機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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「Alstroemeria 起動。これより…正義を実行する」

―― 『くだらないジャッジメンター』


第15話 親と子

 本国『プラント』に寄港した『ヴェサリウス』から降り立ったアスラン、ラウ、イザークの3人は、軍事ステーションを離れるシャトルに向かう。その道中、アスランはイザークの傷を横目で見る。

 

 自分がかつての友人を撃ちたくないばかりに、仲間の負傷を招いてしまった。そして何より、彼は自分を撃とうとした。

 覚悟が無いのは自分だけだ。皆は命を懸けて戦っている中で、腑抜けたことを考えている。

 

「おい、アスラン」

 

 暗い表情をするアスランに、イザークが顔を向けずに声をかける。

 

「な、なんだ」

「お前。まさかこの傷が自分のせいでできただなんて、考えてないだろうな」

「それは…」

 

 ちょうど考えていたことだ。イザークの声に含まれる感情から、すぐに否定も肯定もできない。言いよどむアスランを置いて、イザークが続きを話す。

 

「たしかに、『ストライク』の破壊を渋ったのはお前だ。そのせいで『三つ首』の逆襲を招いたのも事実」

「…そうだな」

 

 ぐうの音も出ずに、その言葉を肯定する。ストライクを破壊していれば、三つ首の攻撃はなかっただろう。あそこまで損傷した機体で戦う理由がなくなるのだから。昔の友人を撃つことを嫌った結果、現在の友人を失うところだった。イザークを命の危険にさらしてしまった。

 

「すまな――」

「だが」

 

 アスランの謝罪を遮る。

 

「俺が被弾したのは、俺の技量不足が原因だ」

 

 そこで初めて、イザークはアスランと目を合わせる。

 

「それを勝手に、自分の責任にするな。こっちがみじめになる」

「…ああ、わかった。すまな…いや、ありがとう」

「ふん。礼を言われることなどない」

 

 イザークはそう言うと、歩みを速めた。その顔はアスランからは見えない。だが、アスランには先ほどまでの暗い感情はなかった。

 そうだ。自分の友人はキラだけではない。イザーク、ニコル、ディアッカ…。そして既に戦死した、ラスティにミゲル。他にも大勢の友がいる。当然キラも大切だが、彼にこだわってしまっては彼らに申し訳が立たない。

 ザフトとして、赤服として、その責務を果たす。

 

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 シャトルには先客がいた。その人物に、アスランとイザークは驚き目を見開く。一方、ラウは不敵に笑った。

 

 1人は男。名はパトリック・ザラ。40代半ばの、軍事ステーションには不相応なスーツを着た鋭い顔付き。現在の国防委員長。そして、アスランの実父。

 

 そしてもう1人は。

 

「イザーク!」

「母上⁉︎な、なぜここに」

 

 エザリア・ジュール。彼女はイザークの姿を認めると、座席から立ちその胸に抱いた。負傷した傷を気遣って、優しく、そして温かく。

 

「その包帯…痛くない?気分が悪いとか、目眩がするとか、そんなのも平気なの?」

「は、母上…お、僕は大丈夫ですから…。離れてください」

「大丈夫なわけないでしょ!貴方が負傷したと聞いた時、どれだけ心配したか…」

 

 友人と上司の前で母親に抱きしめられるという、思春期男児にとってはかなり恥ずかしいこと。しかしその気持ちも分かっているのか、イザークも無理に押しのけようとはしない。

 

「ジュール議員。お気持ちはわかりますが、今は立場を弁えてもらいたい」

「…コホン。これは失礼しました」

 

 ラウが言うと、エザリアはようやく息子から離れた。

 それぞれが席に着きシャトルが発進すると、パトリックはラウに見せつけるようにレポートを掌で叩いた。

 

「君の意見には私も賛成だ。奴らめ、厄介なものを造りだしてくれたものだ。問題は、それが高性能であること。パイロットのことなど、どうでもいい」

 

 その言葉に、アスランははっと顔を上げた。その彼を父は冷たい目で、一瞥した。久々に再会したとは思えない、よそよそしい関係。アスランはふと、ジュールたちを見る。言葉は交わさず、席も離れているにも拘らず、その間には絆が感じられた。

 その関係を、羨ましいと思った。

 

「その箇所はジュール議員が訂正しておいた。…あの三つ首が操った、とな。あちらの機体のパイロットもコーディネイターだったなど、そんな報告は穏健派を騒がせるだけだ」

 

 ザフトにおいて、三つ首は謎が多いパイロットだ。その存在が初めて報告されたのは『血のバレンタイン事件』の数ヶ月後。恐らくそれまでも兵役はしていたのだろうが、目立つようになったのはそこからだ。

 わかっているのは、その名前とナチュラルであること。スパイを放っても、不確かな物しか得ることができなかった。

 

 あまりに不明な点が多く、いっときはその優れた戦闘技術から、ナチュラルであると判明するまでは『裏切ったコーディネイター』、『地球軍が作った生体兵器』。果ては『超処理能力を持った人工知能』などと、根も葉もない噂が飛び交ったものだ。

 

「あのパイロットなら、MSを扱っても説得力がありますから。…腹立たしいですが」

「アスラン、君も自分の友人を、地球軍に寝返った者として報告するのは辛いだろう」

 

 ラウも優しい調子で言い足す。まるで彼が罪人になってしまったような言い方に、アスランの胸が痛んだ。

 

 彼らの乗ったシャトルは、ゆっくりと最高評議会が開かれる都市『アプリリウス・ワン』へ近づいていく。

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