フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~ 作:ディルオン
カチッ!
『バイオレンス』
とか言って眞妃ちゃんドーパントになりそう。
そして視聴者は柏木さんの彼氏に向かって一言。
「お前の罪を数えろ」
秀知院学園生徒会。
学生生活をより豊かに、より円滑に送れるように結成された有志による組織。数ある課外活動の中でも頂点に立つ、正に学園の中心である。
彼等無くして、秀知院の生活は成り立たない。
現在、生徒会室で仕事をしているメンバーは三人。
「こう忙しいと、もうちょっと人手が欲しいところだな」
生徒会長、白銀御行。
校内模試は不動の一位を誇り、全校生徒・教員の信頼を集める模範的な立ち居振る舞いから、外部入学でありながらも生徒会長へと抜擢された逸材である。
伝統ある秀知院の歴史の中、外部生でありながら生徒会長にまで上り詰めたのは、彼を含め三人程度であると言う事実からも、その実力の程が窺える。
「会長、お茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう四宮」
「一人増やしては如何でしょう? 少しは負担も減りますよ」
隣で紅茶を進める少女…名を四宮かぐや。生徒会副会長である。
四大財閥の四宮家長女である生粋の御令嬢。様々な英才教育を幼少時より施され、あらゆるジャンルで華々しい功績を持つ天才児なのだ。
「そうですねえ…庶務の仕事なんて殆ど私達が肩代わりじゃないですか」
「一応、先輩もやってくれてはいるがな。結局一緒にいないと、その日の仕事は俺達で片付ける羽目になる」
「かぐやさんの言う通り、もう一人増やしましょうよ。会長」
書類の山と格闘中の朗らかな印象を持つ、もう一人の少女は、藤原千花。生徒会書記を務める。
成績こそ二人には及ばないものの、四宮かぐやとは中学時代からの友人であり、総理大臣の血筋を引く秀才。
その柔らかな人当たりと容姿から、男女を問わず親しまれている女の子である。
「確か『庶務長』が空いてたじゃないですか。色々と手伝ってくれますよ」
「ん、まあ、考えなくはないんだがな……正直コイツは誰もやりたがらん」
藤原の言葉に対し、目頭を押さえつつ生徒会長席に身体を預ける白銀。
「生徒会活動も残り半年のこのタイミングだ。仕事の引き継ぎの手間もかなりある…」
「確かに、現庶務と監査は3年生ですからね。受験の合間を縫って教えるのは大変でしょうし」
かぐやが白銀に同意する。
それに対して、残念そうに藤原は溜息をついた。
「そっかぁ…」
秀知院学園生徒会の役職は大きく分けて6つ。生徒会長、副会長、会計、書記、監査、庶務である。
しかし生徒会への所属は、本人と生徒会長の同意があって初めて承認されるため、全て埋まらず空白になることも間々あった。
生徒会には与えられる特権も多いが、役職全てが報酬に見合う労力かと言われればそうでもなく、実際には割に合わないと感じるものも少なくない。
それ故、生徒会役員ら自体は敬意をもって接せられるものの、仕事そのものは敬遠されがちだった。
それだけではない。
「それに闇雲に増やしても、結局ここのペースについて行けないからな」
「そうですねえ。石上君はさっさと終わらせて帰っちゃうし、会長とかぐやさんはそれ以上だし」
生徒会でトップの学力を誇る白銀御行と四宮かぐや。この二人が執り仕切る生徒会の運営能力は尋常ではない。
彼等と比べれば凡才と言える藤原でさえ、書記としての能力は群を抜いている。それだけのものが無ければ生徒会は務まらない。
「すぐに辞められても面倒だ。できれば即戦力が欲しい」
「とはいえ…去年の大立ち回りがありますしね」
「それは言ってくれるな……」
「事情を知ってても臆さず、能力に秀でている人ですか。難しいですね」
閃き力については白銀をも凌ぐかぐやも、これには流石に首を捻らざるを得ない。
「そもそもここまで人材が集まってるのも奇跡みたいなもんだからな。現状を変えるのは簡単じゃない」
「よく言いますよね。現状を変えるのは若者・バカ者・よそ者って」
「ま、俺も周りから見たらそう言えるのかもしれんな」
藤原書記の言葉に、自嘲気味に笑う白銀。
その様子を、一歩離れた所で、かぐやは見ていた。
否、思案していた。
(確かに……『会長対策』にも、何か一手欲しいですね。新しい風を吹き込むような)
四宮かぐやには野望がある。
それは、会長の白銀御行を落とし、自分に告白させること。
(このままでは藤原さんに引っ掻き回されて遅々として進みませんし……)
しかし、様々なアクシデント、トラブル、藤原の無意識の介入、そしてそれらを上回る四宮かぐや自身のプライドの邪魔。
諸々が全妙に絡み合い、全く上手くいかない。
(よそ者……ね)
藤原書記の言葉が過ぎる。
かぐやは如何に新たなメンバーを加入させるかを思案し始めた。
これが、フィリップの登校する前日の出来事である。
【Wな生徒会/かぐや様は確かめたい】
「と言うわけなのだけれど、早坂。誰かいないかしら?」
「そんなインスタント感覚で求められても」
かぐやの暮らす、四宮別邸。彼女は私室の中で、広すぎる天蓋付きのベッドの横で、制服の袖ボタンを外した。それを横にいる侍従、早坂愛に手渡す。
恭しく早坂はそれを受け取り、慣れた手付きでホルダーに掛けた。
「いっそ私が入りましょうか?」
「そんなことできる訳ないでしょう。あなたとの繋がりは秘密なんだから」
「今更バレる要素も少ないと思いますが…」
早坂愛は、かぐやの同級生でもある。
彼女はかぐやの侍従として、様々な活動を支えるエキスパートとして暗躍している。
その中には、対白銀への下処理も含まれていた。
何がキッカケでそれがバレるか分からない。故に、学園でも接触は極力最低限に抑えるのが、二人の決め事であり鉄則だった。
とは言え。
「それに、そうは言いますけど、かぐや様。全く進んでませんよね、会長攻略」
「………進んでいるわ。今水面下で私の策は侵攻中なの。間もなく、会長は堕ちる頃よ」
「はぁ」
まるで悪の組織の敵幹部がやられる前兆の台詞。
しかし早坂はぐっと堪えた。
多分、自分の主が懸念している事態は起こらない気がしていた。初めこそ、主人の忠実な犬として、冷徹な行動を幾度も繰り返してきた。
しかし、依然として進まない『白銀御行を屈服させる作戦』を見返してみると、もう手段を選んでいるのも時折、馬鹿馬鹿しくなっていた。
「それに優秀なだけじゃ駄目よ。多少クセのある方が現状を打開しやすいわ。無論、生徒会の仕事をこなせるのが条件で」
「なるほど」
早坂も、生徒会の忙しさは知っている。
かぐやの健康の為にも、生徒会の増員は必要かもしれない。と早坂は考えを改めた。
「しかし、今期の生徒会を発足する時、全校生徒の情報は全て洗い直したかと」
「そうね。確かに生徒会に相応しい人材はいないか、いても断られたわ……かと言って無理矢理に入れても十分に働いてくれるとは思えないし」
「……あ」
「なに?」
「一人だけ。まだ調べていない生徒がいます」
早坂は自前のタブレットを取り出し、画面を操作する。中には秀知院の生徒の情報が緻密に記載されているのだ。
「今年急遽募集した編入枠に合格した、外部生です。一年ですが、試験は全教科満点での特待生扱いと聞いてます」
「特待生……」
「秀知院の編入試験は筆記のみですし、倍率は200超……もし本当なら相当のものですよ」
秀知院の入試は、一般枠こそあるが、実際には賄賂や寄付金による裏口入学もあり、本当の意味での一般人の入学は極めて困難である。
白銀はその中で数少ない例外でもある、特待生入学だった。
もし事実ならば、正に自分たちが必要とする人材かもしれない。それに、現状打開にはうってつけ。
かぐやの決断は早かった。
「早坂、その生徒について調べて頂戴。大至急よ」
「承知しました」
「あ、私の方でもそれとなく見てみるわ。名前は何て言うの?」
「確か……ああ。ありました。フィリップ・来人だそうです。クラスは1‐Bです。会計君と一緒ですね」
タブレットの画面を切り替え、かぐやに差し出す。
まじまじと顔写真を見た。
線の細い、端麗な顔立ちの少年が映っている。早坂の言う通り、知性や品の良さの様なものが写真越しでも窺えた。
「フィリップ・来人……顔立ちは日本人のようだけど、日系人?」
「私も詳しくは知りません。ただ、一目見た時には純日本人だったかと」
「早坂、会ったの?」
「いえ、かぐや様もお見かけしてますね」
「どういうこと?」
「今朝、風紀委員と一戦交えた生徒がいたでしょう」
「ああ、なにか騒がしかったわね。特に気にも留めてなかったけど」
「あの時の生徒が、フィリップ・来人です」
「………」
改めて、フィリップの顔写真を見るかぐや。
その日は、何故かフィリップの事が気になり、なかなか寝付けないのであった。
・・・・・・・・・・・・
「………どうしよう」
秀知院学園、校舎内。渡り廊下。
フィリップは悩んでいた。
伊井野ミコとの関係改善が、上手く行くどころか、却って溝を深くしてしまったからである。
「どうして上手く行かなかったんだ……途中までは問題なかった筈なのに」
帰宅後、幾ら検索を繰り返しても結論には辿り着かず、フィリップは途方に暮れていた。
それだけではない。
先日より、その謎が解けないままの状態である。
「このままだと……何も手が付かない……」
知識の暴走──―知りたい欲求は一度発動すると、別の疑問が沸くか、或いは解消されるまで止むことが無い。
その間、フィリップは納得がいくまで検索と実証を繰り返す。
下手をすると栄養失調で倒れかねない。
過去、減量ボクサーの真似をして脱水症状を起こし、それを翔太郎に強く咎められたこともあった。
「どうしたら……どうすれば、伊井野さんと……」
フラフラになって校舎を歩くフィリップ。
その時。
「きゃ」
フィリップはいつも持っている分厚い本を持っていて、集中していた。その為、曲がり角の向こうから近付く気配には気付かなかった。
誰かがぶつかり、廊下に転んでしまう。
慌ててフィリップは駆け寄り、手を差し出した。
「す、すまない」
「いえ、こちらこそ。よそ見をしていて」
差し出した手を取り、フィリップは倒れた女生徒を起き上がらせる。
起き上がった少女を、フィリップは正面から見た。
「おい、あれって」
「四宮さんだわ」
「え、かぐや先輩?」
このぶつかった少女こそ、四宮かぐや。『運命の子』と称されたフィリップ・来人が、生涯忘れられなくなる名である。
「………」
(綺麗だ……)
それしか言葉が無い。
フィリップが人の容姿を褒めるのはまずない。あったとしても学術的見地からの視点のみで、人の美醜自体には興味が無いためである。
だが、彼女を見てフィリップは硬直した。
「ごめんなさい。そちらは、怪我はありませんか?」
「あ、ああ」
慌てて返事をするフィリップ。
透き通る様な白い肌。
流れる黒髪。
濡れた唇、涼しげな目元。そこから、赤い虹彩を帯びた瞳がフィリップを射抜く。
時間が止まる、とはこの事だろうか。
そんな感触さえもフィリップは覚えていた。
「かぐや様にぶつかって転ばせるなんて……」
「マジかよ」
「あいつ終わったな」
ザワザワとこちらを……と言うよりも、少女の方を見て慄く生徒たち。
四宮かぐやは学園でも手の届かない高嶺の花。それを何の縁もゆかりもないフィリップが突き飛ばしてしまうなど、世が世ならば打ち首獄門&一族郎党縛り首!
と、周りは考えていたが、それでもフィリップはかぐやから目を離すことは出来なかった。
「本当にすまなかった。怪我はないかい?」
「ええ。お気になさらず」
「……」
「…何か?」
「あ、いや」
責める様子も怒る態度も見せないかぐや。
これにはフィリップも少し驚く。
その隙に、かぐやはフィリップが落とした白紙の本を拾い、手渡した。
「これ、貴方のものね? はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「何かのおまじないかしら?」
「え?」
「何も書いてない本だなんて」
「うん。集中力を高める為に使うんだ」
「フフッ、面白い人ですね、貴方」
かぐやはクスクス、と笑う。
その所作でさえ、どこか妖精のような雰囲気を漂わせて、嫌味に感じない。
「四宮先輩と普通に話してる」
「あいつ何モンだよ?」
「もしかして、噂の転校生じゃね」
「ああ、編入初日に風紀委員とやり合ったっていう…」
「かぐや様と親しいのかしら?」
このやり取りは、観察している生徒にも衝撃を与えた。
近付くことさえも恐れ多いとされている、四宮家の御令嬢。対等に話をする人間など、ごく一部にすぎないというのに、彼は何者なのか?
そんな疑問が彼等を支配した。
「もしかして、編入生の方ですか?」
「その通りだけど……」
「やっぱり。私、四宮かぐやと申します」
「四宮さんだね。僕はフィリップ。フィリップ・来人」
「よろしく、フィリップ君。以後、お見知りおきを」
「……どうも」
恭しくお辞儀をするかぐや。
これには、フィリップも思わず自分で出来得る最善の形で礼をする。
「おお」
と、観察している生徒陣からも溜め息が漏れていた。
「ではごきげんよう」
「あ、うん。さよなら」
呆然とするフィリップをよそに、かぐやは廊下を歩き、角の向こうまで消えて行った。
しばらくそれを見守っていたフィリップだったが。不意にその肩に、見ていた男子生徒の手が載せられた。
「おいおい転校生!」
それを皮切りに、次々と生徒達が駆け寄ってくる。
あっという間に、フィリップは同級生たちに囲まれてしまった。
「スゲえじゃねえか。あの四宮先輩に顔覚えられるなんて」
「ホント、羨ましいわ」
「かぐや様とはお知り合いなの?」
好奇と驚き。
中には敬意すら払ってフィリップに話しかけてくる生徒まで居る。
初日のトラブルもあり、クラスメイトと距離を置いていたフィリップには初めての体験である。
「ねえ、彼女は一体何者なんだい?」
「え、お前知らねえの?」
「この学園一の有名人ですわ」
キョトンと、フィリップは目を瞬かせた。
その時、自分の感覚を一瞬疑った。
(……暴走が収まった。どういうことだ? 僕が誰かと話しただけで……)
どんなことをしても収まらなかった筈の知識欲の暴走は、いつの間にか無くなっていたのである。
・・・・・・・・・・・・
かぐやは放課後、誰もいない校舎裏で、一人の女生徒と密会していた。
クラスメイト兼侍従の早坂愛である。
「かぐや様、如何でしたか?」
「初見だもの。今は何とも」
フィリップとぶつかったのは、かぐやの偶然を装った演出だった。
トラブルに見せかけて出会えば、フィリップには確実に印象に残る。
更に彼女自身が財閥のお嬢様であるというのは、周りの生徒たちが説明することも予想済み。否が応にも自分の評判は彼の耳に入る。
そして次会う時、自分に対して如何なる反応を取るかで、フィリップの人間性を図るのである。
「私に頭を垂れればそれまでの男だし、逆に自然体で接すれば傑物ということね。その時に改めて会長に推薦しましょう」
「……」
「どうかした?」
「いえ……フィリップ・来人ですが、どうやら変わった経歴のようです」
建物越しに会話をし、はた目には二人が密談をしているなど思いもよらない。早坂は見つからぬようにファイリングされた紙を、かぐやに手渡した。
「住まいは風都にあるようですが、そこで探偵事務所を開いていました」
「探偵?」
「鳴海探偵事務所と言って、風都では名の知れた所です。前所長の鳴海壮吉は、業界では知らぬ者のいない名探偵と呼ばれた男で、風都の顔役でもあったとか」
「ふうん……」
「ただ、同居人は本当の家族ではない様子ですね。色々と訳ありみたいで、その辺りは別の者に探らせてますが」
一瞬で速読し、彼等のデータを頭に叩き込むかぐや。
四宮の人間にとって、周りは全て敵か否かを判断する必要がある。その為、かぐやは新たに自らのコミュニティに入った人間は、これまで全て探らせていた。
「素行については、特に不審な点は無いのよね?」
「はい。先代の一人娘の鳴海亜樹子……今は結婚して、照井亜樹子ですね。彼女が後を継いでいます。近所でも親しまれていて、所属探偵の左翔太郎は新しい顔役として認められているようです。この二人にも、特におかしな点は見受けられませんでした」
「なるほど……」
「照井亜樹子の夫、照井竜は警察官で、風都署に所属しています。階級は警視……いわゆるキャリア組ですね」
黙考するかぐや。
『探偵』を使うこと自体は、かぐやもよく利用する常套手段である。しかし周囲に居るとなれば、まず敵か味方かを判断することが最重要となってくる。
もし万が一、四宮の秘密を握られようものならば、それは全面戦争か、あるいはその人物を永久に闇に葬ることさえも覚悟しなければならない。
とは言え、かぐやも非情だが残忍ではない。敢えて血を流すのは好まず、面倒であると判断した。
「もう少し様子を見ることにしましょう。彼が生徒会に相応しい人間なのかどうか……それを見極めます」
「…かぐや様」
「なに?」
「本当に彼に見覚えはありませんか?」
「だから放課後に風紀委員と一悶着を起こした件でしょう?それは知らないと言ったじゃない」
「いえ、そうではなく」
「え?」
早坂は、初めて主人の顔を見る。
学園内で二人の関係をバレない様、細心の注意を払っている筈だが、それでも早坂は問わずにはいられなかった
「私は彼を、何処かで見かけたような気がするんです。秀知院ではなく、もっと前…それこそ、私がかぐや様の御側付になって間もない頃」
「何処?」
「……京都の四宮本邸です」
「なんですって?」
かぐやの問いかけの口調が変わる。
四宮本邸は、かぐやを初めとした一族や関係者、そして一部の許された人間のみが出入りする、いわば個人の聖域の究極系である。
幾ら優秀な人間とは言え、一介の私立探偵の関係者が立ち入れる隙間など文字通り存在しない。
「いえ、かぐや様が覚えていらっしゃらないなら、恐らく私の勘違いです。忘れて下さい」
「……」
(四宮本邸で、早坂が来てすぐの時? もし本当に会ったなら、お父様の繋がりから……)
かぐやは必死に記憶を辿る。
一瞬でも見たことは忘れない超絶的な記憶を持つかぐやが、『思い出す』と言う行為に走ったのは相当に珍しい光景。
しかし……
「痛っ」
「どうかされましたか?」
「べ、別に。大したことないわ。ちょっと頭痛がしただけ」
「ちょっと失礼します」
急いで早坂はかぐやの額に手を当てて、身体の状況をチェックする。
侍従として、一通りの看護やケアの手ほどきを受けている早坂。しかし、見たところ異常はもない。
一安心して、かぐやの頭を撫でた。
「……このところ、生徒会でも働き詰めでしたし、疲れが溜まっているのかもしれませんね。今日はもうお帰りになった方が宜しいかと」
「そうね…そうさせてもらうわ」
「フィリップ・来人に関しては、引き続き調査しますので」
「ええ。お願い」
そう言って、かぐやは教室へと歩く。
その間、一瞬、脳裏をよぎった言葉や映像は、いつしか消え去ってしまった。
それどころか、かぐやは今何を思い出そうとしていたのかさえも忘れてしまった。
次回、フィリップ君とかぐや様のランチタイム。
石上君と藤原さんも出るよ。