【N.C. 999】
正直言うと『今回』のリーンはちょっと苦手だ。迫ってくる勢いがありすぎる。
「ううっ、アコちゃ~んっ。元気そうでよかった~」
「オレが元気じゃない方が、リーンたちとってはいいことなんじゃないか?」
「そんなことないよ!私はアコちゃんのこと好きだもん」
「……お、おう」
突然のド直球な好意に、困惑すると同時に悲しくなる。……小さな男の子みたいでかわいいとかそういう理由だもんな。それ以外は思い浮かばない。助けたりとか一緒に遊んだりとか、リーンから好感を持たれるような行動を取ったことなんてねーし。
ベタベタされる分には、まあ、嫌じゃないが、襲いかかってくるみたいに追いたてられるというか、狙ってくるというか、そういう感じが少し怖い。普通に接してほしい。ずっと『前回』や先日の対応であってほしかった。
しかし、今。オレは自主的にリーンにくっついている。
いくつか理由があるのだが、一番は……、げっ。
リーンの背後からそっと覗くと、レドにガン見されている。
うむ、不用意にレドに近づくのも、今すぐ逃げるのも、まずい気がするぞ?と脳内警報がガンガンなっている。
別にびびったわけではない。せん、せん……せん……じゅつ*1的撤退だ。
そういうわけで、一旦全面降伏のふりをすることにしたのだ。
「その子、ほんとに大丈夫なの?」
さっき顔を合わせたとき「うわっ」と飛び退いてきたヴァイスが、露骨に嫌そうな顔をしている。
車内を見渡せば、ブレウは一つ後ろの車両を貫通扉から見ており、ネロが賊の尋問をしている姿が目に映った。
こいつら、やはり貨物車に乗っていたのだ。降伏の意を伝え、次にリーンを盾にしたところでぞろぞろ出てきた。一般乗客が賊の新手かと驚き、ブレウが身分を偽りながら弁解していた。でも内容めちゃくちゃ適当だった。
レドと喋っていたところは全部見られていたらしい。だが、聞かれてまずいことはしゃべってなかったはず。それに、向こうもカツラがとれるまでは、まさかオレだとはわかっていなかったわけで。
……ローザとこいつらと乗り合わせたのは、偶然ということでいいのか?クリュティエがヘマするとも思えない。賊の襲撃を事前に察知していたからという理由の方が納得がいく。
なお、ローザの名前をポロっと口にしただけで全員剣呑な雰囲気を放ち始めたので、詳細は探ることができないでいた。
「隠し持っている武器がないかは、念入りに確認したもん」
「そうはいっても……ほとんどなかったのは怪しくないかい?」
持っていた唯一の武器である拳銃は、リーンとネロに全身まさぐられて没収された。嫌な予感がしたので、抵抗せずにおとなしくしていたというのに……。
「持ってないもんは持ってないんだから、しかたねーだろ」
「うわっ、話しかけてきた」
文句を言うと、心底驚いた態度をヴァイスに取られた。なんだよ。別に今までだって、普通に喋って……ない!?
……何回喋ったことあるっけ?
「アコちゃんが地味にショックを受けてる……!」
「僕のせいじゃないよね?今までこっちが話しかけて、二回中二回つっけんどんな対応とってきたのは、そっちの珍獣ちゃんの方だよね?」
それほど気にかけてこなかったせいか、思い出せない。
「───ねえ」
会話の流れを断ち切るように、ネロが言葉を発した。見れば、襟首を掴んでいる者の首はがっくりとなっている。横には二人倒れており、一人はガタガタ震えていた。
ネロは一度手元を見、再びヴァイスに視線を戻す。
「三人気絶した……」
「まだ目的も聞けてないのに!?何やってんのさ」
「つい殴りすぎた……」
「ほらまだ一人残ってるんだから、ちゃんと聞きなよ~」
「わかった……」
盗み聞きというか、堂々と目の前で行われた尋問で賊が吐いた情報によると、まだ解放していない残りの前の車両についての状況がわかった。賊はまだ10人ほど残っていて先頭車両に司令塔がいること、一等車は乗客の見張りがしにくいので、前から二番目の二等車に集める手筈になっていること。それと、機関室を制圧されても汽車が動き続けているのは、乗客を逃がさないためであること、だ。
クリュティエたちは人の目もあるので、たぶん何もしていないだろう。このくらいの賊なんて、クリュティエ一人でいつでも対処できるだろうし。……万が一アイツが動くことがあれば、目撃者を誰彼構わず皆殺しにしそうだ。
ちなみに今ここには、レドたちと賊四人に、リーンと手を繋がされている以外はなぜか自由の身のオレしかいない。
当初、乗客の前でネロは尋問としてガンガン殴っていたのだが、普通にドン引きされたので、とりあえず一つ前の車両を解放し、そこに移動したのだ。元々乗っていた乗客は後ろに退避してもらっている。あと、ネリアはママさんの尽力により、オレから無事引き剥がされた。代わりにリーンが手をしっかり握ってきた。逃がさねーぞ、ということらしい。
捕まえた賊でただ一人意識のある者にターゲットを移されていた。
「何が目的で汽車を襲ったの……?」
「ここに乗っている少女を捕まえに来ただけで」
「少女……誰?」
「し、知らねぇ!俺らはただボスに言われただけだっ!売って金にすんだろ!!!顔しっかり見て、見た目の良いガキを連れてこいとか言ってたしな!」
「人身売買目的でも、走行中の汽車をわざわざ狙うのは、あまりにも大がかりすぎる。本当にそれが目的?」
「だから知らねぇって!俺だって確かにおかしいとは思ったけどよぉ……っ」
「……最初、この汽車にいる少女を捕まえに来た、と言っていた。そして、その少女の条件は見た目の良いこと。他にも何かあるなら、さっさと吐く。……他の三人と同じ道をたどりたくないのなら」
ネロはそう言いながら、ちらりとすでに気絶済みの三人に視線を送る。
「ち、茶髪!あと、欠かせない条件が1つあるらしいがボスと依頼人しか知らねぇ!それに当てはまる少女を連れていけば、信じらんねえほど大儲けだって!」
すると、残りの一人となった賊は焦ったように叫んだ。知らない知らない言いつつよく喋る口だ。
にしても茶髪ねぇ……。条件があまりにも緩すぎねーか?そんな雑な指定あるか?もしかして依頼人とやらは茶髪大好きなのか?
もう一つの条件は何だろうと思ったら、ネロが賊を締め上げていて、ついに気絶させてしまっていた。何やってんだよ、おい。
「茶髪の女の子なんて、そこら中にいるだない?たまたまこの場にはいないけど」
リーンの疑問にオレはうんうんと頷いた。
見た目がよい少女狙い……。やはり賊の言う通り、拐って売り払うのだろうか。
うむ、オレは関係ないな。
レドたちはきっと、前にいる賊を片づけに行くはず。オレはここでおとなしくしていると見せかけ、隙を見てグレイと、先程あると確信した
……げっ。レドのやつ、またこっち見た。
「首都で追いかけられていたのは、どうしてだったんだ?」
ようやく口を開いたと思えば……、なぜそれを今聞く?
……オレとしては、あの時ばっちり変装していた。であるにも関わらず、襲撃されかけたということは、変装後の姿がもくてきだったのだろう。だから、その姿で一緒にいることが多かった人物……クリュティエ関係が追いかけられた原因だとは考えている。当日、一人で出かけて良し、なんて言われていたわけだから、何かあるに決まっている。
「知らん。誰が追いかけてきたのかすらわからねー。それがなんだよ」
「……茶髪のカツラ、つけてたよな」
茶色……そういえば、栗毛のカツラとかなんとか。
「だから?」
「お前はさっきまで茶髪でっ、見た目の良い少女だっただろうっ」
「……おおっ」
確かにオレはカッコいい、つまり、見た目が良い。そして少女……、それはちょっと受け入れがたいが、女装してるからそう見えるかもしれない。意外と演技派というわけだ……。
わかった。
「つまりオレを未解放車両にぶちこんで囮にすると」
「違う、そうじゃない」
こめかみに青筋が立っていたが、気のせいかもしれない。……気のせいじゃないかもしれない。
そのとき、めちゃくちゃ怒っているレドにブレウが近づいた。
怒りを静めさせてくれるのか。こいつら仲良しだからな。できるんだろう。
「ほう、一人でこれを投入するのは、互いに消耗してくれるので案外良い方法だと思いますが、何か問題があるのですか?」
「大有りだ」
「ところでレド」
「ん?」
「トイレで何してたんですか?」
「やめろレド!ブレウを鉄板で殴るのは!ブレウもどうして今このタイミングでおちょくったんだ!反対されたのがムカついたのかい!?」
ブレウに向かって鉄板を振り下ろそうとするレドを、ヴァイスが後ろから止めている。
なかよし……?
……よくわからんが、オレに単独行動をさせたくないということか。一等車のクリュティエの荷物漁りで目的の物を手に入れ、その先でグレイとの合流ができればラッキーだったのだが……、やっかいだな。
座席を壊してバリケードを築き終わったところで、鉄板で殴られかけた以外は特に何もしていないブレウが言った。
「ネロが屋根から、ヴァイス、レドが車内から先頭車両方向へ進んで解決を目指し、僕とリーンはここで見張り、という分担で行きましょう」
おかしい。
まだ10人くらいいる賊には3人がかりに対して、オレ1人には2人がかり……。割合の計算できないのか?オレはここでおとなしくしてるから、お前ら全員心置きなく行ってこい、と言いたくなる。
しかし、そんなこと言ってしまえば逆に何かたくらんでいる風に思われてしまう。ここは見張りの人数が減ったととらえよう。……前の車両のグレイは、姿が消せるからなんとかなるだろ。
「ねえ?治療要員が戦闘しに行くのおかしくない?レドとネロで過剰戦力じゃない?」
「治療要員と言っても本職には遠く及ばないので。ああそれと、居残りの場合は僕と交代です。珍獣が暴れたら、全力で押さえつけるように」
「行きまーす。ネロみたいな目には遭いたくないでーす」
「じゃあ代わりに俺が」
「レドはハニトラに引っ掛かるのでダメです」
「リーンが良くてなんで俺がダメなんだ」
「リーンの方がマシです。ヴァイス、早くそれを連れて行ってくれ」
引きずられるレドが隣の車両へと渡っていったのを見届けた後、ネロが窓の縁に手をかけた。そして、オレの方へ振り向くと、
「……特に恨みがあるわけではないが、泣こうがわめこうが、今度あなたを猛獣と同じ部屋に閉じ込める……」
「!?」
……拷問でもすんのか?
§ § §
前から時々大きな音が聞こえるが、構わずリーンはニコニコとオレの手を握っている。
気絶させないのか聞いたのだが、
「気絶させようにもできそうにない。手錠やロープでの拘束もおそらく破壊される。麻痺は効果時間が短い。であれば、
試しに、握りつぶすぞと脅してみたものの、防御力には自信があるとリーンに返されてしまった。確かに試しに軽く力を込めてみると硬い。骨をボキボキ折るのには一苦労しそうだった。
超至近距離にいるリーンに対し、やや遠くにいるブレウは腕を組んだ。
「で?君はなぜ西に?」
「労働」
「そんな格好で?」
「知らん、オレは着せられただけだ。こんなの自分で選ぶわけねーだろ」
「なるほど。今の君には金持ちの懐にうまく転がり込みこんだか、金払いの良い仲間がいると」
「んなわけっ、……いや、さあどうだか?」
否定したら、それはそれでクリュティエをかばった感じになるので嫌だった。かといって、マイアと名乗るあの女をとっとと捕まえろと言うのもダメだ。下手すると皆まとめて返り討ちに遭う。
「いずれにせよ、よくもまあ、あの手この手で逃亡と潜伏をするものだ」
「でもかわいいよね」
「リーン、甘やかそうとしない。……我々も特に裏事情を教えられないまま、延々と君の捜索をさせられているので、かなり鬱憤が溜まっているのですよ」
ブレウは意地悪だから、本当のことを言っているとは限らない。
「でもブレウくんは、支給された旅費ちょろまかしてるよね」
「バレなければいいのですよ」
「あ、そうだ。お前らオレの物盗っただろ。帽子返せ、帽子」
「帽子?……ああ、あの」
「レドくんが気にしてたよ、どこで手にいれたのかって」
「そんなのいちいち覚えてねーよ。でも返せ」
オレの訴えをスルーし、ブレウがおや、と後ろ車両に直接繋がる扉を見る。
「どうかしましたか?ここは僕らが見張っていますから───」
何の変哲もない男性が立っていた。
彼はまっすぐオレを見ている。
「君はどこから来たんだい?」
全く知らない人のはずだ。なのに、既視感とそれに伴う胸騒ぎに襲われた。
自分自身のことを特に不幸とは思っていない主人公
戦闘力的な意味で主人公最強を1nmほど諦めていない作者
これには特に主人公最強要素を求めていない読者
……Happy!