──2016年12月24日。
ㅤ季節は雪がさんさんと降り積もる冬。
ㅤ日本では大勢の大人、子供達が豪勢な食事を堪能し、それぞれ理由のある贈り物を友人や恋人に送る日である。
ㅤたがそれはあくまで地上での話だ。
ㅤ空のない冥界では雪は降らないのだから。
ㅤ私自身と亡霊達しか存在しない空間では、そのようなまつりごとを開催する予定があるわけもない。
ㅤ冥界の女神である私がカルデアに召喚されるキッカケとなったのは、いつもと変わらず冷たい風が吹いていた聖夜前日の夜。
ㅤ詳しく話せば長くなってしまうので、その辺については割愛する事にしよう。
ㅤ季節は流れ、あの日から丁度一年たった。ㅤ彼等からすればシュメル熱事件からすぐなのかもしれないが、こちらからすれば一年も待たされたのだ。今か今かと待ち望んていた気持ちは誰にだって負けなかったと思う。
ㅤだからこそ召喚された数時間後の衝撃は、誰よりも大きかったと誰もが納得していた。
「全英霊強制退去ですってぇ!?」
ㅤどういうこと!?聞いてないのだわー!?
ㅤ職員室入口付近でへたりと座り込んで嘆く彼女に声を掛ける勇者は誰一人いなく、今朝マイルームからとぼとぼ食堂へ向かう女神が目撃されたとかいないとか。
◆ ◇ ◆
「そう落ち込むな。今回の件に関して私からはなんとも言えない。それに決定事項はカルデアスタッフでさえどうすることもできん。まずは紅茶でも飲んで落ち着くといい。このまま26日までその調子でいられては、他の者達も困るだろう」
ㅤレオナルド・ダヴィンチから今後のカルデアの方針を聞かされ、その夜は眠ることさえできなかった。そもそもの話、冥界での私は眠る行為さえままらない。こうしている今も尚、冥界では相も変わらず彷徨う霊達が安心して眠れるよう管理を私でない私が執り行っているのだろう。
ㅤカルデア滞在最後の二日間。
ㅤ私にとって最初で最後の二日間だが……
ㅤ
「ええ…有難く頂くわ。それで貴方は──」
「む、自己紹介がまだだったようだな。私の名はエミヤ。こんななりだが、クラスはアーチャーだ。短い間だが、よろしく頼むよ」
ㅤそう言って微笑む彼の顔は、知らない筈なのにどこか懐かしい感じがした。私は目の前に出された淹れたての紅茶を一口飲む。ㅤㅤㅤ
「ん……凄く美味しい」
「それはよかった」
ㅤつい口に出てしまった…
私の顔を見た彼は煎れがいがあったなと、ホッとしたように呟いた。
「冥界の女主人、エレシュキガル。クラスはランサーよ。此度の私は立香の為に召喚に応じたワケだけど…もし貴方がマスターであったのなら、とても面白いコトになりそうね?そう例えたのは私にもよくわからないけど」
「……君は」
「どうかしたのかしら?」
「いや、なんでもないよ。確かに君がサーヴァントで私がマスター…想像は出来なくもない。話は変わってだ、これからはなんと呼べばいい?」
「ふふ、これからといっても二日間、サーヴァント同士の関係なのだけど。私のことはエレシュキガルとでも呼んでくれればいいわ。貴方は…そうねぇ」
「アーチャーと呼ばせてもらうわ」
◇ ◆ ◇
「どうやら面白い話をしているみたいだね」
「また何か企んでいるのですか?マーリン」
「勿論そうだとも。僕は彼等…特に彼・が絡んでくる事に関しては手を出したくなる癖があってだね」
「程々にしておいてくださいよ?もしシロウに何かあったのならば、私は容赦しません」
「勘違いしているようだが、君にも同行してもらう予定だ」
「マーリン、それはどういう───」
「細かい事は気にしない!手短に言えばだ。ㅤ君達は、長い夢の中で再び運命に出会う。ㅤそれだけさ」
◇ ◆ ◇
エミヤside
ㅤ午後11時、明日の食堂の下準備を済ませた後マイルームでいつも通り就寝
ㅤした筈、だったのだが。
ㅤ意識が引っ張られ、強制的に目を覚ませられた。
「まさかここは──────ぐっ!?」
ㅤ胸の辺りに痛みを感じる。案の定制服には何かに刺されたような血の跡が……………制服?胸を抑えながら周辺を見渡す。ガラクタの散らかる倉庫、段ボールの下敷きにされた淡く光を帯びる召喚陣。
ㅤ摩耗しても尚、忘れられる筈がない光景。
ㅤ運命を背負わされた青年と、聖剣の騎士の出会い。そして目の前には
「──────え?」
ㅤかの有名なアーサー王でもなく、未来の英霊、赤い弓兵でもない。
「サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上したわ。マスター、指示をお願い」
ㅤ彼女の第一声がそれだった。
ㅤつい数時間前まで一緒にいたというのに、声が出なかった。
ㅤ思わず手の甲を押さえつける。
ㅤそれが合図のように、彼女は可憐な顔を頷かせた。
「───これより我が槍は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にあります。
ㅤ────ここに、契約は完了しました」
ㅤ彼女は俺の内心に気づかず、頷いた時と同じ優雅さで顔を背けた。土蔵の外には、未だ槍を構えた男の姿があった。
ㅤ蔵を出た時には既に戦闘は始まっており。
戦況はというと、クー・フーリンの方がおされていた。聖杯戦争でランサー同士が戦うというのも中々にシュールだと思う。
ㅤ彼女は瞬間的に作り出した檻を地面から出現させ、クー・フーリンの動きを静止させようとする。
ㅤけれど流石は光の御子と呼ばれた英雄、疾風のごとく檻の軍勢を容易く避ける。それでも避けているだけでは戦闘とは言えず、どちらにせよ圧倒していたのはエレシュキガルだった。
「怪我はない?マスター」
「怪我はないけど…ってそうじゃなくて!!君はエレシュキガル、なんだよな?私の事はわかるか?」
「そりゃわかるわよ。3時間ぶり、といえばいいのかしら、アーチャー?」
「君にその呼び方は出来ればやめてもらいたいのだが…」
「いいじゃないの。それより今は──」
そうだ。今は目の前の敵に集中せねば。
槍を構えた状態のランサー。エレシュキガルも槍を向ける。
「オマエさん、なかなかやるじゃねぇか」
「貴方ほどの英雄にお褒めに預かれて光栄だわ。でも容赦はしないから」
「その事なんだが、お互い初見だしよ、ここらで分けっ気はないか?悪い話じゃないだろう。そら、あそこで惚けてるオマエのマスターは使い物にならんし、オレのマスターとて姿を晒さねぇ大腑抜けときた。ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだがよ」
「それは有難く承諾するのだけど…一つ訂正して」
「あ?なんだ」
「貴方が言った後ろのマスターは使い物にならないっていうの。それは大きな間違いよ。いい?間違ってもわたしのマスターを侮辱しないこと。二度と」
「おー怖い怖い」
アレ本当に怖がってんのか?
「だがまあ、そうさな。オマエはオレの提案に乗ってくれたからな。それぐらいは応じてやってもいい」