フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~   作:ディルオン

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皆さま、感想、メッセージ、評価、本当にありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。

しばらくもう一つのSSを書くと言いながら、結局筆が止まりませんでした。
だが私は謝らない。
だって圭ちゃん可愛いんだもん。



16話【となりのK/かぐや様は取り持ちたい】

 三軒茶屋にある、白銀家。

 夕食時の事である。

 

「ねえ、お兄」

「ん?」

「『高等部の生徒会は、なんでも悩みを解決できる』ってホント?」

「……なんだそれ?」

 

 白銀は、目の前にいる少女の言葉に目を丸くした。

 

「違うの?」

「そりゃ相談に乗るとかあるけど……」

 

 目を瞬かせて、白銀は実の妹──圭をまじまじ見る。

 中等部に籍を置く圭は、兄の目から見ても非常に優秀である。口にこそ出さないが、自慢の妹。

 

 尤も、最近は口が悪くなっているのが玉にキズであった。

 

「カップルの喧嘩を止めたとか、どこも直せないって言われた機械を修理したとか、爆弾を止めたとか、埋蔵金を掘り当てたとか、殺人事件を解決したとか、ゴキブリ怪物を倒したとか」

「それどこの変身ヒーロー?」

 

 白銀は首を傾げた。

 

「……悩み相談みたいなのは何回か来るけど、別にそこまで大したことじゃないぞ。壊れた備品を修理して欲しいとか、今年の文化祭は2日やって欲しいとか……あ、恋愛相談はホントか」

「え、お兄に?」

 

 圭は兄を訝しげに見る。

 白銀御行16歳(童貞)は、顔を逸らしつつ、出来るだけ平静を装って答えた。

 

「だ、だからたまにだよ。それに、大体藤原書記とかが絡んでくるんだ。あいつそういうの好きだろ?」

「ああ、そういうこと」

 

 圭は藤原の妹・萌葉と友達であり、藤原千花本人とも仲良しである。当然、藤原の恋愛脳や人柄を良く知っている。

 納得した様子で圭は再び食事へ集中した。

 

(何だ、いきなり?)

 

 元々、圭とは最近話す回数が極端に減ってきていた。原因は圭の反抗期──詰まるところ、兄の過保護ぶりと、妹の自立心にある。

 圭も兄と同様に遺伝子を受け継ぎ、素直になれない性質である。この様になってしまうのは必然でもあった。

 

 とは言え、それにしても彼女の質問は唐突だった。

 

「圭ちゃん、悩みでもあるの?」

「別に」

「じゃあどうしていきなり『悩みを解決できるのホント?』なんて聞くんだよ?」

「……」

 

 無言の圭。

 兄は察した。沈黙は肯定であると。

 

「隠すなよ、ほら、お兄ちゃんに何でも言ってみな?」

「は? キモいんだけど」

「……」

 

 兄が沈黙する。

 これはただの気まずい雰囲気である。

 

 最近の白銀家ではこれが日常であった。

 はっきり言って何が地雷で、何処まで会話を続けていいのかさっぱり分からない。

 

 しかし妹に何か悩みがあるのならば、兄としてなんとしても突き止めたい。

 

 

「そう言えば御行」

 

 

 と、今まで沈黙を守っていた人物が腰を上げる。

 

「ん?」

「生徒会に新しい子が入ったと聞いたが?」

「ああ、フィリップのこと?」

「そうそれ」

 

 父(職業不定)が、いつも通りのマイペースな調子で尋ねる。

 

「外国の子か?」

「いや、日本人。よく知らないけど。でも凄い奴でさ」

「それは興味津々」

 

 ずいと身を乗り出して聞き出そうとする父。

 父なりに場の空気を何とかしようとしているのかも……と、息子は色々と話すことにした。

 

「成績も優秀だし、手先も器用で」

「ほうほう」

「四宮……ああ、副会長の奴が、庶務にどうかって推薦してきたんだ。色々仕事引き受けてくれて、助かってるよ」

「ふーん……去年のお兄みたい」

 

 話を続ける内に、圭も興味が出て来たらしい。

 父に感謝しつつ、妹にも話を振ることにした。

 

「ひょっとして圭ちゃんがさっき言ってた『機械の修理』ってやつ、フィリップのことかな?」

「そうなの?」

「部活動の備品修理とか、改造とかやってくれるんだよ。お陰で部活連との話し合いもスムーズに行ってるんだ。なんというか、凄い博識でさ」

 

 以前、圭が生徒会室を訪ねた時があったが、その時にはフィリップはダンス部が使っている音楽機材の修理をしていて、顔を合わせていない。

 

(もしかすると、これを期にフィリップも中等部と交流の機会を持たせるべきかもしれないな……)

 

 圭は今中学二年。彼女の成績ならば、高等部への進学は間違いない。

 再来年フィリップと共に生徒会で活動する可能性もゼロではない。

 

 白銀は努めて明るく、圭にフィリップの魅力を伝えようとした。

 

「もしかして圭ちゃん」

「なに?」

「フィリップに興味ある?」

「は?」

「あいつ結構いい男だぞ?」

 

 しかし白銀、アクセルを踏み過ぎる。

 他から見れば、完全に振り切れている状態だった。

 

「別に……」

「いいじゃんいいじゃん、一度会いに来いよ。頭も良いし、学年も二個違いだし、もし会ったら圭ちゃん一目惚れなんてことも……」

「うっさいうざいしね」

「……」

「ご馳走様」

 

 圭はそそくさと食器を片し、部屋へと戻っていく。

 打ちひしがれる兄。

 少し調子に乗るとすぐこれである。

 

(冗談で言っただけなのに……)

 

 男に興味持つのを心配したら『関係ないしキモイ』

 逆に応援しようとすると『うっさいしね』

 

 どうしろというのか。

 

 そして父親は何もせずに黙々と食事を続ける。

 いつもの光景とは言え、立て続けに罵詈雑言を食らうと、流石の長兄も食事が喉を通らなかった。

 

 

 

【となりのK/かぐや様は取り持ちたい】

 

 

 

 翌日になっても、白銀はどこか腹に重たい感触を抱えたまま生徒会室へ入る。

 結局、朝になっても圭は口をきかずにさっさと登校してしまった。

 

「よう」

「あ、おはようございます、会長」

「お、おう、四宮。おはよう」

「?」

 

 かぐやがいつも通り挨拶して出迎えた。

 生徒会メンバーはほぼ出揃っている。石上だけいないが、仕事を持ち帰るのはいつものことだった。

 

「……はぁ」

 

 椅子に腰かけ、深い溜息を吐いた。

 反抗期と言ってしまえばそれまでだが、昨日の妹の態度は、どこか妙であった。

 

(そこまで怒らせるような事だったかな……やっぱり何か隠してるのか?)

 

 だが圭が素直に吐露する筈も無い。それを考えると、自然と憂鬱な気分になるのだった。

 

 

「かぐやさん、会長どうかしたんですか?」

「さぁ……私には何とも」

「い、いや……大したことじゃないんだ。気にしないでくれ」

 

 

 藤原とかぐやの追求を、白銀は何とか躱そうとする。妹と喧嘩して落ち込んでいる、などと知られれば、バカにされるのは必至。

 だが、それさえも許されないのが、この生徒会室と言う空間の恐ろしいところである。

 

 

「あー。アレですね、これは」

「ん?」

「さては圭ちゃんと喧嘩しましたね!」

「なっ!?」

 

 

 ピシッ、と人差し指で事実を突き付けられて、白銀は狼狽する。

 

「なっ……な、何故それをっ!? う、うちの妹から聞いたのかっ!?」

「え、ホントにそうだったんですか?」

「え?」

「言っといて何ですけど、つい馬鹿なこと口走っちゃったなって……自分でもちょっとアレだなって思ってたのに……」

 

 言葉と、息、両方が詰まる。

 藤原を凝視し、自らドツボにハマった愚かさを呪うが、時既に遅し。

 

「え、会長、ホントに圭ちゃんと喧嘩して落ち込んでたんですか?」

「べ、別に喧嘩じゃねーよっ……!」

 

 慌てて隠そうとするが、藤原は次の瞬間、顔をニヤニヤさせて擦り寄ってきた。

 

「やだぁ、会長ってば可愛いじゃないですか~!」

「う、うるせえっ!!」

 

 顔が真っ赤になるのを自覚するも、出来るのは虚勢を張ること位である。

 

 だが、この手の話題に目が無い藤原千花。

 仲良しである圭が兄とケンカしたと知り、ワクワクしながら事の次第を聞こうとした。

 

「どうしたんですかぁ? 話してみて下さいよ?」

「だからなんでもねえって」

「妹? 会長に妹がいたのかい?」

 

 顔を上げたのは、すっかりこの部屋での修理が板についてきたフィリップである。

 このイザコザの元かもしれないが、当然本人には自覚が無い。

 

 それに対して、藤原が説明した。

 

「うん。中等部の二年生で、私の妹とも同い年なんですよ。もー、めちゃくちゃ可愛いんだから。ね、かぐやさん」

「そうですね。この間一度お会いしたきりですが、とても素敵なお嬢さんだと思います」

「べ、別に。不出来な妹だし? 扱いにくくって困ってるっていうか?」

「へぇーふぅーんほぉー?」

「藤原書記……ニヤニヤしながら見るな、気色悪い」

「フィリップ君、これが圭ちゃんだよ。ほらほら、可愛いでしょ?」

「確かに会長と似ている……興味深いね」

「フィリップお前女の子の顔見て興味深いとか言うな。リアルに変態っぽいから」

 

 スマホで圭の写真を見せる藤原を、慌てて静止する白銀。

 と、そこでかぐやが話し掛けた。

 

「会長、妹さんと何かあったんですか?」

「いや……大したことじゃなかったんだが……」

 

 一瞬、話していいものかと悩むが、こうなった以上、女性陣の意見も聞けば何か打開策も出るかもしれない。そう思い、打ち明けることにした。

 

「どうも……何か悩みでもあるような気がしてな……聞き出そうとしたんだが……そこで」

「はいはい、なるほど」

 

 藤原が顎に指を当て、しきりに頷く。

 

「冗談めかして聞こうとしたら、『お兄ちゃんキモい』って言われて落ち込んでるんですね、会長は」

「イチイチ解説すんな! つうかなんで藤原書記はこういう時だけ察しがいいんだよ!?」

「ねえねえフィリップ君。『シスコン』って知ってる?」

「『しすこん』? 聞いているだけでゾクゾクする言葉だね」

「おい何を吹き込もうとしているヤメロ。フィリップもゾクゾクしなくていいから」

 

 白銀、ますます頭を抱える。

 しかし、新しい検索対象を見つけたフィリップは、そうそう簡単には止まらない。抑制できているとはいえ、知識の暴走事態が収まるわけではないのだ。

 

「シスコン……シスターコンプレックスの略……フェティシズムとコンプレックスが入り混じった概念で独占欲と恋愛的感情が混ざり合うことによって実際の姉弟愛以上の思慕が生まれ妹や姉は最も身近な異性の一人でありまた憧れの対象ともなりやすいために……」

「ホワイトボードに書くな!止めろ!俺そんなんじゃねえから!」

 

 立ち上がり、フィリップを羽交い絞めにして止めようとするが、次々と『シスコン』と言う概念への検証と研究を始めてしまう。

 

 この時……事態を一人静観していた存在がいた。

 何を隠そう、副会長四宮かぐやである。

 

 

(あの子が会長と……これは使えるかもしれませんね!)

 

 

 圭とは一度だけ会ったのみだが、友好的な関係だった。

 かぐやは彼女を白銀攻略の糸口にと、常々考えていた。

 

(例えば……もし、ここで私が会長との仲を取り持てば)

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『四宮先輩、ありがとうございます。お陰で、兄と仲直りできました』

『うふふ、いいのよ。貴女は私にとって大切な後輩ですからね』

『それだけですか?』

『え?』

『私にとって四宮さんは……ううん、かぐやさんは、もうお姉さんみたいな人なんです。『かぐや姉さん』って、呼ばせて下さい!』

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

(これだわ!)

 

 かぐやは圭に姉と呼んでほしかった。

 

(そうと決まれば)

 

 天才的な頭脳は、一瞬にして勝利への方程式を導き出した。

 急ぎ、慌てる白銀へと歩み寄る。

 

「あーもうフィリップ止めろ! ハリセンするぞ!」

「会長」

「だから藤原……ん?」

 

 肩を掴まれた白銀は、微笑みを浮かべる四宮に向き合わされる形となる。

 虫も殺さないような笑顔で、かぐやは口を開いた。

 

「宜しければ、私が妹さんと話してみましょうか?」

「四宮が?」

「もしかしたらお兄様である会長には言い辛いことかもしれません。女同士の方が話しやすいでしょう」

「……確かに」

 

 この提案に白銀、数秒考える。

 

(何か企んでいる……わけでもないか)

 

 かぐやはあらゆる策を巡らす女ではあるが、妹を危険に晒しはしないだろう。

 それに彼女の弁舌術はかなりのもの。

 一つ貸しを作る形となるが、白銀にとっても妹とかぐやが仲良くなるのは悪手とも言えない。

 

(まぁ四宮なら信頼できる。少なくとも藤原書記よりは百倍マシだ)

 

 

「もちろん確約はできませんが、こうして悩んでいるよりかは、いくらか建設的では?」

「それもそうだな…………頼めるか?」

「はい」

 

 白銀は決断。

 かぐやは心の中で、第一条件をクリアしたことに喜んだ。

 

「では、早速中等部の方まで行って参ります」

「え、今から行くのか?」

「はい。善は急げです」

 

 無論これも作戦の一部。

 白銀が、あれやこれやと言い訳を考えた末、首を横に振る隙間を与えない目的である。

 

「安心して下さい、別の用でたまたま立ち寄った……と、装います。会長が悩んでいらっしゃることは誰にも言いません」

「そ、そうか……」

 

 妹のこととなると、冷静さが働かない白銀である。

 そこへ、安心材料を与えられれば当然、心はそちらへと揺り動く。

 

「じゃあ済まないが……」

「お任せください」

 

 大船に乗った感覚で、かぐやは生徒会室を後にする。

 

(やったわ! これで会長と妹さんの好感度は両方アップ!)

 

 ここまで来れば計画は完成されたようなもの。

 圭から悩みを聞き出し、自分の持てる力全てを駆使して、四宮かぐやに有利な形となるよう、水面下で攻略すれば良い。

 

 しかし……

 

「なるほど……これがシスコンだね。理解したよ」

「面白いでしょ?」

「やはり藤原さんは素晴らしいね。次から次へと新しい検索対象を生み出してくれる」

「お前ら……いい加減にしろ」

 

 肩をワナワナ震わせる白銀。

 

「まあまあ、これもフィリップ君の為ですよ。外で変に暴走するより、ここで納得いくまで調べさせた方が良いじゃないですか」

「ぐぬ、そ、それはそうだが……!」

「別に会長がシスコンだ、なんて言ってるわけじゃないんですし」

「その顔で言っても説得力ないんだがな……!!」

 

 だが、彼等は見落としていた。

 

 言い争う二人を横に、フィリップもまた、生徒会室を抜け出していたということを。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「さてと……中等部に来るのも久しぶりですね」

 

 あくまで自分は善意で、会長と妹の仲を取り持つのだ。そう自分へ言い聞かせ、かぐやは中等部の門をくぐった。

 

(妹さんは確か、中等部の生徒会で会計をしているのだったわね)

 

 中等部と高等部は隣接しており、制服と生徒手帳があれば、行き来するのはそう難しくはない。白銀家や藤原家のように、兄弟姉妹が通っているのも珍しくない。

 

 かぐやが校門をくぐって、校庭を縦断する途中、周囲は突如現れた彼女に釘付けとなった。

 

 

「あれ、もしかして高等部の……」

「まあ、四宮先輩?」

 

 

 中等部でも、四宮かぐやの名を知らない者はいない。そんな彼女が中等部へ再び足を踏み入れれば、注目を浴びるのは当然。

 

「え、かぐや様がいらしてるの」

「きゃあ!どこどこ?」

「あ、あそこよ!」

「久しぶりにお見かけしたけど、やっぱりお美しいわ……」

 

 かぐやの耳にも届く、賞賛の嵐。

 

(参りましたね……先程から周囲の目が集まっている。あまり目立ちすぎても……)

 

 幼い頃から慣れた風景とは言え、かぐや自身はあまり気持ちのいいものではなかった。

 

「でも、一体どうしたのかしら?」

「中等部に何か用事かしら?」

「でも滅多に姿を見せないかぐや様が、どうして……」

 

(というよりも……)

 

 かぐや、違和感を覚える。

 

(なんだか……見られ過ぎているような……)

 

「あれ? 後ろにいるのも、高等部の方よ?」

 

 瞬間、かぐやの足が止まる。

 

「あんな人いたかしら?」

「かぐや様のお知り合い?」

「でもさっきからブツブツと……なんだか不気味」

「持ってる本も白紙だし……一体、なんなのかしら?」

 

 予感がする。

 否、悪寒がする。

 

 悪い直感がひしひしと迫る。

 

 いや、気のせいだ。

 錯覚だ。

 自分に言い聞かせる。

 

 しかし過去の経験上、かぐやは己の危機に関する直観力は徹底的に研ぎ澄まされている。

 誰が敵で誰が味方なのか、今この瞬間に、脅かそうとする者が居るとすれば、即座に彼女の本能は察知。正体を突き止めようとしてしまう。

 

 そして天才の脳内コンピューターは弾き出した。奴が来た!と

 

 

「幼少期に自分を中心にして自己を形成し、そこに兄弟がいた場合……」

 

 

 ギギギ……と、油の切れたブリキ人形のように振り向く。

 そこには案の定、向こう側から歩いてきたフィリップ・来人の姿があった。

 

「やあ四宮さん、偶然だね」

「ふぃ、フィリップ君!?ど、ど、どうしてここに?」

「藤原さんから話を聞いていたら、会長の妹という人に興味が出てきてね」

 

 意気揚々と、フィリップはかぐやに歩み寄って語り出す。

 

「是非本人に一度会おうと思って、仕事の合間を縫って来たというわけさ」

「……そ、そう」

 

(藤原さん……よくも余計な真似をしてくれたわね)

 

 かぐや、藤原を友人から格下げし、ブラックリストへ載せる。

 同時に彼女の中で、ある疑念が浮かんだ。

 

(ま、まさかフィリップ君……『会長がシスコンかどうかを検証するために来た』とか言うんじゃないでしょうね……)

 

 かぐやは震えた。

 フィリップが知識の暴走に駆られている隙に事を運ぼうと思っていただけに、ここまで即座に突っ込んでくるのは完全に予想外で。

 

 もしフィリップが中等部で暴走すれば、それは生徒会の沽券に係わる。

 

「安心して欲しい。皆に迷惑はかけないよ。最近は暴走を抑えられるようになっているからね」

「ほ、本当に……?」

「ああ」

 

 コクリとフィリップは頷く。

 

「フィ、フィリップ君……念の為に訊くのだけれど……妹さんに『会長はシスコンか?』とか訊かないわよね?」

「それについても大丈夫さ。藤原さんが『シスコン』について教えてくれたからね。知りたい項目は既に閲覧済みだよ」

「そ、そうなの?」

「ああ」

 

 フィリップの晴れ晴れとした表情。

 

「そもそも、シスコンとは周囲の関係と照らし合わせて判定される相対的な評価であり、絶対的な基準は無い。だから決めるのはあくまで本人たち次第……と言うのが結論さ」

「まぁ、間違ってはいませんけど……」

「だから会長が『シスコン』でないと言えば、そうなる……尤も藤原さんの言葉を元に、僕が再定義したに過ぎないけどね」

「い、いえ、多分、その認識で正しいと思うわ……」

 

 どうやら真実を言っている。

 かぐやは胸を撫で下ろした。

 

(よ、良かった……危うく生徒会の名誉が地に堕ちる所だったわ。あと藤原さんシスコンなんて言葉を吹き込んだ罪は重いと思っていたけどファインプレーです。あとで飴を上げましょう)

 

 藤原千花、再び四宮かぐやの友人へ昇格成功。

 藤原がこの事態を予期し、シスコンについて教えようとしたのか、それは定かではない。しかし彼女の解説がフィリップの好奇心の歯止めとなったのは事実である。

 

 

 とは言え、かぐや最大の懸念はこれで消滅……

 

「じゃ、じゃあ、フィリップ君は、あくまで会長の妹さんに挨拶しに行くだけなのね?」

「ああ、そうとも。それで様子を観察しようと思ってね」

「え」

 

 するわけがない!

 かの『魔少年』が、こんな事で止まる筈がない!!

 

 

「もう一つ興味が沸いたことを調べに行くのさ」

「は?」

「フフッ……四宮さん、君は知らないだろう? 『シスコン』と対を為す……『ブラコン』という言葉を」

 

(はあぁぁっーっ!!?)

 

 ブラコン!

 姉妹が兄弟に対して屈折した愛情を持つことである。

 

『お兄ちゃん、大好き』や、『私、お兄ちゃんと結婚する』は、子どもの頃ならばよく見られる微笑ましい光景。

 

 しかし、それが大人になっても持続すれば、それはやはり行き過ぎた愛。

 シスコンと同様、兄弟を理想の男性像として抱き続けた結果起こってしまう、特殊性癖なのである!

 

「藤原さんから聞く話と合わせると、とても興味深くてね……フフッ。どんな人物なのか。そしてそれはブラコンなのか……ゾクゾクするねえ」

 

(ちっとも抑えられてなぁーい!!?)

 

 焦るかぐや。

 しかしフィリップの目は、まだ見ぬ検索対象に恍惚としている。

 

(駄目だわ、この子……もうどんどん変な方向に行っちゃってる……早く何とか止めないと手遅れになる……!)

 

 急ぎ対策を練ろうとする。

 しかし、如何に天才の手を以ってしかも不可能は不可能!

 

「フィリップ君……流石にそれは無いわ。幾ら何でも彼女はそんな……」

「四宮さんは興味が沸かないのかい? 会長の妹が、兄をどう思っているのか」

「え?」

「もしかしたら、白銀御行の妹、白銀圭はブラコンかもしれないよ?」

 

 フィリップの言葉は、まるでハンマーのようにかぐやの精神を殴りつけた!

 

(何言ってるのよ、この子はぁッーー!!?)

 

 いきなり飛び出た発言に動揺を隠せない。

 しかし、フィリップはまたも心躍らせて自身の推理を披露した。

 

「僕の検索によればブラコンの場合、敢えて兄弟を『嫌い』『気持ち悪い』と、真逆の気持ちを言ってしまうケースが多いようだ。それは何故なのか。好きという気持ちをどうして言えないのか……もし、白銀圭がブラコンなら、それを検証できるとは思わないかい?」

「そ、そ、それは……」

 

 言われて、かぐやは考える。

 

(あ、あり得ないわ……妹さんがそんな……ぶ、ぶぶ、ブラコンなんて……で、でも、もし、フィリップ君の言う通りだとしたら……)

 

 かぐやにとって兄妹とは良い意味合いではない。お世辞にも、兄とは良好な関係を築いていない。

 加えて、自分が他者とは違い、認識が世間とズレているということも。

 

 フィリップの仮説が間違いとは言い切れない!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

『ごめんなさい、四宮さん……私、妹にはなれません』

『ど、どうして? 私、貴女のことは好きよ。貴女も、憎からず思ってくれていると、そう信じていたのに……』

『四宮さんを嫌いなわけじゃありません。けど、それ以上に、私……私、お兄ちゃんを愛してるんです!』

『えーっ!?』

『お兄ちゃんは誰にも渡しません!子どもの頃から、お兄ちゃんは私のものなんです! 私と結婚する運命なんです!』

『そ、そんな……待って! 待ってちょうだい!』

『近づかないで! お兄ちゃんを横取りしようとするつもりなんでしょ、この泥棒猫!!』

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(そ、そんなぁあああああっっ!!!??)

 

 一転、かぐやの思考はパニックに陥る!

 もし想像通りだとすれば、自ら敵地へと乗り込んでいくようなもの!

 それこそケンカを売るに等しい所業!

 

(だ、駄目よ、そんな事になったら……私、私はどうすればいいの!?)

 

 かぐやは必死にフィリップに救いを求めた。

 

「ふぃ、フィリップ君、冗談よね? そんなの、あり得ないわよね? 兄妹同士の恋愛なんて、古典文学とかにしか出ない妄想でしょう? ねえ、そうだと言って?」

「それは分からない。だからこそ検証する価値があるんだ。そう思わないかい……ねえ、四宮さん?」

「うっ……!」

 

 かぐや、フィリップの微笑みに呑まれる。

 天才の思考は、かつて体験したことのないフェティシズムとの出会いによって完全に崩壊していた。

 最早フィリップは魔の手先。その笑顔は悪魔の手招きを彷彿とさせていた。

 

(だ、駄目よ、四宮かぐや……ここで誘いに乗ってはダメ……こんな……こんな破廉恥な真似をして、私は……でも、妹さんがもし、本当に会長のことを……)

 

「さあ、四宮さん。僕と一緒に来て欲しい。そして共に検索しようじゃないか。ブラコンというものを……」

 

(あ、ああ……だ、誰か助けて……!)

 

 心の中で必死に、侍従の早坂の名を呼ぶ。別件を頼んでいたことが完全に裏目に出た。

 

「さあ……さあ、さあさあさあ」

「う、うぅ……!!」

 

 四宮かぐやも最早これまでか!?

 彼女の精神が擦り切れそうな時である!

 

 

「四宮さん?」

「え?」

「やっぱり四宮さん……」

「し、白銀さんっ?」

「はい、こんにちは」

 

 

 正に二人の意中にある少女──白銀圭が、後ろに立っていた。

 

「白銀? この子が会長の妹かい?」

「え、ええ。そうです」

 

 いきなりの登場に、不意打ちを食らう形となったかぐや。

 慌てて我に返った。

 

「四宮さん、どうして中等部に?」

「ああ、あの、ちょっと用がありまして……」

 

 瞬間、かぐやの脳裏に、今自分を追い詰めた少年が浮かぶ。

 咄嗟にフィリップの腕を引っ張った。

 

「この人。先月に編入生で入った一年生なんです。今日は中等部を案内しようと思って、連れてきたんですよ」

「はぁ……」

「え、そうだったのかい?」

「いいから話を合わせなさい返事は『はい』と『イエス』だけ許します」

「わ、分かった」

 

 流石のフィリップも、かぐやの決死の表情に頷かざるを得ない。

 と、その時圭は口を開いた。

 

「もしかして、フィリップ・来人さんですか?」

「あら、知ってるの?」

「兄が言ってました。転校生が生徒会に入ったって。とっても珍しいことだったから」

「あ、そ、そうだったんですね」

 

 あはは、と取り繕うかぐや。

 圭は恭しく、フィリップにお辞儀をした。

 

「初めまして、白銀御行の妹の圭と申します。兄がいつもお世話になってます」

「初めまして。こちらこそ、会長にはいつもお世話になってるよ」

 

 そう言ってフィリップは圭と握手をする。

 

(ど、どうしましょう……!)

 

 依然として危機は続いている。

 ここで『君、ブラコン?』などと聞けば、一巻の終わりである。

 しかし……それは杞憂であった。

 

「あの、四宮さん」

「え?」

「もしよろしければ……生徒会室にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 

 その圭の瞳には、不安と、一縷の望みをかけた期待の感情が浮かんでいた。

 

 

 




次回、忘れられてたフィリップの頭脳、再開する……予定です。
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