「先生!バナナはおやつに入りますか?」
「いいえ、バナナはおやつではありません。皆さん、絶対に持って来ないように!」
遠足、お弁当の時間。
皆が楽しそうにお喋りに興じ、賑わう時間。
そんな中で、一人暗い顔をした少年が箸を握りしめたままうつむいていた。
「なんでバナナはだめなんだよ…
先生は弁当にフルーツいっぱい入ってたくせに横暴だ!
バナナが無いと遠足なんて楽しくないのに…っ。
もう、やだッ!」
彼が涙混じりに吐き捨てて、立ち上がろうとしたその時。
「ゆうくん」
「え…?」
彼が顔を上げると、そこには優しく微笑む少女がこちらを見つめて立っていた。
「どうしたの、みっちゃん…って、それ!」
朝から何をしてもほとんど反応を示さなかった、彼の目はみるみるうちに見開かれていく。それもそのはず、
「ふふっ。これ、どうぞ」
少し得意げな顔をしてずっと隠すように後ろにまわしていた彼女の手元には、綺麗な弓なりの形をした黄色のフルーツ。
そう、そこには、少年の愛してやまないバナナがあったのだ。
「これ、ゆうくんにあげようと思って。」
「で、でも、先生は持ってきちゃだめだって言ってたよ?」
「多分お母さんが間違えて入れたみたいなの。
それに、私はおなかいっぱいだから。みっくん、食べてくれないかな?」
ほら、先生が来たらおこられちゃうよ、早く。
そういってバナナを差し出すその姿を、少年は少しの間呆然として見つめていた。
が、直後。くしゃりと顔をゆがめて、
「…うん、みっちゃん、ありがとう!」
今日一番の笑顔を浮かべた。
かち、こち、かち。
(もうそろそろかしら…。)
掃除を切り上げて玄関の方を見ると、ドアについている刷り硝子越しに近づいてくる影があった。
ガチャ。
「ただいま!」
「おかえりー。
「うん!はい、弁当箱!」
ぼくこのあと遊ぶ約束してるからーっ、
とドタドタかけていく姿に、よっぽど楽しかったのねぇと思いながら弁当箱の蓋を開ける。
「あら…?」
悠の小さめの弁当箱の中には、覚えのないバナナの皮がぎゅうぎゅうになって詰まっていた。
(私、バナナなんて入れたかしら?)
首をひねる母だったが、
「いってきまーっす!」
小さな疑問は、愛しい息子の元気いっぱいな声にかき消されていった。
玄関の方まで聞こえるように少し声を張り上げる。
「ええ、いってらっしゃい。」
窓越しに見える小さな頭がぴょこぴょこかけていく。
母はそれを見えなくなるまで眺めて、掃除を再開する。
春の暖かな陽射しは少年を包み込み、今日も彼の背中を押すように吹き抜けて行った。
これはいったいなんなんだろう。
バナナのことフルーツって書いたけど、まあセーフ!多分!