フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~   作:ディルオン

27 / 31
投稿、間が開いてしまい申し訳ありませんでした。
皆様、メッセージや感想、評価なども引き続き送って下さって、本当にありがとうございます。
モチベーションの支えが皆さまです。よろしければこれからも、どうぞ応援よろしくお願いいたします。


26話【Mたちは沈黙/白銀御行は痛くない】

「おはよう!」

「おはようございまーす……」

「あら、ごきげんよう!」

「ああ、どうも……」

 

 

 新学期。

 ひと夏の思い出を胸にして、少年少女は日常に帰る。

 

 ある者は憂鬱に、ある者は退屈に、

 ある者は喜びに、ある者は決意を新たに、

 

 各々の想いは違えども、若者の考えることは陰と陽……即ち新学期が始まって『イヤ』か『嬉しい』かの二択である。

 

 しかし、いずれも秀知院学園高等部の校舎は、そんな若者たちを等しく迎え入れる。

 

 

「あ、フィリップ君! おはよう」

「ああ、おはよう」

 

 

 その中で、取り敢えずフィリップ・来人のベクトルの方向は明るい。

 晴れやかと言うべきか……夏休みを経て、一皮剥けた少年がそこにはいた。

 

 

(皆と会うのは一週間ぶりか……)

 

 

 花火大会以降、生徒会の面々とは、軽く連絡程度を取り合っていたくらいである。

 これからは新たに出会った仲間と、再びともに仕事をし、語り合い、見識を深められる。

 

 探偵と学生、二つの姿に苛まれたジレンマも、ようやく折り合いをつけたフィリップ。

 新たなステップへと足を踏み入れたと言うべきである。

 

「お、フィリップ、おはよう」

「やあ、新学期もよろしく」

 

 自転車を漕いで校門前まで着いたフィリップ。

 そのままクラスメイトと挨拶をしつつ、駐輪場まで足を運ぶ。

 

「……さて、まずは生徒会で掃除だ」

 

 そのまま正門をくぐり、校舎へと入る。

 目的地は今や学校における第二の居場所ともなった、生徒会室である。

 

 新学期に入ると、初日はメンバー総出で部屋中を清掃するのが習わしとなっている。尤も白銀の計らいにより、三年生メンバーは免除されているが。

 

 しかし、フィリップの本当の目的は掃除ではない。

 もっと厄介な問題に足を踏み入れようとしている。

 

 

「……会長に何があったのかを突き止めなければ」

 

 

 フィリップ・来人の未来は明るい。

 彼自身、心に鬱屈したモノは無い。しかし、彼の周りでは話は別である。少年が新学期早々直面した課題は、まさにそれであった。

 

 

 

【Mたちは沈黙/白銀御行は痛くない】

 

 

 

 新学期の前日…その夜である。

 いつもの様にガレージで検索をしているフィリップであったが、突如机に置いてあるスタッグフォンが鳴り響いた。

 おもむろに画面を開くと、表示されたのは意外な人物だった。

 

 

「もしもし」

『……あ、フィリップさんですか?』

「やあ圭」

『こんばんは』

 

 

 フィリップが声を掛けると、白銀圭は申し訳なさそうに挨拶した。

 

『すみません。こんな夜分に……』

「なに、ちょうど調べ物がひと段落ついたところさ」

『今、お時間大丈夫ですか?』

「ああ、構わないよ」

 

 この間、彼女の保護した子ネコをペットショップに預けて以降、彼女とはしばしば連絡を取り合うようになっていた。

 

 他愛無いあいさつ程度だが、藤原が顔をニヤニヤさせて聞きこんでくるため、あまり周りに言うことも無いのだが、白銀やかぐやは、それが逆に気が気でない……と、言うのは余談。

 

「それで、どうかしたのかい?」

『……』

「圭?」

『えっと……』

 

 尋ねたフィリップだったが、電話越しの圭の様子はどこかぎこちない。訝しげに思っていたが、やがて圭は意を決して話し始めた。

 

『この間の花火大会……生徒会の皆さんで行ったんですよね?」

「ああ。少ししか見られなかったけどね」

『……兄の様子、どうでしたか』

「会長?」

 

 意外な単語が出た、とフィリップは思った。

 

『何かありませんでしたか?』

「特に不審な点は見受けられなかった。殆ど現地合流で、すぐに解散したから話す時間も少なかったけれど」

 

 花火の日のことを思い出すフィリップ。あの後、花火を僅かな時間、皆で見た後、自然と全員は言葉少なかった。何故かと言われれば口にも出し辛いが、言葉が上手く見つからなかったのである。

 

 ただ、不思議と、皆で困難を乗り越えたという実感だけが、充足感を与えていた。

 特にその時には、何事も無かった筈なのだが……

 

『そうですか』

「何かあったのかい?」

『なにか…って言うか』

「もしよかったら教えてほしい」

 

 歯切れの悪い返事の圭。

 フィリップでなくとも、ここは直感で兄である白銀に何かあると察するところである。

 

 

(会長にはいつも助けられている。今度は僕が助けにならなくては)

 

 

「僕に出来るなら力になる」

『……実は』

 

 柔らかなフィリップの言葉に、圭も心を動かされた。

 そのまま、ゆっくりと話し始める。

 

『……花火大会が終わってから、ちょっと五月蝿いんです』

「五月蝿い?」

『て言うかウザいです。めんどくさいです。かなりキモいです』

「……」

『あ…す、すいません』

「いや、僕も同じさ」

 

 絶賛反抗期中である圭は、兄である白銀御行の話題を出すことを極端に嫌う。

 最近妙に兄貴風を吹かせたがる左翔太郎に日々鬱屈しているフィリップとしても、圭の悩みは他人事には思えず、寧ろ人一倍共感していた。

 

「でも話を聞いていると、いつものやり取りのようだけど」

『いやその……花火大会から帰ってきたらなんかこう……突然唸り出して』

「なんだって?」

『『あ″ー!』とか『う″わ″ー!』とか』

「なんだって?」

 

 思わず同じ質問を返すフィリップ。

 しかし圭は、至って事実のみを話している。

 

 白銀御行は、花火大会が終わって以降、毎夜謎の呻きを発していた。同室で暮らし、しきりはカーテンのみの圭には、それがダダ聞こえだったのである。

 

「疲れてたのかい?」

『憑かれてるかもしれないです』

 

 真顔でとんでもない事を話す二人。

 

『でも、その後でまた『俺はなんてことを』とかなんとか…』

「どう言うことだい?」

『分からないんです。面倒臭いんで聞く気にもなれないんですけど……』

 

 本音が半分、素直になれない心配が半分……と、フィリップは推測した。

 

 しかし、彼女の兄がそんな状態になっているとは思わなかった。

 もし仮に何らかの異常事態が起こっている場合、フィリップとしても見過ごせない。

 

「他に何か気になることはあるかい?」

『いえ、特には。家事とか勉強とかは普通にやってます』

「なるほど……分かった。それとなく調べてみよう」

『ありがとうございます……』

 

 興味深い、とフィリップは言わず、また思わなかった。それだけ、白銀は生徒会への仲間意識が深まっていたのである。

 

『あ、それと』

「ん?」

 

 切ろうとした時、圭はしどろもどろに言った。

 

「なんだい、圭?」

『あの……今夜電話したこと、内緒にしておいてもらえますか?』

「それは構わないよ」

 

 フィリップは即答する。

 

「会長を心配している、と思われるのが嫌なんだろう? 僕も気持ちは分かる。安心して欲しい」

『あ、いえ……それもですけど……その』

「え?」

『……いえ、何でもないです。じゃあ、お願いします』

「ん、圭?」

 

 訊こうとすると、電話は切れた。

 スタッグフォンの向こう側で、白銀圭が妙に頬を赤くして、何故かいつもより少し心臓が高鳴っていたが、それをフィリップが知る術もなく、また理由も分からなかった。

 

 尤も、理由が分からないのは、圭本人も一緒である。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

「さてと、会長はもう生徒会室か……」

 

 こうして清新な気分もそこそこに、秀知院へ登校したフィリップ。

 圭からの依頼を隠しつつ、白銀御行の変化の原因を探るのだ。

 

(まずは会長の様子を見よう。そして二人になったタイミングでそれとなく訊きだすんだ)

 

 頭の中で戦略を練るフィリップ。

 まずは圭の言う、白銀が夜な夜な発する呻きが何なのか、それを確かめなければいけない。

 

 

(……ん?)

 

 

 だがフィリップを待っていたのは予想外の光景であった。

 大きな扉を開けて、生徒会室へと実に一ヵ月ぶりに足を踏み入れようとした時。

 

「……なんだ?」

 

 妙な気配がする。

 いや、気配がするというよりも……寧ろ不気味なほどに静まり返っている。てっきり遅れてきているから、藤原の笑い声などが聞こえてくるものとばかり思っていた。

 

 直感的に、フィリップは静かに扉を開けると、コッソリ中を覗き込んだ。

 

「……」

 

(あれは、会長……どうしたんだ?)

 

 生徒会室にいたのは、会長の白銀御行。

 しかし、他のメンバーの姿がない。

 僅かな隙間から部屋中を見渡すも、気配は無かった。

 

 それだけではなかった。

 

「……」

 

(会長、一人で机に座ったままだ。まるで覇気がない……それにカーテンを閉め切っている)

 

 白銀は会長席に座り、ただ机に突っ伏しているのみ。

 まるで萎びた園芸植物のようである。いつもの生徒代表としての威厳も溌剌としたオーラも感じられない。

 これにはフィリップも動揺せざるを得ない。

 

(具合でも悪いのか)

「……ぁあ」

(?)

 

 陳ねたカボチャのようにボロボロのまま、かすれる声が漏れた。

 圭から言われた、夜に奇声を発するという会長の行動が、俄然不気味さを帯びてきた。

 

(これは一体何が……まさか)

 

 フィリップの脳裏をよぎる可能性。

 それは、風都を混乱に陥れた魔の小箱……ガイアメモリである。

 

(会長の住まいは四軒茶屋だ……メモリ犯罪に巻き込まれている可能性は低い……だが)

 

 フィリップの中で、それ以外に彼の状況を説明できる材料が無かった。

 しかし。

 少年の懸念は全く無用の心配である。

 

「……うぅ」

 

 白銀御行が苛まれている原因。

 それは自分への恥ずかしさ。

 

 

(『痛い』って言われた……四宮に『痛い』って言われた…!)

 

 

 確かに白銀御行は異常状態に陥り、精神を苛まされていた。

 だが、それは別にガイアメモリでもなければ不可能犯罪に巻き込まれたわけでもない。

 

(ううっ…! やはり……やはり四宮は俺を嘲っていたんだ…!)

 

 即ち黒歴史。

 

 花火大会の日、アガったテンションで繰り出されたカッコいい台詞の数々(仮称)の副作用で、白銀の心を羞恥心が占拠。

 夜な夜な後悔で押しつぶされそうになり、そしてフィリップが登校する直前、かぐやに言われた『痛かったですよね』が決定打となり、心に甚大なダメージを負っていた。

 

 尤も、かぐやはその時、手に持っていたモップを白銀の肩にあててしまい、「痛かったですよね」と謝っただけのことである。

 

(あ、ああ、ああああっ…! 俺は……俺はなんてことを……!)

 

 突如、うめき声を上げる白銀。とうとう声を出さずにはいられなくなった。しかし扉の向こうのフィリップには何が何だか分からない。

 

 誰もいない(と勘違いしている)生徒会室で、白銀は一人悶え苦しむ。

 

(俺は痛い奴俺は痛い奴俺は痛い奴俺は痛い俺は痛い痛い痛い痛い……)

 

 ブツブツと読経するように同じ単語を繰り返しながら、彼はノートに己の罪状を書き綴る。

『痛い奴』『恥ずかしい男』『カッコつけマン』など、自分自身への誹謗中傷で埋め尽くされていた。

 

(ああー! おあっー!)

 

 顔が真っ赤になりながら、それでも彼は書くのをやめない。

 そうしなければ死んでしまいそうだった。

 

(あーっ! なんで! なんで俺はあんなことを! アッー!)

 

 もはや白銀の精神は陥落寸前であった。

 

 

「会長……何か悩んでいるようだ……!」

 

 

 呆然とするフィリップ。

 圭から聞いていた通り、何かある。

 普段、彼にはお世話になっている。何とかしなくては。

 

 使命感に駆られフィリップは扉を開いた。

 

「会長」

「えっ!?」

「どうしたんだい?」

「フィ、フィリップ庶務!?」

 

 机の前へと歩み寄り、白銀の肩を掴むフィリップ。

 ギョッとして白銀はフィリップを見た。

 

「い、いたのか!?」

「さっきからため息ばかりついて、何か悩み事かい?」

 

 白銀、全身が硬直する。

 思春期の高校生にとって、カッコつけている姿を見られ、指摘されるほどいたたまれない物は無い。

 しかし、己の黒歴史や後悔している姿を見られるのは、それとは比べ物にならない程に恥ずかしい! 

 

「それとも、どこか痛いのか?」

「うっ……!?」

「頭は大丈夫かい?」

「ぐえっ!?」

 

 白銀の心に重度のヒビ。

 そして畳み掛けるフィリップ。

 

「なにより酷い顔だ。暗いからかなり見にくいけど」

 

(うぉおおおっ!! 悪口にしか聞こえねえええええー!!)

 

 顔を覗きこみながら放たれる残虐な言葉の数々。

 白銀のライフは、既に底をついていた。

 

「もし体調が悪いなら保健室に……」

「い、いや、大丈夫だ……何でも無い……」

 

 慌てて止めた。

 もし他人にでも知られようものならば、ハッキリ言って生きていられない。

 

「じゃあ、さっきのため息は何だったんだい?」

「え、ええっと、そ、そのだな……」

「?」

 

 訝しげに、顔を覗きこむフィリップ。

 何とか誤魔化さなくてはいけない。

 

(こ、こうなったら、ボカしつつ、悩みを打ち明けるふりをするしかないか……)

 

 嘘を吐く際には、ある程度真実を含んで話すのが良いとされている。

 白銀、自身の悩みをグラデーションしながら、嘘でない程度に揉み消すことにした。

 恐る恐る、白銀は口を開いた。

 

「フィリップ庶務……誰にも言わないでほしいんだが……」

「ん?」

「祭りの日の俺を……俺のことをどう思った?」

「どう思ったか?」

「その……ひ、非常識な奴とは思わなかっただろうか?」

 

 弱々しい姿ながらも、必死に心を崩れないように、言葉を選ぶ白銀。

 

「……言っている意味が、よく分からない……」

「……そ、そうだよな」

 

 フィリップは目をキョトンとして聞いている。

 彼とはほぼ現地で合流しただけである。自身が発した黒歴史の数々を彼は知らない。

 

「い、いや、その……俺のやったことは、考えてみると随分恥ずかしいものだったと……」

「恥ずかしい?」

「ああ……普通、門限を決められた女の子を外に連れ出して、たかが花火の為に連れ回すなんて……それに、わざわざ千葉まで行かないだろ、普通」

 

 言っていて、白銀の脳裏に蘇る数々の名言。

 しかしそれを必死に呑み込んだ。

 

(耐えろ、耐えろ白銀御行……フィリップにまで痛い奴と思われたらお終いだ!)

 

「ツイッターで、四宮は花火を見たいと呟いていたが……それにしたって厚かましくて、バカバカしい……」

 

 最初の時同様、頭を抱えて、うな垂れる白銀。

 

「そう思って、後悔と言うか、反省と言うか……少しばかり、自己嫌悪というか……俺のしたことは、間違いだったんじゃないかとな……」

「会長……」

 

 脂汗を流しながら、目を逸らした。

 

(こ、こんなんで誤魔化せるか!? 我ながら言い訳としては随分苦しい気もするが…!!)

 

 このまま自分が悶えていたと知られたらそれこそ取り返しがつかない。フィリップに他意が無い分更にタチが悪い。

 もう何処か諦観の域に差し掛かっているかもしれないと思いながらも、白銀はフィリップを見る。

 

(そうか……会長は夜な夜な、罪悪感に駆られていたのか…!)

 

 やはり今回も見当違いの推理をするフィリップ。

 

(四宮さんも、抜け出した事がバレたら何らかのペナルティは免れない。自分のしたことの正しさを信じられていないということか)

 

 ある意味で、間違っていない。

 ともあれフィリップは白銀を励ますべく、真顔で頭を振った。

 

「では会長はアレが間違っていたと言うつもりかい? 花火を楽しみにしていた友達を連れ出した行為が、調子に乗った恥ずべきものだったと」

「…そ、それは…」

「違うだろう? 会長は四宮さんに花火を見せた。会長は彼女の為に必死だったんだ。僕にだって分かる」

「……」

 

 真実を言うフィリップ。

 実際、その通りであった。

 

 かぐやが花火を見たがっている。16歳の少女にとって当たり前のことさえできない。その哀しさなど余人に解るわけがない。だが、白銀には見えていた。彼女の涙が。だから応えたかった。

 

 白銀の中に、やましい気持などない。ただそれを他人がどう評価するのか、それが怖かっただけである。

 

(以前の僕なら、確かにバカにしていたかもしれない。採算の合わない、無意味な行動と厚意だと……けど、そうじゃない)

 

「それに、優や藤原さんに、風都まで行くように指示したのは会長だろう? あの時見せてくれた優しさを、僕は忘れない」

「フィリップ……」

 

 それはフィリップの素直な気持ちだった。

 学友に励まされ、支えられているということが、あれ程誇らしく思えた瞬間は無かった。

 

「もっと自信を持って欲しい。会長は僕達のリーダーだ。だから僕や皆はついてきているんだ」

「だ、だが……」

 

 彼の気持ちを嬉しく想う白銀。

 だが、最大の懸念と言うべきか……彼の中で、先刻のダメージは抜け切れていない。

 

(四宮は俺のことを、『痛い奴』と……)

 

 そう。

 かぐやが言い放った先の発言がある限り、白銀はこの無間地獄からは抜け出せない。

 一生、このジレンマに苛まされてしまうだろう。

 だが。

 

「四宮さんだって同じさ」

 

 フィリップの言葉は、白銀に一筋の光明を与えた。

 

 

「きっと会長や皆と居たかったに違いないよ。僕もそうだった」

 

 

 実際には勘違いに塗れた虚構の光。

 

「……え」

 

 しかし、嘘も方便。

 悪法も法なり。

 

 事情を知らないフィリップの口から放たれた言葉は、確かに白銀の中で希望となった。

 

「フィ、フィリップ庶務、いま何て?」

「? 四宮さんは、会長や皆と居たかったに違いない、とそう言ったんだよ」

「……」

 

 瞬間、即座に回転を始める白銀の頭脳! 

 

(待てよ……そうか、そう言うことなのか!?)

 

 蘇るのは、かぐやとの今朝のやり取りである。

 

『会長。花火の日、いたかったですよね』

 

 あの時、自分は『痛かった』と誤解をした。

 だが、もしフィリップの発言が真実ならば。

 

(そうか……アレは『痛かった』ではなく、『居たかった』! つまり、俺ともう少し花火を見たかったということだったのか!!)

 

 白銀は、間違った解釈をした。

 

(ふ、ふふふ、なるほどな……それならば全て説明がつく)

 

 しかしそれを指摘するものは無い。

 

(花火を見たと言っても、殆ど数分。並んで出店を回ったり、語り合ったり、一緒にはしゃぐ余裕も無かった。確かに俺ともっと時間を共有したいという欲求も自明の理!)

 

 そして中途半端に合っている推理。

 

(四宮の態度も恥らっているだけ。そんな中で俺だけに発せられたメッセージだったというわけだ。全く四宮の奴め……いじらしい真似をしおって)

 

 しかし、白銀は今までの態度はどこへやら。

 脳はこれまでの鬱憤を晴らすかのごとく、プラスのベクトルへと脳内補正を始めた! 

 既に身体中へと滞っていた血液は循環され、肌の色は良くなり、脳内にはアドレナリンやドーパミンが大量分泌! 

 

(そうならそうと早く言えばいいものを……可愛い奴だ。あっはっはっはっは!!)

 

 カッと目を見開き、白銀は椅子から立ち上がる。

 そのままフィリップの肩を掴むと、颯爽と言い放った。

 

「フィリップ庶務、感謝する。俺の迷いは断ち切られた」

「そうかい?」

「ああ、俺はもっと自分に自信を待つべきだった……それに気付かされた! お前のお陰だ」

「参考になったようで何よりだ」

 

 突然の変化に多少戸惑いつつも、元気になった白銀を見て、頷くフィリップ。

 余計な油を注ぎ、またしても騒動の種を撒いたことに、彼は気付いていなかった。

 

「さあ、そうと分かれば、今日の作業に取り掛かる! あともう少しで四宮たちも戻って来る筈だ。やるぞフィリップ・来人!」

「ああ。もちろんだとも」

 

 こうして、波乱の二学期が始まる。

 今日も今日とて、フィリップ・来人は旋風をまき散らし、時に暴風を呼び寄せて辺りを吹っ飛ばすのである。

 

(それにしても会長……夜に呻き声を発するほどに悩んでいたのか……そこまで四宮さんを心配していたなんて……やはり彼は興味深い人物だ)

 

 ちなみに、フィリップも解釈を間違えていた。

 

 

『本日の勝敗……白銀の勝利(黒歴史は誤魔化し、復活)』

 

 





次回、花火大会続編……の前に、かぐやモチベーション復活編へ続きます。
まあ、大体いつものやつですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。