(なんもねえ…)
何も思いつかないまま六時間目が終了し、掃除時間に入る。その間に考え続けるがやはり何も思い浮かばない。しかも今日中という期限付き。あの時雪ノ下が体調を壊してまで成功させたものが壊れるそのことがさらに心を焦らせる。
(何がどうなってるのかさっぱりだ。手元の手札も情報も少なすぎる。何なら俺が切れる手札はゼロに等しい。この状況でどうすれば…)
その時背後から声を掛けられる。
「「ヒッキー(比企谷君)」」
その声にびくっと肩を震わせる。一瞬知らん顔をしようと思ったが、名指しで呼ばれているため無視するわけにもいかずゆっくりと後ろを振り返った。すると案の定
「話があるのだけれど少しいいかしら」
そこには雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣が立っていた。
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俺たちは場所を移し、最初に雪ノ下が口を開く。
「比企谷君昼休みのことは由比ヶ浜さんから大体聞いたわ」
(やっぱり伝わってますよね…)
内心冷や汗をかく。修学旅行の件もあり少し身構える。自覚もあってやったからなおさらに。
「そう身構えないでほしいのだけれど…」
「そうだよヒッキー。気にしてないって言ったらうそになるかもしれないけど…ちゃんと私たちのこと考えてくれたでしょ?」
「ぐっ…」
何でわかんだよこいつ…。
「嬉しかった。前までのヒッキーなら周りも私たちのことも関係なしにやってただろうけどあの時私やゆきのんのこと考えて躊躇したんでしょ?だからあの時私の事見たんだよね?」
もう筒抜けですかさいですか…。
「概ねの話は由比ヶ浜さんから聞いたわ。私も嬉しかった。真意は分からないわそれでもあなたが少しでも私達のことを考えて躊躇したなら嬉しかっただから…その…あの時みたいには…」
あの時って言うのは、俺達の中でも禁忌と言っていいレベルで封印されてる話。他ならぬ彼女達から言われたことそして本当に嬉しそうなその表情にホッとする。
(よかった…)
安心した俺の事なんて見抜いているのか二人共優しい眼差しで俺のことを見ていた。
「んんっ。そ、それで何で呼ばれたんだ?」
その視線が妙に恥ずかしく半ば強引に話を変える。
「ええ、その事なのだけれど…今回は何もしないでいいと思うの」
「へ…?」
俺は思わず間抜けな声を上げる。もしかしてずっと悩んでるのも筒抜けだった?あらやだ恥ずかしい。まあ理由の方はバレてないといいなあなんて考えていると少し雪ノ下の頬が赤いことに気付く。…ほんとにばれてないよね?何?この子達エスパーなの?そう考えているとその理由を雪ノ下が話始める。
「だってこれは依頼されたわけでも個人的に頼まれたわけでもないのでしょう?なら私たちが関与することじゃないわ」
「いや…でも」
「でも…何かしら」
「これは前回俺が先送りにした結果だ。なら俺が…」
「あら、あれは元々相模さんの依頼の延長線上でやったことでしょう?依頼も文化祭も終わった今何か行動する理由はないはずよ」
「…」
黙り込んでいる俺を見て由比ヶ浜がさらに言葉を紡ぐ。
「もしこれから起こることを想像して何か思ってるなら…」
由比ヶ浜は力強い眼で俺を見据える。
「私たちを信じて」
ただそう告げられる。もし心配事があるならそうはならないから私たちを信じろと。何の根拠があるのかわからないが本当に大丈夫な気がしてくる。不思議だ前の俺ならそんなの信じられるかと一蹴しただろう。でも今は信じたいという気持ちがあふれ出る。
(ほんとに大丈夫なのだろうか?…いやこいつらがここまで断言してるんだ、恐らく大丈夫なんだろう)
俺の中でそう結論付け、二人の目をしっかり見る。
「わ…かった。その…信…じる」
「ふふっ…ありがとう比企谷君」
「ありがとうヒッキー」
その言葉を言うときに目をそらした俺を見てか微笑みながら感謝を述べる雪ノ下と由比ヶ浜。やはりどうも恥ずかしい。
「掃除もあるしそろそろ教室に戻りましょうか。それではまた後で」
「うんバイバイゆきのん、また部室で!」
俺も雪ノ下に別れを告げ、由比ヶ浜の後ろを歩きながら教室に戻る。
「ヒッキー何でそんな後ろ歩いてるの?」
後ろを振り向きながら純粋になぜ?という感じで聞いてくる。
「いやまあ後ろが好きだし…」
(学年最底辺の俺と歩いてるところなんて見られたくないだろうからな)
特に理由が思いつかなかったから適当に誤魔化すと由比ヶ浜は立ち止まり頬をむくれさせる。
「む~っ」
何か声まで出してる。
(え、何この子何に拗ねてんの。そういうのやっても怖いとかじゃなくてかわいいからやめてね)
「…!えへへ」
(ヒッキーに可愛いって言われちゃった…ってそうじゃなくて!)
一瞬にやけ顔に代わったが又頬を膨れさせる。忙しいなこいつ。そして何を思ったのか俺に近寄り俺の腕をつかみ引き寄せる。
「い・っしょ・に!いくよ!」
そう言い俺の腕に抱きついた状態で歩きだす。こうなると必然的に隣を歩かなきゃいけないわけで尚且つ俺の腕を抱えてるんですよ。つまり
(む、むねが…)
(え?…あ)
ずっと俺の腕に男の憧れであるものが当たっているのだ。由比ヶ浜もそれに気付いたのか顔を赤くし立ち止まってしまう。
(うーっ。恥ずかしいけどヒッキーが意識してくれるなら…)
(気づいたか…これでかいほ…)
解放されるなんて考えていると先程よりも何を思ったのか更に胸を押し当て歩き出す。
(あの、由比ヶ浜さんっ!?)
結局教室につくまで解放はされず、終始殺気が混じった視線を送られる八幡であった。
どうも149です。お待ちしていた方申し訳ありません。これまで来たたくさんのコメント拝見しました。本当に嬉しかったです。ここまで遅くなってしまった理由なんですが申し訳ないことに自分のモチベの問題です。またコツコツと書いていきますので応援よろしくお願いします。またどんなことでもコメントしてくださると励みになります。閲覧ありがとうございました。また次回会いましょう。