――『未知の道』
崩壊が進むコロニーの中で『イージス』の凶刃が彼女へと迫る。その黄色い光に、彼女は死を覚悟した。しかし。
『やめろーー‼』
その間に、緑の閃光が割り込んだ。2機の間を通った光は、そのまま隔壁へと命中し隔壁の亀裂が大きくなる。光の元に視線をやれば、白い『ストライク』の姿があった。
なぜまだここに。『アークエンジェル』へ戻ったのではないのか。いや、その背中に担いだ装備が変化している。前に見たデータでの名前は『エールストライカー』だったか。わざわざ戦場に戻ってきたのか。
――いや、それよりも。
「早くアークエンジェルに戻りなさい。コロニーが崩壊します」
『でも――』
「早く!」
言った時にはすでに遅く、隔壁の穴から空気が大量に放出し、それによって乱気流がコロニー全体に吹き荒れる。あちらこちらで爆発の炎が上がる。
そしてそれがまともに確認できた、『ヘリオポリス』の最期の姿だった。
機体の足元にも大きな亀裂が広がり、ぽっかりと大きな黒い穴ができる。乱気流が機体を大きく揺らし、3機のMSはコントロールを失った。それぞれの距離は気流に流されて離れていく。
イージスがスラスターを吹かすが、押し流されているようだ。
イロンデルの目には、まるでイージスがストライクに手を伸ばしているように見えた。
凄まじい乱気流が機体を襲い、コックピットが揺れる。
「アークエンジェル、アークエンジェル応答願う!」
ストライクの回収に向かってほしいが、まだ通信が安定せずノイズが返ってくるばかりだ。そのストライクも、通じるはずの短距離通信に答えがなく、気流に流され姿が遠のいていく。
そして宇宙に放り出された彼女の目の前で、コロニーがバラバラになっていく。それは彼女にとって、『あの日』を思い起こさせるものであり、2度と見たくない光景だった。
「ぐ、うぅぅ!ああああ…ああああぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
割れるような頭痛を感じて、頭をおさえる。幾人もの叫び声や嘆きの声が、壊れたラジオの様に脳内に響くという
『(◜०﹏०◝)』
「はぁ…はぁ…大丈夫…大丈夫よ、ネクサス。私は大丈夫…大丈夫だから」
座席の上で、彼女の意思と関係なしに震える手を、胸に抱きしめる。自分は生きている。胸の鼓動に意識を集中し、声を締め出す。
無重力に漂うコックピットの壁に体を当てながら、彼女はポツリと零した。
「だから少しだけ。浸らせてね…」
その声は、微かに震えていた。
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コロニーの残骸に紛れて漂うストライクのコックピットの中では、ヤマトの荒くせわしない呼吸音だけが聞こえていた。
『X105 ストライク、応答せよ!ストライク!』
通信機の声も耳に入らず、コロニーの中で出会った友人の事を思い返す。
「アスラン…」
戦争から逃れるためにと別れた彼は、ザフトの兵士になっていた。ヘリオポリス崩壊の原因でもある、MSの一機『イージス』に乗って、ジンに乗っている人を殺そうとした。
「どうして…!」
『キラ・ヤマト!応答せよ!』
「は、はい!こちらX105 ストライク」
名前を呼ばれてようやく通信に気付き、ラミアスに応答する。
『よかった、無事だったのね。機体は動かせるかしら』
「ええ。問題ありません」
各所の駆動を確認しながら、ヤマトは答える。気流に流されるまま色んな場所にぶつかったが、このストライクはさしたる傷もついていない。フェイズシフト装甲とやらの恩恵だろうか。
『そちらの通信でポワソン大尉のジンを確認でき…かしら。まだ通信妨害の影響が強くて、ス…イクに届かせ…のが精一杯なの』
通信にノイズが混じっているのは、そのためか。納得しながらヤマトは、短距離通信を飛ばす。
「こちらストライク、キラ・ヤマト。ポワソン大尉、応答願います」
モニターにはジンがそう遠くないところにいると表示されている。届いているはずだ。
そして少し待てば、コロニーの中で聞いた声が返ってきた。
『こちらジン、イロンデル・ポワソンです』
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『えっと、ポ、ポワソン…大尉』
「イロンデル、で構いませんよ。民間人に階級を呼ばれるほど、偉くはありません」
緊張した様子の少年に、イロンデルは優しく返す。
『アークエンジェルと、ストライクを介して通信を繋ぎます』
「了解。お願いします」
『…ポワソン大尉、ご無事ですか』
「ラミアス大尉も、艦は健在のようですね」
アークエンジェルもストライクも、落とされることなくコロニーから脱出できたようだ。通信する余裕があるとすると、敵はこちらを見失ったのだろうか。
『艦の座標を送ります。自力で向かえますか?』
「ええ、色々と持ち帰るつもりですので、カタパルトを開けておいてください」
先ほど、ジンで回収してきた、斬られた右腕とビーム兵器。そして自身の愛機である『メビウスゼロ』を、ジンの脇に抱えている。
『了解。2番カタパルトを開けてきます。1番にはストライクを入れるので、お間違えの無いよう』
「留意する」
通信を切ったイロンデルは、ジンのコックピットを開けて宇宙へ出る。モニター越しに見るよりも暗い星の光が、瓦礫の間から彼女の視界に満ちる。
技術部が言うには、暗すぎてパイロットが恐怖に駆られないよう、意図的に光を強くして表示しているのだとか。イロンデル個人としては、生で見る宇宙の方が好きだった。暗くて広い、全てを受け入れてくれるこの
そんな暗い闇を跳んで、ゼロ式のコックピットへと入る。少し離れていただけなのに、随分と落ち着くものだ。
やはり、ナチュラルにはこちらの方が性に合っているのだろうか。
そのまま三又の間に引っ掛ける形で、ジンを運ぶ。送られた座標に従って、アークエンジェルへと舵を切る。
時々、かなりの速度で飛来する瓦礫を避けながら、ジンが外れないように気を配る。
『(*^^)v』
「ええ、そうね。確かにいい土産だわ。彼女が居たら、喜んだでしょうね」
『(;_;)』
「そんな顔しないでよ。もうすぐアークエンジェルよ」
既に片側のカタパルトは閉じており、ストライクは帰還したようだ。
艦との相対ベクトルを合わせて、カタパルト内部へと進入する。普段と違ってジンが引っかかっているが、その程度でミスをするほど彼女は不器用ではない。
整備員の誘導に従って格納庫のドックに機体を固定する。ジンが一緒なので多少驚かれたが、後の事は彼らに任せてイロンデルはゼロ式から出た。
格納庫の隅に鎮座しているストライクを見つけ、興味本位で近づく。今はフェイズシフト装甲が起動していないようで、その色は鈍い灰色だ。装甲に電力を流すことで、その出力に応じて色が変化すると言う。
イロンデルは初めて聞いた時は、カメレオンの様だと思った。友人曰く、上手く調整すれば好きな色に変えられるらしい。
機体の足元に人溜まりが出来ているのに気づく。どうやら、パイロットの少年を囲んでいるようだ。近くまでよると、フラガの声が聞こえた。
「きみ、コーディネイターだろ?」
その言葉に、場の空気が凍りつく。無神経な言い方に、イロンデルはフラガを睨む。本人に悪気はないのだろうが、あまりにも場が不適切だ。周囲には地球軍人も複数いる。
少年、ヤマトは躊躇ったが、フラガを見つめ返した。
「……はい」
正直なのは良い事だが、やはり場が悪い。
とたんに、ラミアスとバジルールの後ろに控えていた兵士が銃を構える。その銃口はヤマトを狙う。
これは戦争の縮図だ。コーディネイターとナチュラルは戦っている。「コーディネイター」と聞いて反射的に銃を向けるのも、無理はない。
しかし。
「銃を下ろせ」
イロンデルは、ヤマトの前に立つ。丁度、銃口から庇う形だ。キツく兵士を睨み、命令する。
「民間人に銃を向けるな」
「そうだ!キラは敵じゃない!ザフトから俺たちを守ったの、見てなかったのかよ!」
有無を言わせぬ物言いに続いて、そばにいた少年――彼の友人だろうか――が叫び、イロンデルの横に立つ。
が、すぐさま彼女の手によって向こうにやられてしまった。
「貴方も民間人に違いはありません。自分から撃たれに来ないでください」
そして、もう一度兵士を睨むと、ようやくその銃を下した。
イロンデルはヤマトの方へ振り返り、深く頭を下げる。
「申し訳ありません。ザフトとの関係上、コーディネイターに対して警戒してしまう者もいます」
ヤマトとしては自分よりも背の小さい、女の子とも呼べそうな目の前の人が軍人である事。さらに、自分に対して頭を下げていることに驚いて言葉が出なかった。
「確かに、ヘリオポリスは中立国のコロニーでした。戦火を逃れて移ったコーディネイターがいても、不思議ではないわね」
艦橋から下りてきたラミアスが呟く。彼女はどうやら、コーディネイター差別者では無いようだ。横のバジルールは鋭く睨んでいるが、その物腰からして差別ではなく、敵兵かスパイではないかという懸念からだろう。
「いや、悪かったな。騒ぎにしちまって」
騒ぎを引き起こした張本人が、悪びれない調子で言った。
「俺はただ聞きたかっただけなんだ。この『G』のパイロットになるはずだった奴らのシミュレーション、結構見てきたからさ。あいつら、ノロクサ動かすのにも苦労してたぜ」
フラガはちょっと肩をすくめるときびすを返す。
「それをいきなり、あんな簡単に動かしてくれちまうんだからさ」
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「ザフト艦の動き、つかめるか?」
ラミアスの問いかけに、レーダーパネルを見つめるパル伍長の答えは冴えなかった。
「無理です。コロニーの残骸の中には、いまだ熱を持つものも多く、レーダーも熱探知も…」
「それは向こうも同じはずだ。動くなら今だろうな」
イロンデルが、それを受けて考えを言う。
「それもそうだが、うかつに動いて見つかるのはごめんだぜ」
ラミアスは考え込む。この艦の保有戦力と現状を、頭の中で整理する。
「…いま攻撃を受けたら、こちらに勝ち目はありません」
「だな。こっちにはイロンデルと俺のボロボロのゼロ式と、虎の子のストライクのみ。戦闘はな…」
「振り切るにも、相手はナスカ級です」
ザフトのナスカ級は、高速艦として名高い。その速さは、地球軍の艦とは比較にならないとされる。データの上ではアークエンジェルもかなり速いが、やはりやすやすと覆せるものではない。
「なら投降するかい?」
フラガはラミアスを試すように言う。
本来ならなるはずのない、『艦長』という座に座る彼女。その両肩にのしかかる責任は、存外に重いものだ。それをあえて自覚させるような言い方は、彼女を追い詰めかねない。
しかし彼女はしいて、きっぱりと言った。
「いえ、投降はしません。このアークエンジェルとストライクは、何としても大西洋連邦司令部へ運ばなければなりません」
「だが月本部とすら連絡の取れないこの状況でどうする?」
今度はムウも、難しい顔で考え込む。
そこにバジルールが口を挟む。
「『アルテミス』への寄港を具申いたします」
その提案に、フラガとラミアスはは、はっと顔を上げ、イロンデルは逆に俯いた。
「あそこは現在の位置から、もっとも取りやすいコース上にある友軍です」
「『傘のアルテミス』か…」
ほど近い宙域にある、ユーラシアの軍事衛星。アークエンジェルの所属する北大西洋連邦とは軍事同盟下にある。しかし…。
「でもこの艦には友軍の識別コードがないわ…」
「ですが、我々は物資の搬入もままならないまま発進しました。早急に補給が必要です」
バジルールの言う通りだ。地球を挟んで対極にある月は、あまりにも遠い。戦闘がなかったとしても、途中で物資が足りなくなることは目に見えている。
「確かにな。それに相手はクルーゼ隊だ。戦闘も無しにすんなり逃がしてくれるとは思えん。それに、ストライクの少年が保護した救命ボートには多くの民間人が乗っていた。配給の切り詰めにも限界がある」
クルーゼのしつこさは、地球軍の中でも有名だ。実際に何度も相手をしたフラガは、「うへぇ…」と呟いて顔を覆った。互いに苦渋を味わってきた関係だ。
バジルールが続ける。
「事態はあちらにも理解してもらえるものと思います。アルテミスで補給を受け、そこから月本部との連絡をはかるのが、もっとも現実的な手段かと」
確かに真っ当な意見だ。と、言うより他に案はないだろう。長距離航海も、戦闘による強行突破も不可能だ。
「アルテミスなぁ…」
「私は賛成だ。気がかりもあるが、他に手は無いだろう」
イロンデルの賛同の言葉に、ラミアスは決心した。元々、
「わかりました。本艦はアルテミスへ進路をとります」
すぐにデコイの発射準備を整える。デコイの熱で敵のセンサーを引き付け、その間に一瞬だけエンジンを始動し、後は慣性で艦を進ませる。
いわゆる、サイレントラン。
「アルテミスまで2時間ってところか」
その間、いつ敵と遭遇するか分からない。クルー達に緊張が走る。
「デコイ発射。それと同時にメインエンジン噴射。アルテミスへの針路へ航路修正!」
窓の外を一条の眩しい光が走る。それと同時に艦が方向を変えた。
「これで奴らを騙せると思うか?」
フラガがイロンデルに他の者に聞こえないよう小声で囁く。その疑問は不安というより、確認の意味合いが強い。
「無理だな」
彼女も小声で。しかし、ハッキリと断言する。
「他の相手ならともかく、今回はクルーゼだ。時間稼ぎが関の山だろうな」
「だよなぁ…」
その答えを聞いて、フラガは短いため息を吐いた。自身と同意見であるという事は、予想は当たっているのだろう。やれやれと肩をすくませ、椅子にもたれかかって伸びをする。わかっていても、今は手の施しようがない。精々、アルテミスまでの無事を祈るだけだ。
そんな彼を置いて、イロンデルは艦橋を後にした。
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イロンデルは、民間人で溢れる居住区を訪れていた。
格納庫でちょっとした用事を済ませ、途中で迷子になっていた少女を両親の元へ送り届けた後。その一角、幾人かの十代の少年少女に声をかける。
「すみません。こちらにキラ・ヤマトさんがいると聞いたのですが…」
「――あ、あなたはさっきの…」
その相手は、ドックで顔を見た若者たちだった。その中の1人がイロンデルに気付く。そして傍にあるベッドを指差した。
「キラは今、寝ちゃってます」
見れば微かな寝息をたてて、ストライクの少年がいた。
「タイミングが悪かったようですね…」
わざわざ起こすのも悪いだろう。話す機会はまたあるだろうし、別の機会にまた来よう。
イロンデルがそう考えていると、前触れなく彼女の身体が宙に浮いた。
「かぁわいいぃ〜!」
「ッ!?……」
「お、おい!フレイ!」
チラリと後ろを見れば、赤い髪をした少女がイロンデルを持ち上げていた。
メガネの少年が彼女を止めようとするが、耳には入っていないようだ。肝心の彼女は、今は死んだような目でされるがままになっている。
「きれいな髪ー。肌ももちもちでお人形みたい」
「………」
イロンデルの肌を撫でまわす少女、フレイ・アルスターは一向に彼女を離そうとしない。よく見れば、イロンデルのその頬がぴくぴくと痙攣しているのが見て取れた。
「あら。あなたの服、軍服じゃない。ダメよ、それを着れるのは軍人だけなの。子どもが着ていい物じゃないのよ」
「フレイ…。その人は軍人であってるよ」
言い聞かせるように、メガネの少年がアルスターの肩に手を置いて言った。
「…え!?」
「ええ。地球軍所属、イロンデル・ポワソン大尉であります。…以後、お見知り置きを」
「ええぇぇえぇぇ!!!」
狭い空間に、少女の叫びが響き渡った。
イロンデルに触れていた手をパッと離して目を見開く。
「で、でも!こんなに小さ…!こ、こど…」
「年齢は23歳。子供ではありません。悪しからず」
「え…あ…でも……」
驚きのあまり、赤髪の少女は息を飲む事しかできないようだ。そして、彼女の友人たちも同じようだ。
「に、23!?」
「大尉って、結構偉いんじゃなかったっけ」
「若作り…って感じじゃないよね」
そして、それ程騒げば冬眠している熊でも目覚めてしまう。
「…うるさいなぁ」
「あ、キラ。起こしちゃったか」
不満気に目を擦りながら、ストライクの少年が体を起こした。疲れが残っているのか、周りにいる面々をぼんやりと見回す。
「…えっと。お、おはよう?って、なんでイロンデルさんがここに?」
戸惑いながらも、見知った友人たちの中に彼女が居ることに疑問をもった。
「おはようございます、ヤマト君。…少し話したい事がありましたので、こちらに伺いました」
ピシリと姿勢を正して言うその姿は、彼女の見た目に反して確かに軍人のものだった。
「あの、俺達はいない方が良いですか?」
「そうですね…少しの間、席を外していただければ幸いです」
ヤマトを残して、少年少女は連れ立って区画を離れていった。足音が遠ざかり、十分に距離が開いたと判断した所で、イロンデルが口を開いた。
「良い友人たちですね」
「え…あ…はい」
向かいのベッドに座り、イロンデルは姿勢を崩す。警戒も嫌悪もない、自然な雰囲気をまとっていた。
予想していなかった言葉に、ヤマトは一瞬言葉に詰まったが静かに肯定の返事を返す。コーディネイターとナチュラルが友達など、中立国だからだろうか。皆がそうあれば、と思わなくもないが、現実は非情だ。
「友達は大切にするべきである。…なんて、偉そうに言うことでもありませんが」
彼女はどこか懐かしそうに虚空を見つめる。その様子は、外見と違い大人びて見えた。
「…あの、イロンデルさん」
「はい?」
恐る恐る、ヤマトが尋ねる。
「あなたは…コーディネイターなんですか?」
それは、コーディネイターである自分に親切にしてくれる事。外見にそぐわない年齢。MSを動かせる事からの推測であり。
自分と同じ存在がいて欲しいという、彼の希望でもあった。
「…違いますよ、残念ながら。父も、母も、私自身も。コーディネイターではありません」
「で、でも!じゃあどうやってジンを!?」
MSを動かせるのはコーディネイターのみ。それは世界の常識である。それを操る彼女は、コーディネイターだと考えるのが普通だ。
故に、彼女は常識の外にある物を持っている。
「『彼』の手助けがあれば、私にも動すことができます」
「それは…人工知能…ですか?」
懐から取り出したのは『ネクサス』の端末。ひと目見ただけで、それが何なのかヤマトには理解できた。
「友人からの贈り物です。私の…家族みたいなものです」
「――トリィー!」
その時、ふいに電子的な鳴き声がして、緑色の小鳥がヤマトの肩にとまった。
まるで本物の鳥のように、首を傾げたり、頭を動かしている。随分と精巧に作られたロボットのようだ。
「綺麗な鳥ですね。よくできている。これはヤマト君が作った物ですか?」
ヤマトは顔を伏せた。少しの間そうしていたが、やがて意を決したように口を開く。
「…いえ…。友達が…くれた物です」
それ以上は話したくないのか、少年は黙ってしまった。この戦争下では、複雑な事情でもあるのだろう。そう判断したイロンデルは、話を変えることにした。
「そういえば、ここに来た理由をまだ言ってませんでしたね」
多少、強引な方が気持ちの切り替えが容易い。という、気取った友人の言葉を思い出す。
「個人的なものですが、感謝と謝罪をしに来ました」
「感謝…?…謝罪?」
ヤマトはなんの事かあまり分かっていないようだ。
元々、軍としては言わなくても良い事である。しかし、彼女自身の理念として言わなくてはならない事だった。
「先程、イージス――赤いMSから危ない所を助けていただき、ありがとうございました」
「あ、あれは…僕も無我夢中で」
「大事なのは結果ですよ。あなたがいなければ、私は死んでいたでしょう」
「そんな…死ぬなんて」
所詮、一般人であるヤマトには、あまり馴染みのない言葉だろう。そして…。
「そんな戦場に、貴方と貴方の友人たちを巻き込んでしまったこと。謝罪します」
彼女は深く頭を下げた。できるのはそれだけ。軍としては極秘開発の兵器が奪取された、など公にできるはずも無く。
ヘリオポリスの崩壊も、ザフトが原因として処理されるはずだ。コロニーに突入するジンは、多くの人が見ている。
「……顔を上げてください」
ヤマトはイロンデルに言った。
「確かに、巻き込まれたのは事実かもしれません。でも、僕達も貴女に助けてもらいました」
しっかりと彼女の目を見て告げるその言葉は、お世辞や嘘の無い、綺麗な言葉だった。
「……フフッ。怒らないんですね」
それを聞いた彼女は思わず笑みを零す。彼は真っ直ぐなのだろう。そう思う。守れてよかった。
守る価値のある者を守れた事は、彼女にとって最も重要な事だ。
「では、そろそろ行きます。長居を失礼しました」
「…あの!イロンデルさん!」
出ていこうとする彼女をヤマトは呼び止める。
「…また会えますか?」
少しその言葉を考えると、イロンデルは微笑んだ。
「もちろんです。今は同じ船に乗っていますから」
「あ、そ、そうですね…。すみません、変な事言って」
ヤマトは顔を赤らめ、恥ずかしそうに謝る。そんな彼に別れを告げて、区画を去る。
行先はブリッジ。今後の動きを決める必要がある。