フィリップ・来人は検索したい~魔少年の高校生活~ 作:ディルオン
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フィリップと知り合った翌日。かぐやは早速行動を開始した。
「あら、フィリップ君」
「あ、四宮さん…」
フィリップ・来人は、昨日も会った広い渡り廊下で、またも四宮かぐやと再会することとなった。
かぐやの白い小さな手には、黒い蒔絵の施された弁当箱が握られている。
「えっと……こんにちは」
「はい、こんにちは。偶然ね、また会うなんて」
嘘である。
これは当然、そういう風に装ったかぐやの仕込み。
互いの印象が残っている内にアプローチを仕掛けるべく、フィリップが一人でいるところを狙い撃ちにしたのである。
「昨日はすまない。と言うより……先輩だったんだね。いや…だったんですね」
「あら、気にしないで下さい。かしこまらずに、自然体で結構ですよ」
「そうかい…?」
フィリップはおずおずと返事をした。
年上には敬語を使うべき。そして学校とは上下関係に厳しい場所である。という常識は真っ先に検索して、閲覧した情報である。
当然、先輩には敬語を使うのは普通なのだが……。
「なら『四宮さん』と……呼ばせてもらってもいいかな?」
「ええ、構いませんよ」
「そう……ありがとう」
ニコニコと笑顔で返す四宮かぐや。
フィリップもおずおずと頷いた。
(上級生に『敬語はナシで』と言われても、大抵は遠慮するものだけど……見た目と違って、中は太いみたい。中々面白いですね)
故意か偶然か、彼の反応はかぐやの印象を良くした。
「フィリップ君、今日もその本を持っているんですね?」
「ん? ああ…昔からの愛用品なんだ」
「本を読むのがお好きなんですか?」
「『本』と言うより……知らない出来事かな。自分の未知の知識を検索するのに、とても興味を覚えてね」
「それは素敵ねっ」
その後も、会話を続けていくうちに、何となくかぐやは彼の人柄を察する。
(どうやら……人付き合いそのものに慣れていないようですね。早坂の言うように、確かに少々変わり者のようですし)
しかし、変わっているというのは彼女にとってマイナス点ではない。
寧ろそれがプラスに働けば、それは得難い個性となる。
彼の本質さえ確かめれば、生徒会へ入れる素質としては充分である。
(とはいえ、簡単に勧誘しては意味がないわ。ここは一つ、彼を知る意味も兼ねて……)
「フィリップ君、お昼はまだかしら?」
「これから食べるところだよ」
「あらそう、もしよろしければ、ご一緒にいかが?」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
素直に頷くフィリップ。
かぐやが巧妙な作戦を思いついたことを、彼は知る由もない。
「かぐやさ~ん! お昼一緒に食べませんか~?」
その時、かぐやの来た道から、可愛らしい声が聞こえる。
二人がその方向を見ると、駆け寄ってきたのは、かぐやもよく知る友人の藤原千花であった。
「あら、藤原さん」
「あ、かぐやさん。これから…って、あれ?」
「初めまして」
突然の登場に、目を丸くするフィリップ。
藤原も、見たことのない生徒の登場に首を傾げる。かぐやが男子生徒と一緒にいるところなど、生徒会を除けばほぼ皆無。
その瞬間を見計らい、かぐやは丁寧にフィリップを紹介した。
「藤原さん、こちらは編入生のフィリップ・来人君です」
「ああ、噂の転校生君ですね! 私、藤原千花って言います。かぐやさんとは中学からのお付き合いなんです。よろしく!」
「ああ…こ、こちらこそ」
揚々と握手を求める藤原。
彼女の人当たりの良さは類を見ない。探偵という職業上、用心深さのあるフィリップも、求められるまま手を差し出してしまった。
「あれ? かぐやさん、フィリップ君と知り合いなんですか?」
「いえ、昨日初めて知り合ったばかりです。今日は親睦を深めようと、昼食をご一緒にと思って」
「なるほどぉ」
「よろしければ、藤原さんも一緒にいかがですか?」
「わあ、行きます行きます!」
二つ返事で了承する。
藤原も女の子。男子の噂話には目が無い。当然、フィリップには興味津々だった。
「では、中庭にでも行きましょうか」
「そうしましょう。それにしても、三人一緒って珍しいですね」
「ええ、本当に偶然ですね。ふふっ」
嘘である。
やはりこれも、かぐやの策略の内の一つ!
かぐやは学園でも注目される有名人。その彼女が、単独であれこれ嗅ぎまわっては目立ち過ぎ、フィリップに警戒される恐れがある。
程よい距離感を保ちつつ、フィリップには『親切な先輩』を演じなければならない。
「はい、ここが中庭ですよ」
「へえ、中々広いんだね」
「フィリップ君は読書好きだそうですから、ここなら集中できるのではなくて?」
「確かにそうだ」
「フィリップ君、読書が趣味なんですか? 何を読むの? 教えて?」
そこで藤原の人柄を上手く利用することを思いついたのである。
「何でも読むんだ。基本、興味が湧いたら全てね」
「へえ、凄いですねえッ」
嫌味にならず、屈折せず、質問責めにしても不審がられない。
藤原は、間接的に情報を得られる刺客として、絶好のスケープゴートであった。
「今は何を読んでるの?」
「最近は、『らぶこめ』かな」
「ラブコメ? 漫画とかも読むんだ?」
「ああ。漫画も興味が引かれれば徹底的に検索して閲覧するよ」
「あはは、フィリップ君おもしろーい!」
結果は上々。
藤原はかぐやの思惑通り、確実にフィリップの情報を掴んでいった。
そしてそれは、隣でニコニコと笑顔を浮かべつつ、二人のやり取りを楽しんでいるかぐやに筒抜けとなっていく。
「ね、フィリップ君の住んでるところってどこ?」
「風都だよ。そこの風花町さ」
「えー、いいなぁ! 私、風都って大好きなんですよ。たまに姉妹で買い物に行くんですけど……」
立て続けに出される質問。
無論、フィリップも己の出自や正体をバラす訳にはいかない。訊かれた時のぼかし方や対応策は準備してある。
しかし……
(……何か隠してますね、カレ)
常人ならば全く分からない些細な矛盾に、かぐやだけは気付いていた。
【Wな生徒会/フィリップ・来人は会話をしたい】
かぐやの策略には、あと二つの意味があった。
その一つが、フィリップへのイメージ戦略である。
「ねえねえ、フィリップ君の家ってどこにあるの?」
「風都だよ」
「えー、私風都大好き!」
「あれ良いよな。風都タワー」
「そーそー。私前に行ったんだけどさ。展望台の景色チョーいいよ」
朝のHR前の教室。
フィリップはそこで、クラスメイト達の質問責めに合っていた。
「そう言えば私のスマホのストラップ、『ふうとくん』だよ」
「へえ、これは限定モデルだね。珍しい」
「え、フィリップ君分かるの?」
「ふうとくんに関しては、僕のあい…いや、家族が詳しくてね。僕の家にも一つあるんだ。一部の店舗でしか配られない貴重品だよ」
「そうそう! わー、嬉しい! これ知ってる人中々いなくてさ!」
どちらかと言えば、これまで遠巻きに見られていたフィリップ。
初日から風紀委員の伊井野ミコとバトルしたという話が伝わり、『もしかしたら怖い奴か?』と思われていた。
しかし、かぐやとの出会いでそれは一変する。
「フィリップって、面白いよな」
「そうかい?」
「うんうん。初めはちょっと変わった子だなって思ってたけど」
「話してみたら普通に良い奴じゃん」
「本当かい? なら嬉しいな」
学園の人気者、かぐやと接点があるというだけで、学生たちは興味を抱く。
フィリップも誤解を解き、生徒たちに変な印象を与えまいとしていたので、両者の思惑が一致。
結果、あっという間にフィリップはクラスを越えて学園中の注目を集め、徐々に人気が出始めていた。
「なあ、そう言えば風都ってアレだろ。仮面ライダー」
「あ、出た! 怪物退治のヒーローでしょ!」
「フィリップ君は知ってる?」
今ではこうして、朝にも机を囲まれ、質問される毎日。それは、フィリップの対外態度を遠巻きに観察するための、かぐやの戦術であった。
「……ああ。もちろん。新聞やニュース、ラジオでもしょっちゅう話を聞くね」
「だよなあ。新聞とかでも写真出てるしさ」
「ホントにいるのかな、仮面ライダー?」
「いるよー。実際見た人だって大勢いるんだから!」
マジである。
何を隠そう、フィリップ本人こそ、風都を怪物の手から守った超人、その仮面ライダーの一人。
当然、その事実は秘密である。フィリップの生い立ちも含めて、絶対に外部へ漏らしてはいけなかった。
「どうなの、フィリップ? 会ったことあるのか? あの緑と黒の仮面ライダー」
「さあ? 僕自身は会ったことは無いからね」
ちなみに一応、自分で自分に会うことは出来ない為、嘘は言っていない。
とは言え、全員がフィリップに好意を抱いているわけではなかった。
「じゃあね、ミコちゃん」
「うん、また後でね」
「……」
ガラッ、と教室の扉が開く。
皆が扉を見ると、そこに立っていたのは風紀委員の伊井野ミコ。
「やあ、伊井野さん」
「っ…」
「今朝も風紀委員の仕事かい?」
「は、話しかけないでよっ!」
「え?」
「~~~~っっ!!」
一喝すると、伊井野は素早く自分の机まで歩いていき、着席する。
フィリップは沈んだ気持ちになった。
「……やっぱり、嫌われてしまった」
この数日、何故か自分への好感度は平均的に高まっている。理由は分からなかったが、もしかすると伊井野ミコとも上手くやれるのでは、と言う期待があった。
しかし、やはり伊井野は拒絶していた。
彼女にしてみれば、『自分に一方的に迫って弄び、挙句に捨てた肉食系のチャラい奴』である。
最も彼女が唾棄すべき存在として認識された。
しかし、それでもクラスの面々はフィリップに味方をした。
「何がいけないんだろうか……」
「気にすんなよ、フィリップ」
「そうそう、伊井野さんって性格悪いんだから」
「性格が悪い?」
「そうそう」
「何かあると教師にすぐチクるし」
「融通が利かないっていうか」
「ほんとウザいよね」
規律を重んじる人間は時に疎まれる。
フィリップは数少ない経験の中で、それを知っていた。翔太郎と共に探偵業を営んでいれば、それは必然だったと言える。
(そんなことは無い、と言うべきなんだろうか)
伊井野ミコには嫌われている。
しかし、悪人として彼女は見れない。
左翔太郎ならば、ここで彼女の行動を見て見ぬふりはしないだろう。たとえ彼等との仲が険悪になったとしても、翔太郎は伊井野ミコの弁護に動く。
「君たち、その認識は……」
正そうとするフィリップ。
しかし……
「おっと!」
「……」
「あ、ごめん……手が滑って」
突如として現れた乱入者に、フィリップの言葉は中断された。
フィリップの机を取り囲んでいたクラスメイトに割って入るように、一人の男子生徒が足を滑らせ転んだ。
その生徒の顔に、フィリップは見覚えがあった。
「君、大丈夫かい?」
「いや、別に」
「……」
男子生徒はいそいそと、転んだ拍子に散らばったカバンの中身を片付け始める。
周りにはノートや教科書、そのほかにも色々とブチ撒けられている。
その時、伊井野ミコが近付いてきた。
「ちょっと、石上」
「……」
「ゲーム機」
「はいはい、没収ですよね。好きにすれば」
石上優は、そう言って散らばった中身の内、ゲーム機を特に抵抗せずに差し出した。
「なにその態度っ」
「別に」
「っ……」
伊井野は表情をゆがめながらもそれを受け取り、たった今は入って来たばかりの教師にそれを見せる。
「なに、ゲーム機? またお前か、石上」
「……すいませんでした」
「あとで教員室へ来い」
「はい」
悪びれた様子もなく、ただ頭を下げるだけの石上。
その態度には、クラスの面々も眉をひそめる。
「なに、あれ?」
「流石に無いよね」
「いくら伊井野さんだからってなぁ」
「まあ、石上だし。しょうがないよ」
ひそひそ話をする周りの生徒。
その時、チャイムが鳴った。
もうHRが始まる時だ。
クラスメイトは一斉に自分の席に向かって行った。
「……」
フィリップの視線は、没収された石上と言う男子生徒に集中した。
確か初日にも、ゲーム機を持ち込んだのを注意されていた生徒だ。
「……興味深いね」
一人、フィリップは呟いた。
・・・・・・・・・・・
「ねえ君」
「ん?」
「石上優、だよね?」
「……そうだけど」
フィリップはその日の昼休み、石上の姿を探した。
彼の行動を予測するのはそう難しいことではなかった。これまで、フィリップは校内を歩き回って、余り彼の姿を見かけなかった。
ならば、逆に人のいない場所を探せばいいのである。
「僕は」
「フィリップ・来人、でしょ?」
「覚えててくれてるんだね」
「まあ一応、同じクラスだし……」
石上は伊井野とのやり取りを思い出していた。彼女をあそこまで追い詰めるとは只者ではない。
石上自身、少し胸がすく出来事であった。
「それはさっきのとは違うゲーム機だね?」
そう言って指差したのは、小型の筐体である。今朝の騒動で取り上げられ、石上は別のゲームを持ち出していた。
「……風紀委員にチクる気?」
「そんなことはしないよ。それに言っても、意味のないことだろう? 君がここに居れば、風紀委員は手を出せない」
「え?」
「ここは生徒会の真下。つまりOB会の管轄で、秀知院の敷地にはカウントされない。だからここでゲームをしても、君は校則違反にはならない」
「…」
意外そうに、石上はフィリップを見る。
彼の指摘は当たっていた。しかし自分に対して色眼鏡で見ず、こうもアッサリと見抜かれたのは初めてだった。
「ただちょっと興味があって」
「え?」
「何故、さっき転んだフリをしたんだい?」
「……」
「ただ転んだだけじゃ、あんな風にカバンの荷物はバラ撒けない。僕には君がわざと割って入ったようにしか見えなくてね」
石上の手が止まる。
それは、紛れもなく真実であった。
「もしかして君、伊井野ミコを庇っているのかな?」
「………」
マジである。
フィリップの推測は紛れもない真実。
石上は度々、過去に伊井野が疎まれている現場に遭遇。それをフォローするために、度々陰ながら動いていたのだった。
しかし、それを正面から看破され、突きつける者はいなかった。
「否定しないと言うことは、真実かな?」
「……別に」
「なら君に、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
そう言って、フィリップは隣に腰かけた。無論、フィリップもただ真実の追求をするつもりはない。
自分の推理が合っているなら、これは好機だった。
(彼が伊井野さんを守ろうとするなら、彼を知れば、きっと伊井野さんと仲良くなる方法を見つけられる筈さ)
そう、これは、伊井野ミコと仲直りするために、フィリップが考えた作戦だった!
「ねえ、伊井野さんをどう思っているのかな?」
「え?」
「出来れば、彼女と仲良くなりたいんだけど」
「……え?」
ここで、石上の表情が引き攣る。
「ねえ、何か知らないかな? 伊井野ミコさんと近付く方法を」
フィリップは一つ誤解をしていた。
石上が、伊井野に好意を持っていると。
「昨日検索した『らぶこめ』によれば、嫌い合っている二人ほど親密になるケースが多い。つまり、君達は互いに愛し合っている可能性が高いと見た」
「は?」
「いや、君達の関係を追及するつもりは無いよ。ただ、伊井野さんと仲直りできる方法があるなら、それが知りたくてね」
原因は、少女マンガの読み過ぎにあった!
少女マンガの王道、即ち『真面目な少女』と『素直になれない男子』の関係。これをフィリップはそのまま二人に当て嵌めてしまった!
「どうだい? 君さえ良かったら……」
「……あのさ」
「ん?」
「死んでも伊井野と付き合うとかないから」
「え?」
「『愛し合う』とか、聞いただけで吐きそうだから」
「………」
目を瞬かせるフィリップ。
二人は正真正銘、超絶仲が悪いのである!
だが、彼が推理を外すのは滅多にないだけに、すぐに勘違いには気付けなかった!
「違うのかい?」
「うん」
「二人は恋人同士じゃ?」
「違うって」
「……どうして?」
「いや、どうしてって……」
尚も真実を確かめようとするフィリップ。
そして彼は禁断の言葉を口にした!
「おかしいな。『らぶこめ』だと、君みたいな男子は逆にモテると書いてあったのに……」
「………」
「伊井野さんが意中の人じゃないとすれば、君には誰か相手がいるのかい?」
「……」
「ねえ、教えてくれないかな?」
石上優、15歳。
彼女いない歴=年齢。
しかし、それを突き付けるのは極めて残虐!
「……」
「あ、どこへ行くんだ?」
「帰る」
「え?」
「死にたいから……帰る」
「え、え?」
「じゃあね」
「ま、待ってくれ!」
死ぬという単語を真に受け、フィリップは石上を羽交い絞めにする。
「離せ! 僕はもう死ぬ!」
「早まるな! 何故死のうとするんだ!?」
「そっちが『彼女いる?』とか言うからだろ!」
「それがどうして駄目なんだ!? 『恋人がいる』かどうか聞くと、どうして死にたくなるんだ!?」
「うるせえ、バーカッ!!」
この日、昼休みが終わるまで、このやり取りは続くものの、石上と伊井野の関係性は謎のままであった。
『本日の勝敗……石上の負け(心を抉られた)』
石上のエピソードを見ると、途端に『YAHYAHYAH』を聞きたくなりますね。
「今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか」
うん、行こう。
リア充を殴りに行こう。