―― 『くだらないジャッジメンター』
本国『プラント』に寄港した『ヴェサリウス』から降り立ったアスラン、ラウ、イザークの3人は、軍事ステーションを離れるシャトルに向かう。その道中、アスランはイザークの傷を横目で見る。
自分がかつての友人を撃ちたくないばかりに、仲間の負傷を招いてしまった。そして何より、彼は自分を撃とうとした。
覚悟が無いのは自分だけだ。皆は命を懸けて戦っている中で、腑抜けたことを考えている。
「おい、アスラン」
暗い表情をするアスランに、イザークが顔を向けずに声をかける。
「な、なんだ」
「お前。まさかこの傷が自分のせいでできただなんて、考えてないだろうな」
「それは…」
ちょうど考えていたことだ。イザークの声に含まれる感情から、すぐに否定も肯定もできない。言いよどむアスランを置いて、イザークが続きを話す。
「たしかに、『ストライク』の破壊を渋ったのはお前だ。そのせいで『三つ首』の逆襲を招いたのも事実」
「…そうだな」
ぐうの音も出ずに、その言葉を肯定する。ストライクを破壊していれば、三つ首の攻撃はなかっただろう。あそこまで損傷した機体で戦う理由がなくなるのだから。昔の友人を撃つことを嫌った結果、現在の友人を失うところだった。イザークを命の危険にさらしてしまった。
「すまな――」
「だが」
アスランの謝罪を遮る。
「俺が被弾したのは、俺の技量不足が原因だ」
そこで初めて、イザークはアスランと目を合わせる。
「それを勝手に、自分の責任にするな。こっちがみじめになる」
「…ああ、わかった。すまな…いや、ありがとう」
「ふん。礼を言われることなどない」
イザークはそう言うと、歩みを速めた。その顔はアスランからは見えない。だが、アスランには先ほどまでの暗い感情はなかった。
そうだ。自分の友人はキラだけではない。イザーク、ニコル、ディアッカ…。そして既に戦死した、ラスティにミゲル。他にも大勢の友がいる。当然キラも大切だが、彼にこだわってしまっては彼らに申し訳が立たない。
ザフトとして、赤服として、その責務を果たす。
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シャトルには先客がいた。その人物に、アスランとイザークは驚き目を見開く。一方、ラウは不敵に笑った。
1人は男。名はパトリック・ザラ。40代半ばの、軍事ステーションには不相応なスーツを着た鋭い顔付き。現在の国防委員長。そして、アスランの実父。
そしてもう1人は。
「イザーク!」
「母上⁉︎な、なぜここに」
エザリア・ジュール。彼女はイザークの姿を認めると、座席から立ちその胸に抱いた。負傷した傷を気遣って、優しく、そして温かく。
「その包帯…痛くない?気分が悪いとか、目眩がするとか、そんなのも平気なの?」
「は、母上…お、僕は大丈夫ですから…。離れてください」
「大丈夫なわけないでしょ!貴方が負傷したと聞いた時、どれだけ心配したか…」
友人と上司の前で母親に抱きしめられるという、思春期男児にとってはかなり恥ずかしいこと。しかしその気持ちも分かっているのか、イザークも無理に押しのけようとはしない。
「ジュール議員。お気持ちはわかりますが、今は立場を弁えてもらいたい」
「…コホン。これは失礼しました」
ラウが言うと、エザリアはようやく息子から離れた。
それぞれが席に着きシャトルが発進すると、パトリックはラウに見せつけるようにレポートを掌で叩いた。
「君の意見には私も賛成だ。奴らめ、厄介なものを造りだしてくれたものだ。問題は、それが高性能であること。パイロットのことなど、どうでもいい」
その言葉に、アスランははっと顔を上げた。その彼を父は冷たい目で、一瞥した。久々に再会したとは思えない、よそよそしい関係。アスランはふと、ジュールたちを見る。言葉は交わさず、席も離れているにも拘らず、その間には絆が感じられた。
その関係を、羨ましいと思った。
「その箇所はジュール議員が訂正しておいた。…あの三つ首が操った、とな。あちらの機体のパイロットもコーディネイターだったなど、そんな報告は穏健派を騒がせるだけだ」
ザフトにおいて、三つ首は謎が多いパイロットだ。その存在が初めて報告されたのは『血のバレンタイン事件』の数ヶ月後。恐らくそれまでも兵役はしていたのだろうが、目立つようになったのはそこからだ。
わかっているのは、その名前とナチュラルであること。スパイを放っても、不確かな物しか得ることができなかった。
あまりに不明な点が多く、いっときはその優れた戦闘技術から、ナチュラルであると判明するまでは『裏切ったコーディネイター』、『地球軍が作った生体兵器』。果ては『超処理能力を持った人工知能』などと、根も葉もない噂が飛び交ったものだ。
「あのパイロットなら、MSを扱っても説得力がありますから。…腹立たしいですが」
「アスラン、君も自分の友人を、地球軍に寝返った者として報告するのは辛いだろう」
ラウも優しい調子で言い足す。まるで彼が罪人になってしまったような言い方に、アスランの胸が痛んだ。
彼らの乗ったシャトルは、ゆっくりと最高評議会が開かれる都市『アプリリウス・ワン』へ近づいていく。