ノブナガイルモノガタリ。   作:楯樰

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三人称の練習を兼ねての投稿。
歴史にそこまで詳しくないのに何やってんだか。


第1話 ハジメ

 ――おぎゃぁ、おぎゃぁ。

 

「――奥様! 元気な男の子ですよっ!」

「あぁ……っ! 良かった…! 織田の家は安泰です……っ!!」

 

 ――おぎゃぁおぎゃぁ……。

 

 ――魂の秘術を見つけて以来、時間旅行・世界間移動を行ってきた彼はまたも転生を果たした。

 それが、この度生まれた織田家の息子――『市之助』。

 彼は、『織田家』の嫡子たるうつけ姫――『織田 信奈』――と母を同じくする彼は既に生誕という体験を幾千幾万回と経験していた。

 在るときは女であったこともあるし、同じく男であったこともある。

 また己がなった事は無いが、両性の者にも会った事はある。

 そのために、生んだ当人である土田御前に手伝いの者達が気づかないが、泣き声は酷くつまらなそうであり、退屈そうである。

 その声にこめられた思いとは例えば――、

 

「(あー、この頭の割れるような痛みにも早速なれたのー)」

 

 であるとか、

 

「(今生は何を極めるかのー)」

 

 ……であったり、と自由かつ身勝手な事ばかりだ。あと爺くさい。

 在るときは武を極め。

 在るときは文を極め。

 また在るときは悪行を好んで行い、そして在るときは善行を好んで行ってきた。

 ――要をまとめると道楽家且つ、自由奔放なのが彼であった。

 

 それがこの度生まれた「市之助」という人物だった。

 

 ではその市之助。

 数年を赤子で在る事に甘んじているだろうか。

 ――それは、否。

 

 この男、退屈に赤子の時代を甘んじて生きるわけではない。

 では如何するか――?

 

わひは(ワシは)のふいひてぃ(信市)とひう(と言う)よろひくの(よろしくの)ははふへ(母上)

「……。」

「――。」

 

 母親と付き人がおかしく思い始めた事務的な泣き声を上げる事をやめ、己で今生にて使う正式な名を幼名から一字取って定めて突然として拙いながらもしゃべり始めた。ふがふが、と言うようにも聞こえる声は不思議と二人には伝わり、シン、と部屋の空気が凍る。

 

 不味いかもしれない、と思ったときにはもう遅く――そうこうして、アレと言う間に織田の城の地下。

 そこの存在する座敷牢に放り込まれた信市は「仕様が無い」と言わんばかりに、泣く泣く今まで転生を繰り返して会得した忍術(、、)でもって青年へと姿を変えた。次は錬金術(、、、)で座敷牢を大きく広げ、己好みの部屋へと姿形を一瞬にして変える。目に付くものを変えて変えてといると、そこに居た人物にはたと気づく。

 

 ――目の前で赤子が大人になり、座敷牢が木格子を残して牢が変わった――。

 

 ……市之助改め信市を連れてきていたその者は腰を抜かし、元来た道を走って逃げ帰る。

 それ以降誰も来る事はなく……信市はぼっちとなった。

 

「つまらん」

 

 と一言。

 錬金術で土くれからお茶を生み出して一息つきつつ、畳の上に転がる彼はそれはもう、一人だった。

 

 -------------------------

 

「はぁ!? 私に弟がいるですってぇ!?」

「姫さま声が大きいです――っ!」

 

 それが発覚したのは、「信市」が作った年と日が分かる時計が丁度三年の時を刻んだ頃。――つまり「織田 信奈」が十六の年を迎えた頃だ。

 発端は何気ない信奈の「確か弟か妹が居たような――」という言葉。

 疎遠になる前、母のお腹が大きかったような、と。

 いつもなら、まぁ気にしても仕方が無いな、と終わる話ではあったが、此処で反応したのが『柴田 勝家』である。嘘を吐くのが下手な彼女は明らかな反応を見せ、信奈に迫られ真実を吐いたのだ。

 ……信市の事は柴田家の秘匿としていた。それは信市を座敷牢へと入れた――彼女の父の事が原因であった。

 

「――父はあの日、信市様を座敷牢へとやったあと、地下から逃げて帰ってきました。聞けば『彼の弟君は妖術使いであったぁ!』と。……その、小便を垂れながら……」

「は?」

「……父が言うには姿が赤子から大人のモノになり、座敷牢の中を妖術で作り変えたと。土から茶を生み出した、と」

「……嘘でしょ?」

「――父は嘘を吐くような人ではありませぬ! ……俄かに信じられませんが…っ」

 

 勝家は父はほら吹きなどではないと叫ぶ。当主の席に座し、肘置きに凭れ掛かっていた信奈の体が声に驚きびくりと撥ねた。細めで勝家を睨み、勝家は「すっ、すみません」と頭を下げた。

 

「……まぁ、いいわ。頭を上げなさい、(りく)。面白い……見に行きましょう。その私の弟と言う妖術使いを!」

「はっ……!」

 

 立ち上がり、勝家に案内させるにそこは普段通る廊下の奥。こんなところに、というような場所に地下への入り口は在り、蝋燭台を持った勝家を前に信奈は進む。通路は狭く、ひと一人程しか通れぬほどで、勝家の後ろを追いながら信奈は、こやつ乳だけでなく尻もでかいな、などと下らぬことを考えつつ、まだ見ぬ信市という己の弟について勝家に聞く。

 

「ふーん……生まれたときに言葉を喋った、と」

「はい。以来、土田御前は信市さまをいないものとして扱うようになり、信秀さまにも死産であったと申しておりました。父もまた土田御前に口止めされて今日に至ります」

「……何、それ。私よりも扱い酷いのね」

「……そうですね」

 

 信奈は母に嫌われている。……だがどうだ? 話しに聞く信市は己よりも酷い扱いを受けている。否、それすらなく、愛される事も知らないで居るのだという。信奈は一応、母には存在を認識されているのだ。

 

「あ、そうだ。六は会ったことあるの?」

「……えぇっと……」

「ふーん……あやしいわねぇ……」

「そ、そんなこと無いですっ!」

 

 やっぱり本当に私の弟なのだろうか、などと考えながら悪くなった空気の換気のため、信市について気になる事を信奈は勝家に聞き続けた。

 

 △▼△▼△▼△

 

「……ほう。姉上がこちらに向かってきているな」

 

 この三年で面影を残さぬ座敷牢の中、ぽつりと呟く信市。

 誰に聞かせるわけで無し、その声はただただ、その牢のようで無い部屋に響いた。

 遠く、約100メートルほどの範囲の音は聞き取れるようになっている信市。目を閉じて更に、視覚以外の五感を強めて把握したのだった。

 信市の風貌は三年前と変わらない。その顔は信奈に似て美男子。ただ体つきは男性特有に肩はそれなりに広く、背丈も六尺ほどでこの時代の者にしては大男だ。髪もまた腰まで伸びており、切った様子も伸びた様子も無く、三年前と変わりは無い。

 風貌こそ同じようで実際に男。

 そして信奈や同じく土田御前から生まれた『織田 信勝』と血縁関係にある事は毛質などで良く分かる。

 

「にしても六花(りっか)の奴め。あの大うつけ様に教えたな? 教えるな言うたのを忘れたか、あやつめ! ――ちょっとお仕置きじゃなー残念じゃなー」

 

 口では怒っているようであるが、口角はつりあがっており、無邪気な少年少女の悪い事をたくらんでいるときの笑みを浮かべていた。

 信奈の事は一年ほど前には既に知っていた。いつの日にか独自の陰陽術(、、、)にて飛ばした式に外のようすを調べさせて己の親族については情報を得ていた。己を産んだ母と信奈の仲の悪さも知っているし、己の扱いについても知っている。だから信奈には己の事は知らせるなと言ったのに、と、勝家に激おこぷんぷん丸ーじゃー、などと阿保な事を信市は考えていた。

 

「おお! 茶の準備をして待っておくか。何にも無いと言うのは失礼じゃろうしのー」

 

 せっせと錬金術を使い、壁の土からインスタントのお茶のパックと湯呑み、お湯を生み出してお茶を二つ作る。

 途中であ、と思いなおし、三つ目は紅茶にしたのは信奈にだった。

 

「さて、あと十五秒ほど。音から察するになんぞ話しておるからこちらもゆっくり待っておこうか」

 

 ずずず、と茶を飲みながら一人ぼっちでさびしいな、とは思わない。

 

「――人には理解されぬのがワシだからな」

 

 呟いたのは暗示ゆえか、はたまた独り言が多くなったせいか。

 ……ただ言えるのは少し二人に会うのを楽しみにしていると言うことだけだった。

 

 

「……こちらですが……」

「いよっす、姉上。お噂は聞いておるよー。初めましてと久しぶり。ワシは信市という。……それよりも六花! じゃない、六! お前約束覚えているのか?」

「あ……」

「……後でお仕置きじゃからなー」

「ひぃっ! お、お前の奴はお仕置きは怖いんだよっ!」

 

 とりあえず信奈は二人の仲の良さに疑念を抱き、置いてけぼりにされているのに気がつく。

 

「こらぁ! 私を置いて仲良くするなぁ!」

「す、すみません姫さまっ!」

「姉上が怒ったー」

「……ほんっとごめんなさいっ!!」

 

 後であること(、、、、)を聞き、驚く事になるのだが信奈はまだ知らない。

 

 

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