~夏逢視点~
「……見覚えのある天井だな」
目が覚めると、そこは自宅の寝室だった。折れていた両足を見ると、骨折は治っていた。これも、サービスということなのだろうか。
「……もう夜か」
窓の外を見るとすでに暗く、街の光で満ちていた。
私はベッドの下にDEを隠し、M686の弾を装填してから部屋をでた。
部屋をでて、リビングに行くと昼間に会った車椅子の爺さんが料理をテーブルの上に運んでいる所だった。
「おお、起きたのか。なら、手伝っとくれ」
「わかったよ。運べばいいのか?」
「そうじゃ」
私と爺さんは料理を運び終えると席に付き、食事を始める。
「それで? 魔女はどうだったかの」
「……人間の力だけでは勝てそうにない化物だったよ」
「そうか。倒せたのか?」
「ああ、なんとか相討ちまで持っていった」
それを聞いて爺さんが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「相討ちのぉ。てことは、やはり現状の戦力だけじゃきついのかのぉ」
「ああ、きついな。でも、これでやるしかないだろ? 物質創造は造れるのはあくまで現実に存在している物質だけだろうし」
「
「……え?」
「実在するものしか作れないと誰が言った?」
「その言い方はやれるってことか?」
「自分で気付いてほしかったがのぉ」
そう言うと爺さんは、後は我関せずと言う風に黙々とスープを飲み続けた。今の爺さんの口振りだと、実在しないものさえも造れるということか。
いや、創るのはいい。問題は作って人間の体で扱える物なのかということ。私の体で扱いきれない物を作ったって何の意味もない。
……自己改造できるか試すべきだな。無くなった腕を再生できたことを考えるに他の部位でもやれるとは思う。ただ、腕ができたからと言って必ず他の部位も再生できるかはわからないし、今は腕だけに止めておくべきか。
「爺さん」
「ん? なんじゃ?」
「後でやってほしいことがある」
そう言うと爺さんは顔をしかめる。
「わしは本来はそういうのは駄目なんじゃがの」
「家から出ろ。とかそう言うのではないから」
「うーむ、ならいいかの」
そう言って爺さんは了承してくれた。
♢♢♢♢♢
食器を片付けて、テーブルを横に移動させた。
「それで? 頼みとはなんじゃ?」
「……私の左腕を切り落としてくれ」
「……ふむ?」
爺さんは少し考えてから続きを促す。
「物質創造が人間以上の力を生み出せた時、私の力で扱えるように腕を作り替えようと思ってな」
「……なるほどのぉ」
爺さんは悩んだ末にこう言った。
「まあ、それぐらいなら構わんかの」
「本当か! なら少し待っててくれ」
私はそう言ってタオルを創造した。
「今から合図を出すからそれを出した瞬間に頼む」
「心得た」
私はタオルを口に入れ、大声を出さないようにする。
そして、深呼吸をして心を落ち着かせる。目を閉じて爺さんに合図をだした。
その瞬間、左腕に味わったことのある激痛が襲う。
痛みで脳が支配されそうになるが、耐えて思考する。
創るのは化け物のように強く、攻撃を防げる程の堅さ、三次元的に動く自在さだ。
私ならやれる筈だ。考えろ。考えろ。
そして、私の左腕の断面から光が溢れ、それが止んだ時。そこには、黒くて光沢を出す左腕があった。
「これが……新たな腕か?」
「どうやら成功したようじゃなぁ」
一見、成功したように見えるが実際のところ、どういう活用方法があるのかてんでわからなかった。
「まあ、成功したようだし。今日はもう遅い。風呂にでも入ってきたらどうじゃ? その左腕と血液くらいは掃除しといてやろう」
爺さんに言われてから初めて時計を見たが、すでに真夜中と言っていい時間だ。私は爺さんの言葉に甘えて風呂に入ってくることにした。
♢♢♢♢♢
「ああ、いい湯だな」
風呂は檜風呂であった。人が二人入っても余裕がありそうな広さで、そこまで深くないため、足を伸ばして入るのに丁度良かった。
「……ふーむ」
新しくできた左腕を見ながら唸る。その腕は水を吸収していないのか水滴がついており、光が反射して鈍く輝いていた。
端から見れば金属で作られた義手の様にも見える。
「強く、硬く、自在に、か……。ひょっとして触手の用に動いたりするのか?」
試してみる価値はある。私は左腕に伸びろと強く念じてみる。すると、腕の部分が伸びて天井にまで手がついてしまった。
それを見ていよいよ人間離れしてきたな、と思う。
「ただでさえ物質創造なんてものを持っているのに……。ははっ」
伸ばすこともできたんだ。いっそのこと形も変えられるか試すか。
そう思って、今度は剣の用に鋭くなるように念じてみた。そうしたら、左腕が一本の刃へと変形していった。
触ってみると冷たく硬い、まるで金属のようである。
「……いてっ」
触っていたら指を切っていたのか、血がでていた。
その右手の指を舐めながら思案する。これだけ、自由度が高いのだ。非常に戦闘に特化しており、戦略がひろがった。左腕で相手の攻撃を受けたり、伸ばして攻撃したり、それ以外にも様々な使い道がある。
「だが、これだけでは魔女と、ひいてはあの女と戦える訳ではない。……まて、あの女?」
……あいつの、あの女の姿が
いや、まてよ。あいつは最後に舞台に上がると言っていた。なら、記憶を消したのも特定させないためか。つまり、特定されないように近くから観察していると。
馬鹿にしているのか。私を舞台劇の操り人形か何かだと思っているのか。ふざけるな。私は人だ。一つの、意思を持った生命体だ。それを指図するどころか観察だと? モルモット扱いした事を後悔させてやる。
私は、そう自分の心に誓い風呂をでた。