「──これでやっと……ぐっすり、眠れる」
目の前が赤く染まる。
それはまるで、紅葉が川を赤く染めるようなそんな鮮やかさだ。
誰かに呼ばれる声が聞こえた。
それは、俺を微睡みの中から呼び戻す。
「銀ちゃん、銀ちゃん、銀ちゃん!」
「うるせぇよ、確かに俺は銀ちゃんだが……そう、大きな声を出すなよ」
「終わったよ!もう、また寝てたんでしょ」
「さて、ねぇ……」
「…………」
「悪かったよ」
桃色の髪が左右に揺れる、目の前に子供が何が楽しいのか軽快にステップを踏みながら呼びかけていた。
鬱陶しい、それにしても誰も部屋にいないというのは隊首会は終わったのか。
「それで、何の話だったんだ?」
「旅禍だよ、話聞いてなかったの?」
「何だそれは、はぁ……まぁいいさ」
随分と懐かしい夢を見た気がした。
死に際の、今際の際のあの景色、死後の世界があるってのには驚いたが、今の俺は生きてるというのだろうか。
なら、あの景色を本当の意味で今際の際と呼べるのかは疑問だ。
「おい、八千流。見てみな」
「うわぁー、何あれ」
「多分、花火だな……」
部屋から出ると空に花火が上がっていた。
それにしても、カンカンうるせぇが何処の馬鹿が鐘を鳴らしてやがるんだ。
立ち去ろうとするオレンジ頭の男に、ハゲが言った。
そのハゲとは斑目一角という、十一番隊の副官補佐だ。
先程まで立ち会っていた、旅禍である死神に一つ、彼は疑問を抱いたのだ。
正確には、疑問と忠告だろうか。
「一つ良いか、お前達の中で一番強いやつは誰だ」
「多分……俺だ」
「そうか、だったらウチの隊長には気を付けな。隊長は弱い奴には興味がねぇ、出逢えば間違いなく狙われるのはテメェだ」
「強いのか?ソイツの名は」
「十一番隊、隊長……宇練銀閣」
一方その頃、その噂の宇練銀閣は道に迷っていました。
目の前にあるのは行き止まり、三方を壁で囲まれた紛うと無き行き止まりです。
あらあら、方向音痴かしらね。
「どうして行き止まりなんざ作るのかねぇ」
「銀ちゃん、また間違えた!」
「うるせぇよ、お前さんの勘に従ったんだろうが。はぁ……」
「じゃあ次行ってみよー!」
「子供ってのは元気だねぇ、はぁ……」
暫く歩いていると、また花火が上がった。
もしかすると、向こうにいるのか。
「あぁ、見てみて花火!近いんだ、でもまた間違えたね」
「また行き止まり……」
「さっきのとこ右だったんじゃない?」
「八千流、お前が右だって言ったんだぞ」
「えぇぇ!銀ちゃん、人のせいにしちゃいけないんだ」
「……斬るか」
もう面倒なので、壁に向かって刀を構える。
もう邪魔なので斬って進めばいい、花火まで真っ直ぐ向かえば良いだろ。
「……秘剣、零閃」
鞘を納めた鍔鳴りの音だけが響く。
同時にすっと、滑るように後方へと壁が動く。
斬った、斬ろうと思ったと同時に終わったのだ。
八千流を背負ったまま、歩き続けているとまた行き止まりだった。
行き止まり、行き止まり、行き止まり、建物。
「斬っちゃダメ」
「どこだここ?」
「ツルリンの霊圧を感じる」
「ツルリン……あぁ、斑目か」
「暇だし一応見てく?休憩しようよ」
「……部下の様子ぐらい、見てやるか」
茶の一つでも飲ませないと八千流の奴が煩いだろうから、その目の前にあった建物に入っていく。
俺が入ると、別の死神がこっちですと呼んできた。
はて、もしかすると俺の姿が見えると同時に茶でも入れてくれたのか。
有能だな、どっかの桃色頭に見習わせたい。
「――しい、ならば失態に応じた罰を受けてもらおうじゃ」
「おい、茶はどこだ?」
「ッ!?宇練……銀閣……」
「えっと……」
「隊長が来たなら仕方ない、一先ず退散するとしますよ」
いや、ちょっと待て茶はないのか?
「隊長……わざわざ見舞いに」
「……いたのか」
「た、隊長ぉぉぉ」
「うるせぇよ、何してんだ?サボりか」
「違いますよ、旅禍と戦闘になりまして恥ずかしながら負けました」
戦ったのか、そう言えば旅禍がどうのと八千流が言ってたな。
旅禍ってのは、つまり敵か。
「強いのか?」
「次に会う頃にはもっと強くなるに違いないです」
「そうか……行くぞ、八千流」
「オッケー、じゃあねツルリン!」
「そのアダ名はやめろって言っただろクソガキ」
敵なら斬れば良い、斬るなら強い奴が良い。
強い奴を斬ったなら、俺はもっと強くなる。
俺より強い奴に会いに行く。
「銀ちゃん、嬉しそうだね」
「そうかい、そうかもな……」
そして、そうして……夜が開けた。
結局、探し続けて見つからなかった。
「無駄な一日だった」
「隊長は全員集合だって」
「面倒な、サボってちゃダメなのかね」
「いつも寝てるじゃん」
「まぁ、行くだけ行きますか……」
俺がやって来たのはどうやら一番最後らしかった。
何やら旅禍に色々とやられたから今後はみたいな話をしているのだが、最初の口上で寝た。
「銀ちゃん、銀ちゃん、銀ちゃん!」
「……終わったか?」
面倒な呼び出しを終えて、作戦を考えた。
今はなき下剋城で行った戦法、そう待ち伏せである。
旅禍の目的は虜囚の救出らしいので、虜囚の近くにいれば会えるというわけだ。
そして、食料が尽きかけるほど数日後、ようやく気配がした。
「やっと来たか、待ち草臥れちまうよ」
「銀ちゃん呼び出しとかガン無視してたもんね」
「誰が死んだとかどうでもいいんだ、それよりも三人か」
オレンジ、オレンジ、あの兄ちゃんか。
俺達の前に、三人の男がやってきた。
「アンタが宇練銀閣か」
「そういうアンタが、旅禍の一人かい」
「黒崎一護、死神代行だ。アンタの事は一角から聞いてる、なぁそこをどいてくれねぇか」
「なぁ、後ろの二人はいいのかい?」
気分が悪いのか、旅禍の兄ちゃんの後ろにいる二人が跪いていた。
霊圧とか何とかが強すぎて、気持ち悪くなったのかもしれない。
四季崎記紀の刀の毒とかみたいな、意味不明なソレだろう。
授業、真面目に聞いてなかったからな。
「岩鷲、花太郎!花……おい!」
「構うな一護」
「岩鷲!花太郎!くそっ、一体何しやがった!」
「騒ぐなよ、霊圧に酔っちまっただけだぜ」
「岩鷲!くっ、花太郎を連れて逃げろ!悪いが、ここは通さねぇぜ」
何度も何度も、誰のことを言ってんのか。
そもそも、動く気はないんだがどうしたものか。
走って追いかけるのなんぜ、面倒で仕方ないってのに勘違いしてやがる。
「追いはしない。誰がどこで死のうと興味はないし、俺は兄ちゃんが来るのを待っていたんだ」
「そうかよ!構えろ、アンタを倒してルキアを助けさせて貰う!どうした、抜けよ!立つまで待ってやるぜ」
「八千流、離れていてくれ。そうだ兄ちゃん、待っててくれた礼に斬られてやろうか。はんで、って奴だ」
「すっごーい、銀ちゃん太っ腹!」
「ふ、ふざけんな!構えてないやつに斬りつけられるかよ!」
「剣士に言葉は不要なんだよ。ここを通りたいなら黙って通ればいい。俺はそれに──黙って抵抗するだけだ」
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
俺は刀を持って、ただ待った。
青臭い男だ、心構えだけはしっかりしている。
だが、戦の兵法ってのを知らねぇ。
戦いってのは、どんな手段を持ってしても勝てば良いのだ。
「ッ……な、何で」
男の剣は、旅禍の振り下ろした斬魄刀は、俺の肩で止まっていた。
圧倒的な霊圧とやらによって、斬れなかったのだ。
何のことはない、霊圧同士がぶつかって押し勝っただけである。
「兄ちゃんの研ぎ澄ました霊圧よりも、俺の無意識に垂れ流している霊圧の方が強かった。それだけの、話だ。まったく、この程度の奴を探し回っていたとはな、相手にとって満足なしだ」
「う、うわぁぁぁぁ!」
「秘剣、零閃」
――――キィン。