ある日の事だった、宿舎で昼寝していたら屋根が吹っ飛んだ。
まるで意味がわからんぞ、どういうことだ。
「お前の全てに異議が――」
「秘剣・零閃!」
「うおぉぉぉ!」
「うるせぇな、零閃!」
良く分からないうちに、何故か斬ってしまった。
いや、ウチの隊員には寝起きを襲うやつはいるが殺そうとするやつはいないはずだ。
あと、なんか白いし多分旅禍だろう。
「一体全体、何が起きてるんだ」
「さてねぇ……」
そこにいたのは、まさに俺自身だった。
唯一違うのは、いつか何処かで着ていた着流しを着ていることか。
「お前は、一体……」
「俺はお前さ……秘剣・零閃」
凄まじい居合が俺に向かって飛んでくる、だが俺に触れると同時にそれは止まっていた。
そこにあったのは、斬魄刀。ただし、それは斬刀ではない。
「びっくりした、お前さては偽物だな」
「俺もびっくりした、お互いにびっくりしたってことでおあいこかね」
「しかし、零閃はいい線いってたぜあんちゃん。まるっきり俺のそれだ」
惜しむらくは斬魄刀が斬刀ではない事だろうか。
「使えよ、お前さんの卍解って奴をよぉ」
「いや、悪いが俺はそんな手品は出来ないんでな」
「なん……だと……謀ったな愛染!零閃!」
「零閃!」
相手の体のほうが先に切り裂かれ、血を流して先に倒れる。
さて、どうにもキナ臭い事になってきやがった。
「斬ったな、この俺を」
「ッ!?」
「見な!鞘内を血で濡らし、じっとりと湿らせることによって鞘走りの速度を上げる。刀と鞘との摩擦係数を格段に落とし、零閃は高速へと達する」
「斬刀・鈍 限定奥義、斬刀狩り!」
俺の周囲に刀傷が重なるように発生する、その数は十。
だが、奴の刃は斬れないはずだ。
「ぐあぁぁぁ!?」
「いつから俺の刃が通らないと思っていた。俺達は卍解を奪わない方が……強い!」
「俺達、だと……」
「終わりだ死神、宇練銀閣。零閃艦隊・十機!」
「まだだ、まだ終わらんさ、零閃艦隊――」
迫りくる刃、見えない速度は実に見事、俺の逃げ場所を全て封じるのは俺自身の実力を持ってしてもギリギリ。
俺という限界が放てる技量、技量そのものを真似する技って訳か。
「ガハッ……な、なぜ!?」
「――十一機、悪いが俺のほうが一枚上手だったな」
「ど、どういうことだ。俺の『The Yourself』は姿形を相手そっくりに変化させる能力だが、姿形以外に相手の力と技術の全てをコピーできるのに」
「こぴーした後に強くなった。更新って奴だな、急に強くなる奴に俺も負けたことがあるぜ」
「そ、そんな……陛下。あなたのために死ぬことを──お許しください」
「ふぅ……」
バッサリと肩から腹まで斬られた傷は、中々に厄介だった。
この世界に来て、回道どうとやらを習得してなければ失血死していた。
傷は塞がるが、動いたら開くな。
おっとり刀で外に出れば、周りは瓦礫の山だった。
これはあれか、くーでたーって奴だろうか。
八千流のやつは何処に行ったのか、それより傷を直して欲しい。
「あっちか」
一番強い霊圧の方に向かって進んでいった。
そこには山本の爺さんと髭がいた。
「来たか、宇練銀閣」
「アンタが陛下って奴か、部下の遺言は聞きたいか」
「さて、誰の事か。だが、貴様も私が警戒する特記戦力が一つ。始末しておこう」
髭が動いた。
名もなき髭が、高速で迫る。
まるで滑るように宙を舞うかのようにだ。
「零閃艦隊・十一機!」
「ほぉ、最初から斬刀狩りを使うか。だが、その技は長くは使えん」
「だからなんだ、一瞬あれば俺の刀はお前さんを斬るぜ」
間合いに入っていた、だが既に奴は逃げていた。
否、放つ初動を見てからでは間に合わない、まるで予測したかの動き。
斬るという意思、意は完全に隠していた。
悟られること無く、意を気取られる事無く、静かに待っていた。
なのに、何故避けられる。
「予測したのか」
「いいや違う」
「何」
「予測ではなく予知だ、我が能力は未来を見通す」
「未来、予知……」
奴は、避けていたのではない。
元から当たらない瞬間に向かって準備していた。
それが予知、見てからの対応ではなく既知からの対応。
「そういう事か」
「お前の剣は、剣筋は、私ですら見ることが出来ない。だが、私が斬られるという未来は見える、故に、斬られない未来を選択した」
「ほぉ、俺の刀は見れないのか」
「その刀を折ることが出来ないのは残念だが、しかし、取るに足らない些事だよ」
よく分からないが、奴は俺がどう動くかを知っていて動いているらしい。
未来予知か、予知ってのはよくわからん。
未来は変えられるのか、それとも、取り敢えず斬ってから考えるか。
「零閃艦隊・十一機!」
「無駄だ、どこに来るとわかっていれば、お前はそれしか出来ない男。私には勝てん」
「まだだ、零閃艦隊・十二機!」
「ほぉ、ここに来て速度を増すか、だが知っているぞ。貴様のそれは二十が限界だ!」
「へぇ……俺はそんなとこまで駆け上がるのか。なら、見せてやるよ零閃艦隊・弐拾機!」
そこまで斬る速度が上がるというのなら、出来るのだろう。
出来ると思うのならやればいい、やってみれば案外出来るはずだ。
「ッ!?」
「どうした、冷や汗が出てるぜ」
「ば、馬鹿な……どうして今、放てるのだ。まだのはずだ」
「アンタが出来ると教えてくれたのだ、ならいつか出来るなら今できたって可笑しくないだろ?」
「可笑しいだろ!」
しかし、幾重にも重なった斬撃数は二十、既に放てたことが証明された。
目の前に巨大な弓と幾重にも重なった矢があった。
いつの間にか、髭が放っていたのだ。
それが、俺の斬撃を相殺する。
ぶつかった衝撃は刃の速さを削ぎ、僅かの時間を与え、逃走を許す。
「真空状態によるカマイタチ、不可視の刃の秘密はそれだな。霊圧を込め、霊力による斬撃を形成する能力。身体速度の拡張などと、愛染め謀ったか」
「お前は何を言ってるんだ」
「お前の斬魄刀の能力だ。隠していたようだが、愛染は見抜いていた」
「いや、俺は刀と喋ったことなんざねぇ」
「なん……だと……」
俺が斬り、奴が放つ。
俺が前に出れば、奴は下がり、奴が前に出れば、俺は押されて下がる。
一進一退とはまさにこのことだ。
その時、傷が余計に開く。
「ぐっ……」
「終わりだ宇練銀閣。俺はその未来を見たぞ、お前の未来は死だ」
「下がっておれ、宇練銀閣。後は儂がやろう」
「山本の爺さん……」
いや、俺はまだ死んでいない。
死んでいないのは負けではない、まだ戦える。
その時、俺は山元の爺さんに昔を教わったことが頭に過ぎった。
「やってみるか」
「何をしようとも無駄だ、さぁ死ぬが良い」
「知ってるか――」
俺は斬刀を握りしめ、腰を低くして待った。
飛び道具は見えている、踏み込みと同時に斬れば問題ない。
何かを察した髭が矢を放ってくるが、矢とて弓に装填する間がある以上は隙間が発生する。
攻撃と攻撃の隙間、そこを縫うようにして奴の足元まで一気に駆け抜ける。
「ここまで来た事は評価しよう。だがッ!?」
「――居合は、溜めた方が強い」
「……申しわけありません。ユーハバッハ様」
奴の攻撃すら切り裂いて、俺の一振りがその肉体を両断した。
呆気なく、上半身と下半身が分かたれたソイツは砂塵の向こう側へと、吹き飛んでいった。
「なんと、やりおったか」
「良くやった、ロイド・ロイド」
それは先程まで聞こえていた男の声だった。
俺の胸に腕が生えていた。
否、胸を突き破り腕が貫通していた。
「なん……だと……」
「貴様、一体何者じゃ!」
「私を忘れたか、山本重国」
その何者かは、俺が切り裂いた男、その者であった。
どうして、俺の背後にコイツがいる。
「ユーハバッハじゃと……」
あっ、目の前が真っ暗になった。