その刃は鋭く研がれ
より深く、痛く、この身に突き刺さる
──『だから、どうか、泣かないで』
『アークエンジェル』の格納庫にて。
「おーい、坊主!出てきたらどうだ?」
硬く閉じた『ストライク』のハッチに、マードックが呼びかける。だが一向に出てくる気配はない。
格納庫に帰ってきて少し経つが、そろそろ出てきてもらわなければ目の前の問題も解決しないというものだ。
「どうするよ。この拾い物」
格納庫にあるのは、ストライクが回収してきた救難ポッド。自分で拾ってきたのだから、その始末は自分でしてもらいたいのだが。開けようとしたが、なんらかの電子ロックが掛かっているようで、外部からの操作を受け付けない。
コーディネイターの彼ならば、あるいはプログラムの書き換えで開けられるかもしれないのだが。
「軍曹!何があったのですか⁉︎」
帰還したイロンデルが、マードックに近づく。
「いやー、それが俺らもよくわからないんですよ。坊主はコックピットに籠りっきりになっちまいまして」
「…籠りっきり?」
「通信も断絶。完全に拒絶状態ですよ」
光の消えたストライクを見上げる。閉ざされたハッチの向こうから、少年の気配を感じる。弱々しい、怯えたような。
「…そうですか」
彼がストライクに乗っているのは、自分が倒れて代役が必要になったからだ。つまり。
「私のせいか…」
では何があって、彼をそこまで追い詰めたのか。知る必要がある。あわよくば解決できれば良いが。
マードックと別れ、イロンデルはストライクのハッチに取り付く。
電源を落としているのか、MSの目からは灯りが消えている。ハッチを何度か叩くが、応答は無い。
外部ロックを解除するしかないか。
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初めて…人を殺した。
ヤマトは暗いコックピットで思い返す。殺人という実感が、今になって彼を掌握していた。物資を搬送していた『ミストラル』に気づいた『ジン』―― 長距離強行偵察複座型の攻撃から、友人を守るために。
仕方なかった…のだろうか。その機体の装備は、ミストラルに直撃しても破壊できないような弱い物だった。もし投降を呼び掛ければ、応じたのではないだろうか。
あの時はそんな考えは浮かばなかったし、今となっては後悔でしかない。もし落ち着いていれば、殺さずに済んだのではないか。
いまさらそんな、愚にもつかない思考が頭を回る。
「…僕は…」
弱い。
今までの戦いは全部、
『デュエル』からの砲撃。『アルテミス』での暴行。
いつだって守ってくれたのは、イロンデルだった。
『ヘリオポリス』でも、ジンを撃ち
ふと、視界に光が入る。
「…大丈夫ですか?」
声の主を見た時、思わずその胸に飛び込んだ。自分より一回り小さな体に手を回し、抱きつく。彼女は戸惑いながらも、ヤマトの頭を優しく撫でた。まるで子供をあやす様に。
「何かあったんですね。話さなくて構いません。ゆっくり、落ち着いてください」
視界から光が消える。彼女が気遣って閉めてくれたのだろう。その優しさに甘えるように、ヤマトは大声を出して泣いた。
「大丈夫。大丈夫ですよ。貴方は大丈夫」