【N.C. 997】
何事もなく総合訓練評価演習の全日程が終了して数日後。夕方より少し前の昼過ぎ、結果を受け取るために訓練生たちは講義室に集められていた。封筒の中身には訓練の合否と、国家魔術師になれるかどうか、配属先が記載されている。
国家魔術師としての配属先は前線で戦闘を行う第一課、その支援を行う第二課、第二課・情報課とやっていることが被っていてそろそろつぶれると噂の第三課、第一課の装備の整備や改良を行う装備課、国内の不穏分子や他国を探る情報課などが存在している。なおこれらは全て軍属であり、軍属以外であるなら、研究員としての採用などもあるんだとか。
オレとしては魔術師関連の情報が集まる情報課が狙い目だ。総合演習ではなるべく戦闘を避けて隠密行動に徹したのも、これが理由である。次点では第三課。窓際ともっぱらの噂であり、仕事がなくて自由に動ける時間を確保することができる。ただ、第三課はもう人を採らないのではないかとも囁かれており、不確定だ。
結果発表を前に、周りはそわそわしていたり、重々しい雰囲気を持っていたり、逆に自信たっぷりであったりと様々であった。
「どうなるんだろう……、アコちゃんと近くで働けたらいいなぁ」
もはや真横に座っているのに慣れてしまったリーンは、どちらかというと不安そうな表情だ。
しばらくすると、教官が訓練生たちの名前を呼び、別室へ連れていく。レドが呼ばれ、リーンが呼ばれ。部屋から人が少なくなっていく。ふと気がつくと、黒髪の美少女が講義室内にいた。彼女が講義室にいるのは久しぶりに見た。
この女はネロ。
講義を良くさぼり、演習中もボーとしていることもある自由人であるが、試験の結果は大変良く、教官たちが手を焼いている訓練生であった。戦闘センスはレドと並んでずば抜けており、その真っ黒な髪と瞳に大鎌型MARGOTから、死神と称されていた。
あいもかわらずボーっとしている。隣にはヴァイスがおり、だいたい未来でも二人でいた気がする。ヴァイスは治癒魔術が得意だから戦わないと思わせておいて、遠距離から弓を射ってしかも当ててくる奴である。たぶん敵から一番嫌われるタイプだ。
その二人を眺めていると、オレの名が呼ばれた。別室に連れていかれ、封筒を手渡される。この場で中身を確認してよいと言われたので開けると、
「…………あれ?だ、第三課?」
「第三課から派遣された試験官から熱烈に推されてな」
さらっと国家魔術師になれたし、部署も当たりを引いたので嬉しいは嬉しいが、なぜ推されたのか理由がわからない。
「なぜですか?」
疑問を教官にぶつけると目をそらされた。何か話しにくいことでもあったのだろうか。
結果が手渡された後、同期全員が屋外演習場に集められ、教官たちの中で一番偉そうな人が何か長々と喋ったりしていたが、あまり頭に入ってくることもなく話は終わった。その後、オレは帰り支度をして学舎を後にした。
国家魔術師の拠点は首都にある。そのため、現在位置であるこの学校は首都よりも西に離れた町に存在しており、移動しなければならない。首都での新しい家を探すことや、猫をどうやって首都行きの汽車にバレずに乗せるかなどを考える。
結果がどうであれ、首都にはさっさと行こうと決めていた。そのため、汽車の切符は二人分用意してある。正確には用意させられた、だが。
未来を変えようと動いたからといって、それがいい方向に進むとは限らない。むしろ最悪の想定をしていなければならない。オレはすでに以前とはいくつも違った動きをしてしまっている。変わってしまった過去がある。
……とまあ、万が一軍内部に潜入できなかった時に備えてのことも考えていたのだ。猫が。よってオレたちは、今夜出発の汽車に乗る予定だ。家はすでに引き払い、グレイと猫は駅近くに待機しているはず。
「おい!」
汽車は魔術を使わずに動いているとは信じがたい、非常に大きな鉄の乗り物だ。人間はよくもあんなものをつくったものである。
「おい!聞こえてるかー?」
汽車に思いを馳せていると、うっとうしく話しかけてくる奴がいた。学舎から出て、かなり町の方に来たのになぜわざわざ来たのか。
「……なんだよ」
少し足を止め、振り返る。
「なんだよ、ってお前なあ……」
走って追いかけてきたらしいレドがそこにいた。
「卒業式後に懇親会があるのにどこにもいないから、まさかとは思ったけど」
そして、はぁと大きなため息をついた。聞いたことがあるようなないような言葉を口にされ、オレは聞き返した。
「懇親会?」
「マジか……」
天を仰がれた。
「今からでも全然間に合うから、ほら」
「いや、今夜首都行きの切符があるから無理」
「はあ!?もうお前首都行くのか!??」
「と、いうわけだ。じゃあな」
「待て待て待て待て待て、もっとこう卒業の嬉しさとかを分かち合ってだな」
「知るか」
やたらと引き留めてこようとするのでイライラする。
「今夜の汽車ならギリギリ…、あ、例年夜まで騒ぐから無理か」
「じゃあな」
「ちょっと待ってちょっと待って。ほら、お前どこ配属とか……。俺は」
「第一課だろ、知ってる」
「お、おう。……って走るのは早!」
めんどうくさいので走って逃げた。
「あ、お師匠!結果どうでした?」
駅の近くにはグレイが立っていた。リュックを背負っており、よく見ると動いている。猫が入っているんだろう。両手にも鞄をかかえているのでそれは強奪した。
「第三課だった」
「無事試験合格してたんですね。おめでとうございます!」
「ほう、第三課か。そこな、むぎゃっ」
「もう汽車は来ているので乗ってしまいましょう」
「ああ」
駅には大きな鉄の塊、汽車があった。
か、かっこいい……!
隣にいるグレイもそう思ったようで目を輝かせている。
「うん、何度見てもかっこいいものだ」
「蒸気機関……、ぜひ機関室が見たいものです」
グレイとは汽車に対する意見に若干の隔たりを感じてしばしの論争をしたが、グレイの言っていることが良くわからなかったので、ひとまずオレは引き下がった。別に負けたわけではない。
汽車に乗り込み席に座る。ここから首都へは汽車でも長い時間がかかるだろう。
乗車後しばらくすると汽車はゆっくりと動き出した。向かいに座るグレイは何か食べ始めて、オレにも勧めてきたが正直眠い。二三ほど言葉をかわすも眠気に耐えられず、オレは眠りに落ちたのであった。
とりあえずここで一区切り。
このあとリーンはめちゃくちゃレドにキレました。