フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~   作:ディルオン

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わーん、かぐや様終わったよー!三期マダー?




22話【風と友とF/そして、フィリップ・来人は本を閉じた②】

 

 事務所の扉を開けて、左翔太郎はいつもの様に帰宅した。

 所長の鳴海亜樹子が出迎える。

 

「うーっす」

「あ、お帰り、翔太郎君。遅かったね」

「おう、ジンさんに色々聴かれててな」

 

 尤も遭遇したドーパントに関して、知り合いの刃野刑事に事情を話すのもいつものこと。

 そうして後は、いつもの様にローマ字表記の報告書を時代遅れのタイプライターで打つ。

 

 そう、いつものことである。

 

「……」

「……フィリップ」

 

 この、ソファに座ったまま妙にうな垂れている相棒の様子さえ除けば。

 

「翔太郎」

「ん?」

「すまなかった」

「……あー、なんのことだ?」

 

 敢えて知らないフリをする。

 しかしフィリップは僅かに顔を上げ、目を合わせながら言った。

 

「とぼけないでくれ。今日の事件だ」

「……」

「君との約束を破った」

「あぁ、それな。さっきも電話で言ったろ、あんま気にすんなって」

 

 向かいのソファに座り込み、笑って答える。

 

「結果オーライだぜ。それに授業中とかテストの時も、切り抜けたじゃねえか。今日はたまたまだ」

「逆にそれで、僕は油断していたのかもしれない」

「……」

 

 再び俯くフィリップ。

 翔太郎は首を傾げた。

 原因が分からない訳ではない。

 ただ、そろそろ付き合いも長いフィリップの落ち込みようは、少し腑に落ちなかった。

 

「あのなフィリップ。俺はそんなにヤワじゃねえ。第一、お前が他のことに夢中だった時なんて、幾らでもあるじゃねえか」

「そうだ……それが如何に愚かだったか、思い知らされたよ。君一人に負担を強いていた」

「え?」

「ロストドライバーを使っただろう? さっき見たらガレージから無くなっていた」

「……」

 

 一瞬、言葉に詰まった。

 思わず、翔太郎は相棒から目を逸らす。それは肯定を意味していた。

 

「いや、それは……」

「一旦装着したドライバーを、僕に何の説明もなく外すなんて在り得ない。君は『外さざるを得なかった』んだ。そうだろう」

「……ああ」

 

 翔太郎は黒ベストのポケットから、仮面ライダーへ変身するツール──ダブルドライバーに酷似したベルトバックルを取り出し、机の上に置く。

 相違点は、二つ存在したスロットが一つしかない点である。

 

 ロストドライバーはダブルドライバーの試作品であり、翔太郎単独で仮面ライダーに変身することができる。

 本来、仮面ライダーは翔太郎とフィリップ、二人の存在があって初めて成立する戦士であるが、やむを得ない事情でこれを用いた時期があった。

 

 しかし、再び二人で仮面ライダーとして戦う際、これは封印していた筈であった。

 

「それに僕が変身に遅れた時、いつも怒鳴ってばかりの君が大人しかった。ドーパントは君と照井……二人で撃退したんだ。だから僕が人気のない場所に行く短い時間でメモリブレイクできた……」

「……た、確かに、お前に黙って持ち出したのは悪かった。けどな」

「そうじゃない。さっきも言った通り、間違えていたのは僕の方だ」

 

 翔太郎はここ数日、フィリップが学園で生き生きしている様子を見て、コッソリとロストドライバーを持ち歩いていた。

 

 もちろん、翔太郎もフィリップとの『いついかなる時でも仮面ライダーとしての使命を優先する』という決め事を尊重している。

 だからこれまで持ち出していても使うことはなかった。

 

 しかし、今日は少し例外だった。

 

「あ、いや、お前を待つべき選択肢もあったぜ。ただよ……」

「君は最善の行動を選択しただけだ。ドーパントとの戦いを優先するなら、僕はそもそも学校へ行くべきじゃ…」

「フィリップ君、それは違うよっ」

 

 思わず、亜樹子が横から割って入った。

 

「フィリップ君、学校通って生徒会も入って、凄く生き生きしてたんだよ。それってとっても良い事じゃない。だから翔太郎君は……」

「それが嫌だったから、僕はロストドライバーを渡さなかったんだっ」

 

 つい声を張ってしまうフィリップ。

 亜樹子も言葉が出なかった。

 それを見て、フィリップも気まずそうに顔を逸らした。

 

 しかし、悔恨の念は止まらない。

 

「翔太郎は気遣って絶対に一人で戦おうとする。だから僕は『絶対に二人で戦おう』と念を押したんだ。なのに……」

「おいフィリップ……」

「それで僕一人がのうのうと遊んでいて、翔太郎一人だけを危険に晒すなんて、あって良い筈がない。僕達は『二人で一人の探偵』なんだ。そうだろう?」

 

 二人の一人の探偵……そして仮面ライダーは、お互いの目を見やる。

 

「……」

「……」

 

 フィリップは相棒の答えを待ち続けている。

 だが、左翔太郎は答えない。

 沈黙が事務所を支配していた。

 

「フィリップ君……」

 

 亜樹子もまた、二人との付き合いが長い。

 お互いが何を思っているのか、そしてどうするべきなのかは分かっている。

 けれど、それでも言い出せないのは、二人自身が解決すべきだからである。

 

 途方に暮れていた時だった。

 

 

「邪魔をするぞ」

「あれ……竜君!?」

 

 

 不意に事務所の扉が再び開く。

 中に入ってきた赤いレザージャケットの男──照井竜を見て、亜樹子は目を丸くした。

 

「照井竜……」

 

 思わず立ち上がり、照井を凝視するフィリップ。

 向こうもまじまじと学生服姿のフィリップを見返していた。

 

「フィリップか……そう言えば、学校に通い始めたという話だったな。所長から聞いている」

「そうなの竜君! 実はフィリップ君ね、生徒会にも選ばれて、クラスでも人気者なんだよ! いやぁ、私も鼻が高いわ! あっはっはっはっ!」

「所長、それはもう7回目だ」

 

 照井が苦笑しながら答える。

 妻である亜樹子のことを、照井は未だに知り合って以来『所長』呼びする。

 夫婦なのに名前で呼んでくれない事に一喜一憂する亜樹子であったが、今は取り敢えずこの空気を払拭するのが第一であった。

 

「……すまない、照井竜」

 

 すると、フィリップは照井の正面に立って、頭を下げて言った。

 

「君と翔太郎だけに負担を強いた」

「……」

「だ、ダダ、ダイジョーブよね竜君。私のダーリンはそこいらの小悪党に負けないもん。ね?」

 

 慌ててフォローに入ろうとする亜樹子。

 照井もフィリップの様子が意外だったのか、亜樹子の方を見た。

『ええから話合わせんかい』と視線で訴える妻を見て、夫も取り敢えず従うことにした。

 

「所長の言う通りだ」

「だが……」

「……お前の頭脳に頼るまでもない雑魚だ。気にするな」

 

 事もなげに言う照井。

 彼のクールな風貌から口に出る言葉は、イチイチ説得力が違う。とにかく軽薄な翔太郎とは正反対なのである。

 実際、敵ドーパントは量産型のコックローチだったので、然程苦戦しなかったのは事実だった。

 

(来るべきタイミングが悪かったか……だが、話さないわけにもいかん)

 

「りゅ、竜君、今日の仕事は終わったの? もしかして……ハニーを迎えに来てくれたのかな? かな?」

「いや、取り込み中で悪いが……お前たちに話さなければならない事がある」

 

 抱きつこうとする亜樹子を手で制し、照井は翔太郎とフィリップを交互に見た。

 

「今後の風都を左右するかもしれん」

 

 此処へ来たのも、刑事としての勘であった。

 二人の中がどこか剣呑な雰囲気なのは、部屋に入った瞬間に察したが、そうも言っていられない事情あってのことであった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 フィリップと翔太郎も、照井の並々ならぬ雰囲気を察して、さっきの話を棚上げせざるを得なくなってしまった。

 一先ず、フィリップの責任感の所在をどうするべきなのか……改めて話す事にして、照井の話を先に片付けるべきと判断したのである。

 

 亜樹子がコーヒーを淹れてくれた時、改めて照井は話を再開した。

 

「ここ最近、ガイアメモリを風都外に流出させようとする連中が出てきている」

「なんだと?」

「俺達を警戒してのことだろう」

「だが照井、そういう手合いは風都の外に出る前に潰してきたろ?」

 

 翔太郎の言う通りであった。

 

 ガイアメモリとは、地球に内包された記憶を抽出したUSB端子型の装置である。人体に挿すことによって、地球の記憶をインストールされ、そのニンゲンは人知を超えた怪物──ドーパントへと変貌する。

 

 だが大抵は精神に異常をきたし、強盗・傷害・詐欺・破壊・殺人……様々な事件が引き起こされる。

 それを撲滅するのが、仮面ライダーの使命と言える。

 

 これまで風都の中で、ガイアメモリによる犯罪は後を絶たなかった。

 この街は巨大実験都市とも言うべき側面を持っており、かつてこの街を牛耳っていた名家……園咲家によってガイアメモリ犯罪を助長されてきたという背景が存在する。

 

 故に警察やマスコミなどに徹底的な横槍や報道規制を敷き、国家権力の追及を躱したり、逆に余計な邪魔を入れられないように、メモリの流出を抑えてきた。

 

 そしてそれは今でも続いている。

 

 これまでも風都の外へ持ち出す者は存在した。だが組織が壊滅した今、彼らは何の後ろ盾もないままにメモリの力を悪用し、暴れ回るのみ。

 

 よってすぐに犯人の正体や居場所を特定され、お縄につく……いくらガイアメモリで不可能犯罪を成し遂げても、動機や人間関係から犯人像は炙り出されてしまう。

 

 それに風都外でも彼らに対抗しうる超人…仮面ライダーが存在するという噂も追い討ちとなった。

 外で犯罪を行うより、風都で闇に紛れた方がまだ良いという考えが広まり、ガイアメモリが持ち出される気配は消えていった。

 

「確かに、これまでは大事になる前に逮捕、或いはメモリ自体を破壊できたが……問題なのは、そう言った連中を煽る奴等が出てきたことだ」

「煽る奴ら?」

「組織が壊滅して以降、今まで居なかった外資系の企業や、国内の大手企業が風都に介入し始めている。殆どは風都の土地や資源に目を付け、先行投資する団体だ。それ自体は問題ない。だが……」

「既存のコミュニティを排除したり、彼等自身が上手く溶け込むためにメモリを悪用する……そうことかい?」

 

 フィリップが目を細めて言った。

 鷹揚に照井が頷く。

 

「その通りだ」

「街を支配するために、残ったガイアメモリを利用しようってコト!?」

「ああ」

 

 亜樹子は息を呑んだ。

 ガイアメモリ犯罪は殆どが単独犯である。しかし照井の言葉が確かならば、相手は財界の大物や、それ以上のバックが付いている可能性もある。

 

「これまでは園咲家の威光もあり、外の連中は簡単には手出しできなかった。だがミュージアムが姿を消したコトで、奴らの侵入は容易となってしまった」

「そんな……」

「見方を変えれば、園咲家は外敵からこの風都を守っていたとも言える……だからと言って、奴らの罪が消えるわけではないがな」

「……」

 

 それを聞き、複雑な想いに駆られるフィリップ。

 風都を脅かす影はこれまで内部にあった。だが、今度は外から風都を狙う奴らを相手にしなくてはいけない。

 

「……彼の言う通りだ」

「フィリップ君……」

「父さん達の行いで、この街は不幸になった。それは今でも続いてる。そして……今度街に住み着くのはそれ以下の連中かもしれない」

 

 それだけではない。

 ガイアメモリは、人間の負の感情を暴走させる。当然、過去の復讐へ走ることも往々にしてあった。

 

 照井の家族も、ガイアメモリ犯罪で全員が命を落としている。

 

(もしメモリが、権力の座から失墜した連中の手に渡れば……)

 

 そう言った輩は常に下剋上を狙っている。

 フィリップの脳裏をよぎったのは、秀知院学園。

 あそこには政界財界の権力者、或いは名家の子や孫が多く在籍している。

 

「もしそいつ等が私利私欲で街を平然と泣かせるとしたらなら……止められるのは、仮面ライダーだけだ」

「その通りだ」

 

 フィリップの言葉に、力強く照井竜は答えた。

 

「この時期は特に犯罪も増加する。一応、警戒をしておいてくれ」

「分かった」

 

 フィリップは強い意志を以って返答する。

 照井はその眼の奥に、いつもと違う何かがあることを感じ取った。しかし、追求することなく、席を立つ。

 

「左、俺は署に戻るが…何か進展があれば連絡する」

「……おう」

 

 翔太郎も、フィリップの変化に気付かない訳はない。

 しかし彼も黙っていた。

 

「あ、竜君、そこまで一緒に行こうよっ」

「ああ」

 

 照井は亜樹子と共に事務所の扉から外へと出ていく。恐らく彼はその後の事後処理やら何やらで書類の山に追われることだろう。

 夫の帰らない家で、妻がぶーぶーいう様を翔太郎は想像したが、すぐに止めた。

 

 

「……フィリップ」

「なんだい?」

「良いのか?」

「……だから何の話かな?」

「いや……」

 

 

 もしかして、友達と約束してるんじゃないのか? 

 その一言を、相棒は言い出せずにいた。

 

(『俺のことなんか気にせずに、友達と遊べ。それがお前の役割だ』……くらい言ってやるつもりだったのによ……)

 

 せめて相談相手くらいにはなりたかった。

 

 だが照井の話で、余計に言い出し辛くなってしまった。

 フィリップの言う通り、この街を泣かせる悪党は許しておけない。それにこの一件は、翔太郎の直感に警鐘を掻き鳴らしている。

 

(ヤな予感がするぜ……とんでもないド悪党の臭いだ……)

 

 こういう類に限って、的中するものである。

 もし新たな敵が風都を狙うなら、最悪の場合、フィリップは学校へ通うどころではなくなるかもしれない。

 

「大丈夫だよ、翔太郎」

「あん?」

「夏休みは元々、暇だったからね。ガイアメモリ犯罪が起きても、これならすぐに対応できる。今日みたいなことにはならないさ」

「でも……」

「それに」

 

 フィリップは振り返って、自分の学生鞄を見た。

 中には、教科書やプリントの類……それに、生徒会で渡された資料が眠っている。

 自分がこれまで得た……かけがえのない居場所の証。

 

(優、藤原さん、会長……それに、四宮さん)

 

「皆は僕が守ってみせる。例え相手が誰であろうと」

 

 その目を見て、翔太郎は何も言えなくなってしまった。

 こんな目をするフィリップを、翔太郎は見たことがない。

 

 その理由は言うまでもなかったが、今言ったところでフィリップは動揺するだけなのも分かっている。

 

「おい相棒」

「……なんだい?」

「馬鹿野郎」

「君に馬鹿と言われる筋合いはないけど?」

「……そこは『僕』じゃなくて、『僕達』っていうところだぜ」

 

 自分にできるのは、せめて肩を貸してやることだった。

 どちらも捨ててはいけないなら、片方の負担を減らしてやるしかない。

 

「……ああ、そうだったね」

 

 苦笑するフィリップ。

 

「君がいれば、僕は戦えるよ。翔太郎」

「ああ」

 

 言って、翔太郎も微笑した。

 

「じゃあ、ちょっと検索することがあるから」

 

 フィリップはカバンを持つと、そのまま玄関横の扉を潜って奥へと消えた。

 向こうはガレージになっており、フィリップはいつもそこで気になることを検索したり、メカの修繕を行ったりする。

 

「……」

「翔太郎君」

「ああ、戻ってたのか」

 

 しばらく扉を見つめていた翔太郎だが、不意に後ろからの亜樹子の声で我に返る。

 

「フィリップ君は?」

検索(いつもの)でガレージだ」

 

 そう言ってガレージへと続く扉を開けて指差す翔太郎。

 亜樹子と目は合わせなかった。

 

 そのまま翔太郎は奥にある自分の机に座り、タイプライターを引っ張り出した。

 今日の事件の内容を記録する為だ。

 

 しかし、亜樹子は納得いかない様子で食い下がる。

 

「翔太郎君……フィリップ君、学校の皆と遊びたいんじゃないの? なら」

「戦うって決めたのはフィリップだ」

「けど…!」

「あいつがそう決断したなら、俺は尊重する……それだけだ」

 

 そう言って、翔太郎は残ったコーヒーを口に運ぶ。

 亜樹子は照井にコーヒーの手ほどきを受け、最近とみに味にうるさい。

 

 それなのに……なぜか今日のコーヒーは酷く苦かった。

 

 

『本日の勝敗……なし(フィリップは戦っていない為)』

 

 

 

【風と友とF/そして、フィリップ・来人は本を閉じた②】

 

 

 





次回、フィリップ奮闘します。
皆で花火……見られるかなぁ。
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