機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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人は自身の優位性を守るためなら何だってする。

――『幾何学的恋愛感情』


第11話 瑠璃星の燕

「おいアスラン!どういうつもりだ!命令は破壊だぞ」

『捕獲でき…なら、そ…方がいい。このままガモフ…ザザ…連れていく』

 

 MA形態で『ストライク』を捕らえた『イージス』。ストライクはもがくが、パワーダウンしている事もあり大した抵抗になっていない。そのイージスの近くに、『デュエル』『バスター』『ブリッツ』が、寄り添って飛ぶ。

 もうこの宙域での戦闘に意味は無い。バッテリーの残量も少なく、早く母艦に帰るべきだ。だが、破壊目標であるストライクの処遇を巡って、ジュールとザラが言い合っている。

 

「貴様はいつもそうやって自分勝手に!」

『まあ…あ、落ち着い…ザザ…ください』

『別にいいんじゃ…の。ど…せクルーゼ隊長が…ザザ…める事なんだ』

 

 2人の間を取り持つように、アマルフィが宥める。そして揶揄うエルスマン。

 

「…通信のノイズが酷いな」

『ええ。こ…距離でここま…で雑音が混…ザザ…るのは初めてです』

 

 最初に違和感に気づいたのは、ジュールだった。通常の短波通信ならば有効距離は短いものの、電波妨害の中でも支障なく会話出来る。

 その通信手段にノイズが入るのはあまりない。気になったジュールが、通信機の具合を調べる。

 

「は?」

『何か…ったか?』

 

 間の抜けた声を出す。通信中の相手リストに、身に覚えのないものがある。かなりの量でデータがやり取りされており、それが通信回路全体に強い負荷をかけているようだ。

 その名前は――。

 

「『NEXUS』?なんの事だ?」

『俺の方にもある。ネクサス…誰…知…ザザ…ピーガガガガ』

 

 口にした途端、通信機のノイズが異常な程に大きくなった。相手の顔を映すモニターが砂嵐に覆われる。

 驚く暇もなく、ロックオン波を感知したアラートが鳴る。白いスラスターの光が遠くに見えた。

 

「何か来る!」

 

 光はあっという間にこちらへ接近し、そのまますれ違う。こちらがロックオンする暇すらない、信じられない程の速度。だがモニターが捉えたその特徴的な蒼い装甲は、見紛うはずがない。

 

「『三つ首』!!」

 

 機首からなおも黒煙を吐き、ガンバレルの一基は失われ、それでもまだ戦おうというのか。

 ビームライフルを撃つが、銃口を向けるよりも敵が動く方が速い。先程までと比較して、さらに動きが機敏になっている。正確な数値は分からないが、恐らくは3倍程度か。

 

「舐めるなよ!」

 

 ならばその動きの先を予測する。速度が上がっても動かすのは所詮ナチュラル。コーディネイターである自分が負けるはずがない。

 エルスマンとアマルフィも似た事を考えたのだろう。3機のG兵器が一斉にゼロ式に向けて射撃を始める。

 

 その時、ジュールは自分の目を疑った。

 

 三つ首の機体が、弾幕の中を進んでくる。こちらの攻撃を全て躱している。ロックオンし銃口を合わせても、引き金を引く前に補整が切れる程に動かれる。こちらの動きが完全に読まれているかのようだ。

 

 驚いている間に、敵はイージスへと攻撃する。『バルルス』ではなく『リニアガン』を使うのは、ストライクへの誘爆を防ぐためか。MA形態では防衛ができない。イージスがストライクを解放する。

 

「クソ、逃がすか!」

 

 離脱しようとするストライクに、ジュールはビームサーベルを抜き斬りかかる。せめてコイツだけでも。そう思い、三つ首から目を離したのが間違いだった。

 デュエルのサーベルを持った左腕を、緑の光が貫く。爆煙と振動にジュールが怯む。そのすぐ横を三つ首が通ったのを、煙の隙間から垣間見た。

 それはまるで、嘲るように。弄ぶように。

 

「こんのぉ!!」

 

 怒りに任せ、三つ首にライフルを乱射する。敵は機体を捻る。今度は下から攻撃するつもりか。そうは行くか。今度こそ落とす。

 

 いや、待て。敵機の姿に違和感が――。

 

「ガンバレルは何処だ⁉︎」

 

 残っていた一基のガンバレルが外れている。何処に展開した。そして視界の隅に、蒼を見つける。

 煙の中。機体の脇腹に。その2門の銃口が鈍く光る。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

「イザァァァアアアク!!」

 

 デュエルの脇腹。すなわちフェイズシフト装甲が失われた場所に至近距離で被弾した。激しいスパークが機体を走る。決定的な損傷を受けたのか、機体が沈黙する。

 ジュールは無事か。エルスマンの背筋を嫌な汗が伝う。

 

『イザ…ク!イザーク!!応答してください!』

「っ!!…ニコル、通信が」

『ディアッカ?回線が回復したのですか』

「みたいだな。イザークは?」

『それが応答が…!来ました!』

 

 ノイズが無くなり、通信状態が良好になる。急いでジュールの安否を確認する。

 

『痛い…いたい、いたい』

 

 返ってくるのは呻き声だけ。詳細は不明だが、生きているようだ。ほっと胸を撫で下ろし、意識を敵に向ける。まだ攻撃をしてくるかもしれない。

 

 そう思った所で、再びエルスマンは凍りついた。

 

 目の前のそう遠くない所で、バルルスの砲門がこちらを狙っている。…だが、発射して来ない。先程までの変態機動が嘘のように、燕はじっとその場に静止している。落ち着いて見れば、左翼に付けられたライトが不規則に点滅している。

 

『このぉ!!』

「待て、アスラン。光信号だ」

 

 ライフルを構えようとするザラを制する。下手に刺激すれば、今度こそ誰かが殺されるかもしれない。

 点滅する光信号を解読する。どうやら暗号の類は使われていないようだ。

 

「『た・が・い・に…これ以上の戦闘は避けるべきである・102(デュエル)を連れてこの戦域を離脱されたし』」

『何!?』

 

 確かに互いに損傷が酷い。バッテリー残量から考えても、戦闘継続は困難だ。ジュールの容態も把握できていない。向こうもバッテリー切れのストライクを守りたいのだろう。ここが引き時か。

 

『しかし、キ…ストライクの捕獲が』

『我々も消耗しています。手柄はありませんが、このG兵器を破壊されるよりはマシでしょう。撤退命令も出ています』

『だが…』

 

 渋るザラを、アマルフィが説得しようとする。エルスマンは、遠くからこちらに近づく光を見つけた。

 

「それにどうやら、敵の増援も来たみたいだぜ」

 

 オレンジ色のゼロ式が、自分たちの周囲を遊行する。あの色は確か『エンデュミオンの鷹』だったか。手負いの状態で、無傷の彼を相手にしたくはない。ここは向こうの提案に乗るべきだろう。

 

 ブリッツが動かないデュエルを抱える。そして4機のG兵器は、ローラシア級『ガモフ』へと踵を返す。任務は失敗だ。

 

「俺たちの負けだな」

『…クソ!』

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 敵のXナンバーが引いていく。

 前方のナスカ級も航路を変えた。作戦は成功だ。

 

「…や、やった……のか?」

 

 アークエンジェルのブリッチの中で、誰かが呟いた。それを皮切りに、喜びの声が広がっていく。ラミアスもようやく肩の力を抜き、椅子にもたれかかった。

 

「グズグズするな!緊急着艦ネット、用意!医療班と整備班はドックで待機させろ!」

 

 その空気を引き締めるように、バジルールが指示を出す。一瞬、しんと静まる。そして指示の内容を理解し、それぞれが持ち場に戻った。

 そう、まだ戦闘は終わっていない。被弾したゼロ式の収容や、『アルテミス』への入港申請などやる事は山積みだ。

 

「ごめんなさい。私が言うべきだったわね」

 

 ラミアスが小声で謝罪する。本来は艦長がする仕事だ。しかしバジルールは、なんでもないとでも言うように肩を竦めた。

 

「突然に艦長の椅子に座るようになったんです。分からないことだらけで当然です」

 

 技術畑出身の自分では気づかない事が多い。支えてくれるなら、とても助かる。

 

「ありがとう」

「…いえ、礼を言われるようなことは」

 

 帽子を被り直し、バジルールが目を隠した。照れているのだろうか。

 

「ストライク、ゼロ式フラガ機、ゼロ式ポワソン機。着艦します」

 

 ハウの声がした。

 

「…ポワソン機大破。パイロット…せ、生死不明…だそうです」

 

 最悪の内容だった。

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