属性マシマシ悪役TSっ子が頑張る話。   作:働かない段ボール

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【N.C.999】

 

リッチャンさんは胸を張り、言い放った。

 

「というわけで、追放者は無理に戻そうとしても戻れるものではない!お姉さんは、うん、諦めてくれ!」

 

それを聞いた女性の目は……死んでいる。なんだろ?見ていて心配になるというか、それとはちょっと違う変な気分になるのだ。引っかかる感覚に首を傾げているうちに、リッチャンさんは腰を上げた。

 

「赤蛇の民実態周知キャンペーンを良い感じにできた気がする!ヨシ!己は前に戻る───」

「待ってくださーい!」

 

グレイが急に声を張り上げた。御者の座る前の席に戻ろうとしたところを、引き留めたのである。そして、

 

「もしも、窓のない部屋に、必要があるとき以外は押し込められていた幼子がいたら、どう思います?」

 

またそれか!?そこの女性への問いかけと一字一句違わず、同じことを言いやがった。

 

「下手人は生首モノ*1だな!!!」

「ほぉら!!!これはちょっと過激な反応!赤髪赤目だから変な人かと思いましたが許容範囲!」

 

グレイはほらほらほら!とオレに同意を求めてくる。いい加減めんどくさい。どうでもいいだろ、そんなこと。

 

リッチャンさんはオレとグレイを交互に見てから、再び口を開いた。

 

「なに、あなたは監禁されていた経験があるのか!?」

「されてねーです。こいつが勝手にギャーギャー騒いでるだけです」

 

アイリスがいたから、オレもずっと一緒にいただけだ。知らないくせに、勝手なこと好き放題言いやがって……。

 

「ほうほう!窓のない部屋に居続けるのはなかなか強い精神力だな!!!流石に長期間閉所にいるのは、己だったら耐えられない!」

耐えられるわけねぇだろマヌケ

───そうだ、アイリスはすごいんだ。

この世の全てを呪ってやると思ったわ

オレはうんうんと頷いた。なかなか話のわかるやつじゃねーか。

なんで私があんな目に

「絶対にズレたこと考えてる……」

 

グレイが半目で見てくる。さっきまで目の死んでいた女性も頷いている。だが今のオレは機嫌が良い。失礼な言葉は無視してやった。

 

他に気になることもあった。

 

「……られないから」

「ぬ?」

「耐えられないから、村から出てきたのか───いや、出てきたんですか。狭いとこにいるの、嫌だったんですか」

 

オレが気になったこと。

 

それは、なぜ彼らは狭い村から自ら出てきたんだろう、ということだった。

 

「そうではないな!頭が良くなりたいと思ったのだ!頭が良さそうなことをすれば、頭が良くなるはず!見聞を広めようと、外貨稼ぎに便乗して村を出てきた!イーちゃんは『おもしれー男』と言ってついてきた!」

「やりたいことが…、目的があった、ってことか」

「そうだな!」

 

オレにとっては、オレが一番したかったことは、アイリスとずっと一緒にいることだった。

 

アイリスはあの日、『この扉、開くかな?』と聞いてきて、『うん』と返したら、部屋の外へ行ってしまった。一人であっさりと、オレを置いて。

 

『かくれんぼしよう』という言いつけを守っていたが、いつまで経っても見つけてくれない。

 

だから寂しくなって、半開きになった扉の隙間から、初めて一人で部屋を出たのだ。

 

そして、記憶を頼りに、わかるところまで歩いていったら、とっても怖いヤツがいた。

 

「オレは、狭いとこから出たら、嫌なことがあった」

 

つい口から漏れてしまった言葉。

 

前回、部屋から出たら、とっても怖い───クリュティエたちが先生も他の大人も皆殺しにしたところに、鉢合わせてしまったのだ。オレもぶち殺されそうになったのだが、アイリスが止めてくれた。

 

その後は知らないところに連れていかれ、アイリスからひきはなされた。言うことを聞けば、会わせてもらえたり、痛いことはされなかったりしたが、それでも嫌だった。

 

研究所よりもよかったところは、色んなところに窓があったから、いつでも外が覗けたのと、時々使いっぱしりとして、外に連れ出されたことくらいだ。

 

今回だって屋外で寝ているときは、箱の中みたいな狭いところに隠れていないと、どこに連れて行かれるかわかったものじゃなかった。

 

「そういうこともある!勝手知ったる村の中と比べ、未知の外界は常識が通じない上に周りはマイナー異教徒!結構こちらは困っている!」

いや何自分が標準みたいな口ぶりなのよ

前から落ち着いた声もした。

 

「どちらかというと、私たちがマイナー異教徒で、結構周りが困惑してる」

「イーちゃん!正論パンチは止めるんだ!」

「そのせいで初仕事クビになった。忘れたとは言わせないよ」

「文化の違いだ!仕方ない!」

「そうやって『仕方ない』で終わらせたら、いつまでも目標額に届かないでしょ」

「ぐうの音も出ない!いっそ来世の運も今につぎ込む気持ちで博打でもするか!───おおっと、すまない!今の発言はなし!こちらでは、此岸において生まれ変わることができるのはただ一人、だったな!難儀な教義だ!謝ったのでクレームはなしで頼む!」

「うまれかわる?」

ちょっと、余計なこと言わないで

言っていることはよくわからんが、変な言動で仕事をクビになったりしていることだけは理解した。残念なやつってことだな!

 

すると、今まで黙っていた女性が、心配するような声色で言った。

 

「……あなたはもしかして、閉じ込められていた頃に戻りたいの?」

「そこまでは遡らなくていいです。……っつーか、たまたま馬車で乗りあっただけの人に、身の上話聞かせちゃってんだ。お前のせいだぞ」

 

グレイのほっぺをつねる。やり取りを見ていた女性は顔をひきつらせていたので、止めてやったが。

 

突如、リッチャンさんはひときわ大きい声を出した。

 

「なるほど!」

 

そして、納得したように頷く。

 

「あなたは見た目は少女、中身は幼児なのだな!」

「あ゛あ゛?」

よくわかってんじゃない

こいつ苦手!

 

 

 

失礼な御者は威嚇したら前に戻っていった。バーカバーカ。

クスクス

猫がしきりに何か言いたげにして、鞄から出てこようとするのをグレイと抑えていると、乗り合わせた女性が口を開いた。

 

「あなたたちはこれから、どこに向かう予定なのかな?」

 

そう言って、「ほら、乗り合わせた仲だし、と付け足してくる。オレたちは次の次くらいの町に馬車で移動して、また他の移動手段で目的地に行く予定だったが、

さっさと降りなさい

「次の町で降ります」

「もう、お師匠ったら、全く町の名前覚えないんだから。穴場の観光地探しをしながらの旅行ですよ。お姉さんは何用で?」

「い、急ぎの仕事で、え、えへへへ」

 

そんな、どこか焦るような声に、オレは何気なく言った。

 

「ああ、鬱陶しい後輩がいるっていう職場の」

「───あのやかましい赤髪が、私の思考の邪魔をする……っ!」

 

急に女性は険しい顔になる。この人にやかましいと言われるのは相当やべーぞ。ん?……まあいいや。

 

彼女は深呼吸をしてから、にっこりと微笑んだ。

 

「ごめんね、取り乱しちゃった」

 

落差がすごいぜ。どんだけ鬱陶しい後輩のことが嫌いなんだよ。気になった末に、つい言ってしまった。

 

「あの、なんか……大丈夫ですか?」

 

グレイがぼそっと呟く。

 

「お師匠は優しそうな年上女性に弱───痛ぁっ!」

 

誤解されるようなことを言い出したので、再びほっぺをつねって黙らせると、女性は戸惑っているような表情をひとしきり見せた後に口火を切った。

 

「私の仕事場、いつ潰れるかもわからない小さなところなんだけど、去年新しい子が入ったの。でもその子、急にいなくなっちゃったんだよね……」

 

むむ、職場に定着しない新人。しかもこれはバックレってやつだ。本で読んだぞ。

 

うんうん。

 

「代わりに来たのがクソうるさい奴らだった……っ」

 

うんうん。

 

「特に酷い後輩が一人。前々から少し変わった子だとは思ってたけど、まさかあそこまで酷いとは思わなかった。私、土下座のままスムーズに地を這う人間初めて見たよ。上司も上司で急に、他所から兼任の形で10人くらい引っ張ってきたからあとよろしく!みたいな感じで全部ぶん投げてきたときは、殴ってやろうかと」

 

うんうん。

 

よどみなくスラスラと出てくる彼女の言葉に、オレは耳を傾けた。

 

「一体何の仕事されてるんでしょうね」

 

グレイがヒソヒソと言ってくる。

 

ふむ。

 

突然バックレる新人。

 

左遷してきたやべーやつ。

 

酷い仕事を振る上司。

 

……ろくでもない人間が集まる大変な仕事?

 

「どうして、いなくなっちゃったのかな」

 

バックレ新人のことか。いつ潰れるかもわからないところだし、ヤバそうな職場だし、理由はいくらでもありそうだ。

 

この人も、バックレ新人みたいに職場を捨ててしまえばよかったのでは?

 

「嫌なことがあったから捨てた、とか」

「捨てられちゃったかぁ」

「他の仕事の方が稼ぎが大きい、とか」

「お金は大事だもんねぇ」

「やりたいことが他にあった、とか?」

「……今を捨ててまでやりたいことって、何なんだろうね」

「本人にしかわかんないじゃないですかね」

「ねえ!……例えばなんだけど、……あなたにはある?今よりも何よりも、大事な望み」

 

似たようなことを前も聞かれたな。

あの時は捨てるものなんて何もなくて

何回目だろう。

この時間が永遠に続けばいいのに、と望んでいた

直近だと、レドに聞かれて、それより前は、まえは……。

見ていたくなってしまった、わたし(オレ)の、愚かな夢

その質問にオレはコクンと頷いて欲張る。

欲しがってしまった、オレ(わたし)の、始まりの罪

「褒められたい」

 

女性は驚いた表情をした。そして、あれ?私ちゃんと褒められてなかった?もしかしてダメダメな褒め方してた?とブツブツ呟いている。

 

グレイがツンツンつついてきた。

 

「褒められたがりだったんですか!?僕が褒めてあげましょうか?」

「やらんでいい」

「誰なら褒められていいんですか、もー」

「うるせー。どうでもいいだろ」

「当てて見せましょう。……アイリスさん!」

「むっ」

「ふっふ~ん、図星でしょ。でもどうして?」

「大好きだから」

愛しい愛しい、力なき人の子

好きだから、アイリスをわかってあげたい。だからアイリスの真似っこをする。オレを救ってくれたから、オレも同じことをする。あと少しだけ頑張ってと言われたから、運命を捻じ曲げるために頑張る。

あの子の望みを叶えるために

「大好きだから、なんだってできる」

オレ(わたし)わたし(オレ)になった

これは良いことだ。良いことがきちんとできたら、ご褒美があるかもしれない。

 

ご褒美として、頑張ったことを大切な人たちに褒めてほしい。こうすれば、大切で、大好きな人たちにもう一度会っても、きっと許されると思うのだ。

私はあんたが大嫌い

「へ、へそ曲がりなお師匠が、ドストレートな好意を……。これが実の姉パワー」

 

なんだと。

 

自分で自分のへそを触って確かめたが、普通のへそである。雷が鳴るときはちゃんと隠したりしているのだ。曲がってなんかいない。

 

「……お姉ちゃんのこと、好きなんだね」

 

乗り合った彼女はまるで言葉を噛み締めているようだった。

 

「お姉ちゃんは今何をされてるの?」

「どこにもいなくなっちゃったから、わかんねーです」

「どこにも?どこかに行って、生き別れたってこと?」

「さあ」

「さあ、って……。どこにいるかもわからないんだよね?褒めてもらうために、どうやって会うの……?」

「待ってる」

冷たい闇の中で輝いていた温かな光

会いにいこうかとも考えたが、きっと見つけてくれるから。

その光はいつかこの身を焼き尽くす

グレイが呆れ返った、というふうに言った。

いつか、きっと

「なんという無計画。五年、十年待っても来なかったらどうするんですか」

「五年?そんな待ち続けるつもりはねーよ」

今はまだ夢を渡ろう

オレは首を振る。

その時が来るまで

「だって、そこまで生きてく予定ねーし」

お望み通り殺してやる

遅れて女性の声がした。

いつか、きっと

「……え?」

「おおおお師匠!?何馬鹿なこと言ってんですかあんたは!?」

今はまだ備えよう

取り乱したグレイが掴みかかってくる。首が締まるから止めろ。その手を振り払った。

その時が来るまで

「まさまさまさか、実はやっぱり体に問題があって寿命が短いとか!?」

「はあ?なんだそれ?」

「それじゃあ、じ、自殺でもするつもりですか!?」

「わざわざなんでそんなことすんの?」

「なら、あと五年も生きていく予定はない、なんて言うんですか」

「なんでそんなこと聞く?意味ねーじゃん」

また会話を成立させない~っ!」

 

うるせーな。

 

グレイがまた掴みかかってこようとするのを片手で制していると、

 

「……なんですか、いきなり」

 

もう片方のオレの手を、女性は急に掴もうとした。もちろん避ける。

 

「おかしいよ」

「はぁ?」

 

言動がよくわからん。もしかしてこの女の人、御者みたいに変な人だったのか。

 

「見ず知らずの人間の手を、急に掴もうとする方がおかしいだろ」

「本気で言ってるの?『生きていく予定はない』って言葉も、『見ず知らずの人間』って言葉も」

あーあ

やることなくなるからいなくなるのも、会ったことのない人間を見ず知らずと表現するのも、正しいはずだ。こんなやつ知らな───、

そいつは敵だから排除しないと

「───ねぇっ、アコ後輩!」

やっちゃえ

オレは目の前の女の手首をへし折った。

 

何者だ。グレイはオレのことをほとんど名前で呼ばない。知る由なんてないほぼないはずだ。怪しい。なんでこいつ、そんな呼び方でオレを?

 

「待ってください!」

 

続けざまに鼻あたりを一発殴ろうとしたら、グレイに止められる。

 

「ちっ」

 

邪魔しやがって、このクソガキ。

 

「私だよ!ウィステだよ……!」

「ああ!?お前なんぞ知らねーよっ!!!」

 

もう面倒だ。強制途中下車してやる。オレはグレイを抱えて馬車の扉を開け放つ。

 

「お客様ぁ!走行中の車内でそういう行為はいただけないな!!!」

 

こちらめがけてナイフを投げようとしている御者に、逆に金を投げつける。その隙にオレは馬車から飛び降り、そのまま馬車では入れない道なき道へとかけていったのであった。

 

*1
『首以外全部狩っちゃおうかな~』の意味。赤蛇の民にはかつて、庭に生首を絶やさないで置いておく風習があり、『生首モノ』は『貴様の首を狩り、武の証とする』の意味だった。しかし、ご近所トラブルの発生によって庭への生首設置及び首狩り行為が禁止になり、次第に言葉自体の意味が変わった。なお、首狩り禁止の例外は、偶然切ってしまった時や食料等として捕らえた動物を解体した時。




無賃乗車ダメだよと教わったけど不審者の手首折るのはダメと言われていない系主人公
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