機動戦士ガンダムSEED Lucina   作:影尾カヨ

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第25話 混じり合う閃光の中で

 その戦場は圧倒的なまでに一方的だった。

 

 ヤマトは周囲で為す術なく爆散していく『メビウス』を、視界の隅に捉える事しかできない。

 『ストライク』は今、目の前の『イージス』を相手にするのことで精一杯だ。

 

『キラ、どうして俺たちが戦う⁉︎それがお前の意思なのか⁉︎』

「アスラン…!」

 

 敵の動きが今までとはまるで違う。ストライクのソレと同等。だがMSに乗って日の浅いヤマトにとっては突き放されこそしないが、喰らいつくことしかできない。

 守ると約束したはずのアルスター氏が乗っている『モントゴメリ』から離れてしまった。今それを守っているのはイロンデルの『メビウス・ゼロ』だ。『デュエル』に絡まれながらも纏わりつく『ジン』を的確に退けている。

 

「またあの人に…!」

 

 彼女の助けが無ければ何もできないのか。

 いや、違う。決めたではないか。彼女の役に立ってみせる。そのためなら何だってしてみせる。

 

「僕は…戦うんだ。…き、君とだってぇ‼︎」

『キラッ⁉︎』

 

 ビームサーベルを抜き、ヤマトは()に斬りかかる。イージスはそれを軽く躱した。やはり技量では敵わない。それでも。

 

『本気なのか!本当に…お前は……俺と』

「こンのぉおおおッ‼︎」

『くっ…⁉︎』

 

 割り込んできた『ジン』を一刀のもとに斬り伏せる。胴体から2つに別れた機体が爆散した。パイロットは生きていないだろう。

 

 これが戦うと言う事だ。

 彼女の言った通り、敵を殺すと言う事だ。

 

 彼女と共に戦うのなら、それが平然とできなくてはならない。

 ならば、やってみせる。

 

「もうあの人に…傷ついて欲しくないから!」

『あの人…?』

 

 互いの機体が接近し、盾と剣が何度も交差する。

 それは熾烈を極め、横槍を入れる隙すらない。

 

 それは彼らが互いに集中しているという事であり。

 

 他の物が目に入っていないと言う事だ。

 

 それは決して、戦場ではやってはいけないこと。

 

 そこで戦っているのは、自分1人ではない。

 

『ヤマト二等兵、何をやっている!!艦が孤立しているぞ!!……民間…が入って…な!!』

 

 途中で途切れたバジルールの通信に驚きながら、『モントゴメリ』に目を向ける。彼女が守っていたはず。ならば孤立するはずが。

 その船にメインカメラを向けた時、ヤマトは絶句した。

 数ヶ所に被弾し、黒煙を吐く戦艦。その近くにあったのは、ガンバレルを失い、エンジンが大きく損壊した蒼いメビウス・ゼロ。

 

「イロンデルさん‼︎…そんな⁉︎」

 

 あの人が簡単にやられる訳がない。そう思っていたのに。通信を飛ばして安否を問うが、応答はない。不自然な雑音が伝えるのは、ジャミングか。

 急いで彼女の元へ近づこうとするが、イージスがその邪魔をする。

 

 その時、一際大きな緑の光が戦場を裂いた。

 敵の船から放たれたソレは、モントゴメリを撃ち抜く。

 巨大な爆発。眩しい閃光が広がった。

 

 

 アークエンジェルは、クライン嬢を実質的な人質とすることで一時的な休戦状態を作り出した。

 

 人質。

 

 決して正義とは呼べない方法に、ヤマトは艦のドッグのなかで悔しがる。

 イロンデルの現在の扱いはMIA。戦闘中行方不明だ。それは音信不通で死体が発見されていないからにすぎない。本当ならばすぐにでも飛び出して彼女を探したい。だがそれではせっかく作りだした小康状態を壊しかねないし、艦を無防備にすれば『みんなを守る』という彼女との約束まで破ってしまう。

 

「…クソッ‼」

 

 手すりを殴りつける。力任せに何度も。コーディネイターの力はだんだんと金属を歪めていく。その力があったとしても、あの人を助けることができなかったのだと、酷い自己嫌悪に陥る。

 

 そんなことをしているとにわかにドックが騒がしくなった。見ればラミアスやバジル―ルのような本来ならブリッジにいるはずの人間までいる。何かあったのかと不思議に思っていると、ヤマトは突然横から抱き着かれた。

 

「キラー!」

 

 胸に押しつけられた顔は見る事ができないが、その赤い髪は見間違えるはずもない。フレイだった。その瞬間、ヤマトは彼女との約束を思い出した。

 咄嗟に彼女を跳ね除ける。

 

 責められると思った。彼女の父親を守れなかったことを。船の爆発と共に死なせてしまったと。

 

 だがこちらへ向ける彼女の顔は、明るい笑顔があった。そしてその口から、ヤマトにとっては信じられないことを言った。

 

「ありがとう!パパを守ってくれて!」

「…え?」

 

 そんなマヌケな返しをすることしかできなかった。

 守った?誰を?

 彼女の父親は死んだんじゃなかったのか?

 

 そう思っていると、ドックに1つの小さな船が入ってきた。どうやら脱出艇のようだ。それを見たラミアスらが、船の出入り口へ向かって敬礼をする。

 降りてきたのはなんと、フレイの父親。アルスター氏だった。

 彼はドックを見回して何かを探す。そして見つけたのだろう。こちらへ…いや、隣の娘へ向かって笑顔で手を振った。フレイもそれに答え、アルスター氏へ駆け出す。そして再会を喜び合って抱き合う。

 

 親子水入らずというやつだろうが、こちらはそうもいかない。ラミアスは敬礼を解き、彼に話しかける。

 

「ご無事で何よりです。本艦の臨時艦長、マリュー・ラミアスであります。艦が爆発した時はまさかと思いましたが、脱出艇を使われていたとは。信号を捉えたときには安堵しました」

「そちらの大尉殿には礼を言っても言いきれん。彼女があの艦長を急かしてくれなければ、私はブリッジで爆発に巻き込まれていただろう」

 

 聞こえた会話にヤマトの顔が曇る。アルスター氏が言っているのはイロンデルの事だ。結局、自分がするべき艦の護衛も、アルスター氏を守ることも、彼女が代わりにやってくれた。

 自分の無力さが情けなくなってくる。口では何と言っても、頭ではどう思っても。何もできていないじゃないか。

 

 想いと力があっても、結局…自分は誰も守れていないじゃないか!

 

 悔し涙が頬を伝う。こんな時に泣く事しかできないのか。気づけば噛み締めた唇から血が流れていた。

 

『艦長、及び役職のある者は直ちにブリッジへ!繰り返す。速やかにブリッジへ集合せよ』

 

 突如として入った通信に顔を上げる。後悔する時間も無いのか。袖で涙を拭いてヤマトは走る。ラミアスらも何事かと緊張した顔で。

 

 

 ブリッジのメインモニターには、ザフトからの通信映像が出ている。どうやら国際救難チャンネルを使用してこちらへ接触してきたようだ。そこに映されるものを見て、ヤマトらの顔が固まる。

 

『やぁ、地球連合軍の諸君。私はラウ・ル・クルーゼ。細かい自己紹介は省略させてもらう』

 

 狭い部屋。モニターの中心には仮面を付けた男が立っている。目を奪われたのはその後ろ。

 

『さて、君たちが非人道的な方法で我が国の歌姫を人質にしたのはとても腹に据えかねることだ。が、我々も同様の手段を取る事にした』

 

 椅子に縛りつけられている彼女。その小さな体は間違える筈もない。

 

『そちらのパイロット。イロンデル・ポワソンの身柄をこちらで預かっている』

 

 気を失っているのだろうか。顔を下げたまま、彼女は身動き1つしない。かろうじて呼吸をしているのが分かった。

 

『仲良く交換といこうじゃないか。君達が歌姫の身を傷つけない限り、こちらも乱暴をする気はない』

 

 クルーゼが手を挙げると、傍に控えていた男がイロンデルに銃を向ける。

 

『だがもし…2時間以内に望ましい返答が得られない場合、こちらは独断で動かさせてもらう。よくよく考えることだ』

 

 そう言って、一方的に通信は切られる。

 誰もが言葉を失い、ブリッジは不気味な静寂に包まれた。

 

 人質の交換に応じれば、躊躇う理由の無い敵は瞬く間にこの船を蜂の巣にするだろう。だからと言って応じなければ…彼女が…。

 

 2時間という猶予は、短すぎるように思えた。

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