二人だから三角形作れないよ」

 

三人いれば三角。ほほう、そういうことか。

 

「オ───私のこと、数えてくれないんだ」

「へ?何に?」

「三角カンケー」

「確かに君をいれたら三人に……え゛っ」

 

レドは目を見開いていた。オレのすごい考えがわからなかったのかもしれない。仕方ねーな。解説してやろう。

 

「だって私を入れてくれたら三角形作れますよ?」

なぜこんな風に育っちゃったのかなー

もう一人入れれば四角形、五人になれば五角形、六人集まりゃ六角形じゃん!すげーっ!!!

 

…………あれ?

 

「おーい」

 

なぜかレドは固まっていた。どうしたんだ。……おっ、今が何事もなく別れるチャンスじゃねーか!

 

「なんかよくわからんが……それじゃ、さよなら!」

 

呆然としているレドを尻目にそそくさと移動したものの、ついてくることはなかった。

 

もらった連絡先は小さくちぎって下水道に捨てた。

 

よくできました

 

§ § §

 

 

 

「えへへへ」

 

 

 

「えへへへへ」

 

 

 

「えへへへへへ───うげっ」

「あら、逃げ出すかと思っていたけれど……、戻ってきたのねぇ」

 

宿に戻ってきてから、今日あったことを思い出してはニヤニヤしていると、クリュティエが勢いよく扉を開けて入ってきた。

 

後ろから恐る恐るついてくるグレイとメイドさんを、ヒューが手招きしている。

 

「随分機嫌が良いのねぇ」

「別に。オレはいつも通り───ぴぎゃぁぁぁあああっ!?!??」

 

突然頭の左右を両手でがっちり掴まれた。

 

「どういう仕組みなのかしら、これ……」

 

こともあろうにこの女、掴むだけではあきたらず、側頭部の髪をわしゃわしゃ触ってくる。

 

「やめろぉっ!離せ!」

 

オレはすぐさまクリュティエの魔の手から脱出し、ベッドの下に潜った。

 

「クソババア!変態!クソ女!変態!変態!変態!」

 

このっ!髪がぐしゃぐしゃになったじゃねーか!戻ってきて早々によくも……あああああ!?クリュティエを尾行してたはずなのに、なんだかんだで浮かれて、本来の目的を忘れて、そのまま戻ってきちゃったじゃん!!!結果的に魚の缶詰買ってきただけだ!?何やってんだオレはっ!

 

「あら、嫌われちゃったわぁ」

「遊ぶのもほどほどにしたほうが良いかと、はい。会長とお会いになられたのがよほど嫌だったとはいえ」

「……あの自称隠居クソジジイ早くくたばらないかしらねぇ」

 

むっ、いったい誰と会ってきたんだ?

 

ベッドの下から少し這い出てくると、ヒューはグレイとメイドさんを連れて部屋から出ていってしまう。やめろ、この女とオレを二人きりにするな。

 

埃一つないベッド下に再び戻ろうとしたオレに、くしゃくしゃの紙が見せつけられた。

 

「……なんだ」

 

紙に手を伸ばしたが避けられた。かかれているのは一件の住所だ。

 

「約束だったでしょう?あのおチビさんの家族探し。見つけたわよ」

「それって───あだっ!?」

 

ベッドに頭をぶつけるオレを見て、あきれたような顔をされるのは腹が立つ。

 

「結構簡単に見つかったわねぇ。西のほうにある町。どうもお家は写真屋みたいで、今よりも幼い本人らしき写真もあったわ」

「……確かなのか?」

「そっくりさんでなければ。……さて、明後日も出掛けなさい」

「何のために」

「私と一緒に買い物」

 

その言葉を聞いた瞬間、オレはベッド下の奥の奥まで隠れたが、あえなく引きずり出されたのだった。

 

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