フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~   作:ディルオン

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マジ、ほんと、感謝しかない。
ほんと、これからもよろしくお願いします。



3話【Uの言うとおり/かぐや様は託された】(前編)

 

 前回のあらすじ。

 生徒会長以下3名が、クソゲー攻略に乗り出した。

 以上。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 友情、努力、勝利。

 愛、正義、希望。

 誠実、勤勉、剛毅。

 

 人々の持つ様々な叡智と力が結集し、真のチームワークを育み、目的を達成した時にはその高揚感と溢れ出る感動がプレイヤーを包み込む。

 

 そのコンセプトのもと行われたテーブルゲーム…真・ハッピーライフゲームver.2をテストプレイ中の生徒会室では…! 

 

「次は私ですね、えい」

「あ、ダメージ1000を叩き出しました。かぐやさん、敵を撃破です!」

「四宮さんは村を開放したお礼として、報酬と特殊な魔法のカードを与えられる。更にルールにより、敵のステータスはそのまま四宮さんのステータスに加算されることになる」

「お、俺と石上がようやく半分まで削った敵を…!」

「僕らのいる意味…」

 

 空気が冷え切っていた。

 

「なぁ、あとどのくらいだ?」

「これで半分ってところですかね……」

「やるんじゃなかった……」

 

 夏の名残の暑さも和らぎ、秋の到来を本格的に感じさせる晴れた日の午後。

 なのに何故、我々は暗澹たる気分でクソゲーをやらされなければならないのか。

 この世の不条理に、白銀と石上は溜息を必死に堪える。

 

 物語も中盤に突入し、本来ならばそろそろゲームに馴染んでくる頃合い。

 しかし二人の表情は何故曇るのか。

 ひとえにそれは、かぐやの獲得したチート能力にあった。

 

『あ! かぐやさん、パラメータ決定で全てゾロ目を出しました! 神様ボーナス発生です!!』

『四宮さんは神から特殊な才能を与えられる。全パラメータに+100と、マスの内容を先に見られる『予言』スキルを手に入れた』

 

 と、初っ端からトンデモ能力を手に入れたかぐや。

 それだけではない。

 白銀と石上、そして藤原は、順当にマスを進めて、様々なイベントをこなした。モンスターを倒し、ダンジョンを攻略し、王様に謁見し、時には宝箱を漁る。パラメータを伸ばしつつ、製作者のほぼ意図通りに進行していた。

 

 だが一方で、かぐやは持ち前の幸運性を発揮し、次々とレアイベントや高性能アイテムカードを引き当て、一人最強のチートキャラと化していた! 

 

「えー…私、何かしてしまいましたか?」

「い、いや、何でもない。何でもないぞ、はは……」

 

 必死に取り繕う白銀。しかし虚しさと苛立ちは既に頂点に達しようとしていた。

 

(初めこそ俺達も得した気分と思っていたが……やばい、本当にやることがねえ。ってかもう『もう全部四宮一人でいいんじゃないかな』って気分にさせてくるぞ、コレ)

 

 チマチマと敵と戦ううちに、合流したかぐやがあっという間に片付ける。

 途中からほぼこのパターンである。

 

(フィリップ庶務の奴……恐らく集団心理を分かってなかったんだろうな……ゲームにおいて、達人が素人に見せつけるプレイほど残酷なものはないってのに)

 

 友人の家に遊びに行き、慣れないゲームをやり始めた途端、そのゲームを遊び尽くしている友人にボコボコにされた時の怒りと悲しみは想像を絶する! 

 二度とその友人の家に遊びに行かないどころか、友情そのものにまでヒビが入りかねない! 

 

 今の白銀はそれに近い感情が去来していた。

 

「何でしょうね、この理不尽……こういうのって、前世が恵まれない奴が無双するから楽しいんじゃないんですか……この世の真理を味あわせにきてますよ……」

 

 石上がその横で顔を背け、1人でブツブツとヘイトを誰もいない空間に向けて放っている。

 

(さっきから私……どこか浮いた雰囲気になって……私、ルールに従ってるだけよね…? どうしてこんな気分に……)

 

 だが、かぐやにしてみれば、それこそ理不尽もいいところである。

 

「敵の攻撃が、四宮さんに直撃だ。防御判定を行ってくれ」

「え、あ、はい、分かりました。ええっと、ルーレットを回して……ダメージは1ですね」

「……全く効いてないな」

「鋼鉄にBB弾当てたようなもんですね」

「わー、かぐやさん流石ぁ!」

「……はは」

 

 ゲームにおいて、弱い敵を蹂躙する程無意味なものはない。1人用ゲームやオンラインならいざ知らず、友人との交流が途絶えたと感じた時、そこに残るものは空疎な想いのみ。

 

(何かしらこの気持ち……前のゲームの時も感じた……皆の役に立って、一人優位な立ち位置にいて……幸運な筈よね……そうよ、私は悪くない……私は悪くないわ!)

 

 必死に悲しみを押し殺し、孤独感と責務に苛まされる。

 その心理は、異世界チート主人公というよりも、もはや転生悪役令嬢! 

 妙な快感を覚える反面に、ひどい虚しさを感じていた! 

 

 加えて。

 

「あ、敵の攻撃が私にクリティカルヒット!? ど、どうしよう…このままじゃやられちゃいます!」

「フィリップ庶務、やられてしまうとどうなるんだ?」

「キャラの体力がゼロになれば死亡扱いで離脱し、手持ちのカードは仲間の誰かに引き継がれる。とは言え、戦力ダウンはするから余り推奨はできない」

「なるほど……よし、俺に任せろ。『身代わり』のカードだ。こいつで藤原書記のダメージを俺が肩代わりする。で、いいんだよな?」

「ああ、もちろん。妥当な判断だね」

「わー、ありがとうございます会長!」

「いやなに、気にするな」

 

 自分以外のメンバーが親しげに遊ぶ様を見せつけられれば尚更である! 

 

(……ふーん、そうやって殿方に守ってもらうことで、か弱く儚い女性を演出するおつもりですか……なるほど)

 

 かぐや、ジト目で藤原を睨みつける。

 本人らは無邪気に遊戯に興じているつもりだろうが、彼女にしてみれば、堪ったものではない。

 

(つまりこのゲーム自体、藤原さんがフィリップ君を狡猾に丸め込んで作り上げたハニートラップということね……いやらしいこと…っ)

 

 かぐや、早坂から聞いた『ハニートラップ』を、間違えて解釈する。

 しかし、かぐやとて自分の武器と状況は把握していた。

 

(でも! 私にはこの『ちーと』とやらがある! これがあれば、会長も私に頼らざるを得ません!)

 

 天才四宮かぐやは、この状況に於いても如何に白銀を振り向かせるかを考える。

 彼女の優位性を最大限に利用すれば、仲を深めるのは容易! 

 

「会長、そのままでは、今度は会長がやられてしまいますね。私が回復をして差し上げ…」

 

「じゃあ私、回復のカードを使いますね! 会長の傷を癒して差し上げます!」

「……」

「お、いいのか? 悪いな」

「いえいえ、お互い様ですよ〜」

 

 あくまで藤原千花という少女が居なければの話である。

 

(この…女狐……! 何ですかチーム戦なのに二人でベタベタベタベタ…! 世界を救う戦いをしているんですよ!? イチャつく暇があったら戦いなさいよ! 何で私ばっかりモンスター退治に駆り出されなきゃいけないのもぉーーー!)

 

 もう何度繰り返したか分からない嫉妬の炎がかぐやを包み込む。

 白銀達とて、この地獄のゲームを何とか楽しもうと必死になっているだけだが、それさえもかぐやには疎外感を感じさせる要因となる。

 

「ひぃ……!?」

 

 と、ここにきて、ヘイトを垂れ流していた石上が、ようやく事態に気付いた。

 

(や、やばい…さっきから四宮先輩の不機嫌具合がマックスだ……どうしてだ……!? この人は無敵の性能を手に入れて不満なんてない筈の状況なのに…!)

 

 だが石上に、かぐやの嫉妬の原因など判るはずもない。彼女に対する恐怖の感情は否応なく正しい判断を鈍らせる。

 

(と、とにかく話題をズラすんだ……な、なにがいいかな…!)

 

 状況を好転させようと、必死に思考回路を回す石上。

 その間も、ゲームは着実に進行する。

 

「よし、これで俺と四宮も石上のあるゴールマスまで辿り着いたな。で、フィリップ庶務、あとはどうすればいい?」

「残る藤原さんがゴールまで辿り着けば、その時点で魔王のステータスを判定し、そのまま魔王との戦いへと移行するのさ」

「ふむ……」

 

(あ、そうだ!)

 

 ズラす話題を見つけ出した石上は、フィリップへと話し掛けた。

 それが更なる恐怖を生むとも知らずに。

 

「な、なぁフィリップ……魔王の強さはどのくらいなんだ? あ、あと何か特殊スキルとかあったりとか……ほ、ほら…ぼ、僕達は初めてやるわけだし、そのくらいは教えてもらわないと」

「ふむ、確かにそうだね。では通常とは少しタイミングが違うが、ここで魔王のステータス決定を行おう。構わないね、藤原さん?」

「分かりました、いいですよ〜!」

 

 藤原を了承を得ると、フィリップはいつもの仕草で、指先を顎に当てながら球を手に取り、ルーレットまで運ぶ。

 そしてとんでもないことを宣言した。

 

「魔王はゲームマスターが振って出た目の数に応じてプレイヤーを一人選び、そのキャラのステータスと手持ちカードをコピーすることになる」

「……え?」

「1〜3で会長、4〜6で優、7〜9で藤原さん。そして10を出せば四宮さんをコピーすることにする。さぁ……いくよ」

 

 さらりと恐ろしいことを口にするフィリップ。

 皆が制止する間もなく、球を回転するルーレットに投げ入れる。

 

 そして文字通り、運命の車は回り出してしまう! 

 

「あ、赤の10!? 嘘だろ!?」

「と言うことは……私の能力をコピーするんですか?」

「そう。僕は四宮さんのステータスとカードをコピーし、最強の存在となった」

 

 確率10分の1を引き当てたフィリップ! 

 一同、愕然とする! 

 これまで数々の難敵を退けたかぐやのチート能力が、逆に仇となってしまった! 

 

「……」

 

 白銀、何となくかぐやを見つめてしまう。

 他意はない。しかし、空いた口が塞がらない中、原因の一端を担ってしまった少女をこのタイミングで見つめれば、それは糾弾と取られても仕方がない。

 

「な、何ですか!? わ、わ、私を何で見るんですか会長!」

「い、いや、別に…!」

「私のせいって言いたいんですか!? フィリップ君の運が良かっただけじゃいですか!」

「ち、違う! そんなこと思ってないから!」

 

 必死に取り繕うも、かぐや自身、これまでの鬱屈した感情が綯交ぜになり、軽いパニックと化していた! 

 

「『ちーと』になったのは私のせいじゃありません! 大体、私だってこんな風になりたかったんじゃないんです! もっと普通の女の子に生まれたかったんですよ! 普通に暮らして、普通の学校に行って、普通に友達や恋人を作れるような、そんな生活に憧れてたのに! それなのに神様のせいか何か知りませんけど、偶然『ちーと』になってしまっただけなんです!」

「い、いや、だから俺は何も言ってないって! 別に四宮のせいじゃ…!」

「いーえ! 会長は私の苦悩を分かってません! 『ちーと』には『ちーと』の悩みがあるんですぅ!」

「無茶言うなよ! ってかそれ、他所で言ったらイヤミに思われるからな!?」

「あー、言いましたね!? やっぱり会長にもイヤミに取られるんですねっ!」

「お、お二人とも落ち着いてぇー!」

 

 慌てて藤原が2人を取りなすが、痴話喧嘩がエスカレートしていく。

 そして、この事態を引き起こしてしまった石上優は更に気が気ではない。

 

(ヤバい! パーティのギスギスが余計に深まってる…っ……コイツはとんだ友情崩壊ゲーだっっ!!)

 

 友情崩壊ゲーム! 

 

 それは幾千幾万の親交を断ち切ってきた、日本の悪しき伝統! 

 相手の妨害行動に神経を逆撫でされ、回復アイテムを横取られ、鉄アレイをぶつけられ、更には爆弾や必殺技に巻き込まれ、ついにはリアルファイトにさえ発展することなど日常茶飯事! 

 それまで刎頚の友であった2人が、友情崩壊ゲームによって絶縁状態に追い込まれたことは、枚挙に暇がない! 

 

(な、何とかしなきゃ…こうなってしまったのは僕の責任だ……何とかしないと…!)

 

 このままでは生徒会の崩壊に繋がりかねない。

 かぐやの負の感情に怯えながらも、彼の持つ責任感が必死になって逃げ出したくなる気持ちを踏み止まらせる。

 

「か、会長…四宮先輩…! あ、あの、別にこれくらいの方がメリハリが出ていいじゃないですか。むしろ、フィリップが弱いステータスのままだとこっちが有利過ぎますし…4対1ならまだこっちが強いですよ、バランスとか……」

「むっ……」

「うぅ……」

 

 説得という名の弁明を続ける石上。

 後に彼は語る。この時、自分は爆弾魔に歩み寄るネゴシエーターであったと。

 

「そ、そうですよ、石上君の言う通りです。ここからが面白くなるんですから! ね?」

「まぁ……確かにな」

「それはそうですが……」

 

 それに乗っかる藤原の言葉。

 シュンと頭が冷えたのか、白銀とかぐやも平静さを取り戻そうとする。

 その様子に、石上は一瞬安堵した。この状況ならば、また再び力を合わせて、パーティとしてやり直せるかもしれない。

 

「ほ、ほら、次は藤原先輩の番ですよ。確か、藤原先輩が僕たちのマスに追いつけば、最後の戦いですよね」

「そ、そうですね、えいやっ!」

 

 

 ……と、彼は淡い期待を抱いていた。

 

 

 藤原、勢いよく球を転がし、出た目の分コマを進める。

 しかし、これが阿鼻叫喚のバトルの幕開けとなった! 

 

「ん? あれ!? 『追放』マスです!」

「なんだそれ?」

「藤原さんはパーティメンバーから『真の仲間ではない』とクビを宣告され、一行を離脱してしまった。その後、魔王の勧誘を受け、悪の道へと走る」

「だからなんでそういう流行ばっか取り入れるんだよ! ってか序盤で主人公が受ける扱いを終盤に入れんな!!」

 

 石上、渾身のツッコミを入れるも、藤原は一人涙を流す。

 

「う、うう、酷いよ皆……私、折角パーティの為に頑張ってたのに……」

「い、いや、藤原書記、これはあくまでゲームのイベントだからな。俺たちは別に…」

 

 慌ててフォローしようとする白銀。

 このまま更にチームワークが乱れるのは避けなければならない。

 だが、運命は更に最悪の方向へと加速する! 

 

「いや藤原先輩はスキルも弱いし、パラメータも一番低いじゃないですか。割と今まで足引っ張ってましたよ?」

「うぐっ!?」

「別に藤原先輩の離脱自体はあんまりデメリットはないですし、さっき言った通り寧ろフィリップ対全員はパワーバランス的にもおかしいし、妥当なところじゃないですか?」

「石上ぃいい!」

「……あ」

 

 慌てて口を塞ぐが、出た言葉は取り消せない! 

 普段から急所を的確に抉り飛ばす石上のツッコミが、ここにきて藤原に会心のクリティカルストライク! 

 

「うわぁあああんっ! いいもん! 私、悪女として皆の前に立ちはだかってやるもん!」

 

 号泣して、藤原はソファから立ち上がり、反対側に座るフィリップの元へと駆け寄っていく。

 流石にこれには白銀も同情を禁じ得ない。

 

「石上……お前…」

「す、すいません…せっかく上手く直りかけてたのに…ツッコミの反射神経が勝手に動いて……」

 

 石上までもが負の感情に埋め尽くされそうになる。

 一学期から鳴りを潜めていた、陰キャモードの石上が再来してしまう。

 

(なんてことだ……僕のせいでパーティメンバーの絆が……)

 

 人は罪悪感を感じた時に最も弱くなる生き物である。

 仲違いの原因を作ってしまった石上が自己嫌悪に陥るのは仕方のないことであった。

 

 だが……。

 

「藤原さん、こんなことになってしまって残念ね。でも、これもゲームですから……敵味方に分かれても、私達は友達ですよ」

「か、かぐやさん……!!」

 

 かぐや、微笑みながら藤原を見送る。

 

「石上くんも、済んでしまったことは仕方がないわ。次をどうすればいいのか考えなさい」

「四宮先輩……」

「こちらでゲームに長けているのは石上君なんですから。しっかりとサポートしてくださいね」

「……はい」

 

 更にエンゼルスマイルを覚醒させ、石上さえもフォロー。

 石上の自尊心は首の皮一枚でなんとか持ち堪えた。

 だが、その微笑みと涙の裏に、魔性が見え隠れしているのは言うまでもない。

 

(ふふふっ、これで厄介な藤原さんは敵になって、思う存分叩いても構わない! よく言ってくれたわ、石上君!)

 

 かぐやにしてみれば、石上のツッコミは至極真っ当なものであった。

 むしろお邪魔虫な藤原を切って捨てる口実ができたことで、かぐやは再び平静さを取り戻すことに成功。

 あとは如何に藤原をボコボコにし、白銀に自分の存在をアピールするかどうかである。

 

(あとは石上君さえ離脱してくれれば…!)

 

 などと外道な発想に至るかぐや。

 その様子に、同様と戸惑いを隠せない白銀。

 

(四宮の機嫌が途端に直った……どうなってんだよ!?)

 

 そしてその隣では、ツギハギのメンタルをなんとか立て直そうと奮闘する石上の姿が。

 

(し、四宮先輩の言う通りだ…急なテンションの変化がなんか怖いけど……ここは僕が挽回しないと……!)

 

 かぐやはほくそ笑み、白銀は焦り、石上は謎の使命感に襲われる。

 迎え撃つは、カオスが融合したフィリップ&藤原コンビ! 

 

「さぁて、ではいよいよラストバトルだ。ゾクゾクしてくるね」

「絶対に負けませんよー!」

 

 この最恐ペアを攻略することはできるのか!? 

 真・ハッピーライフゲームver.2編、次回完結!! 

 




私の友情崩壊ゲームはチョコボレーシングでした。
次回、両雄ついに激突です。
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