機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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ハロー、青春。グッバイ、純粋。

――『中毒的恋愛感情』


第18話 誇りの定義

「以上が今回の報告になります」

 

 ラウは一礼し、後方に戻る。いつも通りの何を考えているか読めない仮面と、無表情の口元。対して席に座る議員の表情は重苦しい。

 

 ――G兵器。

 

 ザフトの持つMSを遥かに凌ぐ性能の新兵器。今までこちらが持っていた質で勝るというアドバンテージを、覆して余りある脅威。

 そして何よりナチュラルがMSを動かしたという報告が、彼らを騒がせていた。

 

「イロンデル・ポワソン…ですか」

「やはりあの者はコーディネイターなのではないですか?」

「情報では確かにナチュラルだと、そう結論づいたはずですが?」

「あんな不確かな情報、当てにはなりません!肖像すらまともな物とは言い難い。あれではどう見ても子供の写真にすり替えられている」

「もたらされた情報は正確な物だ!そんな憶測で話さないでいただきたい!」

「しかし一説では『ユニウスセブン』にいたという――」

 

 1人の呟きで、議会の熱が跳ね上がる。それを止めるように、パトリック・ザラが咳払いをした。

 

「皆さん、静粛に。今議論するべきはパイロットの事ではない。この兵器がいかなるものか、その能力、危険性、対象についてではありませんか」

 

 威厳ある声に議会は静まる。それを確認したパトリックは目でアスランに報告を促す。冷たい目にアスランは一瞬身を硬くするが、それでも息を整えてG兵器のデータの解説を始めた。

 

「まず私が搭乗した『イージス』について――」

 

 アスランが話し始めると、ラウは踵を返して部屋から出た。アスランが1人で残る事になるが、彼のことは使える部下だと思っている。問題はない。ラウが興味あるのは、むしろ彼女の方だ。それについて進展がないのなら、ここにいる意味は薄い。

 

「全く、お堅い連中ばかりで…()()()()()()

 

 彼しか居ない通路で、彼は誰かに向けて呟いた。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 ラウが訪れたのは、自身の母艦が着港している格納庫。窓から(宇宙)が見える。その暗い世界を、一条の光が走っている。

 

「調整は終わったかね?」

「あ、隊長。そっちの報告は終わったんですか?」

「堅苦しいのはどうも苦手でな。アスランがうまくやってくれるだろう」

 

 技師のリーダーに近づき、進捗を問う。

 

「既に『デュエル』の改修は実装済みです。現在、パイロットのテスト飛行の段階にあります。…こちらネムラ。イザーク、隊長がお見えだ」

 

 技師が通信を送ると、宇宙(ソラ)を駆けていた流星が動きを変えてこちらへと向かってくる。なるほど、その速さから気付かなかったがそれはMSだった。

 デュエルに外部装甲を付けた、マッシブな印象を受ける。

 

「名付けて『デュエル・アサルトシュラウド』。ジン用に開発された強化パーツを流用してます」

 

 デュエル・アサルト(A)シュラウド(S)は母艦『ヴェサリアス』のアレスティング・ギアへと両足を乗せて減速する。まじまじとその姿を見ると、通常のASと細部が異なっている。特にその背面。ブースターやスラスターが増設されているようだ。

 

「私の知っているパーツとは違うな」

「流石は隊長殿。めざといですね」

 

 ラウの気づきに技師は調子を良くし、モニターに図面を表示する。どうやらデュエルASの三面図の様だ。

 

「この改修における仮想敵は『三つ首』です。あの速さ…生半可な改修では追いつけません」

 

 『アルテミス』での戦闘の映像。三つ首の速度に、デュエルは喰らいつくのが精一杯だった。敵に守るべき対象があったから良いものの、正面戦闘では翻弄されていた。

 

「故に背部をメインに推進基を増設。各部に姿勢制御用のスラスターも増やしています」

 

 通常時はその推進力で。あの異常速度を見せた時は機動力で上回る。

 そこまでの性能ならパイロットへの負荷が心配されるが。

 

「イザークが希望したんですよ。どうしてもアイツに勝ちたい、とか言ってましたけど」

 

 デュエルのコックピットから、他の技師の手で彼が引っ張り出される。この低重力下にあってなお自力で動けない程に消耗しているようだ。そのパイロットスーツもひとまわり大きく、Gの負担を軽減するのに苦労しているとわかる。

 

「随分と疲れているようだな、イザーク?」

「ハァ…ハァ……。隊…長…」

 

 イザークはヘルメットを脱ぎ捨て、流れる汗を拭う。顔が紅潮しているのはGの影響か。水分補給のボトルを差し出すと震える手でそれを受け取った。

 

「傷の具合はどうだ?」

「……何とも…ありません。……見ての通りですよ」

 

 その顔には傷痕が無い。怨みだのなんだの言って彼は残そうとしていたが、その母親から消した方が良いと言われると、渋りながらも了承した。怨みよりも家族への想いが勝ったとでも言うのか。

 ラウとしても変に傷痕を残して戦闘に支障が出ても困るので、消してもらうつもりだった。

 

「『ガモフ』からの通信によると、『足付き(敵の艦)』は『アルテミス』を脱し、デブリベルトへ逃げ込んだようだ。我々はアスランが戻り次第に出発するが…君はどうする?……聞く必要は無かったな」

 

 負傷したという手前、本人の希望なら戦う必要はない。だがイザークの目を見た時、ラウはそうなる事は無いと分かった。

 

「必ず三つ首を…この手で討つ。…それまでは戦いをやめる気はありません」

「…その意気だ」

 

 イザークの肩に手を置き、ラウはヴェサリアスの中へと消えていく。

 

「…多少は面白くなりそうだ。……ねぇ、イロンデル?」

 

 その不穏な声は誰かの耳に届いただろうか。

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