機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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「人生はコインと一緒さ。
表と裏、それと側面がある。
何が出るかは運しだいだよ」
 
――『画家の30日と小説家の300日』


第2話 奪われ、奪う。

 ストライクに乗る少年、キラ・ヤマトはジンが突入した爆音に、ビクリと肩をすくめた。

 先程、ストライクの装備の1つ、『ランチャーストライカー』の主砲『アグニ』でコロニーに大穴を開けてしまった彼は、これ以上コロニーを傷付けたくなかった。

 地球軍の将校、ラミアスからの指示で、彼はストライクの装備を探していた。

 そして、見つけたコンテナから取り出したのは『ソードストライカー』。

 

「剣…?これなら…」

 

 近接戦闘ならば、外壁に大きな損傷を負わせる事も無いはずだ。

 そう思いアジャストした所で、ラミアスから通信が入った。

 

『ストライク応答せよ。パイロット、聞こえるかしら』

「あ…は、はい!こちらストライク」

 

 目の前では戦艦が浮上し、1機のMA(モビルアーマー)メビウスゼロが4機のMS(モビルスーツ)と戦闘を繰り広げていた。その中の1機、赤い『イージス』には昔別れた友人が乗っているはずだ。

 

『現在、メビウスゼロが交戦中です。あなたの役割は、彼女と協力して敵を退けること。やってくれるわね?』

 

 本当は戦いたくなんてない。今すぐにでも逃げ出したい。でも、自分が守らなければ、あの戦艦にいる友達が。

 

「…分かり…ました。やれるだけやってみます」

 

 己の手でOSを書き換えた機体を駆り、少年は戦場へと踏み出した。

 

◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢◤◢

 

 メビウスゼロのパイロット、イロンデル・ポワソンは視界の隅に、こちらに接近してくる白い機体を見つけた。しかし、そちらに意識を向けた瞬間に、『イージス』のビームライフルが自機を掠める。緑色の光がモニターを走り、危険を知らせる警報が鳴った。

 

 4対1では躱すので精一杯で、反撃などとてもできない。ガンバレルを1基失っているので尚更だ。

 『アークエンジェル』からの援護で一瞬できた隙を付いて撃ち返しても、コーディネイター相手では容易く躱されてしまう。状況を打開する一手が欲しい。

 

「ストライクのパイロット、聞こえますか」

『は、はい』

 

 応答したのは、予想よりも随分と若い少年だった。

 思わず目を見張ったが、気を取り直し通信を続ける。

 

「イージスの相手をして貰えますか。フェイズシフト装甲が相手ではゼロ式は話になりません」

『…分かりました』

 

 一瞬、返事に間があったのは戦場での緊張故か。

 

「落とす必要はありません。ただ気を引いてくれれば結構です。ご武運を」

 

 それぐらいならば、彼にもできるはずだ。

 敵の狙いは恐らくストライク。それがわざわざ向かって来て、無視するはずもない。

 

 ソードストライカーを装備したストライクが、イージスの前に立ちはだかるのを確認して、『ジン』3機に相対する。

 

 彼らのうち2機の装備は、俗に『D装備』と呼ばれる物だ。

 要塞攻略用の重武装。そんなものをコロニーに撃たれたら、損害は避けられない。

 対して、残りの1機はビーム兵器を所持している。ストライクの破壊が目的と見て間違いない。

 

 早くこの3機を処理して、ストライクの加勢に向かわなければ。

 そう考えても実弾兵器しかないこの機体では、イージスの前では無力だ。

 

『(っ'ヮ')』

「何かいい手でもあるの?」

 

 『ネクサス』が軽い電子音と共に語りかけてきた。

 どうやら考えがあるようだ。

 

『╰(‘ω’ )╯三』

『(っ ‘o’)ノ⌒ 』

『Φ(^▽^)Φ』

「…正気?でも、やるしかないわね」

 

 現実的な手段ではないが、成功すれば優位に立てる。

 メビウスゼロの武装は、連続での戦闘で残弾の残りが僅かだ。

 

「あなたのサポート次第ね。頼りにしてるわよ?」

『(≧∇≦)』

 

 どうやら彼は自信満々のようだ。

 作戦を実行すべく、戦艦『アークエンジェル』に通信を入れる。

 

「アークエンジェル、応答せよ」

 

 すぐに繋がり、モニターには黒髪の女性が現れた。確か、バジルール少尉と言ったか。気の強そうな女性は、ハッキリとした声で応答した。

 

『こちらアークエンジェル。如何されましたか』

「D装備のジンを引き付けて欲しい」

 

 重武装のジンを戦艦に向かわせるのは、非常に危険だ。なによりD装備のミサイルがコロニーを支えるシャフトに当たれば、大きな損害を及ぼす。

 それにただでさえ、MSの機動能力に戦艦は敵わない。それでも。

 

「5分でいい。引き受けてくれ」

『…それは――』

『了解。イーゲルシュテルン照準。8秒後に一斉射撃を行う』

 

 逡巡するバジルールを押し退け、フラガが快諾する。こういう時には頼りになる男だ。

 機体を大きく捻り、ジンから距離をとる。

 2機のジンの灰色の装甲を戦艦からの75mmの弾が掠める。こちらからもリニアガンを撃ち、別のジンの注意を引く。

 狙い通りにジンは二手に別れ、戦艦と自機にそれぞれ向かって来る。

 

「作戦開始よ」

『<(`^´)> 』

 

 一言呟き、ガンバレルを操作して本体から遠ざける。本体をあえて無防備にし、隙を晒す。格好の的だと判断したジンは、ビーム兵器の照準をゼロ式に合わせる。

 イロンデルの耳に、被ロックオンを知らせる警報が鳴る。しかしそれを無視して、ジンに意識を集中する。

 判断を誤れば死ぬ。ヘルメットの中を、嫌な汗が伝う。

 

 ジンが引き金を引き、緑色の閃光が迫る。

 

「今!」

 

 操縦桿を大きく倒し、ビームを避ける。その光は僅かにゼロ式の装甲を溶かすが、機体そのものに異常は無い。乱れた体勢の獲物を逃すまいと、ジンが2射目を構える。

 

 ジンのパイロットは気付いていない。自機の背後。カメラの死角にゼロ式のガンバレルが回り込んでいることに。そしてイロンデルは、ガンバレルをそのままジンに衝突させた。

 本来の使い方とはまるで違うが、ガンバレル程の質量と速度を持った物が直撃すれば、ジンの姿勢は大きく崩れ一時的に操作が効かなくなる。

 

 気を逃さず全速力でゼロ式を進ませ、三又になっている丁度その間に、ジンを引っ掛ける。

 金属同士のぶつかる重い音がして、機体が大きく揺れる。

 懐に潜り込んでしまえば、長大なビーム兵器以外の武装を持っていないジンは手を出せない。

 そのまま全速でアークエンジェルやストライクから距離を取る。

 そして、十分に戦艦から離れた。そう判断し、コロニーの地面に機体を押し付ける。地面に深く跡を残しながら、ジンとゼロ式は動きを止めた。

 作戦を実行に移す。コックピットの中で、イロンデルが握りしめるのは、操縦桿ではない。

 

 腰のホルスターから、ワイヤーガンと照明弾をそれぞれの手に握る。

 そして、緊急脱出装置のレバーを引いた。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

「クソッ!」

 

 ミゲル・アイマンは、ジンのコックピットの中で忌々しく吐き捨てた。

 機体そのものの損傷は僅かだが、揺れが酷く頭をモニターにぶつけた。

 軽く首を振って意識を取り戻し、ジンを立ち上がらせる。

 

 敵は『三つ首』。隙を見せるわけにはいかない。

 敵機の様子を確認するが、動く気配がない。

 

 不信に思いながらも敵の機体を破壊しようと、ビーム兵器『バルルス改』を構える。

 そこで異変に気付いた。

 

 メビウスゼロのコックピットハッチが開いている。

 『三つ首』は脱出したのか。そう思った瞬間、モニターが白い光に包まれ、思わず目をつむる。

 

「な、何だ!」

「私だよ、ザフトの兵士」

 

 誰も答えないはずの独り言に、答える者がいた。

 その正体を確かめる前に銃声が何度か響いて、彼の生涯はあっけなく幕を閉じた。

 

◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥◣◥

 

 敵パイロットの沈黙を確認したイロンデルは、ただのたんぱく質の塊をコックピットから蹴りだす。

 コロニーの人工重力に引かれおよそ10mの高さから落下したソレは、水風船が割れるような音がして地面に叩きつけられた。

 

「ここまでは順調ね」

 

 空いた操縦席に腰掛け、ベルトを締める。操縦桿を握ろうとして手が空を切る。

 彼女の体躯では手足が届かないことに気付いた。

 

 小さく舌打ちをしながらシートの位置を調節し、今度こそ操縦桿をしっかりと握る。

 

「OSのチェックを始めて。それが終われば友軍識別の書き換え。装備の確認。自爆装置の解除よ」

『(´ε`;)』

「もたもたしてる暇は無いわ。2分でやって」

『(>_<)』

 

 ネクサスに指示をするとモニターに大小のウィンドウが浮かび、様々な文字列が流れていく。

 それを見ながら彼女は、激しく上下する胸に手を当てた。

 

 なんとかうまくいった。

 

 照明弾で目を眩ませ、その隙にワイヤーガンでコックピットに取り付く。

 外部ロックを操作してハッチを強制開放。

 実弾を数発。

 機体を奪取。

 

 手順だけで見ればあっけないが、どこかで一つでもミスがあれば彼女の方が死んでいただろう。

 

 久しぶりの生身の戦場に、胸は異常な脈をうつ。何度も深く息を吸い、体に酸素を取り込む。

 目を閉じて数秒。そして目を開ければ、モニターはコロニーの内壁を映し出していた。

 

「上出来よ」

 

 まだ30秒程しか経っていないはずだが、ネクサスは自分の仕事を終わらせたようだ。さすがは()()の自信作といったところか。

 

 モニターの中、アークエンジェルと対峙するジンを睨む。

 ジンの操縦は久しぶりだが、体は覚えている。OSもあの頃と変わりないようだ。これなら彼女(ナチュラル)でも、ネクサスのサポートがあれば扱える。

 

 狙いはジン。その機動力もビーム兵器の弾速ならば、一瞬で撃ち抜ける。

 肝心なのは、敵がこちらを警戒していない一発目。ロックオン無しの、マニュアルでの遠距離狙撃。

 鼓動の高鳴りが手の震えを招く。モニターの照準が安定しない。

 

「補正、もっと強く」

 

 当たるのか。外してしまえば、コーディネイターの操る機体の前に勝ち目はない。

 アークエンジェルの周囲を飛び回るジンに照準を重ねる。一瞬でいい。動きを止めてくれれば。

 

 そのとき、アークエンジェルの放ったミサイルがジンへと命中した。

 そしてそれに驚いたのか、もう1機の動きが鈍る。

 

「当たれ!」

 

 バルルスから放った緑の光線は、正確にジンのコックピットを貫いた。

 大きな爆発が起きるが、コロニーへの損傷は軽微だ。

 

 しかし、アークエンジェルの攻撃が当たったジンは、その装備が発射され炎の尾を引きコロニーのメインシャフトに当たる。

 

 爆発とともにメインシャフトに大きく亀裂が入り、幾つものアキシャルシャフトがはじけ飛ぶ。コロニーが、悲鳴をあげるように大きく軋む。

 

 思わず、イロンデルは唾を飲む。コロニーの崩壊が始まっているのか、隔壁にヒビがはいった。

 

「アークエンジェル、無事か」

『この通信は…ジンから⁉ポワソン大尉、いったい何が…』

「ジンを鹵獲した。詳しい説明は後だ。ストライクを帰還させろ」

 

 これ以上、民間人の少年を戦闘に巻き込む必要はない。このビーム兵器があれば、フェイズシフト装甲ともやりあえる。

 

『しかし…』

「これ以上はコロニーがもたない。イージスも消耗している。私1人で十分だ」

『…了解。ストライクを帰還させます』

「完了しだいコロニーから退避しろ。私に構うな」

 

 挑発にイージスに向かって数発、ビームを撃つ。残弾は7。低出力の割に長持ちのしない欠陥兵器だ。

 

『何をするミゲ――っ!お前は誰だ!』

 

 黒髪の少年がモニターに表示される。ザフトの兵は皆若いと聞くが、この少年はストライクの少年と同程度ではないだろうか。

 

「地球軍の軍人だよ、ザフト兵」

 

 さらに1発撃てば、ストライクを無視してこちらに攻撃してきた。簡単に挑発に乗ってくれた。若さゆえの短絡的な思考。ある意味でザフトの特徴だ。

 御しやすい。

 

 しかし、敵の攻撃はジンにとって全てが致命傷になりえる。怒りで冷静さを欠いていても、コーディネイターであることに変わりはない。単調な回避行動を行えば、その進行方向へ閃光が走る。

 

「ネクサス、乱数回避の軌道を作って」

 

 狙いながらの移動ができる程、ナチュラルは器用ではない。ネクサスの補佐を受けながら攻撃を躱し、戦艦からイージスを引き離す。

 

「民間人の避難状況はわかる?」

『(^_<)-☆』

 

 モニターの片隅に、避難シェルターの利用状況が表示される。どうやら既に、シェルターは避難艇としてコロニーから離れているようだ。

 

 そして一瞬でも敵から目を離したのは、彼女の大きなミスだろう。ネクサスの警告も間に合わず、ジンの右腕は肉薄したイージスのビームサーベルによって切り落とされた。モニターの警告が機体の損傷を伝える。

 

 間髪入れずに迫る二太刀目を躱し、スラスターを吹かせて大きく距離をとる。唯一の対抗手段であるビーム兵器を失った。焦る彼女に、赤い装甲が襲いかかる。

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