属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C. 999】

 

朝っぱらから意味不明なことを叫んでしまって恥ずかしい。

 

オレは駅の片隅で度々今朝のことを思い出しては、うんうん唸るほかなかった。

 

「おや、トイレですか?」

「違うわ」

 

ヒューがさらっと腹の立つことを言ったので、唸るのをやめた。

 

 

 

さて、なぜ駅にいるのかというと、もう一秒も首都にいたくないクリュティエの方針により、いきなり西の地域に向かう汽車に乗ることになったためだ。決断がはえーよ。

 

西側は平地が少ない上、西に行けば行くほど標高が高くなり、山脈というものにぶち当たる。地形の都合で崖上に線路があるので、走行中の汽車から飛び降りて逃走するのは無謀だろう。あそこに線路敷くの決めた奴はおかしいわ。

 

実現可能な逃走は、どこかの駅で停止し、そして発車したときに、クリュティエの荷物とグレイをかっぱらい逃げるくらいだな。……行きは常に見張られていたので失敗したが。

 

車内の(クリュティエら)、荷物、グレイの位置をどうにかして把握しようと考えていると、ヒューが話しかけてきた。

 

「あの方、やけに苛立っていましたが、何かありましたか?」

「心当たりがあるとすれば、昔の知り合いに会ってから機嫌悪くなったから……、たぶんそれじゃね。お前、なんか知ってる?」

 

クリュティエは駅に着くや否や、どこかに行ってしまった。あの独特なテンションのおっさんのことはたいそう嫌がっていたので、聞くならいない今がチャンスだ───。

 

「いいえ、全く!」

 

元気よく否定された。

 

「おい」

「あの方は秘密主義でして、ほとんど昔の話をしませんよ。ですから、私は出会ってからの五年間の彼女しか知りません、はい」

 

五年は十分長いのではないだろうか。

 

それにしてもだ。こうもスムーズに会話できるのはなかなか慣れない。前はもっと、話す時間も内容も何もかも限られていた。

 

せっかくだし、他にも色々聞いてみよう。

 

「五年もなんで怪しい組織に所属してんの?」

 

あと、『歳いくつなのか』とか、『従っているわりになんでクリュティエに態度がでかいのか』とか、『火薬のことどこで覚えたのか』とか、『人に教えるの好きなのか』とか……。

 

だが、ヒューはオレの頭の中の質問を弾き飛ばす勢いで答えた。

 

「もともとは友人の付き合いで……」

 

そんな理由!?というかどんな理由だ!?

 

「別に声が聞こえるとか全然ないんですが、周りに話を合わせていたら、自分だけこんな風になってました」

 

唖然としている間にも、それで良いのか悪いのかわからないことを淡々と告げられる。

 

「マ、マジかよ……。それ、周りに隠してる?」

「いえ、特には」

 

おい。それで良いのか、クリュティエ。お前の手下が割りといい加減な理由でお前の下についてるぞ。

 

「なんで居続けてんの?」

 

前回も俺が知らされなかっただけで、なんか、こう、ゆるかったのか……?それで、ヒューもアバドーンに居続けているのか……?

 

「私自身は特に何かへの不満があるわけではないんですが……、あの方が一番強いということを確信したいからです」  

「お、お……?強いやつが好きで、そいつを見ていたいってことか?」

「大体そんな感じです、はい」

 

大体そんな感じで良いのか……?

 

「当時は私も荒んでいましたので……。中央大陸での動乱の影響が、まだ世間にあったではありませんか」

「ドーランの影響とやらは知らねーけど……」

「行き先不透明な世の中、ということです。ですから、強者が圧倒的な暴力で勝つ姿に魅せられてしまいました、はい。仮に負けても絶対にリベンジし、最後は勝ちますからね。最高です。なので、あなたとの再戦で完勝したときも、有志10人ほとで仕事をサボり、リベンジおめでとうパーティーをサプライズ開催したのですが……。なぜか半日口を聞いてもらえませんでした、はい」

「仕事サボったからじゃねーかな」

この子がいないだけでこうも雰囲気が変わるとは……

あれ?クリュティエの手下たちってこんなに陽気な集団だったっけ?もっと全体的にギスギスしてなかったか。

 

内心混乱しているオレに気づくことなく、ヒューは思い出したようにポンと手を打った。

 

「そうそう。これを渡しておくよう言いつけられていました、どうぞ、はい」

 

差し出されたのは一見ただの袋だ。しかし受け取ってみると、重さや袋の外から触った感覚から中身は明らかに拳銃である。

 

「例の気休め程度にはなるアレです」

「いくら公共の場だからって発言が曖昧過ぎるぜ」

「毎回頭を潰すのが面倒なので、こいつをバーンとすれば」

どいつもこいつも余計な発言が多いわね

今言ったことで思い当たるものは……。

ここで不安定にさせられるのは困るんだけど

「……人に向けても効くのか?」

「───は?あなた銃火器なめてるんですか?普通の物でも当たったらアウトですよね?今まで何を学んできたんですか?」

「あ」

 

し、しまった。迂闊だった。

 

今のやり取りを引き金に、ある光景が脳裏を駆け巡る。

 

 

 

『───なんでわからないんですか?はい、もう一度』

『はやすぎてわかんないよぉ』

『一回言ったので一発で覚えてください』

『も、もじとかいうべんりなものは』

『余計な知恵をつけさせるなと厳命されているので、諦めて口頭だけで必要最低限できるようになってください。喋るなとは言われていませんから。では、木炭の質量を今から言いますから必要な硫黄の質量を1.5秒で答えてください。材質や品質の前提は先ほどと同じです』

『こたえる時間へった!?』

『はい、どうしてすぐ解答時間が何パーセント減ったか言わないんですか。昨日の復習ですよ。あれだけ割合の重要性は説きましたよね?あなたがやると言ったんですから、計算程度死ぬ気でやってください』

『しぬの…!?』

『調合間違えたら死んでください。やりたくないならどうぞご勝手に。やるのならもう一度問題を出しますよ、はい』

 

 

 

「ぴゃい」

あ、別のトラウマスイッチでごまかせたわ

めちゃくちゃ詰められた記憶がぶり返した。頑張らなければ見捨てられてしまう。

 

ヒューはオレに対して関心を寄せることも、ましてや怒ることもなかったが、火薬爆薬のことでの間違いは許さない上に、淡々とした口ぶりで追い詰めてきたものだった。それらを利用する道具についても言わずもがな。

 

ここからまた怒涛の勢いで中途半端な認識を詰められる……っ。

 

「あの方は効能を話したとうかがっていましたが」

「いや、少しだけ聞いて、あとは……」

「ああ……。彼女、うっかり忘れていたのですね。これは失敬。()()の特殊効果については、元気で一般的な人間にはあまり効き目が薄いだけの話です。一発で効き目バッチリなら、憲兵は犯罪者にぶすぶす注射する必要はないわけですから、はい」

 

…え、それだけ?終わり?実はこれから火薬から出る熱について、解説を挟みながら詰められない?

 

おそるおそるヒューを見るが、そこからさらに話を続ける様子はない。オレは身構えていたのに、拍子抜けしてしまった。だからだろうか。接近を察知できなかった。

 

足元に何かが当たる。歩くだけでぶつかるような人混みではないのにだ。

 

下を向くと、幼い女の子がオレを見上げていた。あまりにも見つめてくるので居心地が悪い。なんなんだ、このチビ……。

 

髪を二つにきれいに束ね、清潔な服装をしているから、ただの迷子か。オレはしゃがみ、話しかけた。

 

「なんだよ───うおっ!?」

 

急に小さな手が顔に手に迫る。とっさに払おうとしてしまうのをぐっとこらえたところで、眼鏡をずらされた。

 

「わあ……っ!」

 

何が面白いのか幼女は目を輝かせる。そして、さらに予測不可能な行動を取った。

 

「ようせいさんだっ」

 

小さな声とともに、オレに抱きついてきたのである。

 

「は?」

「ようせいさんっ」

「違っ」

「おねーちゃん、ようせいさんじゃないの?」

 

謎の勘違いを否定しようとすると今しがたの笑顔は急転直下、今にも泣きそうな顔になり、

 

「ちがうの?」

「………じ、実は、ここだけの話、そうなんだ。よくわかったな」

 

苦し紛れに肯定するはめになった。クソッ、恥ずかしい。でも泣かれると面倒だから……。

 

ヒューがチラチラ見てくるのがわかる。幼女は気持ち控えめの音量で話しているが、ばっちり周囲に聞こえているようだった。

 

「そっかぁ!ないしょなんだ!」

「おう。ひ、秘密だ……」

 

この野郎、肩震わせやがって……、後で殴る。

 

幼女の発言を否定することも引き剥がすこともできずに困っていると、幼女とどことなく雰囲気の似た男女が一人駆け寄ってきた。

 

「ネリア!!!そこにいたのね!一人で勝手に行っちゃうのはダメって、お母さん何度も言ったでしょ!?」

 

どうやら親のようだ。オレは立ち上がったが、小さな体はガシッと服をつかんで離さない。

 

「ああ、すみません……!こら、お姉さんが困ってるじゃない!?」

「やだー!このおねーちゃんといっしょがい゛い゛ー!!!」

 

母親が幼女ことネリアをオレから引きはがそうとしたが、彼女はギャン泣きして服にへばりついた。これ以上泣かれると服が涙と鼻水で大変なことになってしまう。

 

「……オ、私は大丈夫ですから」

「───ええ、このままでも大丈夫ですわ」

「おまっ!?今までどこ行って───!?」

 

クリュティエがしれっと会話に割り込んできた。そして、あれよこれよという間に幼女の親と話して打ち解け、

 

「あらあら、同じ汽車に乗るのですね。せっかくだから一緒に乗ってあげなさいよ。ねぇ?……あなたはその子とあっちにいってなさい、早く」

「はあ?」

「おねーちゃん、ネリアのとなりきてくれるの?」

 

ネリアは期待に満ちた目でオレを見、彼女の両親はどうしようかと顔を見合わせている。

 

 

 

§ § §

 

 

 

「この子の我儘を聞いてもらってしまって、ありがとうございます」

「あははは……」

 

結局、隣にネリア、正面に彼女の両親という配置の、同じボックス席に座ることになった。自分よりも小さく摩訶不思議な生き物に纏わりつかれるのにはビックリしたが、なんであれ、クリュティエと別行動になったのはチャンスだ。

 

彼女たちは首都に仕事の都合で来ていて、普段住んでいる町はここから数駅先、今日は帰りであることなど、簡単な身の上を話してくれた。

 

この幼女、ネリアはというと、今回が初めての首都へのお出かけとのことで、一人であちこち勝手に行きそうになってしまい、とても大変だったらしい。好奇心旺盛な子ということである。

 

オレの隣ではしゃいでいるネリアを見て、彼女の母親が手を頬に当てた。

 

「キレイなものには目がなくて、すぐにフラフラと寄っていってしまうんですよ。大人になったらどうなるのか、今から心配だわ……」

 

なるほど、メンクイというやつか。まあ、オレはかっこいいからな。

 

そんな親の心配もつゆ知らず、ネリアは、

 

「おひざのっていい?」

「おう」

 

了承するや否や、自分で靴を脱いで座席に登り、膝に乗ってくる。地味に素早く、無駄のない動きだった。

 

「注意しなくても自分からやるなんて……!見て、靴もちゃんとそろえているわ!」

「今日だけものすごくお行儀が良いぞ!あのネリアが……!」

 

感動する親に、どうだとばかりに見上げてくる幼女。

 

……誉めてあげた方が良いのか?

 

「え、偉いぞー」

「もうすぐごさい!」

 

じゃあまだ四歳ってことか。自分が四歳の頃とか、そのくらいの小さい頃の出来事なんて、まっさらで全然記憶ねーや。

 

前は、生き物は泉みたいなところからポコポコ湧いてきて、何かしらに引き取られていったりいかれなかったり、そんな方式だと思っていたが、流石に今は、オレ自身もそのほかの生き物も、無から発生したわけではないはずなのはわかっている。だから、どうやら自分はろくな生まれじゃなさそうだぞ?というのは、今になってなんとなく察しているのだ。

 

ついぽけーっとしてしまっていると、袖を引っ張られる。

 

「おねーちゃんのめがねとっていい?」

「いいぜ」

 

ネリアはやたらオレの掛けている伊達眼鏡が気になるらしく、これまた素早い動きで顔から眼鏡は外されてしまった。なんだこの子。

 

「わぁ……!!!」

 

何が嬉しいのかさっぱりわからないがネリアは喜び、オレの耳元に口を寄せてくる。

 

「あのね、おねーちゃんがようせいさんなのは、ママにもパパにもごきんじょのひとたちにもいわないからね」

「おー、ありがとな」

 

謎の勘違いは継続しているが……、うむ、否定すると泣かれるし、もう訂正はしないでおこう。

 

ネリアは小さな眉をキリリとあげた。

 

「あなただけが、わたしのじんせーをうるおす。まるでそらからまいおりたみつかいのようだ……。あなたがいるならば、かれはてたさばくもよろこんでこえてみせよう」

 

ママさんが無言でオレの膝の上からネリアを回収した。その動きはオレでも見切れないほどだ。パパさんは驚いたようにオレとママさんの膝の上を交互に見ている。……ほう。ネリアの動き、母親譲りか。

 

「……ネリア、それどこで聞いたの?」

「ママがひとりでかがみにむかってしゃべってたのみた。ねー、パパ」

「ねー」

 

 

 

なお、ママさんの弁解によると、演劇が好きなんだとか。

 




仕事の会議中に思いついて退勤後も頭から離れなかったので、葉っぱを食べているアコラスくんちゃんを描いたのですが、自分でも気に入ってしまったのでこっちにも載せます。
自作ですので閲覧する場合はご注意ください。

【挿絵表示】


ちなみにこんなことばかり考えていたせいで、会議の内容は全く頭に入りませんでした。
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