一般人の行くまどまぎ世界   作:エスカリボルグ

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今はここまで、続きは何時か。


第11話

~夏逢視点~

 

「……」

「……」

 

眠気や緊張が一気に吹き飛んで、到来したのは知り合いを見つけたことによる安堵だった。無言で同じソファーに座る暁美ほむらと私。彼女は昨日と同じように表情を変えずに虚空を見つめてぼーっとしている。

 

この状況は一見しても分からないだろうから、言っておこう。今は見滝原中学校へ転校してきた生徒への説明が終わり、担任になる先生が職員室へ物を取りに行っている為、待機中なのである。

 

暁美ほむら……。長いから暁美さんと呼ぶが、彼女とは一応協力関係ではあるものの、仲良くなったわけでもないので話しが始まりすらしないのだ。故に応接室は先生が退出してから静寂に包まれている。

 

「……ねぇ」

「ん、何かな」

 

痺れを切らしたのか話しかけてきた。

 

「貴方は何故、私と協力関係を持とうとしたの?」

「魔女の情報が少ないからだ」

「情報?」

「ああ、奴等が何なのか知らないことが多い。だから誰の手でもいいから借りたい状況だっただけさ」

「なら、私でなくても良かったと?」

「いや、そんなことはない。暁美さんのような話せる相手でない可能性もあった訳だから暁美さんと最初に会えて運が良かった」

「そう……」

 

それっきり黙ってしまった。再び静かに先生が来るのを待つがかなり遅い。暇を持て余した私は知恵の輪を創造する。彼女は一瞬身構えるが、出てきたものが玩具だと分かって虚空を見つめ直す。

 

静かな部屋には私のいじる知恵の輪の金属音だけが響く。

 

10分程経って先生が呼びにきたので知恵の輪をポケットにしまった。先生と話しながら教室に向かっていると、暁美さんと私はどうやら同じクラスになると言う。

その後、教室の前につくと先生が指示をしたら入ってきてと言って先に入った。

 

教室はガラス張りなので中の様子が見える。

先生がホワイトボードに何かを書き少し話して、目の前の座席に座っている男子を指して再び話す。クラスの生徒の顔を見るとうんざりしたような顔や苦笑いしている顔が多いため、愚痴を話しているのだと思う。

 

五分程経って、先生から入るように呼ばれたので二人で入る。先ず、暁美さんから自己紹介をする手筈だったので自分は扉の前で立っていた。

暁美さんはホワイトボードの前まで歩いて、ペンを取り自分の名前をすらすらと書く。そして、クラスの生徒の方を向く。

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

……え、それだけなの? 好きなものと趣味ぐらいなら言ってもいいのでは。

 

教室の皆もそう思ったのか戸惑っていたが、先生が乾いた拍手をするとつられて拍手し始める。その拍手が鳴り響いている間、暁美さんはというと、最初は無表情であったが何かを見て目を見開き驚いていた。

その視線の先を見ると一人の少女がいた。その少女は桃色の髪をした髪の両脇をそれぞれ赤いリボンで纏めている。一見すると普通の少女だが、暁美さんが注目するということは何かあるのだろう。私はその少女のことを覚えておくことにした。

 

 

私の自己紹介は特にこれと言ったこともなかったので割愛しよう。ただ、読書と音楽を少し嗜む程度のつまらん男の自己紹介等、誰も得しないだろうし。

 

その後、朝のホームルームが終わり休み時間になるとクラスの男子が何人か来て、質問してきた。好きな映画は何か、好きなスポーツは何か、そんな軽い質問を。暁美さんの方へ視線を向けると、彼女もクラスの複数の女子に質問されていた。転校生とはこんな感じなのだなと思っていると、暁美さんが立ち上がり、先ほど見ていた桃色の髪の少女に話しかけてから、二人で退出していく。

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

その後は特に目立った事もないまま、放課後まで過ごした。授業については勉強した覚えはないものの、事前知識が必要な内容以外はついていけたので問題はなかった。昼間に話したクラスメイト達は部活動へ、私は今日のところは一先ず帰宅することにした。暁美さんは私と話すことはないという風にさっさと行ってしまった。

 

今日のクラスメイト達とそれなりに会話したせいか、他人との触れあいがなくなった状態になると心細くなった。

 

……姿形を思い出せない彼女を殺すまでは孤独だろうと許容できると思っていたが存外、自分の心はそこまで強くなかったのだなと自嘲する。

 

こんな時は気分転換だ。

 

そう思い、近くのショッピングモールへと向かう。そこは本屋やらレストランやら映画館やらがつまっていて、ここ一つで買い物を済ませられる程の大きさだった。

 

「広いな、ラーメン屋もいいがここに食べに来るのもありだな」

 

歩きながら回ると美味しそうな洋食店や、品揃え豊富な本屋、一式の家電が揃えられる量販店もあり、見るだけでも楽しかった。

ふと、近くにCD屋があったので行くことする。入ってみると見覚えがあるものがそれなりにあって、記憶から消えても感じるこれは既知感なのだとしみじみに思う。

 

そうやって楽しんでいると、朝に暁美さんが注目していた女子と青色の髪をした女子が入ってきた。私には気付いていないらしく二人で曲を選んでいる。流石に今日まだ話してもいないクラスメイトに話しかけに行くのは不自然かと思い、自分も曲選びに戻ろうとした。

だが、そこで桃色の髪の少女が可笑しな行動をとる。不自然に左右をキョロキョロと見渡し、店員用の入り口へと入っていってしまった。青色の髪の少女もそれに気付いて彼女の後を追う。

 

あの様子だと誰かに見られるのを気にしていたか、何かを探しているのかの二通りだが……。前者だとしたら万引き、後者だとしたらこの前のように魔女に誘われた可能性が出てくるな。

 

私はこのまま見ているだけでもいいし、店員に伝えても良かったのだが辺りに視線を向けると誰も気付いていなかった。もし仮に魔女だとしたら店員だと死ぬかもしれないし、伝えるべきか追いかけるべきか迷う。

 

転校初日にやらかすのはなぁ、とも考えたが既に爆発物に巻き込んで殺人を犯している身だ。誰も知らないとはいえ、決まり事を守っていい子ぶるのは今更か。

 

そう思い、私も彼女達の後を追うことにした。

 

 


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