ギル戦から告白回と多くの感想や反応いただけてとても励みになっております。
ラグナロク3戦目当日の朝。天馬は一人スタジアムにいた。
(サッカーの命運をかけたラグナロク。今日の最終戦で全てが決まる。なのに、たった一つ欠けているものがある。君がいない。)
一昨日からずっと天馬の胸を締め付けるもの。
「天馬。」
「ワンダバ。」
「フェイのことか?」
「うん。」
いつの間にか立っていたワンダバが天馬の隣に座る。
そしてもう一人。二人からは死角になる位置に黄名子もいた。
「私がフェイと一緒に行動していたのはアルノ博士にお目付け役を頼まれたからだけではない。」
もっともフェイと付き合いが長かったワンダバが語る。
「彼が好きだったからだ。フェイは私にも普通の友達のように接してくれたんだ。」
ロボットである自分にも分け隔てなく接してくれた純粋無垢な笑顔が忘れられない。
「天馬、お前のサッカーでフェイの目を覚まさせてやってくれ。」
「ワンダバ・・・うん。俺もフェイとまた一緒にサッカーをしたい。けど・・・」
天馬の脳裏には一昨日のフェイとの会話。
フェイが見せたこともないような冷たい目、自分たちを拒絶する言葉。
「できるかな・・・俺に。」
「出来るやんね!」
誰もいないと思っていた柱の影から声がした。
姿を現した黄名子が天馬に語りかける。
「出来るやんね!フェイと一緒に何度も試練を乗り越えてきたキャプテンなら。ウチが保障するやんね!」
「黄名子・・・」
「フェイもキャプテンやワンダバの想いに気づくはずやんね!みんなを見てきたウチになら分かる。フェイ、あなたは一人じゃない。あなたを思う仲間がこ~んなにもいるやんね!」
「・・・分かった。絶対にフェイの目を覚まさせて見せる。」
昼 スタジアム内医務室
「1・2・3・4~、5・6・7・8。よしもう大丈夫そうだな。」
一晩この医務室で過ごして朝起きると体の痛みは消えていた。
この世界に来て疲労回復も早くなった。それに昨日よりも力がみなぎってる。
超回復ってやつだろうか。
一応エルドラドの人は今日もこの部屋で安静にするようにとは言ってた。
まぁ今日の試合に出場することもないし大人しく従っておくとするか。
朝と昼に出された食事は悪くは無かったけど味が薄かった。病院食って未来でも似たようなものなんだな。
ラジオ体操を終えもうすぐ試合が始まるからと用意してもらったテレビをつける。
映し出されてるのは当然試合が行われるグラウンドの映像だ。高性能らしく声も良く聞こえてくる。
試合開始を待っているとノックの音が聞えた。
「どうぞ~」
ノックに答えて扉が開かれ入ってきたのはメイアだった。
「おはよう翼。今日はちゃんと起きてたのね。」
「おはようメイア。昔から試合がある日はちゃんと起きられるんだよ。」
それにいろんなものがかかったラグナロク最終戦だ。
寝坊なんてできるはずがない。
「体はもう大丈夫なの?」
「ああ。むしろ強くなったまである。」
「それなら良かったわ。」
「メイアはどうしてここへ?」
「今日の試合、翼と見届けようと思って。」
「・・・そっか。それじゃ一緒に見届けようか。俺たちの運命を。」
どこかしらから用意されたソファに一緒に腰掛ける。
そういえばメイアとサッカーの試合を一緒に見るのは初めてだな。
メイアはずっと俺たちの試合を見てたけど。
「昨日帰ってからギルのみんなと話したわ。みんな悔しそうにしてた。自分たちが負けたのが信じられないって。」
「サッカーで負けたら悔しい。誰だってそうさ。」
「次は負けないとも言ってたわ。」
「そっか。ギルは良いチームだな。敵ながらチームワークも完璧だったし。」
「ええ。私のワガママも聞いてくれてみんな良いチームメイトよ。」
悪辣なザンのチームワークとは違って最初から最後までフェアプレーだったし、身体能力を抜きにしても見習うべきとこも多かった。また戦いたいな。
けどそのためにはラグナロクに勝つしかない。
「よし!頼むぞ天馬。」
「・・・・翼。あのね、今日の試合のチームは」
「さぁフェーダのチーム、ガルの入場だ~!」
メイアが何かを言おうとした瞬間、テレビからいつものおじさんの声が聞えてきた。
もうまもなく試合開始といったところでフェーダのチーム・ガルが入場してきた。
お揃いのベストが特徴のユニフォーム。
荒んだ雰囲気のザンとも理知的な雰囲気のギルとも違う。
どことなく幼さを感じさせるメンバーだ。
「っておいおい。まさか」
しかし一人だけよく見知った顔があった。
キャプテンマークをつけていたのは
「フェイ・・・」
俺たちの仲間のフェイだった。
「フェイが決勝戦の相手なの・・・?」
「そうだよ。僕がこのチーム、ガルのキャプテンだ。」
駆け寄ってきた天馬の消え入りそうな問いかけにフェイは淡々と答える。
これまでのフェイとはまるで別人のような感情を感じさせない受け答え。
「こんな形でフェイと戦いたくないよ!」
「仕方ないんだよ。僕は思い出してしまったんだ。」
「え?」
フェイが取り戻した記憶。
父親に見捨てられ、サッカーボールと人形のロビンだけを与えられた暗い記憶。
セカンドステージ・チルドレンの力に目覚め、フェーダに入るまでの孤独。
「父さんが僕を捨てたのはセカンドステージ・チルドレンの力が怖かったからだ。けどひとりぼっちになった僕にSARUは声をかけてくれた。そして決めたんだ。僕たちを認めない者たちに復讐するって。」
「復讐!?」
そしてSARUに出会い、フェーダに入り世界に復讐すると決めた。
フェイの口から復讐という言葉が出たことに動揺を隠せない天馬。
「それが本当にフェイの望んでることなの?」
「・・・手加減はしないよ。」
去っていくフェイの背中を天馬は呆然と見つめる事しかできなかった。
「天馬!」
「!?は、はい!」
「今は試合に集中するんだ。」
「はい。」
「メイア、これって。」
「ええ。フェイは元々ガルのキャプテン。SARUや私と同じフェーダの中心メンバーだったの。」
「そうか・・・」
俺たちと旅をしていた時とはまるで別人みたいな冷たい雰囲気をまとってる。
天馬とフェイがここでぶつかることになるなんて。
「天馬・・・」
「さあ!ラグナロク最終戦となる第三戦はエルドラドチーム03vsチーム・ガルだ。そしてかつての仲間たちが敵同士で戦うことになってしまった!」
(フェイ、君が敵だなんて。サッカーを守ろうってずっと一緒に戦ってきたのに。サッカーが好きだって言ってた、あの時の君が本当のフェイだよね。俺、どうしたら。)
センターサークルに並んで試合が始まろうと時になっても天馬はずっと迷っていた。
これまでずっと一緒に旅をしてきた、共にサッカーを守ろうと戦い、サッカーを楽しんでいたフェイと戦わなければいけないということに。
「天馬!」
「キャプテン!」
そんな天馬に観客席からワンダバと黄名子が声をかけ空を指さす。
今朝、3人で語りあい誓ったこと。
(俺だけなんだ。ここで今、フェイに何かを伝えられることが出来るのは。ワンダバの気持ち、黄名子の気持ち、俺の気持ち。全部サッカーでフェイに伝えるんだ!)
そして試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
「運命の第三戦、いよいよキックオフ!松風がドリブルで上がっていくぞ!」
キックオフ直後、天馬がドリブルで上がっていくが、フェイたちガルは動かない。
第一戦のザンの時と同じ状況だ。
「太陽!」
「サッカーを守るため、僕もやるよ。太陽神アポロ、アームド!!」
天馬から太陽にボールが渡り陽の光を浴びながら太陽が化身アームドを成功させる。
これまで習得していなかったのが不思議なくらいにやってのける流石のセンスである。
「いっけぇ~~!!」
そのまま化身アームドのシュートを放つ。
しかしシュートが放たれてもなお、ガルのDF陣もキーパーのチェットも動きを見せない。
しかし太陽のシュートは目前で止められた。
フェイによって。
「何!?」
「さっきまで俺の後ろにいたのに、いつの間に・・・」
「がっかりだよ。一緒に戦ってたチームが、こんなに弱かったなんて。」
「何だって?」
「見せてあげるよ、セカンドステージ・チルドレンの力を!」
そう言って一気に天馬と太陽を抜き去るフェイ。
ピノ、ローコ、デッキとパスを繋いで攻めこんで行くガル。
ザンの荒々しいラフプレーともギルのシステマチックな連携とも違うアクロバティックなプレー。
そしてあっと言う間にゴール前に走りこんでいたフェイにボールが繋がる。
「バウンサーラビット!!」
「ぶっとびパンチ!・・・うわあっっ!」
「決まった~~!ガル、あっと言う間にっ先制点を上げたぞ~。」
「今のバウンサーラビット、一緒に戦ってた時と威力が全然違う。あれがフェイの本当の力か。」
「ええ。フェイはフェーダの中でも強い力を持ってる。けどあなた達のもとに送り込むときにSARUが記憶と一緒に力も封じていたの。」
「なるほどな。・・・もうちょっと力の封印緩くしてくれても良かったんじゃ・・・」
「セカンドステージ・チルドレンだってバレるわけにはいかなかったもの。それに、その分翼たちも強くなれたんだから良いでしょ!」
それはそうだけどさ。
冗談はさておき。
今の速さとパワーは凄かった。
みんな完全に圧倒されていた。
それに天馬の動きに迷いが見える。
「天馬、頼むぞ。」
「天馬、認めてくれるよね?僕たちセカンドステージ・チルドレンの力を。」
ポジションに戻る途中フェイが天馬に言う。
今のプレーで自分たちの実力が理解できたはずだと。
「そんなのできない!」
「なっ・・」
「だってフェイは俺たちの仲間だから!戻ってきてフェイ!また君とサッカーがしたいんだ!」
「・・っ!僕は、セカンドステージ・チルドレンの・・・フェイ・ルーンだ!」
これまで感情の起伏を見せなかったフェイが語気を強める。
「天馬。君たちはこれからセカンドステージ・チルドレンの力を思い知ることになる。覚えておいて。」
「フェイ・・・」」
エルドラドチーム03のボールで試合再開。
「速すぎる・・・トーブ君!」
輝がドリブルであがろうとするもデッキとユウチが素早くチェックにつく。
逆サイドのトーブにパスを出すがフェイがカットする。
「何すんだ!オラのボールだぞ!」
トーブが素早く回り込むがフェイはトーブを力ずくで吹き飛ばし強引に突破する。
そのまま放たれたシュートは信助のミキシトランスを打ち破り2点目のゴールが決まった。
「大丈夫かトーブ?」
「へっちゃらだ。こんくらいトーチャンの嘴に比べたら・・・痛てて~~!」
痛めた右足を大丈夫だと踏みしめるも鈍い痛みが走る。
動けない程では無くとも一歩間違えればプレイ続行不可能になっていたかもしれない。
「フェイ!今のはひどいよ!あんな危険プレー、トーブが怪我したら・・・」
「天馬、まだわからないの?僕たちは君たちとは違う。僕たちは、特別な存在なんだ。だから僕たちは君たちを淘汰しなくてはならない。」
天馬を突き放すように、そして自分に言い聞かせなるように言う。
観客席のワンダバと黄名子もフェイの変わりように胸が締め付けられる。
「天馬、あいつ苦しそうだぞ。」
「トーブ・・・」
2-0となり試合が再開してもガルの、フェイは止まらなかった。
太陽が、浜野が、速水が、そして信助がフェイのラフプレーによって傷ついていく。
フェイ一人に完全に圧倒されていた。
間近でシュートを受けた信助はフェイの冷たい目に恐怖すら覚えた。
信助を更に痛めつけようとするフェイの前に天馬が立ちふさがる。
「やめるんだ!こんなのフェイらしくないよ!」
「君に僕の何が分かる。」
「分かる!俺には本当のフェイが!」
「分かるなら・・・僕の邪魔をするな!」
「うわあっ!!」
至近距離からのフェイのシュートについに天馬まで倒れこむ。
「天馬、あきらめるんだ。このフィールドのどこにも希望なんて残っていないんだ。」
「だからって、あきらめる訳にはいかない!」
「・・・まだ立てるのか。」
「フェイ、本当に復讐なんて望んでるの?そんなの嘘だよね?俺の知ってるフェイは、絶対にサッカーを復讐になんか使わない!だって、サッカーが好きだから!!」
「・・・!?」
「思い出して!俺たちは一緒に色んな時代を旅して、いろんな人たちと巡り合ったよね?」
天馬の言葉でフェイの脳裏に天馬たちとの旅の思い出がよぎる。
戦国時代で太助たちと一緒にサッカーをしたこと。フランスの砦でジャンヌたちにサッカーを教えたこと。三国志の時代で出会った劉備豪快さ。孔明要塞の驚き。幕末での坂本龍馬と沖田総司の戦い。
恐竜時代でトーブと、そして自分と同じ孤独を抱えたビッグとの出会い。幻想世界で天馬とワンダバと3人で旅したこと。
この旅で体験したこと、出会った人たちとの思い出。一緒に過ごした日々。天馬と育んだ絆。
そこにずっと一緒にあったもの。
「みんなを繋いでくれた。笑顔をくれた。勇気を教えてくれた。サッカーは俺たちの懸け橋になってくれたんだ!」
「・・・サッカーが。」
フェイから答えは帰ってこない。
けど俺には分かる。フェイの中にはサッカーへの純粋な想いがある。
この旅で生まれた俺たちの繋がりは偽物なんかじゃない。
フェイは自分のことを敵だって言うけれど。
俺はフェイを信じる。
だからフェイに全部ぶつけるんだ。
フェイと出会ってからの全部を!
「これが俺の気持ちだ!ワンダートラップ!」
「くっ!」
初めてフェイとサッカーをしたとに出来た俺の必殺技。
ボールを奪ってもすぐに回りこんでくる。なら今度は。
「アグレッシブビート!」
「そんなもの!!」
「うわっっ!!」
必殺技の前にフェイにボールを奪われてしまった。
「サッカーが懸け橋?そんなもの君たちの幻想だよ。僕たちは君たちとは違うんだ。はああああっ!」
「信助!」
だめだ。信助はまだ立ち上がれてない。ここでゴールを決められたら3点差。
俺が止めないといけないのに間に合わない。
もう駄目だと顔を伏せかけた時ゴール前に誰かが飛び込んだのが見えた。
「たあああっっ!」
「トーブ!」
飛び込んだのはトーブだった。
なんとか右足でフェイのシュートをブロックしてコースを逸らしてくれた。
ボールがラインを割ったところで前半終了の笛が鳴った。
「ナイスブロック、トーブ!」
「助かったよ!」
霧野先輩と信助がトーブを引っ張り起こしているところに合流する。
「今のを決められたら3点差でかなり厳しくなるとこだったよ。」
「へへへ。・・・なぁ天馬。」
「どうしたの?」
「オラたちであいつの、フェイの目を覚まさせてやっぞ。」
「トーブ・・・」
「今のあいつ。初めて会った時より、ずっと寂しそうだぞ。」
「・・・うん。後半戦、絶対にフェイの目を覚まさせよう。」
「この試合、余裕だな。」
「うん、そうだね・・・」
ヨッカの肩に寄っかかったユウチがフェイに話しかける。
「それにしては浮かない顔だね。」
「別に。後半戦、とっととケリをつけよう。」
ハーフタイムに入ったがエルドラドチーム03の空気は重い。
前半戦ラスト、トーブの活躍で追加点は阻止したが依然2点差。
しかし終始押されっぱなしで点差以上に差があった。
天馬もフェイのことに気を取られチームメイトに声をかける余裕は無かった。
「フェイがあんなプレーをするなんて・・・」
「天馬、悩むのは後だ。今は試合に全力を注げ。」
「前半は完全にガルのペースだったな・・・」
「ボール支配率はガルが95%。我々は試合開始直後のシュート1本のみ。」
「それも打たせてもらったやつだけどね。」
「後半戦はどう戦ったら・・・」
前半の疲労。光明が見えない後半戦の展望。
誰も何も言いだせず重たい沈黙が流れる中スタジアムに響き渡る男の声。
「くくく。やはり俺様の力が必要なようだな!」
スタジアムオブジェの上に立っていたのは昨日の試合後姿を消していたザナークだった。
いかがだったでしょうか?
ガル戦、展開が重すぎて執筆中もずっと苦しい。
暗い展開だから抱腹絶倒爆笑ギャグを一つまみ。
感想、コメントあればお待ちしています。励みになります。