段々と文体が乱れてきます。
「ままぁ入られよ」
「入るって……」
勝家が格子の角を引っ張る。
ぎぃ、と音がなり、すると格子につけられた扉ではなく、格子自体が外れて格子が目の前から取り払われた。
「……暇だったから格子をはずして扉に変えたらしいです」
「……出られたのに出てこなかったの?」
「……まぁ、の。ささ、座って座って。ゆるりとしていってくれたまえ」
近くのちゃぶ台を引き寄せ、信市は乗せていたお茶を二人に出す。信奈には紅茶を。勝家には緑茶を。
「……変なもの混ざって無いでしょうね」
「原材料が土だと言うこと以外は特に変わらない紅茶だが?」
「……妖術ね」
「いや、錬金術。素材をまったく別のものに変える秘術よの。この世界の真理はまだ見てないから一度に行使出来る範囲は小さく、ほかの世界の真理を組み合わせ代用しているだけだがな」
「あーもう! 意味が分からない! けど分かったことにしておく…………あ、おいしい」
ズズズ、と先ほど信市が用意していたときとは形を変えた元湯呑みのティーカップを信奈は口に運ぶ。もともとこれが土だと言うのだから驚くばかりだ。
信奈に反して勝家は一向に手をつけず、信市が聞くと要らないと答えて茶と湯呑みは宙へと解けるようにして消えた。信奈は目を見開き己の茶を見るが消える事は無い。そのまま口をつけて中身を飲み干し、ちゃぶ台へと置いた。
「単刀直入に聞くわ。貴方は……私の弟になるの?」
「いえす、と答えさせてもらおう。……母が認めぬのならどうであるかは分からぬがな」
「そう……なら年齢は?」
「ふむ……魂の年齢か? それとも肉体の年齢か?」
「魂……えぇ、どちらとも」
「肉体の方は
「八百歳……」
反芻するもこの時代人生五十年。信奈の頭の中では十六回分の人の人生デアルカ、と驚嘆した。
「あぁ、いや、八百万じゃ。八百万。……確か
「……ホントになんで信秀様はあたしとや、やおよろず? ……ごほん。そんなに人生経験の差がある信市さまを婚約させたのか……あたしには理解できませんよ、もう」
「そうよのぅ……余計なことしおって」
「ホントに。……ん? 六、今あんた婚約って……しかもお父様が――!?」
「あ、しま――あのですねっ!」
勝家の唐突な発言。爆弾の如し勢いで信奈を驚かせた。まくし立てあげしどろもどろになり、勝家は涙目になる。助けを求めて信市を見た。
「あぁ、なんじゃ言っておらんかったのか。――あんの親父殿はまったく……」
よっこいせ、と呟き、壁に備え付けられている棚の引き出しから、丁寧に片付けられていた書状を信市は取り出す。
「あ奴め、死ぬ前に書状をよこしてきてな? なんでも『――勝家と縁を結べ。そうしてお前があの脳みそ筋肉の鬼柴田を繋ぎとめろ』と言ってきたのよ。……まったく、ワシはゆっくり関係を深めたかったのに……あのばかもの」
「あ、え? でもお父様は」
「土田御前様が伝えていないだけ。信秀様はご存じでした。合間を縫っては此処へ来ていたようです。……というか市! あたしは初心なんかじゃないぞ! ホントだからな!」
「あぁ、はいはい。……問題、赤子はどうやって出来る?」
「そ、それは……コウノトリが運んでくるって父上が言ってた」
「うんうん。正解じゃ。正解……よしよし」
や、やめろ! と勝家が撫でられ叫ぶ横で信奈に向かって信市はほらな、と苦笑する。止めろ、といいつつ逃げない辺り、撫でられるのは好きなのだろう。
年相応に女の子である勝家の姿を見てぽかんとなるも、信奈はぷぷ、と噴出し、さらにはあっはっは、と笑い出して地下に笑い声を響かせた。
「止めてください信奈さまぁ! い、市も止めろよな!」
「良いではないか、なぁ?」
「あっはっはっはっは!」
「むがぁああああ――!」
「ていっ」
勝家が癇癪を起こし、その額に信市が撫でていた手の中指が丸めて弾き、気を失わされた。へにゃりと力が抜けて倒れる前に抱かれ、畳みの上に寝かされたあの鬼と称されているはずの勝家に信奈は驚くが、何かしら知らない術を使っているのだろうと納得し、勝家にはきちんとした性教育を施そう、と思いつつ。信市に紅茶のおかわりをせがみ部屋の中を見渡した。
目に付くのは壁に飾られた火縄銃とはかけ離れた銃らしきものが二丁であったり、大小さまざまな刀剣。部屋の隅には無骨な鎧が飾られ、変な模様のついた石製の仮面であるとか、見慣れない物たくさんあった。
中には見慣れた地球儀をそのまま平面図に書き写したような地図もあったが、此処でやっぱり疑問が生まれる。
「……そういえば見慣れないものがあるけど……いや、あれは世界地図なのは分かるのだけどね? ……アレ、どうしたの?」
「ん? あぁ、作ったよ。全部ワシの作品じゃの。……色んな世界を渡ったときの思い出とも言おうかの」
「へーそう……は?」
世界を渡ったと申したか。信奈は目を見開き驚いた。
「何。ワシは世界を跨いで転生しているんでな。あの炎刀『銃』なんかは尾張が幕府を開いていた世界を生きたときの模造品。形はまんま未来の拳銃じゃがな。あれなんかは友人の作った究極生物じゃったかになれる仮面の模造品。……使わせないからな?」
この弟といると驚くことが多すぎて困ってくる。はぁ、とため息を吐いている間も、楽しそうに信市はかつての友人たちの話をし、呆れて物も言えぬ信奈は、年寄りのお爺さんの話を聞いているときのような気分になった。何時間付き合わされる分からない。本題に入ろうと信市の話の腰を折って切り出した。
「それであの四季崎――」
「ちょっとまって。その話しの前に一つ。――貴方はこれからどうしたいの?」
「む……。どう、とは身の振り方か?」
「えぇ、そう。貴方は如何したい」
「そう、だな。……とりあえず地位と名誉は要らぬ。よければ外出できるよう許可が欲しいくらいか。……それから此処で眠り込んでる六花との祝言が上げれるならば十分か。……それ以外は特にする事も無し、武芸でもなんでも趣味に興じるとするよ」
信秀に言われ、婚約を結んでいるが婚約者である勝家の事は信市は好いていた。何せ今生、初めてちゃんと会話を交わしたのは勝家であり、何度か様子を見に来てくれていたのだ。
好いているとはいえ、今までに妻を取った事は在るし、子供も居たこともある。今もその者たちへの想いも在る。
だが過去のことだ。今生はまた違うし恋もまたするだろう、と信市は思っている。
……欲は尽きない。転生を繰り返し仙人の如き時を過ごしてきたが、欲と言うものは薄まる事はあれど無くなる事は無い。
今生、想いをやる勝家を好きになった理由と言うのは……まぁ、さほどおかしなことではない。やれ「信勝さまはまた謀反を企てた」やれ「なんであたしは頭が悪いんだ!」などと愚痴を言うことが多かったが、助言をしてやれば「そうか! 助かった!」と言って、まるで娘のように懐いてくる姿が好ましかった。信秀が婚約者にしよう、などと言ってからは恥ずかしくなったのか訪れなくなり、さびしくも思った。
だが信市は会いに行こうともせず、無理矢理に体を交わらすことをしない。己を律して敢えて溜まっている欲に、忠実に動かぬこともまた楽しき事かな、と何もかもを楽しむのが彼と言う存在で
「ふーん……お父様に言われて婚約しているとは言え、あんたたち二人の関係はあずかり知れぬところだけど。……天下に興味はない?」
「まぁ、天下を取ったのは一度や二度じゃないからの。特にもう興味は無い」
ふっふっふ、と笑う信市の表情は若気の至りを思い出すようで。ちょっとした『黒歴史』だ。……いくら転生を繰り返しているとは言え、信市もまた人であった。後悔することも多かったし、後になって憂う事も多かった。今でこそ半ば人外のような思考と精神力であるが、相応に悔いることも憂うこともある。
……その内「黒歴史」とするのが天下取りであったり覇王、魔王と呼ばれるような存在になったことだ。……後で知ったが『あの時は厨二病を患って居た』と知ったが、それは言わない。態々そのような愚行を起こす気は無かった。
「け、経験豊富なのね……私の弟は。……先人の知恵として何かあれば聞かせてくれない?」
「うむ。……天下を取った後、代わりに纏めてくれる人間は用意しておけ。自由を奪われるぞ」
「え? あ、あぁ! なるほど……」
「いや、まぁ、なに。……一度考えなしに天下を取った事があるからの……」
「……大変だったのね」
「……あぁ」
哀愁漂う姿はなるほど。どれほど自由を奪われたかという事がよく分かった。
――それからしばらく。この「日ノ本」の天下を取るために、どのような志で取れば良いか。また天下を取った後、信奈が「己は大海に出る予定だ」と言って航海の心得だとかを教わった。勿論ほかにも寂しくはなかったのか等も聞いた。――ちなみに勝家が起きたのは結構早く、気絶してからすぐ。丁度信市が勝家と祝言を上げたい、と言った辺りから顔が赤くなって狸の寝入りがバレていた。……寝たふりをしていることをいい事に、何かと息が合った二人は色々と顔に悪戯書きだとか、足袋を脱がして指の間に筆を這わせるだとか勝家を苛めて遊んでいた。
尚、笑いを耐える勝家の声は妙に色っぽく、婚約者で男で溜まっている信市はもちろんの事、女である信奈もドキリとくるような様子だった、と後に、信奈と座敷牢から出た信市は語る。
・錬金術
某国家錬金術師。あとは察せ。
・石の仮面
額に何か収まるようになってる。何かは引き出しに入ってるとかなんとか。
友人には呪いっぽい名前の闇の一族の方がいるそうです。
・炎刀『銃』&四季崎
十二本の刀を集める主人公の姉でした。