機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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信じたいものを信じろ。それがお前の価値を決める。

――『紅き夜に捧ぐ』


第13話 嫌悪

 雲間から太陽が照らすベランダにイロンデルは座っている。プラチナブロンドの長い髪が緩やかな風に揺れ、光を反射する。見る者全てが息を飲む程に美しい、まるで絵画のような空間。

 そのベランダに、1人の青年が近づく。

 

「また読書ですか、イロンデル様」

「シュエット…。ええ、本の世界は素晴らしいですから」

 

 シュエットと呼ばれた青年はイロンデルの傍まで行くと、その本の表紙を覗き込む。青い表紙に金刻印で飾られた題名を読む。

 

「前とは違う本ですね。『退廃的恋愛感情』…続編ですか?」

「ふふっ、ご明察です」

 

 イロンデルは栞を挟んで本を閉じると、シュエットと目を合わせる。

 

「何か御用でしょうか」

「お父様がお呼びです。『視て』ほしい、と」

「…そうですか」

 

 本を持って、屋内へと入る。その顔からは先程まであった笑みが消えていた。

 

「このところ、呼ばれる事が増えたように思います」

「ようやく事業が軌道に乗ってきたのです。それを磐石なものにしたいのでしょう」

「……なるほど」

 

 結局、あの人が求めているのはそんな事か。

 

「…全く、やってられませんね」

 

 後ろに控える青年には聞こえないよう、イロンデルは小さく呟いた。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 イロンデルは目が覚めると、己がベッドの上にいることに気がついた。

 

「…知らない天井か」

 

 随分と昔の夢を見ていた気がする。痛む頭を押さえながら身を起こすと、ぼやけた視界に人影を見つけた。

 

「起きたかい?随分とうなされていたようだけど」

「貴女は…ここはどこですか?」

 

 だらしなく着崩した軍服に、雑に白衣を羽織っている。ボサボサの長髪は、あまり手入れをされていないようだ。

 

「私はセゾン。この『アルテミス』の軍医だ。そしてここはアルテミス。たいして重要でもない地球連合の要塞。…他に質問は?」

 

 必死に頭を回して、これまでの記憶を辿る。最後の記憶は、『デュエル』の装甲の傷を撃ち抜いた事。確かその直後に視界が暗転したのだった。

 

「『アークエンジェル』…。私の乗っていた艦はどうなりましたか」

「ああ、あの白いヤツかい?今は要塞の中に収容しているよ。又聞きになるが、大した損傷は無いらしい」

 

 『ストライク』についても聞こうか迷ったが、あれは一応機密兵器だ。むやみに話題にする事もないだろう。

 それにしても損傷軽微で、あの包囲網を突破できたのは僥倖だ。

 

「そうですか…。よかった…ゥグッ!」

 

 大きく息を吐くと、脇腹に激痛が走った。手を当てると、どうやら包帯で巻かれていた。腹だけでは無い。よく見れば腕や足にも、満遍なく白い布が巻きついていた。服も、軍服やパイロットスーツではなく、病人が着るような薄い生地のものだ。

 

「…これは?」

「気づいたみたいだね。君、死にかけてたよ」

 

 聞けば、この要塞に運び込まれた時は酷い状態だったという。破損した金属片がスーツを突き破り、体内に残っていたと。骨が砕け、内臓も傷ついていたらしい。

 

「伊達に要塞じゃないからね。ここの設備が整って、優秀な医者―ああ、私の事だがね―がいたからよかったものの。こんなに早く目覚めるなんて予想外さ」

「アークエンジェルが寄港してから、どれほどの時間が?」

「精々が1時間じゃないかい?君の治療が終わってからなら、だいたい30分ぐらいかな」

 

 その時、壁の通信機が電子音を鳴らした。どうやら呼び出しのようだ。セゾンは一言断りを入れて、傍を離れた。

 

「はい、こちら第9区画医療棟549号室、セゾン・イストワール。…これはこれは、わざわざ何の御要件で?」

 

 体の調子を確かめると、腕の痛みは大した事がないようだ。包帯は大袈裟だが、傷は小さい気がする。

 

「…はい。………ちょうど目覚めた所です。会話に支障は無く、意識もはっきりしています」

 

 少し腰を捻った所で、脇腹…というより肋骨に痛みがあった。骨が折れていた所。治療によりヒビは塞がれたが、まだ完全には癒着していないようだ。

 

「……はい?……認められません。彼女はまだ………ふざけ――ッ!……いえ、わかりました。失礼します」

 

 通信を終えたセゾンが、不機嫌な顔を浮かべながらこちらに近づく。かなり苛立っているようだ。先の通信の内容は聞こえなかったが、何かあったのだろうか。

 

「司令から直々に命令が出た。直接会いたいそうだ。司令室に来いとさ」

「了解しました」

「…あの業突く張りめ。自分から来るべきだろうに」

「彼も司令ですから。色々と忙しいのでしょう」

 

 ベッドから降りて、1歩を踏み出す。と、視界に違和感を覚えた。少しふらつく。

 

「どうかしたかい?」

「いえ、何やら変な感じが…」

 

 壁にある鏡を覗くと、顔の半分が包帯に覆われていた。片目が塞がれ距離感が狂っているのか、真っ直ぐに歩くことができない。

 

「これは…」

「失明した訳ではないが、近くの裂傷を塞いだからね。包帯が取れるまで我慢してくれ」

 

 包帯の上から瞼を触ると、確かにその近くが痛んだ。

 

「大丈夫かい?杖でも用意しようか。それとも運び手を呼ぼうか」

「…平気です。しばらく歩けば慣れると思います。それより、部屋の場所を教えてください」

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 一番サイズの小さい、それでも少し袖の余る軍服に着替えたイロンデル。壁に手をつきながら、それでも最初よりは自然に歩けるようになった。

 

「イロンデル・ポワソンであります」

「入りたまえ」

「失礼します」

 

 司令室の扉を開けると、タバコの臭いが鼻に入った。思わず顔をしかめる。

 

「苦手か?」

「けほっ…あまり慣れていないもので」

「その体躯では仕方あるまい」

 

 そう言ってニヤケながらガルシアは、咥えていた葉巻を擦り消した。消える直前の火が、濃い紫煙を吐く。

 

「傷はもう平気かね」

「はい。後は無理せず体を休めるように言われました」

 

 数瞬、互いに見つめ合う。腹の中をさぐり合う、鋭い目が交差する。自然と空気が張り詰める。初めて会った時から、この男が嫌いだ。常に腹に一物あるような態度もそうだが、何より中途半端に高価な葉巻の、その臭いが気に食わない。

 

「こうして顔を合わせるのは『ヘカテー』以来だな。あれからどうだね。背が少し伸びたようだが」

「ええ、まあ。少将は以前とお変わりないようで。遅ればせながら、昇進おめでとうございます」

 

 それでも表面上は友軍というやり取りを取り繕う。

 

「よしてくれ。『瑠璃星の燕』に祝われる程、偉くなったつもりは無い」

 

 そこでガルシアは言葉を切り、背後のモニターに映像を流し始めた。かなり望遠で撮られたもののようで、画質は良いとは言えない。しかし、その中心にある白いシルエットには見覚えがあった。

 

「先程の戦闘でも、随分と目覚しい活躍だったな」

「それは私だけの力ではありません。他の士官とは既に?」

 

 覗いていたのか。悪趣味な男だと、顔に出さずに思う。

 良くない流れを感じ、少し強引に話題を逸らす。

 

「ラミアス大尉とフラガ大尉。そしてバジルール中尉とは話したが。なかなかの災難だったと聞いた」

 

 ガルシアが、顔に下卑た笑みを浮かべる。まさか中立国のコロニーで兵器開発を行っていたなどとは言えず、イロンデルは曖昧な笑みで誤魔化す。

 同じ地球連合であっても、あくまで大西洋連邦とユーラシア連邦は別組織。下手にこちらが不利になる事を言えば、巡り巡ってどうなる事やら。特に今回は、相手がガルシアだ。その性格から言って、そんな美味しいネタを利用しない訳が無い。

 

「まさか艦長、副艦長が共に女性とは。『エンデュミオンの鷹』の血の気の多さにも驚いた。だがそれより、ラミアス大尉は明らかにその立場に慣れていないようだったが」

「…ええ、色々と事情が混みあっていまして。本来は技術部の所属だそうです。あの艦に乗る予定ではなかったとか」

「あの新兵器も、そこの開発かね?」

 

 今一番話したくない話題が出た。答えを言い淀むイロンデルを置いて、ガルシアがモニターにXナンバーの映像を流す。

 

「噂にあった、地球軍開発のMS…まさかこの目で見ることができようとはな」

 

 極秘のはずの情報をなぜ知っているのか。とは、疑問にすら思わない。この男の事だ。どうせ間者や賄賂などを使ったのだろう。

 ヘカテーでもそうだった。知り得る事ないことを知り、私利私欲の為に利用する男なのだ。

 

「…何か言いたいことでも?」

「そう気を荒立たせるな。何も、奪おうなどと考えている訳では無い」

 

 ガルシアが腕を組む。

 

「だがその技術が手の届く所にあるのに見ているだけなど、もったいないとは思わないかね?」

 

 まるで全ては自分の手の中にある、とでもいうように掌をにぎりしめる。恐らく、望みは出世の足がかりか。Xナンバーを手土産にすれば、こんな要塞ではなく地球本部の将校になるのは容易だろう。

 今、アークエンジェルの保有するXナンバーは『ストライク』のみ。そしてパイロットは()()()()()()()()。もしその事がガルシアに知られれば、スパイだなんだと理由を付けて拷問してでも情報を引き出そうとするかもしれない。

 

「…あれは大西洋連邦の兵器です。ユーラシア連邦が勝手に押収する事は認められていません」

「正規の兵器ならばな」

 

 モニターの映像が変わる。そこは現在のアークエンジェルの様子だろうか。銃を持った数人の兵士に、クルーや民間人が食堂へと集められている。

 その中には、ヤマトを含めた学生達や、エルの姿も確認できた。怯えた様に母親に抱きつく少女に、イロンデルの心が締め付けられる。

 

「だがあの艦は識別コードの無い、言うなれば()()()だ。私の権限でどうとでもできるのだよ」

「あなたは!」

「私の行いに…何かおかしい所でもあるかね?不審船の乗員は全員スパイの容疑がかけられている。拘束するのも当然だろう」

 

 やっている事は正当そのもの。識別コードの無いこちらに非がある。悔しさに歯ぎしりするしかない彼女を見て、ガルシアが勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「さて、君も不審船の乗員だ。拘留させてもらおう。…なぁに、あのMSの解析が終われば返してやる」

 

 ガルシアの合図と共に現れた兵士が、イロンデルの周囲を囲む。怪我を気遣ってか無理矢理組み伏せる事は無いが、それも些細な違いでしかない。

 

「あなたは!」

「これ以上話すことは無い。連れて行け」

 

 2人の兵士が彼女の腕を掴む。

 

「民間人に銃を向ける意味がお分かりですか!我々軍人は、彼らを守る為にある!それをお忘れか!」

「スパイ容疑者に銃を向ける事。どこに躊躇する理由がある?」

 

 イロンデルは引きずられながら、司令室から追い出された。兵士を振りほどき、閉じた扉に拳を叩きつける。

 

「…」

「大尉殿。大人しく我らと同行してください」

 

 銃を構えた兵士が、その肩に手を置く。

 

「……」

「…大尉殿?」

 

 イロンデルは考える。

 このままではガルシアの思い通りに事が進む。あの少年が見つかる前にアルテミスを出航しなければ。だが交渉は不可能だ。ならば脅すしかないか。

 周りの兵士は4人。全員が携帯小銃を所持。安全装置は恐らく外されていないだろう。まずは肩に手を置く1人。怯ませるだけでいい。その隙に2人目を制圧し、銃を奪う。安全装置を解除と同時に、残りの3人を撃てば――。

 

「…少し傷が痛んだだけだ」

 

 辞めだ。万全な状態ならともかく、負傷が響く現状なら精々が2人…むしろ簡単に反撃されてしまうだろう。片目も塞がっている。そんな怪我人に銃を突きつけられた程度で、あの男が降参する保証もない。『ネクサス』が有れば話は変わってくるが。

 今は大人しくしていよう。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 てっきり独房にでも入れられるかと思ったが、案内されたのは応接室だった。一目で高価とわかる、無駄な調度品に溢れた部屋。そこに先客が3名。

 

「イロンデル!」

「フラガ…。それにラミアス大尉と、バジルール中尉も」

 

 ロンデルを部屋へ入れると、兵士たちは出ていった。扉が閉まり、鍵が掛かる。なるほど。表立って牢獄に入れれば、管理記録に詳細が残る。ガルシアも抜け目ない。自分が不利になる証拠を残すつもりは無いらしい。

 

「怪我は平気か?どこか痛んだりしないか?…その顔の包帯は」

「ベタベタ触るな、鬱陶しい」

 

 纏わりつくフラガを押しのける。軽く押しただけだが、彼の体が下がる。()()()()()()()()()()()()のが原因だろう。ガルシアの言っていた、『血の気が多い』という発言と関係がありそうだ。

 

「別に何ともない。それよりも、私が気を失ってから何があった?」

「何ともないわけないだろ……。まあいいか。アークエンジェルがアルテミスに入ってからの事だよな」

 

 フラガが言うには、入港と同時にアルテミスの兵士が銃を持って突入してきたらしい。有無を言わさず拘束されたと。事情聴取という名目で士官3人が呼ばれ、現在状況に至る。

 

「補給に関しても望み薄。面倒な事になったな」

「まったくだ。全部があの野郎の思い通りと思うとムカつくな」

「ストライクのデータが盗まれるのは非常にマズイ事態だわ」

 

 ラミアスの言う通り、せっかくここまで運んできた機密兵器をまんまと横取りされることになる。イロンデルにとっては兵器のことは二の次だが。

 

「それなら心配しなくてもいいんじゃないか」

「何か策でも講じてるのか?」

 

 フラガが気軽に言うと、イロンデルは詳細を求める。この男がこんな態度をするのは、事態の深刻さが分かっていないか、それとも自信があるかだ。

 願わくば後者だが。

 

「キラに頼んで、ストライクをロックしてもらった。生半可な技術者じゃ、起動させることもできないはずだ」

「は?」

「どうした?そんな怖い顔して」

 

 頼んだ?あの少年に?

 

 顔を覆い、思わず口から出かかった呪詛を飲み込む。もし胸の傷が痛まなければ、思い切り殴りつけているところだった。

 せめて痛みが引くまで大人しくしていようと思ったが、予定変更だ。今すぐに行動を起こす必要がある。

 

 イロンデルは部屋を歩き回り、壁や天井を観察し始める。

 

「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

 

 能天気な男が言う。それが彼女を苛立たせるが、個人的な感情を後回しにできる程度には彼女は大人だった。

 

「かの兵器を起動できないとなれば、ガルシア少将が『起動できる人間』を探し始める。あの少年が見つかるのも時間の問題だ」

 

 動かせないだけなら、データの吸出しだけで解放されることも考えられた。しかし起動からできないとなれば、彼らは躍起になって探し始めるだろう。

 しかも最悪なのが、彼がコーディネイターであるということだ。もしストライクのパイロットである事が隠せても、コーディネイターである事がバレてしまえば。強引にでも拘束されるだろう。

 

 彼を守らねばならない。

 

「ああ、確かに悪手だったな」

「それも最悪のな」

 

 壁を指先でなぞる。そしてようやく、目当ての物を見つけた。照明のスイッチパネル。その隙間に爪を挿し込み、カバーを外す。剥き出しの配線が露になると、イロンデルはフラガに腕を出した。

 

「お前が持っているんだろう」

「あ?何をだよ」

「とぼけるな。ネクサスに決まっている」

 

 ネクサスを接続し、まずはアルテミスの内部地図を取得する。中央サーバにアクセスして管理コードが入手できれば万々歳だが、それは贅沢というものだろう。少なくとも監視カメラの映像さえ手に入れば、後はこちらでどうにでもなる。

 

「あー…、ネクサス…ね。…はは、やっべぇー…」

 

 しかし、フラガはバツが悪そうに頬を掻くばかり。

 

「おい…まさか」

「…キラに預けてる」

 

 仮にも個人の所有物を、本人の許可なく他人に持たせるのはどういう事か。それにあの中にはかなりの機密情報が入っている。民間人が知れば、それだけで拘留する理由になる程のものもある。

 

「お前という男は…」

「いや、ホントにスマン。あいつの方もネクサスが気になるって言うもんでさ…」

 

 あの少年の好奇心にも困ったものだ。だからといって貸し与える方もどうかしてるが。

 

「彼が中を見たらどうする」

「大丈夫だと思うぜ?伊達に()()()の傑作じゃねぇんだから」

「…だと良いがな」

 

 あれが普通のAI端末ならば彼女もここまで心配していない。だが『彼』はかなりの気分屋だ。その行動を完璧に予測できるのは、おそらく制作者である戦友だけ。…のはずだ。彼女並の頭脳を持つ人間など、コーディネイターの中にもそうそう居ない。

 

 それはそれとして。どうやってこの部屋から出るか。それが問題だ。天井には空気口が設けてある。1人が足場になり自分が跳び上がれば、格子に手が届きそうだ。だが大きな音がすれば、扉の外に居る見張りが駆け込んで来るだろう。

 フラガと目線だけで合図すると、彼はヒラヒラと手を振った。『手錠があるから無理だ』という事らしい。ならば、プランBだ。

 

「…全く、肝心な時に役に立たん男だな」

「……なるほどな。さすがは名女優……なんだと!?」

 

 頷いたフラガがイロンデルに詰め寄る。大袈裟に机を揺らし、上に置かれた物を落とす。

 

「もう一度言ってみろクソガキ」

「役立たずと行ったんだ。どんな思考回路をしていれば『彼』を少年に預ける?あれは私の物だぞ!」

「あんな小道具に頼りきってる小娘がよぉ!好き勝手言いやがって!」

 

 彼女の襟を掴みあげる。小さな体が床を離れて宙に浮く。イロンデルは傷が痛んだのか、顔を顰める。しかし、以前アークエンジェルであった時と違い、どこか余裕そうだ。

 

「フラガ大尉!」

「外野はすっこんでろ!」

 

 そのまま壁に勢いよく押し付ける。今度こそイロンデルが苦痛の声を上げた。棚の物が落ち、ガラス器が割れる。

 

「お前たち、何をしている!!」

 

 その音が聞こえたのか。見張りの兵士が2人、部屋の中へ入ってきた。組み合うフラガとイロンデルに、銃を突きつける。

 

 ニヤリと、先程まで争っていた2人が口角を上げた。目線を合わせ、頷き合う。

 

「小芝居だよ、マヌケ」

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

「で、ここからどうするんだ?」

 

 意識を失った見張りから鍵を奪い、フラガが手錠を外す。

 

「私は要塞の格納庫へ行く。奪取されたストライクはそこにあるはずだ」

 

 司令室で見た映像を思い出す。区画番号からして、8番格納庫。アークエンジェルが入港したドックに程近い場所だ。

 見張りの所持していた銃は、フラガとイロンデルがそれぞれ一丁ずつ持ち合う。

 

「1人で平気か?」

「その方が身軽に動ける。お前はラミアス大尉とバジルール中尉を連れて、アークエンジェルの出航準備を頼む。ストライク奪還後、速やかに脱出する」

「了解」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 蚊帳の外で話が進み、何が何やら理解が追い付いていないラミアスとバジル―ル。認識できていることは、目の前の尉官たちがアルテミスの兵士を殴りつけてその装備を奪っているということだ。明らかな反逆行為。しかるべき処罰を待てば、間違いなく銃殺刑だ。

 

「ストライクの奪還?アルテミスを脱出?何を言っているんですか。ここは友軍の要塞ですよ⁉」

「先に手を出してきたのは向こうだ。アークエンジェル内では民間人が銃を向けられている。『我々はこれを反逆行為と判断し、ヘリオポリスの避難民を保護するためにアルテミスを脱出した』。…以上が大義名分だ。何か質問は?」

 

 イロンデルは淡々と説明しながら兵士の手足を縛り、布を噛ませて即席の猿轡にした。通信機を取り上げて部屋の隅に転がす。

 このままここでじっとしていても、ストライクのデータを奪われ、自分たちは何の成果もない。もう事態は動き出している。この小さな大尉のいうことに従うしかないと、ラミアスとバジル―ルは思った。

 

「通信チャンネルを683に合わせろ。お前の判断で私たちを待たずに出ていい」

「先に言うが……待つからな」

 

 扉を開き、イロンデルはフラガ達と別れる。

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